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白衣の天使編
過呼吸と腹黒 2
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『気を付けた方が良いわよ。あの女は危ない』
舞の言葉が蘇る。
「夏頃にもあったはずだ。雛子が忙しそうにしていて……体調も悪そうだった時だ」
真っ直ぐこちらを見つめるその瞳が、嘘をついているようには思えなかった。
「……またまたぁ、さっちゃんってば人聞きの悪いことを」
幸子の言葉に、雛子は答えに詰まり思わずへらりと笑った。
聞きたくない。その思いが、自然と雛子を早足にさせる。
「……そんなことして、真理亜さんにメリットなんて何も無いよ?」
信頼を寄せる真理亜に対し、これ以上自分の中で不信感が芽生えることが恐ろしかった。
先刻舞から言われた忠告が、じわりと雛子の胸の奥を焼く。
幸子の言う事には心当たりがあった。
インシデントが立て続いて、しまいには勤務後に倒れて恭平に大迷惑をかけた時。言われてみれば、あの時の勤務は真理亜と一緒だった。
雛子のミスを発見し、対処してくれたのは彼女だ。
(あの時は何の疑問にも思わなかったけど……)
もし、インシデントのうちどれか一つでも、真理亜のせいだったとしたら─────。
あの日も真理亜を追い掛けていた幸子は、何か見たのだろうか。
(……そんなわけないじゃない)
何を考えているんだろう。
こんな風に余計な事ばかり考え事をしているから些細なミスを犯すのだ。それを心優しい真理亜のせいにするなんて。
(……有り得ない)
自己嫌悪に陥る。
「……前にも同じような事があったんだ」
気の所為だと思い込みたい雛子に構わず、幸子は続ける。
やがて病室に着くと幸子は慣れた手つきで持ち物の荷解きをしながら、独り言のようにそう口にした。
「同じような、こと……?」
雛子は荷解きを手伝いながら、幸子の言葉を聞く。
幸子は小さな声で語り始めた。
「三年前、まだサチが二歳の頃だ」
幸子は真剣な瞳で雛子を見つめた。
「恭平のことを好きな新人看護師がいたんだ。恭平達は二年目だったから、その看護師と仲が良くてすごく可愛がっていた」
幸子は続ける。大人びた口調や語彙選びは、まるで五歳とは思えず話に信憑性を持たせた。
「たぶん、真理亜お姉ちゃんはその看護師が気に食わなかった。だから辞めさせようとした。まだすごく小さかったから、サチには分からないと思ったんだろう。サチが入院すると、真理亜お姉ちゃんがサチの点滴を触るんだ」
「触る……?」
幸子はコクリと頷く。
「何をされていたかは分からない。でも真理亜お姉ちゃんが来たあと必ず、点滴が漏れて手が腫れるんだ。その看護師は今の雛子みたいにサチの事をよく担当していた。だから毎回その事で怒られていて、そのうちサチの担当をしなくなった。そしたら真理亜お姉ちゃんも、サチのところには来なくなった。その看護師はいつの間にか見かけなくなった」
それ以来幸子は、真理亜に不信感を抱き常に様子を伺っていた。
「五歳のサチが二歳の頃のことを言ってもきっと誰も信じない。それにその時以来、サチが見ている限り真理亜お姉ちゃんがおかしな事をしている様子もない。だから誰にも言わなかった。……雛子が、来るまでは」
「私が来るまで……」
幸子は気の強そうな顔をくしゃりと歪めた。苦しそうに吐き出されるその言葉に、雛子はただ耳を傾けるしか出来ない。
「様子がおかしいと思ったきっかけは、雛子が初めて受け持ちをした日のことだ」
幸子は続ける。
舞の言葉が蘇る。
「夏頃にもあったはずだ。雛子が忙しそうにしていて……体調も悪そうだった時だ」
真っ直ぐこちらを見つめるその瞳が、嘘をついているようには思えなかった。
「……またまたぁ、さっちゃんってば人聞きの悪いことを」
幸子の言葉に、雛子は答えに詰まり思わずへらりと笑った。
聞きたくない。その思いが、自然と雛子を早足にさせる。
「……そんなことして、真理亜さんにメリットなんて何も無いよ?」
信頼を寄せる真理亜に対し、これ以上自分の中で不信感が芽生えることが恐ろしかった。
先刻舞から言われた忠告が、じわりと雛子の胸の奥を焼く。
幸子の言う事には心当たりがあった。
インシデントが立て続いて、しまいには勤務後に倒れて恭平に大迷惑をかけた時。言われてみれば、あの時の勤務は真理亜と一緒だった。
雛子のミスを発見し、対処してくれたのは彼女だ。
(あの時は何の疑問にも思わなかったけど……)
もし、インシデントのうちどれか一つでも、真理亜のせいだったとしたら─────。
あの日も真理亜を追い掛けていた幸子は、何か見たのだろうか。
(……そんなわけないじゃない)
何を考えているんだろう。
こんな風に余計な事ばかり考え事をしているから些細なミスを犯すのだ。それを心優しい真理亜のせいにするなんて。
(……有り得ない)
自己嫌悪に陥る。
「……前にも同じような事があったんだ」
気の所為だと思い込みたい雛子に構わず、幸子は続ける。
やがて病室に着くと幸子は慣れた手つきで持ち物の荷解きをしながら、独り言のようにそう口にした。
「同じような、こと……?」
雛子は荷解きを手伝いながら、幸子の言葉を聞く。
幸子は小さな声で語り始めた。
「三年前、まだサチが二歳の頃だ」
幸子は真剣な瞳で雛子を見つめた。
「恭平のことを好きな新人看護師がいたんだ。恭平達は二年目だったから、その看護師と仲が良くてすごく可愛がっていた」
幸子は続ける。大人びた口調や語彙選びは、まるで五歳とは思えず話に信憑性を持たせた。
「たぶん、真理亜お姉ちゃんはその看護師が気に食わなかった。だから辞めさせようとした。まだすごく小さかったから、サチには分からないと思ったんだろう。サチが入院すると、真理亜お姉ちゃんがサチの点滴を触るんだ」
「触る……?」
幸子はコクリと頷く。
「何をされていたかは分からない。でも真理亜お姉ちゃんが来たあと必ず、点滴が漏れて手が腫れるんだ。その看護師は今の雛子みたいにサチの事をよく担当していた。だから毎回その事で怒られていて、そのうちサチの担当をしなくなった。そしたら真理亜お姉ちゃんも、サチのところには来なくなった。その看護師はいつの間にか見かけなくなった」
それ以来幸子は、真理亜に不信感を抱き常に様子を伺っていた。
「五歳のサチが二歳の頃のことを言ってもきっと誰も信じない。それにその時以来、サチが見ている限り真理亜お姉ちゃんがおかしな事をしている様子もない。だから誰にも言わなかった。……雛子が、来るまでは」
「私が来るまで……」
幸子は気の強そうな顔をくしゃりと歪めた。苦しそうに吐き出されるその言葉に、雛子はただ耳を傾けるしか出来ない。
「様子がおかしいと思ったきっかけは、雛子が初めて受け持ちをした日のことだ」
幸子は続ける。
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