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第7章
第317話 契約の結び方
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転移した僕たちを迎えてくれたセントラは、おやっという顔をし、クスリと笑った。「ああ、愛を育んでおられたのですね。邪魔をしてしまってすみません。どうぞそちらに」
(え、なんで……わかるの!? もしや何してたかバレて……)
ソファに降ろされた僕の前に、セントラはミルクティーを置いてくれた。いい香りがする。でも彼が用意してくれたお茶は僕には飲めない。(信じられないくらいまずいらしいから)
手をつけずにいると、「ベンスに淹れてもらったものなので大丈夫ですよ」と言われ、一口飲んだ。温かいプライマーのミルクティーだ。ほんのり甘酸っぱい香りとクリーミーなお味が最高のハーモニーを奏でる。おいしっ。
「王子から聞きました。ついにお話しできたのですね」
お話……寿命のことだとピンときて頷いた。
「ん……そうなの。クライスが聞きたいって言ってくれたから……」
「よかった。これで、あなたとの約束を果たさなくてすみそうです」
「ん、そうなったら良いのだけど」
こくこくこくと紅茶をいただく。クライスは約束? と訝しげな表情をしていたけれど、内容は聞いてはこなかった。
クライスは僕の隣、セントラは向かいに座ってブラックコーヒーを飲んでいる。一息ついてから話が始まった。
「今日お呼びしたのは、妖精との契約のことです。カーナ様が教えてくださったという契約方法。私と王子はルーファスから聞いたのですが……。なかなか信じ難い方法でしたので、今一度キルナ様に確認したいと思いまして」
二人の視線が僕に集まっている。
「あ……もう二人とも知ってるの?」
「ああ、妖精の世界から帰るときに聞いた。でも俺もお前の口からきちんと聞きたい」
「わかった」
僕はカップを置いて目を瞑り、あの満月の夜のことを瞼の裏に思い浮かべる。
「僕がカーナに聞いた契約方法はこうだよ」
あの日、妖精の誕生を見た後、金色に輝く湖で彼女は言った。
『キルナちゃんが知りたがっていた、妖精との契約の結び方なんだけど、それはね。満月の夜、満開に咲いたルーナの花びらを食べる。それだけよ。とっても簡単でしょ?
そうしたら妖精の名前が呼べるようになるわ。闇の魔力を使って色々な魔法が使えるようになるの。素敵よね』
「コロコロと妖精みたいに笑いながらそう教えてくれたの」
語り終えて目を開くと、二人の顔色が悪い。
だよね、と僕は二人を見て思う。
何でもないことのように話すカーナを前にしてると、怖がる僕の方が変なのかと思ったけれど、この反応が普通だよね。
「僕も聞いてびっくりしちゃった。だってあの猛毒って有名なルーナの花びらを食べるっていうのだもの。そんなことしたら死ぬんじゃ? ってカーナに聞いたら、『だ~いじょうぶ。ほら、わたし死ななかったし』って言ってたよ」
「「……」」
長い沈黙の後、セントラが口を開いた。
「残念ながらルーファスに聞いた通りの契約方法でしたが……カーナ様の口調通りに聞くとますます不安になりますね。
とにかくまずはルーナの花を探さなければなりません。キルナ様、場所はおわかりですか?」
「ん~わからないけど……心当たりはあるよ」
ゲームの知識だけど。
「「それは、どこだ(ですか)!?」」
二人が食い気味に尋ねる。二人とも、まさかわかるとは思ってなかった、という顔だ。気圧されそうになりながらも僕は答えた。
「えとね、ヒカリビソウの湖の孤島にあると思う」
「またあそこか……」
クライスは一瞬憂鬱そうな顔をし、「でも場所がわかるだけでもありがたいな……」と、気を取り直したように呟いた。
「だけど、まだ花は咲かないと思うの」
「いつ、咲くんだ?」
ルーナの花が咲くのは、誓いの湖で悪役キルナがクライスにしつこくキスを迫り、断られ、攻略対象者たちにボコボコにされるあのざまぁイベントの時だ。あの日血だらけの手で採取した花びらで、キルナはユジンを殺そうとする……。
血のこびりついた指……剥がれかけた爪……。ルーナの花を入れたハーブティー。
思い出したらぞっとして何もないはずの指先が痛む。震え出した指先をどうにもできずに見つめていると、クライスがそっと手を握ってくれた。
僕は深呼吸をして前世の記憶を手繰り寄せる。
(あれはいつ起きるイベント?)
そうだ、ユジンにルーナの花びら入りハーブティーを飲ませることに失敗した、そのすぐ後にクライスとユジンが湖でキスをするイベントがあるのだった。あれはお互いの気持ちが通じ合った後の、ストーリー終盤のイベントだ。ということは……。
「咲くのは卒業式の少し前くらいじゃないかな?」
「卒業式前……それではギリギリですね」
余命一年ぎりぎり。
「だがあれは、長い時間をかけて咲く花だという。芽ぐらいは出てるんじゃないか? 確認したいな」
「どうだろ? 芽、出てるかな? 昔温室に咲いてた時は蕾になるまで気づかなかったけど……」
「たしかに可能性はありますね。ただ、花が咲いていない状態だとおそらく見ただけではわかりません。キルナ様自身が出向いて確認しに行く必要があるでしょう」
「もちろん行くよ」
僕も自分の目で確かめたい。あれは、僕の運命を決める花だと思うから。
「わかりました。ただ、今は青フードの動きが活発化しています。警備を整え万全の備えをしてから向かいましょう。準備が整ったら私から連絡します。それまではもどかしいですが我慢して待機していてください」
「はい」というクライスの返事に続いて僕も「わかった」と答え、ぬるくなったミルクティーを飲み干した。
ふぅ、用事は済んだしお風呂入って寝たいな……と思っていると、セントラとバチっと目が合った。
(なんか嫌な予感……)
「あともう一つ。キルナ様のお勉強の件ですが」
あ……。
「1年生の3学期から5年生の勉強が抜けているので、困っておられることと思います。ですから今日から毎日放課後に特訓(補習)しましょう。私が優しくお教えしますよ」
「ま、毎日!? そんな(僕は悪役活動をしなくちゃいけないのに)。しかも今日から!? 無理無理、絶対にムリッ! ほら、僕もう目がとろとろで……」
「わかりましたね?」
「は……ィ……」
魔法薬学、魔法基礎学、数術のプリントが手渡される。
僕は鬼家庭教師には逆らえないのだった。
(え、なんで……わかるの!? もしや何してたかバレて……)
ソファに降ろされた僕の前に、セントラはミルクティーを置いてくれた。いい香りがする。でも彼が用意してくれたお茶は僕には飲めない。(信じられないくらいまずいらしいから)
手をつけずにいると、「ベンスに淹れてもらったものなので大丈夫ですよ」と言われ、一口飲んだ。温かいプライマーのミルクティーだ。ほんのり甘酸っぱい香りとクリーミーなお味が最高のハーモニーを奏でる。おいしっ。
「王子から聞きました。ついにお話しできたのですね」
お話……寿命のことだとピンときて頷いた。
「ん……そうなの。クライスが聞きたいって言ってくれたから……」
「よかった。これで、あなたとの約束を果たさなくてすみそうです」
「ん、そうなったら良いのだけど」
こくこくこくと紅茶をいただく。クライスは約束? と訝しげな表情をしていたけれど、内容は聞いてはこなかった。
クライスは僕の隣、セントラは向かいに座ってブラックコーヒーを飲んでいる。一息ついてから話が始まった。
「今日お呼びしたのは、妖精との契約のことです。カーナ様が教えてくださったという契約方法。私と王子はルーファスから聞いたのですが……。なかなか信じ難い方法でしたので、今一度キルナ様に確認したいと思いまして」
二人の視線が僕に集まっている。
「あ……もう二人とも知ってるの?」
「ああ、妖精の世界から帰るときに聞いた。でも俺もお前の口からきちんと聞きたい」
「わかった」
僕はカップを置いて目を瞑り、あの満月の夜のことを瞼の裏に思い浮かべる。
「僕がカーナに聞いた契約方法はこうだよ」
あの日、妖精の誕生を見た後、金色に輝く湖で彼女は言った。
『キルナちゃんが知りたがっていた、妖精との契約の結び方なんだけど、それはね。満月の夜、満開に咲いたルーナの花びらを食べる。それだけよ。とっても簡単でしょ?
そうしたら妖精の名前が呼べるようになるわ。闇の魔力を使って色々な魔法が使えるようになるの。素敵よね』
「コロコロと妖精みたいに笑いながらそう教えてくれたの」
語り終えて目を開くと、二人の顔色が悪い。
だよね、と僕は二人を見て思う。
何でもないことのように話すカーナを前にしてると、怖がる僕の方が変なのかと思ったけれど、この反応が普通だよね。
「僕も聞いてびっくりしちゃった。だってあの猛毒って有名なルーナの花びらを食べるっていうのだもの。そんなことしたら死ぬんじゃ? ってカーナに聞いたら、『だ~いじょうぶ。ほら、わたし死ななかったし』って言ってたよ」
「「……」」
長い沈黙の後、セントラが口を開いた。
「残念ながらルーファスに聞いた通りの契約方法でしたが……カーナ様の口調通りに聞くとますます不安になりますね。
とにかくまずはルーナの花を探さなければなりません。キルナ様、場所はおわかりですか?」
「ん~わからないけど……心当たりはあるよ」
ゲームの知識だけど。
「「それは、どこだ(ですか)!?」」
二人が食い気味に尋ねる。二人とも、まさかわかるとは思ってなかった、という顔だ。気圧されそうになりながらも僕は答えた。
「えとね、ヒカリビソウの湖の孤島にあると思う」
「またあそこか……」
クライスは一瞬憂鬱そうな顔をし、「でも場所がわかるだけでもありがたいな……」と、気を取り直したように呟いた。
「だけど、まだ花は咲かないと思うの」
「いつ、咲くんだ?」
ルーナの花が咲くのは、誓いの湖で悪役キルナがクライスにしつこくキスを迫り、断られ、攻略対象者たちにボコボコにされるあのざまぁイベントの時だ。あの日血だらけの手で採取した花びらで、キルナはユジンを殺そうとする……。
血のこびりついた指……剥がれかけた爪……。ルーナの花を入れたハーブティー。
思い出したらぞっとして何もないはずの指先が痛む。震え出した指先をどうにもできずに見つめていると、クライスがそっと手を握ってくれた。
僕は深呼吸をして前世の記憶を手繰り寄せる。
(あれはいつ起きるイベント?)
そうだ、ユジンにルーナの花びら入りハーブティーを飲ませることに失敗した、そのすぐ後にクライスとユジンが湖でキスをするイベントがあるのだった。あれはお互いの気持ちが通じ合った後の、ストーリー終盤のイベントだ。ということは……。
「咲くのは卒業式の少し前くらいじゃないかな?」
「卒業式前……それではギリギリですね」
余命一年ぎりぎり。
「だがあれは、長い時間をかけて咲く花だという。芽ぐらいは出てるんじゃないか? 確認したいな」
「どうだろ? 芽、出てるかな? 昔温室に咲いてた時は蕾になるまで気づかなかったけど……」
「たしかに可能性はありますね。ただ、花が咲いていない状態だとおそらく見ただけではわかりません。キルナ様自身が出向いて確認しに行く必要があるでしょう」
「もちろん行くよ」
僕も自分の目で確かめたい。あれは、僕の運命を決める花だと思うから。
「わかりました。ただ、今は青フードの動きが活発化しています。警備を整え万全の備えをしてから向かいましょう。準備が整ったら私から連絡します。それまではもどかしいですが我慢して待機していてください」
「はい」というクライスの返事に続いて僕も「わかった」と答え、ぬるくなったミルクティーを飲み干した。
ふぅ、用事は済んだしお風呂入って寝たいな……と思っていると、セントラとバチっと目が合った。
(なんか嫌な予感……)
「あともう一つ。キルナ様のお勉強の件ですが」
あ……。
「1年生の3学期から5年生の勉強が抜けているので、困っておられることと思います。ですから今日から毎日放課後に特訓(補習)しましょう。私が優しくお教えしますよ」
「ま、毎日!? そんな(僕は悪役活動をしなくちゃいけないのに)。しかも今日から!? 無理無理、絶対にムリッ! ほら、僕もう目がとろとろで……」
「わかりましたね?」
「は……ィ……」
魔法薬学、魔法基礎学、数術のプリントが手渡される。
僕は鬼家庭教師には逆らえないのだった。
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