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白衣の天使編
血まみれ 3
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「ひぃっ……!」
「ひ、雛子ちゃん大丈夫かいっ?」
同室の患者達が顔を青くして雛子の顔を覗いたり、ナースコールで看護師を呼んだりと病室が一気に騒然とする。
「このアマァ!! タダじゃおかねぇからな!? 殺してやる!!!」
「ちょっ……落ち着いてください井上さんっ!!!」
突然の攻撃に視界を白黒とさせていた雛子も、井上の気迫にはっとして立ち上がる。しかし何せ大柄な井上と小柄な雛子では体格差があり、このまま暴れられると勝ち目がない。
(む、無理無理無理っ……! 殺されるっ……! 死んじゃうぅっ……!!)
雛子は恐怖で思わず足が竦みそうになる。
「何してるんですっ!?」
慌ただしく病室に駆け込んできたのは鷹峯だった。床に散らばるガラス片と酒、井上が雛子に掴みかかる姿を見て咄嗟に状況を判断し、二人の間に割って入ると井上をベッドに押さえつける。細身に見えるが、上背があり力は井上より上だ。
「せ、せんせぇ~……」
「雨宮さん、顔っ……と、とりあえず鎮静かけます! 念の為酸素と抑制帯も準備して!」
希望の光とばかりに顔を上げた雛子に、さすがの鷹峯もぎょっとしたような声を上げる。しかしすぐに平静を取り戻し、あとから応援に駆けつけた何人かの看護師にてきぱきと指示を出していく。
「雨宮っ……!」
「桜井! 早く井上さん押さえてっ!!」
同じく病室に駆けつけた恭平も珍しく目を見開いて雛子の方に走り寄ろうとするが、大沢に叱咤され渋々軌道修正する。
「雨宮! アンタはステーションで待機!」
「は、はいっ!」
雛子も大沢の指示を受け、言われるがままふらつく足取りでステーションに戻る。
(こ、怖かったぁ~……)
ようやく命の危機を脱し、雛子はようやく煩い鼓動を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
「ん……?」
顎から滴った滴に、思わずゆっくりと数回目を瞬かせた。
「え、やば。なにこれ……」
よく見れば、白衣の前面は滴った血液で真っ赤に染まっていた。恐る恐るステーション内の鏡を覗くと、まるでお化け屋敷に飾ってある幽霊の人形のように顔面が血塗れになっている。
「いたたっ……」
気付いた瞬間、瓶で殴られた部分が熱く脈打つように痛んだ。雛子は終始「えー」とか「うわー」などと声を上げながら、他人事のように鏡の中の傷口を観察していた。
人間、非日常的な傷や出血を見ると妙に冷静になってしまうものだ。
「あ、やばいやばい」
しかし、ただ見つめているだけで出血が止まるわけでも、ましてや傷口が塞がるわけでもない。
これ以上周囲を汚す前にと雛子は慌てて処置用のガーゼを数枚手に取り、額の傷に押し当てる。
「ねむ……」
こうしてただ椅子に座っていると、何だかぼんやりとしてきてしまう。昼下がりだからか、どんどん眠くなる。
傷は出血量と比較するとそれほど痛いとも思わない。そんな事よりもまた周りに迷惑をかけている事の方が精神的に堪える。
「……ダメダメ」
雛子は僅かに首を振り、片手で記録の入力を始めた。
「ひ、雛子ちゃん大丈夫かいっ?」
同室の患者達が顔を青くして雛子の顔を覗いたり、ナースコールで看護師を呼んだりと病室が一気に騒然とする。
「このアマァ!! タダじゃおかねぇからな!? 殺してやる!!!」
「ちょっ……落ち着いてください井上さんっ!!!」
突然の攻撃に視界を白黒とさせていた雛子も、井上の気迫にはっとして立ち上がる。しかし何せ大柄な井上と小柄な雛子では体格差があり、このまま暴れられると勝ち目がない。
(む、無理無理無理っ……! 殺されるっ……! 死んじゃうぅっ……!!)
雛子は恐怖で思わず足が竦みそうになる。
「何してるんですっ!?」
慌ただしく病室に駆け込んできたのは鷹峯だった。床に散らばるガラス片と酒、井上が雛子に掴みかかる姿を見て咄嗟に状況を判断し、二人の間に割って入ると井上をベッドに押さえつける。細身に見えるが、上背があり力は井上より上だ。
「せ、せんせぇ~……」
「雨宮さん、顔っ……と、とりあえず鎮静かけます! 念の為酸素と抑制帯も準備して!」
希望の光とばかりに顔を上げた雛子に、さすがの鷹峯もぎょっとしたような声を上げる。しかしすぐに平静を取り戻し、あとから応援に駆けつけた何人かの看護師にてきぱきと指示を出していく。
「雨宮っ……!」
「桜井! 早く井上さん押さえてっ!!」
同じく病室に駆けつけた恭平も珍しく目を見開いて雛子の方に走り寄ろうとするが、大沢に叱咤され渋々軌道修正する。
「雨宮! アンタはステーションで待機!」
「は、はいっ!」
雛子も大沢の指示を受け、言われるがままふらつく足取りでステーションに戻る。
(こ、怖かったぁ~……)
ようやく命の危機を脱し、雛子はようやく煩い鼓動を落ち着かせようと深呼吸を繰り返す。
「ん……?」
顎から滴った滴に、思わずゆっくりと数回目を瞬かせた。
「え、やば。なにこれ……」
よく見れば、白衣の前面は滴った血液で真っ赤に染まっていた。恐る恐るステーション内の鏡を覗くと、まるでお化け屋敷に飾ってある幽霊の人形のように顔面が血塗れになっている。
「いたたっ……」
気付いた瞬間、瓶で殴られた部分が熱く脈打つように痛んだ。雛子は終始「えー」とか「うわー」などと声を上げながら、他人事のように鏡の中の傷口を観察していた。
人間、非日常的な傷や出血を見ると妙に冷静になってしまうものだ。
「あ、やばいやばい」
しかし、ただ見つめているだけで出血が止まるわけでも、ましてや傷口が塞がるわけでもない。
これ以上周囲を汚す前にと雛子は慌てて処置用のガーゼを数枚手に取り、額の傷に押し当てる。
「ねむ……」
こうしてただ椅子に座っていると、何だかぼんやりとしてきてしまう。昼下がりだからか、どんどん眠くなる。
傷は出血量と比較するとそれほど痛いとも思わない。そんな事よりもまた周りに迷惑をかけている事の方が精神的に堪える。
「……ダメダメ」
雛子は僅かに首を振り、片手で記録の入力を始めた。
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