いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色

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第8章

第377話 テスト当日①

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※汚い表現がありますのでお食事中の方はご注意ください。


「おはよ」
「……おはようございます」

クライスといるから返事は一応返ってくるけれど……。

(この目は知っている。僕のことを嫌いな目。でもいい。気にしない気にしない)

上靴を逆さまにして中の小石を捨ててから履く。教室に着くと机に書かれた文字を見ないようにしながら消しゴムで消す。教科書は一度破られてからは置き勉しないようにしているから大丈夫。

だんだん対処に慣れてきた。

(とにかく、テスト頑張ろう。今自分にできることをしよう)

魔法応用学、魔法薬学、魔法鉱石学、数術、魔法生物学……。

1年生の時よりも科目も多くなっていて、内容も恐ろしく難しくなっている。

でも、応用学の長い呪文はリリーと考えた語呂合わせで乗り切ったし、鉱石学はテアが美しい宝石と関連づけて教えてくれたからよく覚えていた。

数術は苦戦したけど、ロイルが出そうだと言っていた問題が出たからなんとか答えを書けた。

(思ったより、いけそう)

最後は魔法史だった。魔法史は記述問題が多いから、書けるかが心配だ。

緊張のせいかトイレに行きたくなってきた。テスト中に我慢できなくなったりしたら最悪だから、嫌だけど行っておこう。

クライスについてきてもらおうか迷ったけれど、テスト前に誘うのは悪いと思い、一人でさっさと行くことにする。廊下では、危なそうな生徒からはできるだけ離れて歩くように気をつけた。

無事トイレに辿り着き、ちょっと安心する。今日は雨も降ってこないみたい、セーフ! 水を流して扉を開けようというタイミングで、個室の外から数人の話し声が聞こえてきた。

「クライス王子の婚約者にはやっぱりユジン様のほうがふさわしいな」
「ああ、いくら綺麗でも闇属性じゃなぁ」

(あ、これ…僕の話だ)

ドアノブを握ったまま、出ることができずに立ち尽くす。

「黒い髪の王妃とかありえねえよな」
「黒って一番嫌な色だもんな。と同じ色……」
「おい、その話は」
「ああ、悪い。縁起でもないよな。ただでさえ一番安全なこの学園に魔獣が出たとこだってのに」
「ほんとに、やめてくれよ~」
「もしかしてさ、学園に出た魔獣って、あいつが呼び寄せてるんじゃないか? 闇の力を使ってさ」
「じゃあ俺たちが怪我したのもあいつのせい? コエエエ~~」

その後いくらかおしゃべりをした後、ギイっと扉が開く音がした。たぶんみんな出て行ったのだろう。


僕も行かなきゃと思うのに、なぜかドアを開けることができない。

(お腹がちくちくする、吐きそう)

「うぇえ、ごほっ、ごほっ……はぁ、はぁ……、うぅ…」

吐いても吐いても込み上げてくる。生理的な涙が溢れ、ポタポタと便器に流れ落ちた。

一旦水を流し、立ちあがろうとすると、頭がふらふらした。吐き気と酷い眩暈が続き、立てそうにない。でもいつまでもここにいるわけにはいかない。魔法史のテストが始まってしまう。

なんとかしようとあがいているうちに、休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴った。

(なんてこと。始まってしまった!!)






ガンガンガン

激しく痛むお腹を抱えたまま途方に暮れていると、トイレのドアが壊れるかと思うくらい強くノックされた。

「おい、キルナ、いるんだろ? 出てこい」

(え、クライスの声!? まさか。テスト始まってるのに!?)

「具合が悪いのか? 医務室に連れて行ってやるからここを開けろ」

それは確かにありがたい申し出なのだけど……。でも僕今吐いたとこだから汚い。涙でぐしゃぐしゃでひどい顔だし、とてもじゃないけど見せられない。

扉は、開けられない。

「いい。その…お腹がゆるいだけだから、放っておいて。クライスはテストを受けてきて」

恥ずかしい嘘でごまかしてみることにした。


しばらくするとトイレが静寂に包まれた。さすがに帰ったのだろう。よかった、作戦成功だ。でも心はどんよりしていた。

(あんなに頑張ったのに、テスト受けられなかったな……)

眩暈がおさまってから、静かにドアを開ける。もちろん誰もいない。
石鹸で手と顔を洗い、口を丁寧にゆすいで最後に鏡を見て、心の中で悲鳴を上げた。

(っっんぎゃあああああ)

「終わったか?」

自分の背後に怖い顔をした王子様が映っていた。
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