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白衣の天使編
嘘 2
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やがて各々シャワーを浴びたりコンビニへ食事を買いに行ったりと十二時のチェックアウトまでのんびり過ごし、その後は再び海へ遊びに行く事になった。
恭平と、チェックアウトギリギリまで寝ていた悠貴は酷い二日酔いだったようだが、遊びに行く頃にはすっかり体調は戻っていたようだ。
「はい、雨宮アウトー」
「ええっ、また雛子なの? 雛子狙うの禁止にしましょう」
「いや市ヶ谷さん、それだと試合になりませんから。三対三ですし」
「うふふ、女の子だもの、運動できなくたって雛子ちゃんは十分可愛いわ」
「よし、そっちチームあと一人だな」
自分以外は皆スポーツ万能。そのメンバーでドッヂボールなど、狙ってくれと言っているようなものだ。
「皆本気で投げ過ぎで怖い……」
ビーチドッヂボールに闘志を燃やす面々の熱気に耐えられず、雛子は一度戦線離脱した。
「はぁ~疲れたぁ」
雛子は舞のいるパラソルの元へと向かう。
彼女は念の為大人しくしているよう恭平から釘を刺され、不服そうにしながらも素直に言いつけに従っていた。
「……あんたほんっとに運動音痴なのね」
つまらなそうな顔をしながら試合観戦していた舞が飽きれた口調で呟くようにそう言った。雛子はクーラーボックスからアイスティーを取り出して水分補給しながら恥ずかしそうに頭をかく。
「あ、あはは、まぁ人には向き不向きがありますので……」
「あんたに向いてることって何よ」
「うっ、そう言われると特には……」
雛子の予想通りの返答に、舞はやはりつまらなそうにしながら溜息を吐いた。
「……ねぇ、散歩。暇だからちょっと付き合いなさいよ」
「えっ、でも……」
雛子はちらりとまだゲームに熱中している五人を見やる。舞は大人しくするように言われているとはいえ、確かに目の前でこれだけ楽しそうにされたらじっとしているだけでは物足りないだろう。
(少しだけなら、まぁいっか?)
元々軽い熱中症との事だし、今は元気そうにしているし少し歩くくらいなら問題ないだろう。
「良いですよ。その代わりちょっとだけですからね?」
念を押して、雛子は歩き出した舞のあとを着いていく。
「あーあ、せっかく遊びに来たのにここでも患者扱い……本当嫌になっちゃうわ」
砂浜からだいぶ離れ、防波堤をブラブラと歩きながら舞が独り言のようにゴチる。
「そりゃそうですよ。篠原さんに何かあったら叱られる所の話じゃないんですから」
雛子は舞の言葉に苦笑いで答える。
「……私ね、嬉しかったのよ。恭平達と一緒に泊まりで遊べて」
舞は憎たらしいくらいに晴れた空を見上げた。
「こんな変な病気のせいで何度も入退院を繰り返してて、でも命に別状ない病気だって分かると皆言うのよ『なぁんだ、じゃあ休めてラッキーじゃん』って」
「そんなこと……」
舞の悲しげな表情に、雛子は何も言えなくなる。
「この病気を発症したのは社会人になってからだけど……。入院するとね、思い出すの。小さい頃熱を出すと、亡くなったお母さんが看病してくれたこと」
舞は空を仰ぎながら続ける。
「お母さんだけは、心から心配してくれてた……熱なんかなくたって、私がちょっと風邪っぽいって言うだけでとっても心配して……あの時は気付かなかったわ、お母さんの愛って凄いのね」
舞は立ち止まり、片耳のピアスを外して手のひらに乗せた。それは陽光を反射してキラリと小さく光った。
「……お母さんの形見なの」
「篠原さん……」
舞は小さく笑う。
「私、いつの間にかお母さんの代わりを探して、お母さんみたいに優しくしてくれる人を求めて……入院するたびにどんどん我儘になっていったのかなぁ」
雛子は舞の悲しげな笑みを見て、目の奥が熱くなったのを感じた。
「優しくしますよ、いつだって」
雛子は押さえた声でそう告げた。
「そりゃ全部の我儘は聞けないけど……でも桜井さんだって篠原さんのことすごく心配してるから今日だって休んでろって言ったわけで……だから……」
いくら考えても、何も気の利いた言葉など出てこない。雛子はそれでも、精一杯の伝えたい気持ちを口にした。
「一人じゃないですよ、篠原さんは」
「っ……」
一瞬、舞が目を見開き、泣きそうな顔をしたように見えた。
強い風が吹く。雛子は目を細め、舞はめくれそうになったワンピースの裾を慌てて押さえようとした、その時。
「あっ───── ……」
手を下ろした反動で、右手に握られていた片側のピアスが飛んでいった。
それは防波堤を超え、消波ブロックの隙間へと吸い込まれて消えていく。
「ピアスがっ……!」
雛子は咄嗟に防波堤の下を覗き込む。小さなものだ。海に落としてまず見つかるはずがない。振り返ると、舞が顔を青くして目に涙をためながら震えていた。
「ど、どうしよう……お母さんのピアスがっ……」
そのまま下に降りようとする舞を、雛子は慌てて止める。
「無理ですよっ! 降りるのは危険です!!」
「ダメよっ……! あれは大切なものなのっ……!」
今にも飛び込みそうな勢いの舞を、雛子はその場に押しとどめることで精一杯だ。皆の元へ引き返そうにも、舞はテコでもこの場を動こうとしない。
「分かりました! じゃあ私が行きますからっ……篠原さんはここから動かないでくださいっ!!」
患者を危険な目に合わせるわけにはいかない。無謀だと思いながらも、雛子は意を決して消波ブロックの隙間から海へと降りていく。
「あ……ありがとう……」
やがて雛子の姿が完全に見えなくなった時、舞は口元に冷ややかな笑みを浮かべていた。
「ほーんと、お馬鹿さんよねぇ……」
恭平と、チェックアウトギリギリまで寝ていた悠貴は酷い二日酔いだったようだが、遊びに行く頃にはすっかり体調は戻っていたようだ。
「はい、雨宮アウトー」
「ええっ、また雛子なの? 雛子狙うの禁止にしましょう」
「いや市ヶ谷さん、それだと試合になりませんから。三対三ですし」
「うふふ、女の子だもの、運動できなくたって雛子ちゃんは十分可愛いわ」
「よし、そっちチームあと一人だな」
自分以外は皆スポーツ万能。そのメンバーでドッヂボールなど、狙ってくれと言っているようなものだ。
「皆本気で投げ過ぎで怖い……」
ビーチドッヂボールに闘志を燃やす面々の熱気に耐えられず、雛子は一度戦線離脱した。
「はぁ~疲れたぁ」
雛子は舞のいるパラソルの元へと向かう。
彼女は念の為大人しくしているよう恭平から釘を刺され、不服そうにしながらも素直に言いつけに従っていた。
「……あんたほんっとに運動音痴なのね」
つまらなそうな顔をしながら試合観戦していた舞が飽きれた口調で呟くようにそう言った。雛子はクーラーボックスからアイスティーを取り出して水分補給しながら恥ずかしそうに頭をかく。
「あ、あはは、まぁ人には向き不向きがありますので……」
「あんたに向いてることって何よ」
「うっ、そう言われると特には……」
雛子の予想通りの返答に、舞はやはりつまらなそうにしながら溜息を吐いた。
「……ねぇ、散歩。暇だからちょっと付き合いなさいよ」
「えっ、でも……」
雛子はちらりとまだゲームに熱中している五人を見やる。舞は大人しくするように言われているとはいえ、確かに目の前でこれだけ楽しそうにされたらじっとしているだけでは物足りないだろう。
(少しだけなら、まぁいっか?)
元々軽い熱中症との事だし、今は元気そうにしているし少し歩くくらいなら問題ないだろう。
「良いですよ。その代わりちょっとだけですからね?」
念を押して、雛子は歩き出した舞のあとを着いていく。
「あーあ、せっかく遊びに来たのにここでも患者扱い……本当嫌になっちゃうわ」
砂浜からだいぶ離れ、防波堤をブラブラと歩きながら舞が独り言のようにゴチる。
「そりゃそうですよ。篠原さんに何かあったら叱られる所の話じゃないんですから」
雛子は舞の言葉に苦笑いで答える。
「……私ね、嬉しかったのよ。恭平達と一緒に泊まりで遊べて」
舞は憎たらしいくらいに晴れた空を見上げた。
「こんな変な病気のせいで何度も入退院を繰り返してて、でも命に別状ない病気だって分かると皆言うのよ『なぁんだ、じゃあ休めてラッキーじゃん』って」
「そんなこと……」
舞の悲しげな表情に、雛子は何も言えなくなる。
「この病気を発症したのは社会人になってからだけど……。入院するとね、思い出すの。小さい頃熱を出すと、亡くなったお母さんが看病してくれたこと」
舞は空を仰ぎながら続ける。
「お母さんだけは、心から心配してくれてた……熱なんかなくたって、私がちょっと風邪っぽいって言うだけでとっても心配して……あの時は気付かなかったわ、お母さんの愛って凄いのね」
舞は立ち止まり、片耳のピアスを外して手のひらに乗せた。それは陽光を反射してキラリと小さく光った。
「……お母さんの形見なの」
「篠原さん……」
舞は小さく笑う。
「私、いつの間にかお母さんの代わりを探して、お母さんみたいに優しくしてくれる人を求めて……入院するたびにどんどん我儘になっていったのかなぁ」
雛子は舞の悲しげな笑みを見て、目の奥が熱くなったのを感じた。
「優しくしますよ、いつだって」
雛子は押さえた声でそう告げた。
「そりゃ全部の我儘は聞けないけど……でも桜井さんだって篠原さんのことすごく心配してるから今日だって休んでろって言ったわけで……だから……」
いくら考えても、何も気の利いた言葉など出てこない。雛子はそれでも、精一杯の伝えたい気持ちを口にした。
「一人じゃないですよ、篠原さんは」
「っ……」
一瞬、舞が目を見開き、泣きそうな顔をしたように見えた。
強い風が吹く。雛子は目を細め、舞はめくれそうになったワンピースの裾を慌てて押さえようとした、その時。
「あっ───── ……」
手を下ろした反動で、右手に握られていた片側のピアスが飛んでいった。
それは防波堤を超え、消波ブロックの隙間へと吸い込まれて消えていく。
「ピアスがっ……!」
雛子は咄嗟に防波堤の下を覗き込む。小さなものだ。海に落としてまず見つかるはずがない。振り返ると、舞が顔を青くして目に涙をためながら震えていた。
「ど、どうしよう……お母さんのピアスがっ……」
そのまま下に降りようとする舞を、雛子は慌てて止める。
「無理ですよっ! 降りるのは危険です!!」
「ダメよっ……! あれは大切なものなのっ……!」
今にも飛び込みそうな勢いの舞を、雛子はその場に押しとどめることで精一杯だ。皆の元へ引き返そうにも、舞はテコでもこの場を動こうとしない。
「分かりました! じゃあ私が行きますからっ……篠原さんはここから動かないでくださいっ!!」
患者を危険な目に合わせるわけにはいかない。無謀だと思いながらも、雛子は意を決して消波ブロックの隙間から海へと降りていく。
「あ……ありがとう……」
やがて雛子の姿が完全に見えなくなった時、舞は口元に冷ややかな笑みを浮かべていた。
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