いらない子の悪役令息はラスボスになる前に消えます

日色

文字の大きさ
266 / 304
第8章

第402話 新作の水着(ちょい※)

しおりを挟む
「またここに来ることになるとはな……。今度は手を放すなよ」
「だいじょぶ。もう一人でいなくなったりしないよ」

 週末、僕たちは再びヒカリビソウの湖にやってきていた。僕たちにとってここは結構複雑な場所だ。

 誓いの湖と呼ばれるこの場所は、ゲームのキルナがクライスにこっぴどく振られ地面に這いつくばった場所でもあるし、泳ぐ練習をしたりキャラ弁を食べた楽しい思い出の場所でもあるし、そうかと思えば妖精に呼ばれて妖精の世界に連れて行かれた場所でもある。

 でもなんといってもここ(妖精側の湖)は、僕のの場所、なんだよね。

(あの時のクライス、激しかったな)

「ん? 何赤くなっているんだ?」
「え……あ……えと、ルーナの花がちゃんとあるか心配でドキドキしてたの」

 うーだめだめ、今日は僕の命がかかった花探しに来たのだから、バカなことを考えてる場合じゃない。気を引き締めなくちゃ。

「ああ、そうだな。俺も正直少し緊張している。明るいうちに探そう。たしかこの湖の孤島にあると言っていたな?」
「うん」

 ヒカリビソウの湖にルーナの花が咲く。それは『ニジウミ』で得た情報だ。

 キルナ=フェルライトはここでクライスにキスをせがんで手酷く拒否され、一人取り残されたこの湖でルーナの花を見つけた。それを使って弟の殺害を画策するのだ(結局それは攻略対象たちに阻まれて失敗に終わるわけだけど)。

 紺の髪に金色の瞳に白い肌、あの日地面をガリガリと引っ掻いたせいで剥がれかけた桃色の爪。
 湖面には、『ゲームのキルナ』と同じ容姿をしている僕が映っている。

 ーー誰か僕を助けて、僕を信じて、僕を愛して!!!!

 中身は違うけど、これまでキルナとして生きてきた僕には、苦しくて、辛くて、とてつもなく悲しい彼の気持ちが手に取るようにわかる。家族の愛情を独り占めする弟に嫉妬し、愛する婚約者まで奪われた、嫌われ者の悪役令息の気持ちが。

 そりゃ毒ぐらい盛るかもしれないと思ってしまう自分に身震いする。

(って違う違う、そんなことしない!!)

 この世界はゲームと同じようで同じじゃない。ユジンは可愛い弟だし、僕は絶対に彼に毒なんて盛らない。

 たとえゲーム通り弟との仲がうまくいってなかったとしても──


「キルナ、できるだけ早く花を見つけて戻ろう」
「ん、そだね」

 ルーナの花は前世の百合に似ていて結構大きい。色は地味だけど目立つ花だから見つけるのはそう難しくない気がする。花のありかは妖精に聞けば教えてくれると思う。

 ただ、ルーナの花の生態はほとんど解明されていないから、そもそも『長い時間をかけて咲く』という前提(図鑑の情報)が正しいのかも不明な上、ゲーム通りここにあるのかもわからない。妖精のこともどこまで信じていいのやら。

 前に妖精に呼ばれた時も、「こっちにルーナのはながあるよ~」という彼らの言葉を信じて湖に入ったのに、なぜか辿り着いた先はカーナのいる妖精の世界だったわけで……っていうか、今日またそうなったら困るよね。前回は行って帰ってくるのに4年かかったでしょ。次は戻ってきた時には寿命が尽きてました! ってことにもなりかねない。

(うぅ……大丈夫かな……)

 色々と不安は山盛りだけど、他に手がかりもないし、まずはここを探すしかない。


 ということで、
 今回も僕たちは湖に入る前に、岩場の影で水着に着替えることになった。
 そこで心配なのはこの袋の中身だ。

 今日は準備のために一度公爵家に立ち寄ってから来たのだけど、ルゥが目をうるうるさせながら「夜なべして作った新作です。絶対にお似合いになると思います。お気をつけて……」と言ってこの水泳セットを渡してくれた。

 急いでいたから中身を確認する間がなかったけれど、これまでルゥにもらった服が普通のものだった試しがない。ましてや前回同様彼の手作りだと言うのだから、普通のものが出てきた方がびっくりするくらいだ。

 前回と同じだったらどうしよう。

 ウサミミ、スケスケ、ヒモビキニ……

 苦い記憶を思い出しながら、恐る恐る袋から取り出した水着は、黒ではなくアイスブルーの綺麗な色をしていた。

 あ、前のと違うやつだ、よかった~と胸を撫で下ろしたのも束の間、

「んぇ??」

 広げてみると、なんと! 前のと色違いの紐ビキニだった。ウサ耳フード付きのスケスケラッシュガードは、白い透け感のあるレースの布にキラキラと光るゴールドのラメが散りばめられ、前回より派手になっている。

(もうもうもう、ルゥったら! こんなの絶対着こなせないのにさらに目立たせるなんて! 帰ったら絶対文句を言ってやるぅ~)

 呪いの言葉を吐き出すのをなんとか我慢しながら着替えると、

「着替え終わったか? って……ぐはっ」

 後ろを向いて着替えていた彼が振り返り、僕を見て、また向こうを向いた。もしかして、見たくもないくらい似合わないのかな。

「やっぱ変だよね? 今日は別に泳ぎにきたわけじゃないし脱ぐよ。濡れてもいいから服のまま探そ……」
「待て、似合ってるから脱がないでくれ」
「え?」

 サイドの紐を解こうとしたところを背後から逞しい腕に掴まれ止められてしまった。

「いや、思いきり俺の色だったものだから、照れてしまったんだ。すまない」
「クライスの色? あ……」

 ビキニのアイスブルーはクライスの瞳の色で、キラキラ光るゴールドのラメはクライスの髪の毛の色だった。これってまるで僕の体を彼が包み込んでいるような。大事な部分を彼が守ってくれているような。

 紐ビキニを見て、そこを包み込むような彼の手を想像すると、んっぎゃああ一気に体が熱くなってきた。

「は、早く探そっ!」


 真っ赤に火照った体を冷やすため、僕は彼を湖へと引っ張っていった。
しおりを挟む
感想 714

あなたにおすすめの小説

なぜ処刑予定の悪役子息の俺が溺愛されている?

詩河とんぼ
BL
 前世では過労死し、バース性があるBLゲームに転生した俺は、なる方が珍しいバットエンド以外は全て処刑されるというの世界の悪役子息・カイラントになっていた。処刑されるのはもちろん嫌だし、知識を付けてそれなりのところで働くか婿入りできたらいいな……と思っていたのだが、攻略対象者で王太子のアルスタから猛アプローチを受ける。……どうしてこうなった?

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。   ※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました! えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。   ※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです! ※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

【完結】悪役令息の役目は終わりました

谷絵 ちぐり
BL
悪役令息の役目は終わりました。 断罪された令息のその後のお話。 ※全四話+後日談

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  ゆるゆ
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 透夜×ロロァのお話です。 本編完結、『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけを更新するかもです。 『悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?』のカイの師匠も 『悪役令息の伴侶(予定)に転生しました』のトマの師匠も、このお話の主人公、透夜です!(笑) 大陸中に、かっこいー激つよ従僕たちを輸出して、悪役令息たちをたすける透夜(笑) 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 ほぼ毎日お話のことを登場人物の皆が話す小話(笑)があがります。 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新! プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。