【完結】魔導士会には入らない

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第3章 訓練研修生

11 実技試験

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飛竜のダイアンの背から下ろしてもらうと、俺は物珍しさでキョロキョロと辺りを見回した。

今日は魔導士会の教育養成部という部署に顔を出して、挨拶がてら試験をする予定らしい。
筆記は昨日の段階でかなりの広範囲の知識を問うテストを解いたが、半分以上できなかった。特に魔導士会の歴史を問う問題はほとんどわからなかった。

教育養成部は学校を併設していて街の中心部に位置する。

学校と見られる敷地は広く、グラウンドのようなものや体育館のような建物、飛竜を預ける厩舎があった。隣には役所のような建物も見える。

近くを通る人は皆アークを見てやはり驚いたような顔をして、敬礼してはそそくさと去って行く。

何人かの通行人とすれ違って、渡り廊下の向こうからフィリップが来るのが見えた。いつもの白いローブの上に、今日は紺色のピシリとした上掛けをかけている。

「やあ。来たね」
「師匠、おはようございます。今日は何だかいつもと違いますね」
「はは、いかめしいでしょう?これが養成官の衣装なんです。セオも学校で教員になるなら、着ることになるかもしれませんよ」
「教員…ですか?」

思いもよらない職種を示されて、俺はパチパチと目を瞬いた。
人に迷惑をかけてばかりだが、今後学校の先生になど、なることがあるのだろうか。

「それも一つの道ですよ。ぜひ考えておいてください。試験会場はこちらです。噂が先行してしまったようで青田買い連中が集まってしまったのですが…どうか気にせず集中してくださいね」

そんな不安な前置きをされて講堂のような建物に向かって歩き始める。アークが抱き上げようとしてくれたが、道を覚えたいからと言って断った。

「訓練研修生の任期は最低でも一年ですが…セオの場合は特例が認められるでしょうね」
「特例?」

隣を歩くフィリップを見上げる。歩幅はかなりゆっくりしてもらっているが、俺は気持ち早歩きだ。

「今までちゃんと勉強していたみたいですし、魔法も魔力操作さえできれば教えることはほとんどありませんでした。…後は実地訓練くらいでしょうか。他の研修生とあまりに実力に差があって、お互いやる気を失ってしまっても困りますからね」
「はあ…」

もしかしたら褒められているのかもしれないが、他の研修生というものを見たことがないのでよくわからなかった。
たまにすれ違う人が二人に敬礼をして去っていく。遠巻きにザワザワと騒がれて指を差されたりもしたが、その誰もがすっかり大人の見た目で、自分と同世代の子どもはいないようだ。

「ここです。アークは視聴席から様子が見られますよ。君、アーク管理官をご案内して」
「はっ」
「セオはこっちです。大丈夫ですよ。彼の席はすぐ近くですから」

俺はアークと離されて少し不安になってしまう。最近はずっと一緒だったので、慣れない場所で余計に戸惑ってしまった。

「は、はい…」




フィリップに手を引かれ、講堂の壇上に上がると、スポットライトの影からザワザワと大人数の騒めく声が聞こえた。
ただの新入りの試験会場だというのに、席の半分以上が埋まっている。これが皆『魔導の御子』を見にきた魔導士たちなのだろうか。

人ごとのようにぼうっと眺めていると、一番手前の席にアークが座るのが見えた。
目が合ってすごくホッとする。
アークは近くの席にいた数人から何かを言われているようだったが、あまり相手にせず俺だけを見てくれていた。

フィリップが頷いて、壇上にポツンと置いてあった椅子に座らされる。
同じく壇上に座る金帯のローブを着た数人の中年の男たちが、それぞれ自己紹介をした。軍隊同様見た目には気を遣っているのか、威厳と清潔感がある人ばかりだ。

「私は教育養成部部長のカストールです。それでは、教育養成部の訓練研修生実技試験を始めたいと思います。セオ・リズレイくん」
「はい」

カストールと名乗った進行役の男の声も自分の声も、やたらと響いて聞こえた。壇上の声には音量を上げる何かがあるようだった。

「エストバール王国リズレイ侯爵第二子として、水の四十年に生まれる。今年花月第一週の一日、シバ地方監査官の指導によって魔力覚醒し、その後エストバール国王に拘束されていたところをアーク特務管理官に救出された。以降衛生管理棟で療養しながら、フィリップ教育養成官によって、五週間程度の魔術指導を受けていると報告されています。これに違いはありませんか?」
「はい。間違いありません」

面接だとしても、どこか取り調べに似た雰囲気だなと若干気圧されながら、俺は実家で習った社交術の通り自然体に見えるよう姿勢を正していた。

「よろしい。では試験用魔導結界を起動します」




その声で俺の視界は辺り一面森になった。アークが見えないのが不安だが、大丈夫だと自分に言い聞かせる。何ならまだ試したことはないが、魔力探査の魔法を試してみようか。

「『光よ、力を示せ』」

しかし、魔法で探知できたのは、魔物を示す赤い光だけだった。

「管理官…?」

アークがどこにいるかわからなくなってしまった。

しかしここはさっきの講堂のはずだと自分に言い聞かせる。
試験自体にはあまり意欲はないが、指導してくれたフィリップのためにも、無様な姿は見せられない。

俺は不安になる気持ちを必死に抑えた。

『セオ・リズレイくん。今君は結界の中にいます。そこで使った魔法は、結界の外には影響しません。今から魔物が順番に出現します。森の木々を出来るだけ傷つけないように、魔物を倒してください』

そうカストールの声が聞こえた。
フィリップと使った練習場の魔道具は内側から起動するタイプだったが、今回は外側から起動したようだ。中からは解除できないかもしれない。

『ギャオオォウッ!!』
「っ!」

顔を上げると、狼を黒く大きくしてガリガリに痩せさせたような魔物が、熊のように立ち上がって手を振りかざしてきた。
この世界には魔物がいるとは聞いたことがあったが、その姿を見たのはこれが初めてだ。

ビクリと反射的に身体が緊張するが、これはホログラムのようなものだと必死に思い直し、人差し指で撃つようにイメージする。

「『水よ』」

するとビシュン、と指先から水の塊が飛び出して、狼の腹を突き破った。
しかし狼はどす黒い血飛沫をあげながら、なおも襲いかかってくる。

『グガアァアアッ!!』
「ひ…っ!」

飛びかかってくる大きな魔物から必死に身を躱し、手を広げて切り返してくる魔物へ向けた。

「『浄化』!!」

実家の家庭教師によれば、昔話の悪魔は、この世の淀みや穢れから現れるのだという。

だから魔物も浄化すれば、消えるのではないかと思ったのだ。

『グォ…オ…』

どうやらその憶測の半分は当たっていたようで、巨大な狼型の魔物はカッと光る虹色の光に輪郭を吹き飛ばされるように身体を小さくした。
そして最後には図鑑で見たことのある、こちらの世界の藪犬の姿に変わったのだ。

瞼に映る魔力探査でも、反応は獣を示す黄色だ。
腹に先ほどの水で撃ち抜いた傷がある。俺は倒れた藪犬におっかなびっくり近寄って、腹の傷に手をかざした。

「『命の神トールシアよ、傷ついた体を癒せ』」

これはフィリップに教わった魔法の一つだ。
俺のような魔力が安定しない者相手には使えないが、大抵の怪我はこれで治療できる。
これさえ覚えておけば少なくとも衛生治療室というところには所属できるらしい。

『キュインッ、キャウン…』

藪犬はムクリと起き上がって、少しフラつきつつも、俺に怯えたように立ち去って行った。
俺は一つ息を吐いて、点在する魔物の反応を確認しながら、祈るように手を合わせて指を組んだ。

「『創世の神ヘルネシウスよ、御身の創りし世界に宿る邪なるものを排せ』」

これは浄化の範囲魔法の正式な呪文だ。
今日は魔法を使うから、と魔力液絞りは半分ほどで止められていた。魔臓には行き場のない魔力が燻っている。

俺の全身から虹色の光が立ち上り、頭上で渦巻いて一気に辺り一面に吹き付けるように拡散した。
赤い点が、俺を中心にして広がるようにみるみる黄色の点に変わってゆく。

魔力探査で反応した赤い点が全て黄色に変わった時、結界が解かれ、前の講堂の壇上に視界が切り替わった。




講堂の中には所々にモニターのような画面が浮かんでいて、一様に少し長めの金髪を揺らして振り返っている翠色の目をした少年…この世界での俺の姿が映し出されていた。

俺は慌ててモニターから目を離しアークを探した。
アークは少し驚いたような顔をして俺を見つめていた。

良かった。近くにいた。

そう思い安心して微笑むと、ざわりと講堂全体からどよめきが聞こえた。

「…ごほん、静粛に願います。あー…セオくん、少し聞きたいことがあるのだが、いいかね?」
「はい」

カストールの呼びかけに振り向くと、フィリップと同じく養成官と名乗った男たちはなぜか少し狼狽えたように視線を泳がせた。

「なぜ、魔物に浄化を?そもそも、なぜこんなに早く終了できたのですか?」
「?」

モニターに映し出されていたのではなかったのか、と俺は首を傾げたが、これも試験なのだろうと質問に答えるべく口を開いた。

「…悪魔は、穢れに侵されたものだと聞いたことがあります。だから魔物も浄化すれば、消えるかと思い…」
「何と!ではやはり、あの突然現れた野犬は、元はゲリオスだったと!?」

カストールの言い様では、どうやらモニターではあまり詳しい状況は判別できなかったらしい。俺はそう推測して頷いた。

「ゲリオス…というのがあの魔物のことでしたら、そうです。始めに水で撃った傷がありましたので。早く終わったのは…魔力探査で魔物がたくさんいることがわかっていましたので、付近一帯を浄化しました。それで、魔物が獣に戻り、魔物の反応がなくなったので、終了したのだと思います」

俺がそう言うと、講堂内はガヤガヤとかなり騒々しくなった。

「浄化にそんな効果が!?」
「まさか!彼特有の魔法では!?」
「魔術の未来が開けるぞ!何としてもあの子は研究部に来てもらう!」
「あの者に動員命令を出せ!魔界でも通用するか試さねば…!」
「お待ちください総司令官!」
「すぐにでも移籍させる!」
「先を越されるな!ウチが彼を手に入れるんだ!」

まさに騒然、といった様相だ。

俺は急に不安になって、アークを探したが、彼の仕事仲間にでも連れ出されたのか、さっきまで座っていた席は空になっていた。

「管理官…?」

キョロキョロとアークを探すが、すぐには見当たらなかった。

「『光よ、力を示せ』」

魔力探査でアークを探すが、魔力の強い人ばかりでよくわからなかった。

「今のは魔力探査かい?一体どの辺りまで感知できるのですか?」
「え?あ、あの…」

カストールがなおも質問を投げかけてくるが、俺はアークを探さなければと焦っていた。

わからない。
アークがどこにいるのか。

「っセオ!落ち着きなさい!部長、少し休憩をお願いします!」

フィリップがそう声を上げて俺の元に駆け寄ってくる。

「師匠…」

俺は少しホッとしてフィリップの手を取った。

「魔力が乱れています。セオ、自分で何とかできますか?」
「は、はい…あの、管理官は…?」
「少し外しているみたいですね…どうしますか?もう今日はやめて帰りましょうか?試験は終わったのですから、もう帰っても大丈夫ですよ」
「本当に…?」

俺はアークのいない不安感を押し殺して、フィリップには迷惑がかからないかと心配になった。

「ええ。その前にその魔力をどうにかしなくては。また一万を超えていますよ?」
「あ…本当だ。ごめんなさい、ちょっと、緊張しちゃって…」

フィリップに愛想笑いを向けて、何とか魔臓に魔力を込めていく。
まだ無意識に魔力をコントロールすることができないので、慌てたり不安になったりすると気がつけば身体の中で熱がグルグルと暴れ回っていたりする。

何とか魔力を収めて帰ろうとしたところで、先ほどから人一倍大きな声を出していた一際大きな男が、壇上に登って来た。

「待て!!貴様には我々に協力してもらわねばならん!!」
「…っ」

俺はその男の恐ろしさに声も出なかった。
なぜこんなにも恐ろしいのか、わけもわからない。

「ヤルス、総司令官…少しお待ちください。彼はまだ魔力発露をしたばかりなのです。今も緊張でコントロールを乱したところで…」
「そんなものは実地訓練でどうとでもなる!今正に、我々は前線で同胞を失っているのだ!先ほどの浄化が実際の魔物にも効くのならば、これほどの戦力はない!貴様は魔界で戦ってもらうぞ!」

フィリップが俺を庇ってくれようとするが、ヤルス総司令官と呼ばれた男は構わずズンズンと壇上を進み、俺のすぐ近くまで迫ってきた。

逃げる間も無く腕を掴まれる。

その赤茶色の瞳は、ギラギラと光を反射して、獣そのものだった。
そう、それはまるでーーー

「ーーーっ!!」
「セオ!!」
「な…っ」

あまりの恐怖で悲鳴を上げたようなのに、喉が引き攣れて声にならなかった。
フィリップが焦ったように俺に手を伸ばし、ヤルスが驚いて目を見開いていた。

視界が虹色に光る。

「セオッ!!」

アークの声がどこからか聞こえて鼓動が跳ねた。
どこにいるのかと探そうとしたところで、虹色に閉ざされた視界が、黒一色に包まれた。

ああ、もう大丈夫だと反射的に理解した。
この匂いは、大丈夫。

俺はひとりでに魔臓に収まっていく魔力を感じた。
それでも全身は火傷をしたようにヒリヒリと痛んで、力尽きるように気を失った。
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