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第7章
第342話 悪役令息のきもだめし⑩
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大丈夫、ユジンはまだ生きてると教えてもらい、もやもやしていたものが消え去ると、やっと意識がはっきりしてきた。なんだったんだろ。さっきの黒い炎。なんか僕、危なかったような。
(はっ! そんなことより。魔力をあげるってことは、もしや……)
ここにきてやっと僕は重要なことを思い出した。
そうか、このきもだめしイベントって、初めてのキスもとい初魔力供給のイベントだったんじゃ。
ペアになって一緒に魔獣と戦うクライスとユジン。激戦の末、魔力が尽きてくったりと倒れたユジンに、クライスが熱いキッスで魔力を与える素晴らしい(と優斗が賞賛していた)場面があったはず。
いまからそのクライスとユジンのキスシーンが始まるのだろうか。
「見たくはないだろうから、目を瞑っておけ」
とクライスは言う。
キスシーン。たしかに見たくないけれど、そもそも僕が役立たずだったせいでこうなってるのだから、騒いだりするつもりはない。ディープキスでもなんでもこいだ。ユジンが助かるのだったらなんだって受け入れる。
だけど、クライスは僕が見てたらやりにくいかもしれないと思い、言われた通り目を瞑った。しばらくすると、
ピチャ……チュプッ…クチュ……
水音が聞こえはじめ、目を瞑っていても脳内で二人の濃厚なキスが繰り広げられる。さらに服を脱がせる音も……。え? まさか、性行為で魔力の受け渡しが行われるの?(でもそれが一番確実な受け渡し方法なのかも)
なんでもこいと思っていたはずなのに、胸が締め付けられる気がする。
「ん……う…………はぁ……んぅ」
ユジンの声だ。とっても艶かしくてアレだけど、とにかく生きてる!!!
(ユジンが生きてた! 死んでなかった! よかった、ほんとに!)
たくさん噛まれていた怪我は大丈夫かな? 呪われてない? 血もたくさん流れていたし。考えれば考えるほど無事かどうかが気になりすぎて…我慢できない。
(約束は破るためにあるのだし、いいよね)
目を瞑るふりをしながら、僕はうすく目を開いた。すると、
そこには信じられない光景があった。
「んぇ!? 二人とも血まみれ……なんで!?」
目を開けたその先には、ざっくりと切った腕をユジンの口元に押し付けているクライスの姿があった。
(ひぃ、血を飲ませてるぅう!!!)
想定外の魔力の受け渡し方法ではあるものの、ユジンは血を飲んだおかげでだいぶ回復しているらしい。蒼白だった顔色も綺麗な薔薇色の頬に戻っている。長いピンクゴールドの睫毛がピクピクと動き、ユジンが目を開いた。
「んっ……ぶはっ。王…子、もう大丈夫です。腕をどけてください!」
「なんだ。もういいのか? 満タンまで魔力を回復していいぞ」
「人の血を飲むなんてぞっとします。キル兄様の血ならともかく王子の血なんて」
「悪いがキルナの血はあげられない」
「もちろん、兄様の尊い血を流させるなんて馬鹿な真似、絶対させませんが」
「ゆ…ユジン~~~~!!!」
うわああああ~~~~ん。
涙が溢れた。もう助からないかと思ったユジンが目を覚ますなんて。ユジンに縋り付いて泣いて泣いて泣いて……。
「キル兄様……ご無事でよかった」
「ぐずっ……うう……ユジン……」
「ああ、兄様、そんなにくっつくと血がついてしまいます。僕、今パンツしか履いてないし……」
「うぅ…いい……そんなの……」
僕の服なんてもうドロドロだから血がついたって別にいい。パンツ一丁なのは治療のためだってわかってる。噛み跡がたくさんついている体はとても痛々しくて見ていられないくらい。
なのにユジンは、せっせと僕の服にクリーンの魔法をかける。魔法は、まだ使わない方がいいんじゃ? そう聞いても、これくらい平気だとユジンは笑った。
クライスは噛み跡の上に魔法陣を描き、回復魔法をかけながら、怪訝な面持ちでユジンの体を見る。
「それにしても、これだけ噛まれたのに一つも呪われてないなんて、お前は幸運だな」
それに対し、ユジンはいえ、と首を横に振った。
「僕はたしかに呪われたはずです。戦っている最中、噛まれた箇所は真っ黒になって、激しく痛みました。でも…キル兄様が僕の体に触れた瞬間に、それが消えたんです」
「何っ?」
「意識が朦朧としていたので定かではありませんが、消えたと言うか…正確には、キル兄様の中に呪いが吸い込まれていったような……」
「ふぇ? 僕の中に?」
呪いを吸収するってやばいような。でもそのおかげでユジンの呪いは消えたらしい。ならそれって、いい能力なんじゃない?
僕が新能力に目覚めたかもと喜んでいると、クライスは眉を寄せながら言った。
「それは、いやなかんじがするな。理事長に今回のことを報告して、その辺りのことを相談してみよう。とにかくユジン。お前のおかげでキルナは助かった。礼を言う」
「いえ、僕一人では守りきれなかった。お礼を言うのはこちらの方です」
(う、なんかお腹痛い……ちくちくする。なんでかな……?)
痛みに耐えているうちに、なんか見つめあって二人がいいかんじになっていた。僕も、そうだ、お礼を言わなきゃ……。あ、でもせっかく二人が今いいかんじなのに、ここで悪役令息がしゃべりだしたら変な感じになるかも。お礼は後でした方がいいかな。
お礼のタイミングについて深く悩んでいると、そこへ、ライン先生が砂煙をあげながら猛スピードでやってきた。脚の回転があまりにも早くて、人間じゃないみたい……。
先生は僕らの前でピタリと立ち止まり、焼き尽くされた大量の魔獣の残骸を見て絶句している。ここで何が起きたのかをクライスとユジンが説明すると、「お前たち、よくやったな」と褒めてくれた。
「後の処理は俺や他の先生たちがするから、すぐに洞窟を出て手当してもらうように」
そう指示し、彼は奥の確認へと向かった。
先生たちが来たということは、もう安心……。恐怖のきもだめしがやっと終わりそうなことに肩の力が抜け、目の前の景色がぼうっと霞んできた。なんだかクラクラする。色々あって、ちょっと疲れたのかもしれない。
「キルナ!」
「キル兄様!」
ゲームの主役二人が心配そうに覗き込んでくるのが、ぼんやりと見えた。
というか、キスシーンはいつ始まるの?
(はっ! そんなことより。魔力をあげるってことは、もしや……)
ここにきてやっと僕は重要なことを思い出した。
そうか、このきもだめしイベントって、初めてのキスもとい初魔力供給のイベントだったんじゃ。
ペアになって一緒に魔獣と戦うクライスとユジン。激戦の末、魔力が尽きてくったりと倒れたユジンに、クライスが熱いキッスで魔力を与える素晴らしい(と優斗が賞賛していた)場面があったはず。
いまからそのクライスとユジンのキスシーンが始まるのだろうか。
「見たくはないだろうから、目を瞑っておけ」
とクライスは言う。
キスシーン。たしかに見たくないけれど、そもそも僕が役立たずだったせいでこうなってるのだから、騒いだりするつもりはない。ディープキスでもなんでもこいだ。ユジンが助かるのだったらなんだって受け入れる。
だけど、クライスは僕が見てたらやりにくいかもしれないと思い、言われた通り目を瞑った。しばらくすると、
ピチャ……チュプッ…クチュ……
水音が聞こえはじめ、目を瞑っていても脳内で二人の濃厚なキスが繰り広げられる。さらに服を脱がせる音も……。え? まさか、性行為で魔力の受け渡しが行われるの?(でもそれが一番確実な受け渡し方法なのかも)
なんでもこいと思っていたはずなのに、胸が締め付けられる気がする。
「ん……う…………はぁ……んぅ」
ユジンの声だ。とっても艶かしくてアレだけど、とにかく生きてる!!!
(ユジンが生きてた! 死んでなかった! よかった、ほんとに!)
たくさん噛まれていた怪我は大丈夫かな? 呪われてない? 血もたくさん流れていたし。考えれば考えるほど無事かどうかが気になりすぎて…我慢できない。
(約束は破るためにあるのだし、いいよね)
目を瞑るふりをしながら、僕はうすく目を開いた。すると、
そこには信じられない光景があった。
「んぇ!? 二人とも血まみれ……なんで!?」
目を開けたその先には、ざっくりと切った腕をユジンの口元に押し付けているクライスの姿があった。
(ひぃ、血を飲ませてるぅう!!!)
想定外の魔力の受け渡し方法ではあるものの、ユジンは血を飲んだおかげでだいぶ回復しているらしい。蒼白だった顔色も綺麗な薔薇色の頬に戻っている。長いピンクゴールドの睫毛がピクピクと動き、ユジンが目を開いた。
「んっ……ぶはっ。王…子、もう大丈夫です。腕をどけてください!」
「なんだ。もういいのか? 満タンまで魔力を回復していいぞ」
「人の血を飲むなんてぞっとします。キル兄様の血ならともかく王子の血なんて」
「悪いがキルナの血はあげられない」
「もちろん、兄様の尊い血を流させるなんて馬鹿な真似、絶対させませんが」
「ゆ…ユジン~~~~!!!」
うわああああ~~~~ん。
涙が溢れた。もう助からないかと思ったユジンが目を覚ますなんて。ユジンに縋り付いて泣いて泣いて泣いて……。
「キル兄様……ご無事でよかった」
「ぐずっ……うう……ユジン……」
「ああ、兄様、そんなにくっつくと血がついてしまいます。僕、今パンツしか履いてないし……」
「うぅ…いい……そんなの……」
僕の服なんてもうドロドロだから血がついたって別にいい。パンツ一丁なのは治療のためだってわかってる。噛み跡がたくさんついている体はとても痛々しくて見ていられないくらい。
なのにユジンは、せっせと僕の服にクリーンの魔法をかける。魔法は、まだ使わない方がいいんじゃ? そう聞いても、これくらい平気だとユジンは笑った。
クライスは噛み跡の上に魔法陣を描き、回復魔法をかけながら、怪訝な面持ちでユジンの体を見る。
「それにしても、これだけ噛まれたのに一つも呪われてないなんて、お前は幸運だな」
それに対し、ユジンはいえ、と首を横に振った。
「僕はたしかに呪われたはずです。戦っている最中、噛まれた箇所は真っ黒になって、激しく痛みました。でも…キル兄様が僕の体に触れた瞬間に、それが消えたんです」
「何っ?」
「意識が朦朧としていたので定かではありませんが、消えたと言うか…正確には、キル兄様の中に呪いが吸い込まれていったような……」
「ふぇ? 僕の中に?」
呪いを吸収するってやばいような。でもそのおかげでユジンの呪いは消えたらしい。ならそれって、いい能力なんじゃない?
僕が新能力に目覚めたかもと喜んでいると、クライスは眉を寄せながら言った。
「それは、いやなかんじがするな。理事長に今回のことを報告して、その辺りのことを相談してみよう。とにかくユジン。お前のおかげでキルナは助かった。礼を言う」
「いえ、僕一人では守りきれなかった。お礼を言うのはこちらの方です」
(う、なんかお腹痛い……ちくちくする。なんでかな……?)
痛みに耐えているうちに、なんか見つめあって二人がいいかんじになっていた。僕も、そうだ、お礼を言わなきゃ……。あ、でもせっかく二人が今いいかんじなのに、ここで悪役令息がしゃべりだしたら変な感じになるかも。お礼は後でした方がいいかな。
お礼のタイミングについて深く悩んでいると、そこへ、ライン先生が砂煙をあげながら猛スピードでやってきた。脚の回転があまりにも早くて、人間じゃないみたい……。
先生は僕らの前でピタリと立ち止まり、焼き尽くされた大量の魔獣の残骸を見て絶句している。ここで何が起きたのかをクライスとユジンが説明すると、「お前たち、よくやったな」と褒めてくれた。
「後の処理は俺や他の先生たちがするから、すぐに洞窟を出て手当してもらうように」
そう指示し、彼は奥の確認へと向かった。
先生たちが来たということは、もう安心……。恐怖のきもだめしがやっと終わりそうなことに肩の力が抜け、目の前の景色がぼうっと霞んできた。なんだかクラクラする。色々あって、ちょっと疲れたのかもしれない。
「キルナ!」
「キル兄様!」
ゲームの主役二人が心配そうに覗き込んでくるのが、ぼんやりと見えた。
というか、キスシーンはいつ始まるの?
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