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第8章

第395話 主人公(弟)に避けられる悪役令息(ちょい※)

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クライスにお姫様抱っこされ、なぜかそのまま自室のベッドに運ばれてしまった。危うく制服を脱がされそうになったけれど、布団で防御してなんとか阻止する。まだ朝だし、これから学園の授業だってあるのに、いちゃいちゃするわけにはいかない。

「はぁ、はぁ、もぅ! 今からなんてダメに決まってるでしょ」
「そうだな。すまない、嬉しすぎて」

そんなに僕が手伝うと言ったのがうれしかったのかな? それくらい王宮の仕事が大変だってことだ。ちゃんと勉強してよかった。彼の膝の上に乗って向かい合って、まだ言えてなかった言葉を伝える。

「クライスはまた一番だね。やっぱりすごい。おめでとう」
「ああ、ありがとう」

まばゆい笑顔に煌めくピアスが似合いすぎて、慣れてない人がこれを見たらキュンキュンしすぎて死んでしまうんじゃないかと思う。ユジンならともかく、これ以上余計な敵は作りたくないのに。はぁっと重いため息が出る。

「どうした?」
「クライスってさ、罪作りな男だよね」
「うん? なんのことだ?」
「ううん、いいの。ちょっとこっちに顔近づけて」
「?」

よくわからないという顔もカッコいいのがムカつくから、両腕で彼の首を引き寄せて、ガジっと吸血鬼みたいに首を噛んでみた。ふふふ、噛み痕なんてついてたら、いくらイケメンでもちょっと間抜けに見えていいよね、とほくそ笑んでいると。

「あっ…んっ……」

逆にベッドに押し倒され、手首を押さえ込まれて、同じように首筋を噛まれてしまった。そんなに痛くはないけど、ちくっとする急所への歯の刺激に涙目になる。噛まれたところをペロリと舐められ、このまま食べられるんじゃ? と身の危険を感じた。でもそこは学年一優秀な王子様。本気で学業をおろそかにすることはない。
  
「くそっ、夜覚えておけよ」
「ふえぇごめんなさぃ」

モージューモードになりかけたクライスに叱られ、悪戯は良くないなと反省した。



「ユジン様は今日は来てませんね」
「そう。リオン、ありがと。他を探してみるよ」

6年生の1位はクライスで、1年生の1位はユジンだった。ユジンにもお祝いが言いたくて、セントラとの補習後生徒会室に寄ってみたけど、今日は来ていないらしい。寮の部屋に行っても、クーマが出てきて、「まだ帰ってないんでず」と言われた。

誕生日パーティーの後始末(プレゼント開封作業)で忙しいクライスに代わって今日はギアとロイルが護衛をしてくれている。彼らは「ユジン様は今お忙しいので、会うのは難しいかと……」とアドバイスしてくれたのだけど、どうしても諦めきれず、もう少し探してみることにした。最近会っていないし、ちょっとだけでも声が聞きたい。

(どこにいるのかな…あと探してないところでユジンが居そうなのは、教室とか剣術訓練所、魔法訓練所かな?)


一度校舎に戻って一年生の教室がある階に行ってみると、教室のドアの近くにちらっとピンクゴールドの髪が見えた。声をかけようと早足で近づいていく。あともう少しで教室、というところで、青白い光と共にシュンと音が聞こえた。

「ユジン…いないの?」

教室内を見回しても誰もいない。ユジンは転移してどこかへ行ってしまったらしい。

(おかしいな。一瞬目が合ったような気がしたのに)


それから一時間ほどユジンを探してうろうろしたものの、会うことはできなかった。見つけても声をかける前に、彼は姿を消してしまう。

(もしや僕、けられてる?)

嫌な汗が流れる。ないないない、そんな訳。だってあんな良い子が理由もなく人をけたりするはずがない。それか、ユジンに嫌われるようなことを僕がしたのかな? そんなの身に覚えが……ある!!

しまった。そういえば、僕は一学期の間中、ユジンの上靴に水の花を入れたり、新品の教科書をボロボロになった僕の教科書にすり替えたりと、卑劣な悪役活動を繰り返していたのだった。数々の悪行の犯人が僕だとわかり、幻滅されたに違いない。

なんてこと!

よろめいたところを、ギアがすかさず抱き留めてくれた。

「大丈夫ですか? キルナ様」
「あ…ありがと、ギア。だいじょぶ」

むしろこんな奴、助けなくていいよと思う。こんな最低な兄なんて、この魔法訓練所の固い床に頭を打ちつけてたんこぶくらい作るべきなのに。

「キルナ様、帰りましょう。顔色があまりよくありません」

ユジンはいなくなってしまったし、これ以上ここにいても意味がない。ロイルの意見に従い、部屋に戻ることにした。
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