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第3章 訓練研修生
10 流されて
しおりを挟む「いいでしょう。次は風の最上位魔法です」
「はい」
アークに尻をほじくられて、気色の悪い光る体液を出すようになってからというもの、俺の魔力はすごく安定したらしい。
あれから魔力測定器の数値が千を上回ることはほとんどなくなった。
あの虹色の体液は魔臓から出される魔力の塊らしく、そのまま魔力液と言うそうだ。
あの日から俺は毎日何度もアークに肛門をいじられて、虹色の魔力液を飲まれている。
飲む必要があるのかと聞いたが、答えてはもらえなかった。
ただ、毎日魔臓の中を一杯にした後一気に空にしてしまえば、貯蔵量も増えるようになるらしい。
そのおかげなのか、俺はかなり体調が回復して、食欲も増してきていた。
フィリップから教わる魔法も本格的になってきて、次々と新しい魔法が使えるようになるのは楽しかった。
白いローブをまとったフィリップが真面目な顔つきで呪文を唱える。
「『風よ逆巻け。地の穢れを晴らし、清浄なる息吹で満たせ。我が敵を吹き飛ばし、我が身を守れーー暴風陣、牙嵐』」
「うわ…っ!」
ここ数日は強力な魔法を試すために、魔導修練場という場所に来ていた。
結界が施されているという八畳程度の部屋の中は、魔道具を起動させると森の中の風景を映し出すのだった。ここで皆魔法を練習するらしい。バーチャルリアリティのゲームみたいだ。
フィリップの放った魔法は長閑な森の木々を轟音を立ててなぎ倒し、遠くに設置された的も吹き飛ばしてしまった。
味方には被害は及ばないらしいが、俺は今日も付き添ってくれたアークに抱きついて恐怖をやり過ごした。
「…本当にアークにベッタリですね。たまには私に抱きついてくれてもいいんですよ?」
フィリップにそんな風にからかわれ、俺は真っ赤になってアークから離れた。
「し、師匠っ、すみません、呪文をもう一度教えてください」
「いいですよ。『魔術大全』にも載っています。ほら、ここですよ。一緒に読み上げてみましょう…」
そんな日が更に何日か続き、俺はアークとフィリップに連れられて再びヘルシエフのいる衛生管理棟を訪れた。
「セオくーん!!って、ああっ!すっかり顔色が良くなって!しかもあの芳醇な魔力が消えてるじゃないかっ!ううう…でも可愛いっ、愛しい、癒されるぅ~…」
「せ、先生っ?」
およそ一ヶ月ぶりに会うヘルシエフは、どこか疲れた表情で、診察室に入るなり椅子に座った俺に抱きついてきた。モスグリーンの三つ編みが背中にかかってくすぐったい。
身をすくめていると、アークが当たり前のようにヘルシエフを引き剥がし、俺を抱えて座り直した。
ヘルシエフは優しげな面差しを少し不機嫌に歪めた。眼鏡を押し上げながら灰色の瞳を半目にしてアークを睨みつける。
「…そうしていると本当に保護者にしか見えないね。でも…この様子を見ると、手は出したんだねぇ?妊娠検査もする?中絶の薬もあるけど?」
ヘルシエフの明け透けな物言いに俺は居た堪れず顔を赤らめて俯いた。アークのマントの中に隠れたい。
「…傷つけるようなことはしていない。少し絞っているだけだ」
それは今朝もされた魔力液絞りのことだろうか。そんなことまで申告しなければいけないのか。
俺の魔力液は相変わらず毎日生成されていて、朝晩絞らないとまた発情したみたいにアークに襲いかかりたくなってしまうのだ。
俺はとうとう恥ずかしさを我慢しきれずにアークのマントを引き寄せて中に篭った。
「く…っ、セオくん?ほら、隠れる場所ならここにもあるよ?出ておいで?」
「君ががっついてるから怖いんじゃないですか?」
付き添いに来てくれたフィリップがあっけらかんとヘルシエフに言い放つ。
「それよりも、セオはもう最上位魔法もいくつかできるようになってしまいまして…まだアークは側にいた方がいいでしょうが、そろそろ訓練研修生として教育養成部に正式に所属しておいた方がいいかと思います。アークについては医療官の君からも報告を上げておいてもらえますか?」
「えっ…セオくん、最上位も撃てるようになったの?すごい!えっとそれで?アークはまだ出張は無理だって言っておけってこと?んー…そっちは気が進まないなぁ~。別に僕が一緒にいたっていいわけだし?」
二人のやりとりを聞いて、俺はニュッとアークのマントの中から頭を出した。
そういえばアークは仕事で俺の元に駆けつけてくれたのだった。
俺の実家のエストバールから、魔導士会本部があるロスディア地方までは飛竜でも何日もかかった。
今は上層部からのお墨付きで俺の側に居てくれるが、これは当たり前のことではなかったのだ。
「管理官…出張…ですか…?」
自分でも声が震えているのがわかる。たまに出かけることもあるが、基本的には四六時中こうしてひっついていることが多いのだ。
いきなり引き離されたら、どうしていいかわからない。
見上げると、アークは少し困ったような顔で俺の頭を撫でた。
「大丈夫だ。今はお前を最優先にするようにと命令されている」
「今は…?それって、いつまでですか…?」
「お前が落ち着くまでだ」
「そう…ですか…」
ションボリと肩が下がってしまう。
こんなのじゃいけないと思うのに、何度もかき乱されてしまった精神は、すっかりアークに依存してしまったらしい。
自分でもこの先、どうしたらいいかなんてわからない。
前世の記憶や魔力が目覚める前までは、実家の領地のために少しでも役に立つ人間になろうと努力してきたのに、もうそんな夢すらも、どうでもいいものになってしまった。
「セオくん、測定器を見せてもらうよ」
「はい…」
ヘルシエフに取られるままに俺は腕の力を抜いた。
アークがいなくなったらどうしたらいいのだろう。魔法なんか習ったところで、別にしたいことなんかなかったと気がついてしまって、混乱する。
ズブズブと暗い思考に陥ってしまい、また身体の熱がゾワリと暴れ出した気がした。
このままではまた迷惑をかける。俺は右手だけで何とかアークのマントに再び潜り込み、アークの腕に縋り付いて魔力を魔臓に押し込んだ。
そうしてる内にヘルシエフのため息が聞こえる。
「はあ…わかった。特務にもしばらく任務は代行を出すよう強く言っておくよ」
「頼む」
「でもお前はこれからどうする気なんだ?伴侶はいらないとか言ってたよね?責任をとるつもりがないのなら、中途半端に手を出して辛い思いをするよりも、今からでも離れた方がお互いのためなんじゃないのかな?」
「…っ」
深刻そうに話し合う二人だったが、これはやはり俺のことなのだろうか。
離れるというのは、俺とアークのことなのだろうか。
「ヘルシエフ、そろそろやめてあげてください。セオが不安になります。それに引き離すのも、もう遅いと思いますよ」
また暗い気分になりそうになったところを、フィリップが止めに入ってくれた。
話の流れからすると、まだ離れなくてもいいのだろうか。
ヘルシエフの苛立った声が聞こえる。
「はあ…なんでアークなんだよ。僕の理想の幼妻がこんな死神の毒牙にかかるなんて…!」
「お前の本心はそれか」
「アークにしっかりしろと言ってやりたい気持ちはわかりますが、下手に波風を立ててはセオが可哀想ですよ」
「くぅぅ…セオくん、もう意地悪言わないから出ておいで?ほら、先生と仲直りしよう?」
マントから顔を出すとヘルシエフは少し困ったような顔で微笑んでいた。
「先生…」
「はあ…可愛い…アーク、もうお前ごと抱きしめていいかな?いいよね?」
「おいよせ。離せ気色悪い」
「セオきゅーんっ!」
「く、苦しいです、先生…っ」
そんなこんなで、ヘルシエフの許可が下りた俺は、またアークと一緒に暮らしながら、学校に通う訓練研修生となったらしい。
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