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白衣の天使編
血まみれ 2
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「井上さん、あとで先生がお話に来ますから少しお待ちくださいね」
道すがらただひたすら傾聴していた事が功を奏したのか、病室のベッドに腰を下ろす頃には不機嫌ながらも大分落ち着いた様子だった。
その事に一安心し、検温を終えると雛子は声をかけて一度退室する。
「あっ、雨宮大丈夫だった?」
ステーションに戻ると、リーダーの大沢が切れ長の目を丸くして問いかけた。
「アンタが病棟出てすぐ外来のスタッフから電話があってね、『出来れば男性スタッフで』って。言うのが遅いっつーのよ」
「ああ……」
確かに、毎回大暴れとの申し送りがあるくらいなので女性、ましてや雛子のように若く小柄なスタッフには向かない相手だろう。
かと言って、8A病棟に男性スタッフは恭平しかいない。雛子はステーションの端で立ったままパソコンを弾く恭平にちらりと目をやる。
「大変そうだったら今からでも桜井に送る? アイツ今暇そうだし」
暇そう、とはいっても恭平は雛子より受け持ち人数も多く、重症度も高い。
何より、井上を申送る時に話しかけなければいけない事がまだ憂鬱だった。
「い、いえ、大丈夫です」
「そう? なら良いけど」
雛子はあとで鷹峯が病状説明に訪れる事を伝え、他の患者のところを回る。
一旦は今日の勤務が終わるまでの我慢だ。いずれ消化器病棟に空きが出れば転棟になるだろう。
雛子がそんな打算をしているうちに、病棟に鷹峯がやってくる。時計を見ると、先程会話を交わしてから一時間も経っていない。
「お待たせしました。面談室使わせて貰います」
休憩もままならないはずだが疲れた様子ひとつ見せず、鷹峯は白衣を翻して面談室に消えていく。
「はい、ご本人呼んできます」
メンタルもフィジカルもタフだな、など余計なことを考えつつ、雛子は井上を呼びに病室へ向かう。
「井上さん、先生が来たのでこちらに……」
大部屋の病室に向かうと、井上のベッドの周りだけしっかりとカーテンが閉められていた。雛子は「失礼します」と声をかけ、カーテンの端を捲る。
「……って、ちょっと井上さんっ!?」
「なっ……急に覗くんじゃねぇっ!!」
雛子の声に驚いて大きな身体を揺らした井上。その手に握られていたのは一升瓶の焼酎だった。
井上は荷物と一緒に持ってきていた酒瓶を早速開け、入院早々飲酒をしていたのである。
「だ、駄目ですよ! お酒を辞めるために入院したんですから! 入院中は飲酒禁止です!」
雛子は一升瓶を取り上げようと思わず手を伸ばす。しかし井上も負けてはいない。
取られまいと抵抗した結果、瓶は病室の床へと叩きつけられ割れた瓶から酒がぶちまけられる。
「小娘がっ! 俺の酒をこんなにしやがってぇ!!」
「っ……!?!?」
井上は激昂し、拾い上げた酒瓶の一部を力任せに振り抜く。それは雛子の左の額にクリーンヒットした。
道すがらただひたすら傾聴していた事が功を奏したのか、病室のベッドに腰を下ろす頃には不機嫌ながらも大分落ち着いた様子だった。
その事に一安心し、検温を終えると雛子は声をかけて一度退室する。
「あっ、雨宮大丈夫だった?」
ステーションに戻ると、リーダーの大沢が切れ長の目を丸くして問いかけた。
「アンタが病棟出てすぐ外来のスタッフから電話があってね、『出来れば男性スタッフで』って。言うのが遅いっつーのよ」
「ああ……」
確かに、毎回大暴れとの申し送りがあるくらいなので女性、ましてや雛子のように若く小柄なスタッフには向かない相手だろう。
かと言って、8A病棟に男性スタッフは恭平しかいない。雛子はステーションの端で立ったままパソコンを弾く恭平にちらりと目をやる。
「大変そうだったら今からでも桜井に送る? アイツ今暇そうだし」
暇そう、とはいっても恭平は雛子より受け持ち人数も多く、重症度も高い。
何より、井上を申送る時に話しかけなければいけない事がまだ憂鬱だった。
「い、いえ、大丈夫です」
「そう? なら良いけど」
雛子はあとで鷹峯が病状説明に訪れる事を伝え、他の患者のところを回る。
一旦は今日の勤務が終わるまでの我慢だ。いずれ消化器病棟に空きが出れば転棟になるだろう。
雛子がそんな打算をしているうちに、病棟に鷹峯がやってくる。時計を見ると、先程会話を交わしてから一時間も経っていない。
「お待たせしました。面談室使わせて貰います」
休憩もままならないはずだが疲れた様子ひとつ見せず、鷹峯は白衣を翻して面談室に消えていく。
「はい、ご本人呼んできます」
メンタルもフィジカルもタフだな、など余計なことを考えつつ、雛子は井上を呼びに病室へ向かう。
「井上さん、先生が来たのでこちらに……」
大部屋の病室に向かうと、井上のベッドの周りだけしっかりとカーテンが閉められていた。雛子は「失礼します」と声をかけ、カーテンの端を捲る。
「……って、ちょっと井上さんっ!?」
「なっ……急に覗くんじゃねぇっ!!」
雛子の声に驚いて大きな身体を揺らした井上。その手に握られていたのは一升瓶の焼酎だった。
井上は荷物と一緒に持ってきていた酒瓶を早速開け、入院早々飲酒をしていたのである。
「だ、駄目ですよ! お酒を辞めるために入院したんですから! 入院中は飲酒禁止です!」
雛子は一升瓶を取り上げようと思わず手を伸ばす。しかし井上も負けてはいない。
取られまいと抵抗した結果、瓶は病室の床へと叩きつけられ割れた瓶から酒がぶちまけられる。
「小娘がっ! 俺の酒をこんなにしやがってぇ!!」
「っ……!?!?」
井上は激昂し、拾い上げた酒瓶の一部を力任せに振り抜く。それは雛子の左の額にクリーンヒットした。
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