16 / 156
出会いと別れ編
ライバル?? 2
しおりを挟む
置かれた手に、舞がさらに手を重ね、ムッとした様な表情を浮かべる。
「そうよ。頑張ったのに……また今日熱が出て……」
しゅんとした様子の舞に、恭平が今度は反対の掌を彼女の頬に当てる。
(なんか……モヤモヤする……)
雛子はそれ以上見ていたくなくて、車椅子の後ろに回り込む。
「さ、ではお部屋に案内しますね!」
そしていつもより少しだけ早足で、車椅子を押す手に力を込める。
病棟に向かうまでの間も、二人は手を繋いだり、恭平が舞の髪色を褒めたり……。まるで恋人同士のような振る舞いに、雛子は車椅子を押す役を恭平に頼めばよかったと今更ながら後悔する。
恭平は道中ずっと「指細いよね」やら「今回のネイルも可愛いね」などと何かと理由を作っては舞の手に触れている。
(うわー、桜井さんめっちゃチヤホヤしてる……。もしかしてこういう人がタイプなのかな? ていうか手フェチ? それとも付き合ってる??)
邪推してみるも、それが正解だとは何故だか認めたくない。何となく落ち着かない雛子だったが、自分が落ち着かない理由もよく分からない。
「はい、今回の入院はこの部屋ね。指示確認してくるから、バイタル測っといて」
思考の海に浸っている間に、いつの間にか病棟にたどり着いていた。準備していた個室に舞を案内しベッドに移ってもらったあと、雛子を残し恭平は一旦退室する。
「あ、はい、承知しました。では篠原さん、先にお熱測りますね」
雛子が差し出した体温計を受け取りながら、舞は小首を傾げて訊ねる。
「あなたは、恭平の直属の後輩なのね。三月に入院した時、後輩指導に付く事を聞いたの」
舞の問いに、雛子は少しだけはにかみながら肯定する。恭平のプリセプティになれた事は、看護師として最高にラッキーな出来事の一つだ。
「はい、そうなんです! プリセプターって言って、要は師弟関係のような」
「……そんな事聞いてねぇよ」
はい?
という疑問符は、言葉に出来なかった。
「あんたみたいなブスでとろくさそうな子の指導なんて可哀想。っていうか、私の恭平に近付き過ぎ」
さっきまでの可憐な印象とは一変、舞は溜息を吐きながら、気怠そうに肩にかかった髪をかき上げた。
「はぁ……ったくせっかくベストタイミングで髪もネイルも仕上げてきたのに、あんた本当に目障りね」
「……はぁ」
「はぁ、じゃねーわよ。人の話聞いてんの? 邪魔って言ってんのよ。検温だっていつもなら恭平にして貰えるのに」
突然の変わり身に思考が追い付かず、雛子は間抜けな相槌しか打つ事が出来ない。
「あーあ。本当は今日マツエクも付けに行く予定だったのに、熱出すのあと一日遅ければなぁ~」
膝に置かれた荷物の中からコンパクトを取り出し、角度を変えて何度も覗き込みながら舞が残念そうに唇を尖らせる。
それからもグズだの寸胴だのと罵声を浴びせられながら雛子がバイタルを図り終えた頃、ドアがノックされ恭平がひょっこり顔を出した。
「あっ、恭平~! 遅いよぉ、もぅ~」
途端に舞から、甘ったるい声が上がる。ここまで露骨な態度は珍しいが、恭平ファンの女性患者は概ねこんな様子だ。雛子の身体からがくっと力が抜ける。
「ごめん、はいこれ」
恭平の手には、追加のタオルケットが抱えられていた。恭平はそれを広げ、座っている舞の膝にそっと掛ける。舞はきょとんとした顔で、掛けられたタオルケットと恭平を見比べた。
「恭平どうして私が寒いって分かったの? 私いつも、入院したらすぐに氷枕をリクエストするのに」
雛子も同じ疑問を浮かべていた。高熱で入院する患者には、大抵ルーティンでクーリングを準備している。
「さっき手に触れた時冷たかった。末梢が冷たい時は、循環があまり良くないから無理に冷やさなくて良い」
(なるほど)
事も無げに言う恭平に雛子は心の中で納得する。一方舞の方は、瞳をハートにして恭平の言葉に頷いていた。
「それより……」
恭平は雛子がカルテに入力したバイタルを見つめ、溜息を吐きながら舞の額に手を置いた。
「四十度か……今回も高ぇな」
(あ……また……)
雛子の中に、再びモヤモヤとした気持ちが湧き上がる。
「熱に浮かされるその目を見ているとドキドキする」
(……)
至極真面目な顔で宣う恭平に、雛子は既視感を覚える。
「横になって……目を閉じてしっかり休んで」
(なんか……前にもこんなシーンを見たような……)
「恭平~。目なんか閉じさせてどうする気~?」
何かを期待して素直に横になり目を閉じる舞を尻目に、恭平は音もなく病室のドアをスライドさせる。
あとは任せた。
そんな言葉を、声に出さず唱えながら。
(あー……田中のおばあちゃん元気かなぁ……)
この後の展開が容易に予測され、雛子は束の間の現実逃避を試みる。
「恭平~まだ~? ……っていないじゃない! 恭平は!?」
思ったよりも早く現実に引き戻された。身体をゆさゆさと揺さぶられ、高熱の割に元気だなぁなどとぼんやり考える。
「ちょっと! あんたなんてどーでも良いのよ! 恭平探しに行ってきて!」
「は、はい~……」
理由はなんであれ、とにかくこの部屋から出られるなら何でも良い。追い出してくれて助かったと思いつつ、雛子はすみやかに退室する。
「そうよ。頑張ったのに……また今日熱が出て……」
しゅんとした様子の舞に、恭平が今度は反対の掌を彼女の頬に当てる。
(なんか……モヤモヤする……)
雛子はそれ以上見ていたくなくて、車椅子の後ろに回り込む。
「さ、ではお部屋に案内しますね!」
そしていつもより少しだけ早足で、車椅子を押す手に力を込める。
病棟に向かうまでの間も、二人は手を繋いだり、恭平が舞の髪色を褒めたり……。まるで恋人同士のような振る舞いに、雛子は車椅子を押す役を恭平に頼めばよかったと今更ながら後悔する。
恭平は道中ずっと「指細いよね」やら「今回のネイルも可愛いね」などと何かと理由を作っては舞の手に触れている。
(うわー、桜井さんめっちゃチヤホヤしてる……。もしかしてこういう人がタイプなのかな? ていうか手フェチ? それとも付き合ってる??)
邪推してみるも、それが正解だとは何故だか認めたくない。何となく落ち着かない雛子だったが、自分が落ち着かない理由もよく分からない。
「はい、今回の入院はこの部屋ね。指示確認してくるから、バイタル測っといて」
思考の海に浸っている間に、いつの間にか病棟にたどり着いていた。準備していた個室に舞を案内しベッドに移ってもらったあと、雛子を残し恭平は一旦退室する。
「あ、はい、承知しました。では篠原さん、先にお熱測りますね」
雛子が差し出した体温計を受け取りながら、舞は小首を傾げて訊ねる。
「あなたは、恭平の直属の後輩なのね。三月に入院した時、後輩指導に付く事を聞いたの」
舞の問いに、雛子は少しだけはにかみながら肯定する。恭平のプリセプティになれた事は、看護師として最高にラッキーな出来事の一つだ。
「はい、そうなんです! プリセプターって言って、要は師弟関係のような」
「……そんな事聞いてねぇよ」
はい?
という疑問符は、言葉に出来なかった。
「あんたみたいなブスでとろくさそうな子の指導なんて可哀想。っていうか、私の恭平に近付き過ぎ」
さっきまでの可憐な印象とは一変、舞は溜息を吐きながら、気怠そうに肩にかかった髪をかき上げた。
「はぁ……ったくせっかくベストタイミングで髪もネイルも仕上げてきたのに、あんた本当に目障りね」
「……はぁ」
「はぁ、じゃねーわよ。人の話聞いてんの? 邪魔って言ってんのよ。検温だっていつもなら恭平にして貰えるのに」
突然の変わり身に思考が追い付かず、雛子は間抜けな相槌しか打つ事が出来ない。
「あーあ。本当は今日マツエクも付けに行く予定だったのに、熱出すのあと一日遅ければなぁ~」
膝に置かれた荷物の中からコンパクトを取り出し、角度を変えて何度も覗き込みながら舞が残念そうに唇を尖らせる。
それからもグズだの寸胴だのと罵声を浴びせられながら雛子がバイタルを図り終えた頃、ドアがノックされ恭平がひょっこり顔を出した。
「あっ、恭平~! 遅いよぉ、もぅ~」
途端に舞から、甘ったるい声が上がる。ここまで露骨な態度は珍しいが、恭平ファンの女性患者は概ねこんな様子だ。雛子の身体からがくっと力が抜ける。
「ごめん、はいこれ」
恭平の手には、追加のタオルケットが抱えられていた。恭平はそれを広げ、座っている舞の膝にそっと掛ける。舞はきょとんとした顔で、掛けられたタオルケットと恭平を見比べた。
「恭平どうして私が寒いって分かったの? 私いつも、入院したらすぐに氷枕をリクエストするのに」
雛子も同じ疑問を浮かべていた。高熱で入院する患者には、大抵ルーティンでクーリングを準備している。
「さっき手に触れた時冷たかった。末梢が冷たい時は、循環があまり良くないから無理に冷やさなくて良い」
(なるほど)
事も無げに言う恭平に雛子は心の中で納得する。一方舞の方は、瞳をハートにして恭平の言葉に頷いていた。
「それより……」
恭平は雛子がカルテに入力したバイタルを見つめ、溜息を吐きながら舞の額に手を置いた。
「四十度か……今回も高ぇな」
(あ……また……)
雛子の中に、再びモヤモヤとした気持ちが湧き上がる。
「熱に浮かされるその目を見ているとドキドキする」
(……)
至極真面目な顔で宣う恭平に、雛子は既視感を覚える。
「横になって……目を閉じてしっかり休んで」
(なんか……前にもこんなシーンを見たような……)
「恭平~。目なんか閉じさせてどうする気~?」
何かを期待して素直に横になり目を閉じる舞を尻目に、恭平は音もなく病室のドアをスライドさせる。
あとは任せた。
そんな言葉を、声に出さず唱えながら。
(あー……田中のおばあちゃん元気かなぁ……)
この後の展開が容易に予測され、雛子は束の間の現実逃避を試みる。
「恭平~まだ~? ……っていないじゃない! 恭平は!?」
思ったよりも早く現実に引き戻された。身体をゆさゆさと揺さぶられ、高熱の割に元気だなぁなどとぼんやり考える。
「ちょっと! あんたなんてどーでも良いのよ! 恭平探しに行ってきて!」
「は、はい~……」
理由はなんであれ、とにかくこの部屋から出られるなら何でも良い。追い出してくれて助かったと思いつつ、雛子はすみやかに退室する。
0
あなたにおすすめの小説
秘書と社長の秘密
廣瀬純七
大衆娯楽
社内の調査のため、社長・高橋健一はこっそり秘書・木村由紀と不思議なアプリで入れ替わることに。
突然“社長役”を任された由紀と、自由に動ける立場を手に入れた高橋。
ふたりの秘密の入れ替わり作戦は、どの様な結末になるのか?
ズボラ上司の甘い罠
松田丹子(まつだにこ)
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
お前が欲しくて堪らない〜年下御曹司との政略結婚
ラヴ KAZU
恋愛
忌まわしい過去から抜けられず、恋愛に臆病になっているアラフォー葉村美鈴。
五歳の時の初恋相手との結婚を願っている若き御曹司戸倉慶。
ある日美鈴の父親の会社の借金を支払う代わりに美鈴との政略結婚を申し出た慶。
年下御曹司との政略結婚に幸せを感じることが出来ず、諦めていたが、信じられない慶の愛情に困惑する美鈴。
慶に惹かれる気持ちと過去のトラウマから男性を拒否してしまう身体。
二人の恋の行方は……
27歳女子が婚活してみたけど何か質問ある?
藍沢咲良
恋愛
一色唯(Ishiki Yui )、最近ちょっと苛々しがちの27歳。
結婚適齢期だなんて言葉、誰が作った?彼氏がいなきゃ寂しい女確定なの?
もう、みんな、うるさい!
私は私。好きに生きさせてよね。
この世のしがらみというものは、20代後半女子であっても放っておいてはくれないものだ。
彼氏なんていなくても。結婚なんてしてなくても。楽しければいいじゃない。仕事が楽しくて趣味も充実してればそれで私の人生は満足だった。
私の人生に彩りをくれる、その人。
その人に、私はどうやら巡り合わないといけないらしい。
⭐︎素敵な表紙は仲良しの漫画家さんに描いて頂きました。著作権保護の為、無断転載はご遠慮ください。
⭐︎この作品はエブリスタでも投稿しています。
手を伸ばした先にいるのは誰ですか~愛しくて切なくて…憎らしいほど愛してる~【完結】
まぁ
恋愛
ワイン、ホテルの企画業務など大人の仕事、そして大人に切り離せない恋愛と…
「Ninagawa Queen's Hotel」
若きホテル王 蜷川朱鷺
妹 蜷川美鳥
人気美容家 佐井友理奈
「オークワイナリー」
国内ワイナリー最大手創業者一族 柏木龍之介
血縁関係のない兄妹と、その周辺の何角関係…?
華やかな人々が繰り広げる、フィクションです。
12年目の恋物語
真矢すみれ
恋愛
生まれつき心臓の悪い少女陽菜(はるな)と、12年間同じクラス、隣の家に住む幼なじみの男の子叶太(かなた)は学校公認カップルと呼ばれるほどに仲が良く、同じ時間を過ごしていた。
だけど、陽菜はある日、叶太が自分の身体に責任を感じて、ずっと一緒にいてくれるのだと知り、叶太から離れることを決意をする。
すれ違う想い。陽菜を好きな先輩の出現。二人を見守り、何とか想いが通じるようにと奔走する友人たち。
2人が結ばれるまでの物語。
第一部「12年目の恋物語」完結
第二部「13年目のやさしい願い」完結
第三部「14年目の永遠の誓い」←順次公開中
※ベリーズカフェと小説家になろうにも公開しています。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
悪徳公主と冷徹皇帝陛下の後宮薬膳茶
菱沼あゆ
キャラ文芸
冷徹非道と噂の皇帝陛下のもとに、これまた悪しき評判しかない異国の王女、琳玲がやってきた。
琳玲は皇后の位は与えられたが、離宮に閉じ込められる。
それぞれの思惑がある離宮の女官や侍女たちは、怪しい薬草で皇帝陛下たちを翻弄する琳玲を観察――。
悪徳公主と冷徹皇帝陛下と女官たちの日々は今日も騒がしい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる