白衣とブラックチョコレート

宇佐田琴美

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出会いと別れ編

ライバル?? 4

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 雛子は以前から読み込んでいた翔太の情報について思考を巡らせた。

 両親と年の離れた妹の四人家族である事から始まり、ずっとサッカー少年で将来はサッカー選手を夢見ていたこと。一年ほど前に悪性リンパ腫の診断を受け、当初は寛解しやすい型だと思われていた事。骨髄移植を受けたが、適合が上手くいっていない事。

 そして今の薬が効かなければ、もう治療法が残されていない事。

 両親や本人の発言の記録には思わず涙が溢れそうになり、雛子は何度も強く瞬きしながらカルテを読んだ。

 彼の命は今、最後の治療法に委ねられている。

 カルテの内容を思い出し、雛子は再び強く瞬きをした。深呼吸をして、悲しい気持ちに一旦蓋をする。

 その時、雛子が首から下げているPHSが鳴った。相手は恭平だ。

「はい、雨宮です」

『舞が着替えたいそうだから頼む』

(……舞。篠原さんの事そんな風に呼んでたのか)

 人にはひなっちなどと変なあだ名を付けるくせに、可愛い患者は呼び捨てにするらしい。

 そんなどうでもいいことを考えつつ、雛子は清拭タオルを準備して病室に向かう。

「失礼しまーす」

 病室に着くと、舞が恭平の腕に絡みついて子どものように駄々を捏ねていた。

「いーやーよー! 恭平が着替えさせて!」

「今日の受け持ちは彼女だし、同性の方が良いでしょ」

「どうして!? せっかく可愛い下着着けてきたのにー!」

「下着姿なんて見たら……俺止められなくなるよ?」

「きゃー! 恭平のエッチー!」

(何この茶番……)

 雛子は思わず白目を剥いて口からエクトプラズムが抜けそうになる。

「悪い、あとは頼んだ」

 目くらまし作戦で病室から退散する恭平に、雛子は意を決してベッドへと近付く。

「はいはい、篠原さーん。着替えしましょうね~」

「はぁ!? またあんたなの!? 恭平はっ!?」

 色々とごねる舞だったが、渋々雛子が着替えさせる事を了承させ何とか服を脱がせるところまで持っていく。ふと雛子の持ってきていたタオルに、舞の目が止まる。

「それ……ホットタオル?」

「あ、はい、熱も高いし汗もかくだろうから、着替えるなら必要かと……」

「ふーん……まぁ、良いんじゃない」

 大人しく服を脱ぎ始めた舞に、雛子は胸を撫で下ろす。そして今度は雛子が、ある一点に視線が釘付けとなる番だった。

(お、おっぱいが……大きい……)

 そこにはまるで風船でも詰めているかのような二つの膨らみが、たっぷりとフリルをあしらった可愛らしい下着から溢れんばかりに主張していた。

「っ……」

 なるほど、これなら恭平の前で惜しげも無く晒せるだろうし、むしろ見て欲しいと思うものなのかもしれない。

「ちょっと何じろじろ見てんのよ……ふーん……?」

 あまりにも釘付けとなっている雛子に舞は気付き、すぐさまその視線の先に検討が着いた様子だった。そして一言。


「……まな板ねぇ」



「なっ……!?」

 あまりにもストレートな表現に、雛子は口をパクパクさせながら自身の胸元を押さえた。

「まぁ見入っちゃうのも無理ないわ。私って可愛いしスタイルも良いもの。触ってみる?」

「け、結構です!」

 自分でそこまで言える人間というのもなかなかいないだろう。巨乳とはここまで人格形成に影響を及ぼせるのか。

 雛子は着替えのパジャマに点滴を通す手伝いをして、あとはなるべく舞の身体を見ないように目を伏せていた。

「恭平って良い男よね~。あなたもそう思うでしょ?」

 一方、女として完全にマウントを取った形の舞はご機嫌だ。話の内容が変わったことで、雛子の気持ちも少しだけ持ち直す。

「まぁ確かに、桜井さんはルックスも良くて仕事もできて、色んな患者さんにモテモテですね」

「そうよね! まぁ恭平の一番は私だけど! きゃー!」

(結局そういうオチになるのね……)

 背中をぞんざいにしばかれながら、雛子は内心ゴチる。

「……なんか篠原さん、熱の割には元気ですね」

 思わず本音が口を突いた。舞は一瞬きょとんとした様子を見せたが、すぐに小悪魔のような笑みを浮かべる。

「んーまぁそうね。実際喉が痛くて食事が取りにくいくらいだし。仕事も休めてちょうど良いのよね~。先生には手術を勧められてるけど、そんな事したらもう恭平にも会えなくなるし?」

 事も無げにそう言ってのける舞。雛子の頭に、血塗れになっていた翔太の姿が浮かんだ。

 雛子の中で何かが弾ける。

「……で下さい」

「はぁ? なに?」

 俯いた雛子の呟きを、舞は聞き取れなかったようだった。雛子はキッと視線を上げ、はっきりと告げる。

「病院を休憩所みたいに使わないで下さい 」
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