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白衣の天使編
腹黒と腹黒の攻防 2
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「一緒に飲んでいた鷹峯が見ているんだ。雨宮は昨日、ノンアルコールのカクテルしか口にしていない」
はっきりと告げられたその言葉に、美しい顔が益々歪んでいった。
「はぁ……? 何なのよ、それ……。鷹峯先生と飲んでた……? アルコールは口にしていない……? だってあの子、そんな……」
「雨宮は鷹峯に、お前のことを相談していたそうだ」
「っ……」
恭平は押し倒された体勢のまま、鷹峯から聞いた事実をありのまま伝えた。
「鷹峯は雨宮の体調を気にして、昨日はアルコールを提供しないよう事前に店に頼んでおいたそうだ。雨宮はノンアルとは知らずに飲酒した気分になっていただけだ。それなのに寮へ帰ってお前から酔い覚ましのためにドリンクとサプリをもらってから気を失った」
恭平は続ける。
「検査結果でも確かにアルコールが検出された。急速にアルコールが回ったのを見るに、恐らくエナジードリンクとスピリッツを割ったもの、それから万が一ERで血中薬物濃度を調べられても良いように雨宮が内服しているものと同じ薬をカプセルに詰めて飲ませたんだろう?」
真理亜は何も答えない。
「あいつは強い鎮痛剤と抗不安薬を何錠も内服している。お前それどこかで見て知ってたろ。海で泊まった二日目の朝、あいつのバッグからくすねたんだよな?」
雛子は空の薬包を必ず持ち帰っている。何を飲んでいるか気になった真理亜が、海へ行った翌日に探ったのだろう。
あの日、焦ったような表情でバッグの中にあるピルケースを探していた雛子を恭平は思い出す。
「あいつはお前がインシデントに関与している可能性があると言っていたらしい。真理亜、どうなんだ?」
静かな、けれど強い口調で恭平は真理亜の瞳を見つめた。
「……あの子が初めて受け持ちした日、恭平が受け持ちを代わっていなかったらどうなってたかな」
恭平に跨ったまま、真理亜はそう言って小さく笑った。
「雛子ちゃんが言っていた通りよ。小林さんが不整脈を起こしたのも、彼女が同じ日に何度もインシデントをしたのも、本当は私のせい」
「お前っ……」
悪びれる様子もなくそう宣う真理亜。
「ああ、ちなみにその日に採った血培のコンタミもね。ポイントはダラダラやらずに畳み掛けるようにミスさせること。雛子ちゃん、自分に自信がなくなってさぞかし辛かったでしょうね」
いつも通りの完璧な笑み。しかし目元は笑っていない、冷えた嗤いだった。
「……でも、鷹峯先生はいつでも私のした事に気が付いてた。その度にチクチク嫌味を言って牽制してきて、証拠を残さないようにするのになかなか骨が折れたわ」
「何でバレたのかしら……」と、どこか遠くを見つめながら真理亜が呟く。その夢見心地な表情に、恭平は何故気付けなかったのかと悔しさを滲ませた。
「真理亜……お前何やってんだよ……『妹』のために看護師になったんじゃねぇのかよ……『もう二度とこんな事はしない』ってあの時約束しただろっ……?」
恭平は苦しげな瞳で馬乗りになっている真理亜を見上げる。その彼の頬に、真理亜はそっと手を当て顔を近付けた。
「……ゾクゾクするの」
囁くような、けれどはっきりとした声。
「駄目って分かってるけど止められないの。落ち込んでる雛子ちゃんを励ます時、皆が私を褒めてくれるの。『優しくて、完璧な看護師』だって……。でも肝心の恭平は全然私を相手にしてくれないじゃない?」
「俺のせいだって言いたいのかっ?」
「あなたが好きなの」
真理亜は恭平に告げる。
「好きよ、恭平」
その言葉に、嘘はなかった。
「……やめろ」
しかし真理亜の想いに、恭平は応えなかった。溜息を吐いて、真理亜は恭平の上から降りる。
「……あ~あ、シラケる……ほぉんとつれないわよねぇ」
その表情は、いつも通りの完璧な真理亜に見えた。その中に少しだけ哀しい色が混ざっていた。
「ねぇ、ビール一本くらいは付き合ってよ。昔話を肴に、ね?」
はっきりと告げられたその言葉に、美しい顔が益々歪んでいった。
「はぁ……? 何なのよ、それ……。鷹峯先生と飲んでた……? アルコールは口にしていない……? だってあの子、そんな……」
「雨宮は鷹峯に、お前のことを相談していたそうだ」
「っ……」
恭平は押し倒された体勢のまま、鷹峯から聞いた事実をありのまま伝えた。
「鷹峯は雨宮の体調を気にして、昨日はアルコールを提供しないよう事前に店に頼んでおいたそうだ。雨宮はノンアルとは知らずに飲酒した気分になっていただけだ。それなのに寮へ帰ってお前から酔い覚ましのためにドリンクとサプリをもらってから気を失った」
恭平は続ける。
「検査結果でも確かにアルコールが検出された。急速にアルコールが回ったのを見るに、恐らくエナジードリンクとスピリッツを割ったもの、それから万が一ERで血中薬物濃度を調べられても良いように雨宮が内服しているものと同じ薬をカプセルに詰めて飲ませたんだろう?」
真理亜は何も答えない。
「あいつは強い鎮痛剤と抗不安薬を何錠も内服している。お前それどこかで見て知ってたろ。海で泊まった二日目の朝、あいつのバッグからくすねたんだよな?」
雛子は空の薬包を必ず持ち帰っている。何を飲んでいるか気になった真理亜が、海へ行った翌日に探ったのだろう。
あの日、焦ったような表情でバッグの中にあるピルケースを探していた雛子を恭平は思い出す。
「あいつはお前がインシデントに関与している可能性があると言っていたらしい。真理亜、どうなんだ?」
静かな、けれど強い口調で恭平は真理亜の瞳を見つめた。
「……あの子が初めて受け持ちした日、恭平が受け持ちを代わっていなかったらどうなってたかな」
恭平に跨ったまま、真理亜はそう言って小さく笑った。
「雛子ちゃんが言っていた通りよ。小林さんが不整脈を起こしたのも、彼女が同じ日に何度もインシデントをしたのも、本当は私のせい」
「お前っ……」
悪びれる様子もなくそう宣う真理亜。
「ああ、ちなみにその日に採った血培のコンタミもね。ポイントはダラダラやらずに畳み掛けるようにミスさせること。雛子ちゃん、自分に自信がなくなってさぞかし辛かったでしょうね」
いつも通りの完璧な笑み。しかし目元は笑っていない、冷えた嗤いだった。
「……でも、鷹峯先生はいつでも私のした事に気が付いてた。その度にチクチク嫌味を言って牽制してきて、証拠を残さないようにするのになかなか骨が折れたわ」
「何でバレたのかしら……」と、どこか遠くを見つめながら真理亜が呟く。その夢見心地な表情に、恭平は何故気付けなかったのかと悔しさを滲ませた。
「真理亜……お前何やってんだよ……『妹』のために看護師になったんじゃねぇのかよ……『もう二度とこんな事はしない』ってあの時約束しただろっ……?」
恭平は苦しげな瞳で馬乗りになっている真理亜を見上げる。その彼の頬に、真理亜はそっと手を当て顔を近付けた。
「……ゾクゾクするの」
囁くような、けれどはっきりとした声。
「駄目って分かってるけど止められないの。落ち込んでる雛子ちゃんを励ます時、皆が私を褒めてくれるの。『優しくて、完璧な看護師』だって……。でも肝心の恭平は全然私を相手にしてくれないじゃない?」
「俺のせいだって言いたいのかっ?」
「あなたが好きなの」
真理亜は恭平に告げる。
「好きよ、恭平」
その言葉に、嘘はなかった。
「……やめろ」
しかし真理亜の想いに、恭平は応えなかった。溜息を吐いて、真理亜は恭平の上から降りる。
「……あ~あ、シラケる……ほぉんとつれないわよねぇ」
その表情は、いつも通りの完璧な真理亜に見えた。その中に少しだけ哀しい色が混ざっていた。
「ねぇ、ビール一本くらいは付き合ってよ。昔話を肴に、ね?」
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<表紙イラスト>
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