いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色

文字の大きさ
170 / 304
第7章

第306話 パジャマパーティー②(ちょい※)

しおりを挟む
「んっや、なにも…なかったよぉ……」

と最初はもにょもにょはぐらかそうとしていたけれど、この二人にそんな誤魔化しが通用するはずもなく。結局もうあの日湖であったことを再現するレベルまで話す羽目になった。当然妖精の世界だったことや僕が記憶喪失状態だったことは内緒にしたけれど、まぁそれ以外は全部バレた。

「へえ! メガネの方から迫ったとはね~」
「王子様のはやっぱり立派なんだぁ~見てみたいなぁ」

こんなに赤裸々な話をして僕は真っ赤になっているのに、二人はいたって普通だった。フェラはこうした方がもっと気持ちいいよとか、自分で乗っかる時(騎乗位というらしい)はこうした方が入れやすいよ、とか色々アドバイスをくれたけれど、半分魂が抜け落ちていたからその辺はよく覚えていない。

こうして窓の外が白みはじめた頃、ようやく満足した二人と共にうとうとと眠りについた。


目が覚めるともう日は高く上り、お昼になっていた。厚焼き卵サンドを食べながら、今度は僕がいない間の学校の様子を教えてもらった。そこでわかった衝撃の事実にもぐもぐと動かしていた口が止まる。

「え? ニールとトリムが退学!?」

なんとクラスの人数が減ってるような気がしたのは気のせいじゃなかったらしい。

「なんで退学になったの?」
「僕とテアを犯そうとしたからだよ」
「っえええ!?」

ごほっごほっと喉に詰まったパンを流し込むためにお茶をガブガブと飲む。テアが大丈夫~? と新しいお茶を僕のティーカップに注いでくれた。

「ゴホッ。そんなことが…大丈夫だったの? 怪我しなかった!? お、犯されなかった!?」

混乱する頭の中にゲームのエピソードが一つ思い浮かんだ。

そういえば、ゲームのキルナは悪役仲間と組んで、クライスを狙う生徒の中でもとくに目に付く可愛い子を中心に身勝手な制裁を加えていた。

(僕の婚約者に色目を使ったやつを徹底的に排除してやろう)

その時誰が被害に遭っていたかまではわからないけれど。そこにリリーとテアが入っていたのだとしたら……。

「ごめん……僕がいなくてもそんなことが起きるなんて」
「なんでメガネが謝るのかわからないけど」
「大丈夫だよ~未遂だったからぁ~。きつねくんが助けてくれたんだ~」
「きつねって……もしかしてカリムのこと?」

そうそうと二人が頷く。ニールとトリムとカリム。彼らはいつも3人で一緒に行動していた。なのに、カリムが助けてくれたっていうのはどういうことなのだろう。

「キツネはニール達が僕らを犯すとかいうきもい計画を立てているのを知って、何度もやめるよう説得していたらしい。だけどバカ二人のことを止められず、彼はその企てをライン先生に報告したんだって。おかげで僕らが空き倉庫に連れ込まれそうになったところを、見張っていた先生たちがすぐに助けてくれたんだ」

「そ~。だから、別に怪我もしなかったし、怖い思いもしなかったよ~」

「そうなんだ。よかった……」

二人が無事で、本当によかった。あとでカリムにお礼を言わなくちゃ。

「それからきつねくんとは話をするようになって~今は結構仲良しだよぉ。一緒に宿題やることもあるし~」
「彼は数術が得意だから、たまに教えてもらうんだよ。性格も穏やかだし教え方もうまいから便利なんだ」
「たしかにカリム、僕の剣術のペアになってくれた時もすごく親切だったし、もともといい子だったのかも(あの時から既に悪役ってかんじじゃなかったし)」

紅茶にミルクを足しながら、僕は頭の中を整理した。
色々と事情が変わっている。ニールとトリムがいなくなり、残ったカリムはどうやらいい子になっている。それはいいのだけど、問題が一つ。

悪役仲間が、いない!?

これは由々しき事態だ。ユジンを虐めたり親衛隊と戦ったりするために彼らの力を借りようと思っていたのに……。一人で大丈夫かな? 僕は使える魔力も少なくてろくな魔法が使えないし……すぐに負けちゃうんじゃ? 一人で立ち向かってボコボコにされる姿を想像し、ぞっとする。

「あの、クライスの親衛隊ってどれくらいの人数か知ってる? できればメンバーが誰かも教えて欲しいのだけど」

(相手の強さを知ってから作戦を考えよう……)

でもこれまた、テアから意外な答えが返ってくる。

「親衛隊なんてもうないよ~?」

親衛隊が、ない!?

「王子の親衛隊はもうとっくに解散してる」

紅茶を啜りながらリリーがいう。

「王子様の誕生日パーティーの時に~キルナサマのことを睨みつけてた親衛隊の子がいたでしょ~。彼らのああいう態度が王子の気に障ったみたい。パーティーのすぐ後隊長と副隊長が呼び出されて、解散命令が出たんだって~」

「王子はメガネを傷つける人間に容赦がないからね。まぁ当然だよ」

「テアも一応親衛隊に入ってたけど~大してやることもないし~人の悪口言うだけの集団だったから解散して正解だったと思うよ~。実際王子が留学したことで本当にやることなくなっちゃったしね」

「そう…なんだ……」

仲間もいないけど、敵もいない。一体どうなってるのだろ。

「ねぇ、僕まだお腹空いてるからデザート食べたい」
「テアも~」

気づくとたくさん作ったはずの卵サンドが全部なくなっていた。

「ん、待ってて。じゃあ、何か作るよ」

クッキー生地を捏ね、3人で型抜きをする。うさぎとねことりす。上手に型抜き出来てうれしそうにしている彼らを見ながら、僕はぼんやりと今後のことに思いを馳せた。

ーー全然ストーリー通りじゃなくなってる。これからどうしたらいいのだろう。

不安でお腹がちくちくする。


「どうしたの、悩み事ぉ? なんでも言ってね。テアが相談に乗るから」

テアにぎゅうっと抱きしめられて、ふらふらとよろめくと後ろからリリーが支えてくれた。そのまま彼にも抱きしめられ、前後から伝わる温かさに、お腹の痛みは和らいでいく。

「メガネ一人で悩んだってどうせろくな答えがでないだろうから、僕も聞いてあげる」

「テア…リリー……ありがと」

この世界には悪役仲間も親衛隊もいないけど、

友達が…いる。

生地をオーブンに入れ、またたわいもないおしゃべりをした。
しおりを挟む
感想 714

あなたにおすすめの小説

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も皆の小話もあがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

殿下に婚約終了と言われたので城を出ようとしたら、何かおかしいんですが!?

krm
BL
「俺達の婚約は今日で終わりにする」 突然の婚約終了宣言。心がぐしゃぐしゃになった僕は、荷物を抱えて城を出る決意をした。 なのに、何故か殿下が追いかけてきて――いやいやいや、どういうこと!? 全力すれ違いラブコメファンタジーBL! 支部の企画投稿用に書いたショートショートです。前後編二話完結です。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。