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第8章
第378話 番外編:料理長ベンスSIDE 坊ちゃんとコロッケ
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遥か昔……第48話あたり、学園入学前(キルナが毒入りティーを飲んで寝込んでいた時)のお話です!
***
※食事の外注は禁止とする。
あと数日で、坊ちゃんが王立魔法学園に入学する。その学園案内の一文を見て俺は叫んでいた。
「そんな…坊ちゃんに料理を食べてもらうのが俺の生き甲斐なのに!!」
はぁ~~、中庭で一人落ち込んでいると、セントラがやってきた。
「俺はこの先どうしたらいいんだ」
「どうしたんです? ベンス、そんなに落ち込んで」
「王立魔法学園の食事は食堂で食べるか自炊するか学園内で買って食べる以外は禁止されているんだろう?」
「ええ、そうですね」
「学園に入学しても、坊ちゃんの食事は魔法陣を使って毎食お届けしようと思っていたのに。うぅ……他の料理人に坊ちゃんの食事作りを任せるなんて、俺には耐えられない!!」
『ねぇベンス、あのね、僕、作りたいものがあるの』
俺は坊ちゃんと一緒に、コロッケというものを初めて作った時のことを思い出す。僕が作るから、ベンスは見ててね。というので、小さな手でいきなり包丁を持つ彼にヒヤヒヤしながらも、できるだけ手出しはしないように見守った。
「塩を入れた水で、お芋を茹でて」
慣れた手つきでしゅるしゅると芋の皮を剥く彼にまず驚かされる。そして大きめに切った芋を鍋に入れひたひたになるまで水を入れ、ティースプーン一杯の塩を入れて茹ではじめる。その間に具の用意をするらしい。
「具は何がいいかな。みじん切りした玉ねぎと、うっ、これ目にしみるからベンスやって~」
さくっさくっと軽快に調理していたが、目に染みたようでぽろぽろと涙をこぼしながら俺を見る。もちろんです!とみじん切りしてみせると、「ありがとっ」とお礼を言う彼に癒される。
「中にいれる具で何かいいものある?ひき肉とか、魚介類とか。へえ、蟹や帆立に似たのがあるんだ。いいね、それ。おいしい出汁がでそうなのをベンス選んで!」
芋と相性が良さそうなものを選んで渡すと、また「ありがとっ」とはにかみながらそれを受け取った。フライパンで炒め塩胡椒で味付けしていく。
「お芋がやらかくなったら、水捨てて、ちょっと炒って」
(ふむふむ。水気を飛ばすために10秒ほど中火にかけるのか)
「ん、いいかんじ。ほくほくしてきたら、火を止めて、ぐっちゃぐちゃに潰して、さっきの具と混ぜて」
芋を大胆に木べらで潰していく。ここは鍋が動かないように押さえる手伝いをした。
「手に油を塗って丸めるの。小麦粉と卵とパン粉を順番につけて、油で揚げれば完成!」
坊ちゃんが調理場に立ったことなんて、クッキー作りの時くらい、のはずなのに、彼は手際良く料理を作っていく。何度もやったことがあるかのような見事な手捌きだ。
「あ、油で揚げるのは俺がします。危ないので坊ちゃんは少し離れてください」
「こんがりきつね色になったらできあがりだよ」
完成したコロッケというものは、素朴で優しい…故郷の母を思い出させるような味だった。
「ベンスの選んでくれた海の幸のおかげでとってもいい出汁がでてる。おいしいね」
「はい。これ、とてもおいしいです」
美味しすぎてうっかり全部食べそうになるのを我慢する。旦那様やユジン坊ちゃんもきっと召し上がりたいだろうからとっておかなければ。
「あのね、これもおいしいのだけど。僕、実はクリームコロッケのほうが好きでね」
「ほぅ、クリームコロッケ…ですか。それはどうやって作るのですか?」
(まさかこれよりうまいというのか!?)
料理人として好奇心を抑えきれない。しかし、残念ながらこっちのレシピは曖昧でわからないという。
中はグラタンのようなミルキーな味。というから、考えて作ってみると「うんうんこれこれ!! というか僕が知ってるクリームコロッケよりこっちのが美味しいよ。すごいねベンス」と褒めてくれた。
ああ、その言葉で俺の心がどれほど満たされたことか!
坊ちゃんはなぜかわからないが料理ができる。(しかもかなりの腕だ。)学園の食事はおそらく口に合わないだろうが、自炊することは可能だろう。だが、どうしても坊ちゃんのご飯は自分が作りたい、という思いは捨てられなかった。
「セントラ、頼みがある」
「はい。なんでしょう?」
「学園に食事を送らせてくれ。坊ちゃんの食事を作らせてほしい」
身勝手な願いだとわかっている。いくら彼が魔法学園の理事長とはいえそう簡単に規則を破ることを許すはずがない、と思っていたのだが、信じられなくらいあっさりと頷いた。
「ふむふむ、キルナ様のお食事をベンスが作って魔法陣で学園に送るということですね。ええ、それはもちろんいいですよ」
「え? いいのか!?」
「そもそも外部からの食事は安全管理が難しいので、そういうルールを作ったのです。ベンスが作るものに間違いがあるはずはないですし、他でもないあなたの頼みです。特別に認めましょう。そのかわり、私の分もお願いしますね。ああ、学園でもあなたの食事が食べられるなんて、楽しみです」
満面の笑みで何を頼もうか考えているセントラ。長い付き合いだがこいつの考えていることはよくわからない。それでいいのかと思いながらも、今回ばかりはその即断に感謝した。
ふわりと風が吹き、サラサラと木々が葉音を立てる。
隣に座っている彼のネイビーブルーの髪も、そよ風に揺れる。長めの前髪から泣きぼくろがちらりと覗いた。
無駄に美しい男だと思う。こうして近くで見るとなおさら。
(まぁこいつは社交界でも有名な色男だからな。最近はあまりパーティーなどにも出ないようだが、なぜなんだろう。もったいない…こんなに綺麗なのに)
「ベンス、そんなに見つめられると照れます」
「え。ああ悪い」
「キスしても?」
「え?」
気づいた時には唇に、柔らかいものが触れていた。
『オムライスとポタージュスープ、紅茶とポポの実ソースたっぷりのシフォンケーキを二人分』
クライス王子からの注文に心を躍らせながら今日も料理を作る。
(あなたの健康はわたしがお守りします!!)
そして、ついでにあの男の分も作る。そういう約束だし、毎回料理の味を賞賛するメッセージを送ってくるから仕方がない。
「まったく。味音痴のくせに……」
コーヒー豆を挽きながらメッセージの返事を考える。
結局うまい言葉は思いつかず、いつものように彼の好きなブラックコーヒーを淹れて魔法陣に載せた。
🍀☕️(おしまい)🍳
***
意外な組み合わせ!?Σ(ʘωʘノ)ノ
ベンス60歳(見た目30歳) セントラ45歳(見た目23歳)です。
***
※食事の外注は禁止とする。
あと数日で、坊ちゃんが王立魔法学園に入学する。その学園案内の一文を見て俺は叫んでいた。
「そんな…坊ちゃんに料理を食べてもらうのが俺の生き甲斐なのに!!」
はぁ~~、中庭で一人落ち込んでいると、セントラがやってきた。
「俺はこの先どうしたらいいんだ」
「どうしたんです? ベンス、そんなに落ち込んで」
「王立魔法学園の食事は食堂で食べるか自炊するか学園内で買って食べる以外は禁止されているんだろう?」
「ええ、そうですね」
「学園に入学しても、坊ちゃんの食事は魔法陣を使って毎食お届けしようと思っていたのに。うぅ……他の料理人に坊ちゃんの食事作りを任せるなんて、俺には耐えられない!!」
『ねぇベンス、あのね、僕、作りたいものがあるの』
俺は坊ちゃんと一緒に、コロッケというものを初めて作った時のことを思い出す。僕が作るから、ベンスは見ててね。というので、小さな手でいきなり包丁を持つ彼にヒヤヒヤしながらも、できるだけ手出しはしないように見守った。
「塩を入れた水で、お芋を茹でて」
慣れた手つきでしゅるしゅると芋の皮を剥く彼にまず驚かされる。そして大きめに切った芋を鍋に入れひたひたになるまで水を入れ、ティースプーン一杯の塩を入れて茹ではじめる。その間に具の用意をするらしい。
「具は何がいいかな。みじん切りした玉ねぎと、うっ、これ目にしみるからベンスやって~」
さくっさくっと軽快に調理していたが、目に染みたようでぽろぽろと涙をこぼしながら俺を見る。もちろんです!とみじん切りしてみせると、「ありがとっ」とお礼を言う彼に癒される。
「中にいれる具で何かいいものある?ひき肉とか、魚介類とか。へえ、蟹や帆立に似たのがあるんだ。いいね、それ。おいしい出汁がでそうなのをベンス選んで!」
芋と相性が良さそうなものを選んで渡すと、また「ありがとっ」とはにかみながらそれを受け取った。フライパンで炒め塩胡椒で味付けしていく。
「お芋がやらかくなったら、水捨てて、ちょっと炒って」
(ふむふむ。水気を飛ばすために10秒ほど中火にかけるのか)
「ん、いいかんじ。ほくほくしてきたら、火を止めて、ぐっちゃぐちゃに潰して、さっきの具と混ぜて」
芋を大胆に木べらで潰していく。ここは鍋が動かないように押さえる手伝いをした。
「手に油を塗って丸めるの。小麦粉と卵とパン粉を順番につけて、油で揚げれば完成!」
坊ちゃんが調理場に立ったことなんて、クッキー作りの時くらい、のはずなのに、彼は手際良く料理を作っていく。何度もやったことがあるかのような見事な手捌きだ。
「あ、油で揚げるのは俺がします。危ないので坊ちゃんは少し離れてください」
「こんがりきつね色になったらできあがりだよ」
完成したコロッケというものは、素朴で優しい…故郷の母を思い出させるような味だった。
「ベンスの選んでくれた海の幸のおかげでとってもいい出汁がでてる。おいしいね」
「はい。これ、とてもおいしいです」
美味しすぎてうっかり全部食べそうになるのを我慢する。旦那様やユジン坊ちゃんもきっと召し上がりたいだろうからとっておかなければ。
「あのね、これもおいしいのだけど。僕、実はクリームコロッケのほうが好きでね」
「ほぅ、クリームコロッケ…ですか。それはどうやって作るのですか?」
(まさかこれよりうまいというのか!?)
料理人として好奇心を抑えきれない。しかし、残念ながらこっちのレシピは曖昧でわからないという。
中はグラタンのようなミルキーな味。というから、考えて作ってみると「うんうんこれこれ!! というか僕が知ってるクリームコロッケよりこっちのが美味しいよ。すごいねベンス」と褒めてくれた。
ああ、その言葉で俺の心がどれほど満たされたことか!
坊ちゃんはなぜかわからないが料理ができる。(しかもかなりの腕だ。)学園の食事はおそらく口に合わないだろうが、自炊することは可能だろう。だが、どうしても坊ちゃんのご飯は自分が作りたい、という思いは捨てられなかった。
「セントラ、頼みがある」
「はい。なんでしょう?」
「学園に食事を送らせてくれ。坊ちゃんの食事を作らせてほしい」
身勝手な願いだとわかっている。いくら彼が魔法学園の理事長とはいえそう簡単に規則を破ることを許すはずがない、と思っていたのだが、信じられなくらいあっさりと頷いた。
「ふむふむ、キルナ様のお食事をベンスが作って魔法陣で学園に送るということですね。ええ、それはもちろんいいですよ」
「え? いいのか!?」
「そもそも外部からの食事は安全管理が難しいので、そういうルールを作ったのです。ベンスが作るものに間違いがあるはずはないですし、他でもないあなたの頼みです。特別に認めましょう。そのかわり、私の分もお願いしますね。ああ、学園でもあなたの食事が食べられるなんて、楽しみです」
満面の笑みで何を頼もうか考えているセントラ。長い付き合いだがこいつの考えていることはよくわからない。それでいいのかと思いながらも、今回ばかりはその即断に感謝した。
ふわりと風が吹き、サラサラと木々が葉音を立てる。
隣に座っている彼のネイビーブルーの髪も、そよ風に揺れる。長めの前髪から泣きぼくろがちらりと覗いた。
無駄に美しい男だと思う。こうして近くで見るとなおさら。
(まぁこいつは社交界でも有名な色男だからな。最近はあまりパーティーなどにも出ないようだが、なぜなんだろう。もったいない…こんなに綺麗なのに)
「ベンス、そんなに見つめられると照れます」
「え。ああ悪い」
「キスしても?」
「え?」
気づいた時には唇に、柔らかいものが触れていた。
『オムライスとポタージュスープ、紅茶とポポの実ソースたっぷりのシフォンケーキを二人分』
クライス王子からの注文に心を躍らせながら今日も料理を作る。
(あなたの健康はわたしがお守りします!!)
そして、ついでにあの男の分も作る。そういう約束だし、毎回料理の味を賞賛するメッセージを送ってくるから仕方がない。
「まったく。味音痴のくせに……」
コーヒー豆を挽きながらメッセージの返事を考える。
結局うまい言葉は思いつかず、いつものように彼の好きなブラックコーヒーを淹れて魔法陣に載せた。
🍀☕️(おしまい)🍳
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意外な組み合わせ!?Σ(ʘωʘノ)ノ
ベンス60歳(見た目30歳) セントラ45歳(見た目23歳)です。
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