白衣とブラックチョコレート

宇佐田琴美

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出会いと別れ編

ライバル?? 5

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 病室はしんと静まり返る。舞の鋭い視線に居竦まらないよう、雛子はぎゅっと拳を握り締めた。

「……あんた、患者に向かって何言ってんの?」

 舞の低い声に、全身の筋肉が緊張する。雛子は一呼吸置いて、一気に捲し立てる。

「ここには帰りたくても帰れない、命かけて戦ってる人もたくさんいる。だからそんな事言わないでっ!」

再び静まり返った病室。直後、舞がくすりと小さく笑う。

「……あんた生意気ね」

 にやりと口角を上げたその顔に、思わず頭に昇った血がすっと引いていった。

「あんたは私に説教できるほど偉いの? クレームとして師長に言いつけても良いのよ?」

 どうする? と見上げる表情は、口元こそ笑っているものの眼光は鋭かった。雛子はきつく唇を噛み締め、深々と頭を下げた。

「……すみませんでした。以後気を付けます」

 そして使用済みのタオルをまとめると、足早に部屋を後にした。

 雛子が去った後も、舞はしばらく病室のドアの方を見つめていた。


「ふぅん……雨宮雛子、ねぇ」













 藤村翔太と、あまり好印象とは言えない挨拶を交わしてから三日後。

「よし、予習はバッチリだな」

 勉強の方は何とか恭平から合格点をもらった。カルテも一通り網羅したところで、雛子はようやくサブプライマリーとして再び翔太と顔合わせを行うことになった。

「失礼します」

 一呼吸置いて、雛子は恭平と共に翔太の病室へ入る。ベッドの上から、翔太の警戒するような視線が向けられる。

「改めまして、これから桜井さんと一緒に翔太君を担当することになった雨宮雛子です。よろしくね」

「……」

 やはり翔太から返事はない。ここまでは想定済みだ。雛子は室内を見渡す。

 個室に備え付けのテレビにはテレビゲーム機が接続され、その脇の床頭台にはサッカーボールが一つ乗っている。感染予防の目的で持ち込めるものが制限されている中、ゲームとサッカーが彼の唯一の楽しみなのだろう。

「サッカー好きなの?」

 雛子は会話のきっかけを作ろうと、翔太の食いつきそうな話題を振る。

「まぁ……」

(よし!)

 想定内の返事が来た事に、雛子は心の中でガッツポーズをする。

「へぇ、そうなんだ! サッカーって難しいんだよね~。私も子どもの頃体育の授業でやったけど、ルールもよく覚えられなくて……」

「……」

 今度は返事の代わりに、心底馬鹿にしたような瞳で見つめられた。

「とにかく翔太、今後はこいつと関わる事が多くなると思うからよろしくな」

 しゃがんだ恭平が翔太の顔をのぞき込むと、彼は仕方なさそうに頷く。

「よし。……と、リーダーから電話。俺行くから、あとよろしく」
 
 恭平が退室し、雛子と翔太は二人きりになる。

「あ、桜井さん行っちゃったね。とりあえず、検温させてね」

「……」

 まずはやるべき事をやろう。そう思い体温計を脇に挟もうとするも、それは翔太の手によって奪われる。翔太は黙って自分の脇に体温計を挟む。

「……はい、じゃあ次は血圧ね」

 脈を取り、続いて血圧計のマンシェットを翔太の腕に巻く。

「えーっと、体調はどう?」

「普通」

「そう……。夜は眠れたかな?」

「まぁ」

「朝ごはん食べられた?」

「多少は」

「……」

「……」

(うーん……と? どうしよう……)

 業務上必要な事は質問すれば一応返答があるものの、そこから話が盛り上がる訳でもない。

「……」

 どうしたものかとカルテを打ち込みながらちらりと翔太を盗み見る。その時、彼が何かドアの方を忙しなく見ている事に気付いた。

「……どうしたの?」

 「……別に」

 そうは言うものの、彼はそわそわと落ち着かない様子だ。雛子は彼の視線の先を追い、すぐにその答えに合点がいく。

「あ、もしかしてトイレ?」

「……」
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