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白衣の天使編
血まみれ 1
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「えっと、総合内科外来は……」
鷹峯から入院依頼の一報がリーダーピッチへ入ったのは、昼休憩が終わった頃の事だった。
今日は久々に恭平と一緒の勤務であり落ち着かない気分だった雛子は、こうして一時的にでも病棟を離れられている事に少しほっとしていた。
「あ、雨宮さんこっちです」
「鷹峯先生!」
恭平と同じく人混みより頭一つ背の高い鷹峯が、外来患者の隙間からひょこっと顔を出す。
「助かりました。総合内科、来たことがないのでイマイチよく分からなくて……」
手招きされ、雛子はやっと総合内科外来に辿り着く。鷹峯は手に財布を携えており、これから遅めの昼食を取るところのようだ。
「井上さんのお迎えですよね」
鷹峯の言葉に雛子は頷く。彼はポリポリと長い人差し指で頬を掻き、困ったような笑みを浮かべた。
「結構アクの強い人なので気を付けてくださいね。貴女は当たられやすいですから」
「っ!?」
「あとで病状説明に行きますのでリーダーに伝えておいて下さい」
さらりと頬をひと撫でされ、雛子は思わずたじろぐ。鷹峯は何事も無かったかのように、人混みの向こうへと消えていった。
「随分待たせるじゃねぇか!! 俺を待たせるとはどういう了見だコラァ!!」
総合内科外来の処置室内から怒声が響いている。本日酩酊状態で妻に付き添われ受診した井上は、アルコール依存症のコントロール不良で教育目的に入院となった患者だ。
「すみません、お待たせしました。すぐにご案内します」
処置室内にも井上から発せられるアルコール臭が充満している。興奮状態の井上が点滴を引き抜くことの無いよう、雛子はさり気なくルートを整える。
「この人また私の見てないところで酔いつぶれてたんです! もう完全に治るまで帰ってこないでよね!」
「うるせぇぞテメェは黙ってろ!!」
「言われなくても私もう帰るから!!」
妻らしき女性はボストンバッグを井上に投げつけると、鼻息荒く処置室を出ていく。
不機嫌を具現化したような形相の井上を刺激しないよう、雛子は慎重に声をかけ病棟へ連れていく事にする。
「……気を付けてね、この人何度か入院歴あるけど、そのたび大暴れで大変みたいだから。その上今日は消化器の先生達が学会で出払ってて、受付で随分待たされてイライラしてるのよ」
「……分かりました」
外来の看護師が小声で耳打ちする。普段は消化器病棟の常連らしいが、本日は主治医不在の上、生憎ベッドの空きがないようだ。
(あとで夏帆から生のレビューを聞いとこ……)
雛子は消化器病棟で働いている一番の親友を思い浮かべる。
「ったくアイツぁ大袈裟なんだよ! この程度で入院なんかさせやがってぇ!」
(体調が悪いから入院するんじゃなくて、教育目的の入院ですって)
つい言ってやりたくなるが、相手は大きな独り言のようなので堪える。鷹峯に対してか妻に対してか分からないが、井上は病棟に着くまで終始ブツブツと文句を垂れていた。
鷹峯から入院依頼の一報がリーダーピッチへ入ったのは、昼休憩が終わった頃の事だった。
今日は久々に恭平と一緒の勤務であり落ち着かない気分だった雛子は、こうして一時的にでも病棟を離れられている事に少しほっとしていた。
「あ、雨宮さんこっちです」
「鷹峯先生!」
恭平と同じく人混みより頭一つ背の高い鷹峯が、外来患者の隙間からひょこっと顔を出す。
「助かりました。総合内科、来たことがないのでイマイチよく分からなくて……」
手招きされ、雛子はやっと総合内科外来に辿り着く。鷹峯は手に財布を携えており、これから遅めの昼食を取るところのようだ。
「井上さんのお迎えですよね」
鷹峯の言葉に雛子は頷く。彼はポリポリと長い人差し指で頬を掻き、困ったような笑みを浮かべた。
「結構アクの強い人なので気を付けてくださいね。貴女は当たられやすいですから」
「っ!?」
「あとで病状説明に行きますのでリーダーに伝えておいて下さい」
さらりと頬をひと撫でされ、雛子は思わずたじろぐ。鷹峯は何事も無かったかのように、人混みの向こうへと消えていった。
「随分待たせるじゃねぇか!! 俺を待たせるとはどういう了見だコラァ!!」
総合内科外来の処置室内から怒声が響いている。本日酩酊状態で妻に付き添われ受診した井上は、アルコール依存症のコントロール不良で教育目的に入院となった患者だ。
「すみません、お待たせしました。すぐにご案内します」
処置室内にも井上から発せられるアルコール臭が充満している。興奮状態の井上が点滴を引き抜くことの無いよう、雛子はさり気なくルートを整える。
「この人また私の見てないところで酔いつぶれてたんです! もう完全に治るまで帰ってこないでよね!」
「うるせぇぞテメェは黙ってろ!!」
「言われなくても私もう帰るから!!」
妻らしき女性はボストンバッグを井上に投げつけると、鼻息荒く処置室を出ていく。
不機嫌を具現化したような形相の井上を刺激しないよう、雛子は慎重に声をかけ病棟へ連れていく事にする。
「……気を付けてね、この人何度か入院歴あるけど、そのたび大暴れで大変みたいだから。その上今日は消化器の先生達が学会で出払ってて、受付で随分待たされてイライラしてるのよ」
「……分かりました」
外来の看護師が小声で耳打ちする。普段は消化器病棟の常連らしいが、本日は主治医不在の上、生憎ベッドの空きがないようだ。
(あとで夏帆から生のレビューを聞いとこ……)
雛子は消化器病棟で働いている一番の親友を思い浮かべる。
「ったくアイツぁ大袈裟なんだよ! この程度で入院なんかさせやがってぇ!」
(体調が悪いから入院するんじゃなくて、教育目的の入院ですって)
つい言ってやりたくなるが、相手は大きな独り言のようなので堪える。鷹峯に対してか妻に対してか分からないが、井上は病棟に着くまで終始ブツブツと文句を垂れていた。
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