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白衣の天使編
泊まっていっても良い? 4
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「ゔぇ……きもちわるぅ……」
一方、雑に扱われたことで雛子はすっかり酔いが回ってしまったようだ。
「……大丈夫かよ」
玄関先で芋虫のように丸まって一歩も動けなくなった雛子に、恭平は飽きれた視線を向ける。
「桜井さんこそ……こんなに酔っ払うなんてらしくないじゃないですか……」
視線だけを何とか向けるも、先程までの威勢は失われていた。
「あ、お前それ。血ぃ滲んでんぞ」
「うぁ、何を、」
恭平は雛子の額に貼られた絆創膏を指差すと、動けない雛子の靴を脱がせてやりすんなりと抱き上げてベッドに運ぶ。多少覚束無い足取りながらも、雛子ほど酔っているわけではない。
「酒なんて飲むからだ、バカ」
しかし、人のことは言えない。
それ以上咎めることはせず、雛子に物の位置を聞き出すと手馴れた様子で絆創膏を交換する。
「……やっぱり、百合ちゃんのことですか……?」
雛子の言葉足らずな質問に、恭平は僅かに身動ぐ。それが先程の「らしくない」という発言に続くことはすぐに理解出来た。
「元カノさんと重ねてるんですか」
「元じゃない」
「……すみません」
そこから暫く無言の時間が続くも、それは恭平の小さな溜息によって終わる。
「ごめん、やっぱり元」
「どっちですか……」
まだ吐き気が治まらないらしい雛子は、ぐったりとベッドに寝転んだまま目線だけ恭平に送っていた。
「まぁ、重ねてないって言ったら嘘になるな」
淡々とした口調で、しかし僅かに俯きながら恭平は独り言のようにそう言った。
恭平の脳裏に、屈託のない唯の笑顔が、泣き顔が、怒った顔が、一瞬にして過ぎる。
(唯はいつも百面相だったな……そうだ、こいつみたいに)
今は子犬のようにしゅんとした表情を見せる雛子にも、唯の顔が重なって見えた。
(やべ。やっぱり酔ってんな)
重ねているのは、本当に東雲百合なのだろうか。酔っ払いの思考ではうまく考えられない。
「それなら酷いじゃないですか。元じゃないって言いながらお姉さんである真理亜さんと、その……」
雛子が抗議の声を上げ、恭平は懐古の旅から我に返る。しかし彼女が歯切れ悪く押し黙ったため、今度は訝しげに首を傾げた。
「真理亜さんと……」
「真理亜と、なんだよ」
「ね……」
「ね?」
「ね、ねねねね寝たんでしょうっ?」
「……は?」
みるみるうちに、雛子の肌が真っ赤に染まった。
「だっ、だって、真理亜さん言ってたもん! 桜井さんを泊めたって!」
「いや確かに泊まったが」
「お泊まりしたってことは、つ、つまり、そ、そういうことでしょっ!?」
盛大に吃りながら、雛子は半ば八つ当たり半分で恭平に怒鳴る。
一方の恭平は要領を得ない。
「寝てないし…。お前の中では泊まったらそういうコトする決まりでもあんのか」
「なんてこと言うんですか! 変態っ!」
「お前なぁっ……」
何を言っても責められる状況に、さすがに恭平も顔を顰める。
「あ」
そして次の瞬間、悪戯を思いつく。
「なぁ」
ベッドに横たわったままの雛子の上に、恭平は大きな身体で覆い被さる。
「今日はどうする? 泊まっていっても良い?」
「なっ……!」
思った通り、彼女は赤くなった顔を更に濃く染めた。
予想通りの反応に気を良くした恭平は、にやりと悪い笑みを浮かべながら覆いかぶさった状態のまま彼女の顔に手を添える。
「ねぇ、『泊まっても』良い?」
「っ……!」
ゆっくりと顔を近づけ、彼女の頬に親指を這わせる。艶やかな桃色の唇から漏れ出た吐息が恭平の鼻先にかかる。
ああ本当に、食べてしまいたくなるような───── 。
「うぶっ!?」
「はは、変な顔」
「なっ、ぁ、っ……!?!?」
恭平が雛子の両頬を片手で思い切り挟んだことで、思いがけずタコ顔を晒す羽目になった雛子は声にならない叫びを上げて何やら憤慨していた。
(やっぱり違うよな、手ぇ出すのは)
危うさなどなかった、と言えば嘘になる。酔った勢いを言い訳にこのまま唇を重ねることもできた。
しかしいくら彼女が唯と似ていようが、恋人ではなく妹のような存在なのだという理性が恭平を引き止めていた。
「……ごめん、やっぱり飲み過ぎたわ。帰る」
固まっている雛子の上からすんなりと退き、恭平は玄関に向かう。
「ちゃんと鍵閉めて寝ろよ。おやすみ」
一方、雑に扱われたことで雛子はすっかり酔いが回ってしまったようだ。
「……大丈夫かよ」
玄関先で芋虫のように丸まって一歩も動けなくなった雛子に、恭平は飽きれた視線を向ける。
「桜井さんこそ……こんなに酔っ払うなんてらしくないじゃないですか……」
視線だけを何とか向けるも、先程までの威勢は失われていた。
「あ、お前それ。血ぃ滲んでんぞ」
「うぁ、何を、」
恭平は雛子の額に貼られた絆創膏を指差すと、動けない雛子の靴を脱がせてやりすんなりと抱き上げてベッドに運ぶ。多少覚束無い足取りながらも、雛子ほど酔っているわけではない。
「酒なんて飲むからだ、バカ」
しかし、人のことは言えない。
それ以上咎めることはせず、雛子に物の位置を聞き出すと手馴れた様子で絆創膏を交換する。
「……やっぱり、百合ちゃんのことですか……?」
雛子の言葉足らずな質問に、恭平は僅かに身動ぐ。それが先程の「らしくない」という発言に続くことはすぐに理解出来た。
「元カノさんと重ねてるんですか」
「元じゃない」
「……すみません」
そこから暫く無言の時間が続くも、それは恭平の小さな溜息によって終わる。
「ごめん、やっぱり元」
「どっちですか……」
まだ吐き気が治まらないらしい雛子は、ぐったりとベッドに寝転んだまま目線だけ恭平に送っていた。
「まぁ、重ねてないって言ったら嘘になるな」
淡々とした口調で、しかし僅かに俯きながら恭平は独り言のようにそう言った。
恭平の脳裏に、屈託のない唯の笑顔が、泣き顔が、怒った顔が、一瞬にして過ぎる。
(唯はいつも百面相だったな……そうだ、こいつみたいに)
今は子犬のようにしゅんとした表情を見せる雛子にも、唯の顔が重なって見えた。
(やべ。やっぱり酔ってんな)
重ねているのは、本当に東雲百合なのだろうか。酔っ払いの思考ではうまく考えられない。
「それなら酷いじゃないですか。元じゃないって言いながらお姉さんである真理亜さんと、その……」
雛子が抗議の声を上げ、恭平は懐古の旅から我に返る。しかし彼女が歯切れ悪く押し黙ったため、今度は訝しげに首を傾げた。
「真理亜さんと……」
「真理亜と、なんだよ」
「ね……」
「ね?」
「ね、ねねねね寝たんでしょうっ?」
「……は?」
みるみるうちに、雛子の肌が真っ赤に染まった。
「だっ、だって、真理亜さん言ってたもん! 桜井さんを泊めたって!」
「いや確かに泊まったが」
「お泊まりしたってことは、つ、つまり、そ、そういうことでしょっ!?」
盛大に吃りながら、雛子は半ば八つ当たり半分で恭平に怒鳴る。
一方の恭平は要領を得ない。
「寝てないし…。お前の中では泊まったらそういうコトする決まりでもあんのか」
「なんてこと言うんですか! 変態っ!」
「お前なぁっ……」
何を言っても責められる状況に、さすがに恭平も顔を顰める。
「あ」
そして次の瞬間、悪戯を思いつく。
「なぁ」
ベッドに横たわったままの雛子の上に、恭平は大きな身体で覆い被さる。
「今日はどうする? 泊まっていっても良い?」
「なっ……!」
思った通り、彼女は赤くなった顔を更に濃く染めた。
予想通りの反応に気を良くした恭平は、にやりと悪い笑みを浮かべながら覆いかぶさった状態のまま彼女の顔に手を添える。
「ねぇ、『泊まっても』良い?」
「っ……!」
ゆっくりと顔を近づけ、彼女の頬に親指を這わせる。艶やかな桃色の唇から漏れ出た吐息が恭平の鼻先にかかる。
ああ本当に、食べてしまいたくなるような───── 。
「うぶっ!?」
「はは、変な顔」
「なっ、ぁ、っ……!?!?」
恭平が雛子の両頬を片手で思い切り挟んだことで、思いがけずタコ顔を晒す羽目になった雛子は声にならない叫びを上げて何やら憤慨していた。
(やっぱり違うよな、手ぇ出すのは)
危うさなどなかった、と言えば嘘になる。酔った勢いを言い訳にこのまま唇を重ねることもできた。
しかしいくら彼女が唯と似ていようが、恋人ではなく妹のような存在なのだという理性が恭平を引き止めていた。
「……ごめん、やっぱり飲み過ぎたわ。帰る」
固まっている雛子の上からすんなりと退き、恭平は玄関に向かう。
「ちゃんと鍵閉めて寝ろよ。おやすみ」
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