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第7章
第319話 悪役活動②
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※少し汚い表現がありますので、お食事中の方はご注意ください。
ーーハヤク……ワタシノモノニ……ナレ……
頭の中を誰かに無理やり弄られているような感覚。気持ちが悪くて吐きそう。嫌、ここから逃げたいともがけば、暗闇からにゅるりと長い蔓のようなものが僕の四肢に絡みつく。逃げようとしてもその蔓はミシミシと骨を砕くほど強く巻きついて離さない。
どうしたらいい? 逃げたい。逃げたいのに……。助けて……。
「キルナ! 起きろ!」
「あ……夢……?」
揺すられて目を覚ますとクライスが僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。寝汗をたくさんかいていてシャツがびしょ濡れになっている。見回してみるとここが温室だとわかり、水遣りのあと横になってそのまま寝てしまったのだと気がついた。
「ごめん。寝るつもりはなかったのだけど」
「こんなところで一人で……何かあったらどうするつもりだ!? 今は青フードがお前を狙っていて危険だと説明しただろう!」
「ご……ごめん……」
クライスが怒っている。拳を震わせて本気で。彼の激しい怒りを前に、怖くて涙がこぼれそうになったけれど、どう考えても悪いのは自分だ。ここで泣くのはずるいと思い、下唇を噛んでそれをぐっと堪えた。
青フードがいるから一人で行動するなと何度も念を押されていた。なのに悪役活動のためにクライスがいない隙を見計らって登校したあげく、温室でぐうぐう寝ているなんて。これでは怒られても仕方がない。
「あ…れ?」
ちゃんと謝ろうとして立ち上がると、酷い眩暈がしてぐらぐらとよろめいた。平衡感覚を失い倒れた体を、クライスが抱き止めてくれる。すると何かに気づいたように、僕の前髪を掻き上げ額に手を当てた。
「なっ…すごい熱だ。顔色も悪い。こんなに汗をかいて。医務室にいくぞ」
彼は僕の答えも聞かず、横抱きにしたかと思うとすぐに転移した。
薬品の香りがする医務室で診察を受ける。ここへ来るのは久し振りな気がする。
「頭痛と吐き気と発熱。少し魔力に乱れがありますね。重度の魔力風邪でしょう。最近季節の変わり目で増えていますから。薬を出しておきますね。よく効く薬なのでこれを飲んで寝たら良くなりますよ。
魔力が増え過ぎたらこの青い薬を、減り過ぎたら黄色い薬を飲んでください。今は魔力が減っているようなので黄色ですね。どちらの症状か自分でわからなければ医務室にご連絡ください」
「はい…はぁ…はぁ……ありがとう…ございます」
魔力風邪とは。魔力を持つ貴族たちの間でよく流行る病で、気温の変化などで体調を崩した時にかかりやすい。普通の風邪よりも頭痛などの症状が重く、魔力が減ったり増えたりして不安定になることが特徴で、安静にしていれば2週間ほどで完治する。
保健医の先生にいくつかの薬を処方してもらい、冷却枕をもらった。(魔石入りで、冷たい状態が長時間持続する枕らしい)クライスは先生にお礼を言い、僕を連れてまた転移する。転移先は自室で、ゆっくりとベッドに寝かされた。
「薬、飲めそうか?」
「……うん」
また怒られたら嫌だと思って頷くと、盛大なため息が聞こえた。
「嘘をつくな」
「うそ……じゃ…ないよ」
僕はできるだけテキパキと(実際にはかなりぐずぐずと)袋から薬を出してみせる。白と黄色のコロンとした丸い錠剤を2錠右の手のひらに載せ、左手には水の入ったコップを持つ。準備は万端。
(寒気がする。頭が割れそうに痛くて酷い吐き気がするけれど、これを飲めば治る……。目を瞑って鼻を摘んで水と一緒に飲み込めば、味も感じないはず。こんな小さな粒すぐに飲める、のめる……。のめ……)
朦朧として目の前の薬がぼやけて何十錠にも見える。
「くす…り……はぁ…はぁ……う、うぇえ」
見ているだけで吐き気が込み上げてきて駄目だった。胃の中のものが迫り上がってくる。震える手からコップが落ちそうになってクライスが手を添えてくれた。背中を摩ってくれながら困った表情で僕の様子を見ている。
「やはり飲めないか。光魔法で風邪を治すのはあまりよくないんだが……かなり辛そうだ。少しだけ熱を下げて頭痛と吐き気を和らげよう」
ベッドサイドの椅子に座って僕の額に魔法陣を描きはじめる彼を見つめる。あんなに怒ってたのに、こんなに優しい。怒ってたのだって僕を心配してくれていたからで……。それがわかるともう怖くなかった。
「あり…がと……」
魔法陣が完成し自分のおでこが少し光ったかと思うと身体がふわっと楽になった。
寝間着に着替えさせてもらい、頭に冷たい枕をあてられると眠気が襲い、また深いところに落ちそうになる。怖いものがまた来る、そんな気がしたけれど、大丈夫だった。彼がおまじないをしてくれて、そのまま隣に寝てくれたから。
もぞもぞと腰に手を回して抱きつき、一番落ち着く体勢になった。彼の服の中にそろりと手を潜り込ませ、硬い腹筋をなでなでする。この極上の触り心地……スベスベシルクの寝巻きと同じくらい好き。
自分より冷たい彼の体が気持ちよくて、僕は思い切り体を擦り付けていた。でも、ちょっとおかしいと気づく。
(あれ? クライスも寝間着に着替えてる。今から学校なのになんで?)
「いいの? 学校」
「休むことにした。俺も理事長のところで補習を受けるよ」
「クライス、おこってる?」
「ああ、知らないうちに居なくなって、おまけにこんなに熱い身体になっていて、怒ってる」
「あの……ごめん」
あんなところで寝てたせいで風邪までひいてしまった。ほんとバカすぎる……。
「もうあんな置き手紙を残して消えないと約束しろ。心臓が止まるかと思った。どこかに行くなら俺を連れていけ」
「ん、わかった……」
「わかったならいい。もう怒ってないから寝ろ」
怒っていないと言いながらやっぱりちょっとムスッとした口調。でも、僕を想ってくれてるのだと思うとその口調もなんだか愛おしい。怒られてるのに嬉しいなんて変なの。
「ねえ、クライス」
「なんだ?」
「大好き」
ちゅうっと彼の唇に、心配かけてごめんなさいのキスをした。
僕の意識はその辺で途切れた。
ーーハヤク……ワタシノモノニ……ナレ……
頭の中を誰かに無理やり弄られているような感覚。気持ちが悪くて吐きそう。嫌、ここから逃げたいともがけば、暗闇からにゅるりと長い蔓のようなものが僕の四肢に絡みつく。逃げようとしてもその蔓はミシミシと骨を砕くほど強く巻きついて離さない。
どうしたらいい? 逃げたい。逃げたいのに……。助けて……。
「キルナ! 起きろ!」
「あ……夢……?」
揺すられて目を覚ますとクライスが僕の顔を心配そうに覗き込んでいた。寝汗をたくさんかいていてシャツがびしょ濡れになっている。見回してみるとここが温室だとわかり、水遣りのあと横になってそのまま寝てしまったのだと気がついた。
「ごめん。寝るつもりはなかったのだけど」
「こんなところで一人で……何かあったらどうするつもりだ!? 今は青フードがお前を狙っていて危険だと説明しただろう!」
「ご……ごめん……」
クライスが怒っている。拳を震わせて本気で。彼の激しい怒りを前に、怖くて涙がこぼれそうになったけれど、どう考えても悪いのは自分だ。ここで泣くのはずるいと思い、下唇を噛んでそれをぐっと堪えた。
青フードがいるから一人で行動するなと何度も念を押されていた。なのに悪役活動のためにクライスがいない隙を見計らって登校したあげく、温室でぐうぐう寝ているなんて。これでは怒られても仕方がない。
「あ…れ?」
ちゃんと謝ろうとして立ち上がると、酷い眩暈がしてぐらぐらとよろめいた。平衡感覚を失い倒れた体を、クライスが抱き止めてくれる。すると何かに気づいたように、僕の前髪を掻き上げ額に手を当てた。
「なっ…すごい熱だ。顔色も悪い。こんなに汗をかいて。医務室にいくぞ」
彼は僕の答えも聞かず、横抱きにしたかと思うとすぐに転移した。
薬品の香りがする医務室で診察を受ける。ここへ来るのは久し振りな気がする。
「頭痛と吐き気と発熱。少し魔力に乱れがありますね。重度の魔力風邪でしょう。最近季節の変わり目で増えていますから。薬を出しておきますね。よく効く薬なのでこれを飲んで寝たら良くなりますよ。
魔力が増え過ぎたらこの青い薬を、減り過ぎたら黄色い薬を飲んでください。今は魔力が減っているようなので黄色ですね。どちらの症状か自分でわからなければ医務室にご連絡ください」
「はい…はぁ…はぁ……ありがとう…ございます」
魔力風邪とは。魔力を持つ貴族たちの間でよく流行る病で、気温の変化などで体調を崩した時にかかりやすい。普通の風邪よりも頭痛などの症状が重く、魔力が減ったり増えたりして不安定になることが特徴で、安静にしていれば2週間ほどで完治する。
保健医の先生にいくつかの薬を処方してもらい、冷却枕をもらった。(魔石入りで、冷たい状態が長時間持続する枕らしい)クライスは先生にお礼を言い、僕を連れてまた転移する。転移先は自室で、ゆっくりとベッドに寝かされた。
「薬、飲めそうか?」
「……うん」
また怒られたら嫌だと思って頷くと、盛大なため息が聞こえた。
「嘘をつくな」
「うそ……じゃ…ないよ」
僕はできるだけテキパキと(実際にはかなりぐずぐずと)袋から薬を出してみせる。白と黄色のコロンとした丸い錠剤を2錠右の手のひらに載せ、左手には水の入ったコップを持つ。準備は万端。
(寒気がする。頭が割れそうに痛くて酷い吐き気がするけれど、これを飲めば治る……。目を瞑って鼻を摘んで水と一緒に飲み込めば、味も感じないはず。こんな小さな粒すぐに飲める、のめる……。のめ……)
朦朧として目の前の薬がぼやけて何十錠にも見える。
「くす…り……はぁ…はぁ……う、うぇえ」
見ているだけで吐き気が込み上げてきて駄目だった。胃の中のものが迫り上がってくる。震える手からコップが落ちそうになってクライスが手を添えてくれた。背中を摩ってくれながら困った表情で僕の様子を見ている。
「やはり飲めないか。光魔法で風邪を治すのはあまりよくないんだが……かなり辛そうだ。少しだけ熱を下げて頭痛と吐き気を和らげよう」
ベッドサイドの椅子に座って僕の額に魔法陣を描きはじめる彼を見つめる。あんなに怒ってたのに、こんなに優しい。怒ってたのだって僕を心配してくれていたからで……。それがわかるともう怖くなかった。
「あり…がと……」
魔法陣が完成し自分のおでこが少し光ったかと思うと身体がふわっと楽になった。
寝間着に着替えさせてもらい、頭に冷たい枕をあてられると眠気が襲い、また深いところに落ちそうになる。怖いものがまた来る、そんな気がしたけれど、大丈夫だった。彼がおまじないをしてくれて、そのまま隣に寝てくれたから。
もぞもぞと腰に手を回して抱きつき、一番落ち着く体勢になった。彼の服の中にそろりと手を潜り込ませ、硬い腹筋をなでなでする。この極上の触り心地……スベスベシルクの寝巻きと同じくらい好き。
自分より冷たい彼の体が気持ちよくて、僕は思い切り体を擦り付けていた。でも、ちょっとおかしいと気づく。
(あれ? クライスも寝間着に着替えてる。今から学校なのになんで?)
「いいの? 学校」
「休むことにした。俺も理事長のところで補習を受けるよ」
「クライス、おこってる?」
「ああ、知らないうちに居なくなって、おまけにこんなに熱い身体になっていて、怒ってる」
「あの……ごめん」
あんなところで寝てたせいで風邪までひいてしまった。ほんとバカすぎる……。
「もうあんな置き手紙を残して消えないと約束しろ。心臓が止まるかと思った。どこかに行くなら俺を連れていけ」
「ん、わかった……」
「わかったならいい。もう怒ってないから寝ろ」
怒っていないと言いながらやっぱりちょっとムスッとした口調。でも、僕を想ってくれてるのだと思うとその口調もなんだか愛おしい。怒られてるのに嬉しいなんて変なの。
「ねえ、クライス」
「なんだ?」
「大好き」
ちゅうっと彼の唇に、心配かけてごめんなさいのキスをした。
僕の意識はその辺で途切れた。
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