3 / 52
チュートリアル③
しおりを挟むこの世界がゲームであると、もっと肝に銘じておく必要がありそうだ。
夜になる頃にはエイミーも目を覚まして、瀕死だった俺のHPも自然回復だけで満タンに戻っていた。そして呼び出しを受けて、俺たちは食堂に集められた。
「諸君、ご苦労だった。君たちのおかげで無事にこの砦も守られた。それでは報酬とリコールスクロールを与える。特別な働きをした者には、報酬にそれなりの色を付けさせてもらったからな」
壇上に立ち、砦の傭兵たち一同を前にしてそう告げたのはアンである。俺は隣にいたクリストファをつついた。
「なんでアンが代表者のようなツラして、あんなことを言ってるんだ」
「なんでって、そりゃ今は砦の中で一番偉いからね。それにしても、これで終わりかあ。本当に貴重な体験ができたよ。わざわざ参加しに、こんなところまで出てきた甲斐があるってものだね。もうお別れかと思うとさびしいよ。ユウサクも、僕に用事があるときは王都アルカイオスにある屋敷まで訪ねて来てほしい。困ったことがあれば、いつでも力になるよ」
なにが始まっていたのかもわからないうちに終わりが告げられて、俺は何の感慨も湧いてこない。一通りのことをやらされて、まるでゲームにあるチュートリアルのようだなと思った。しばらくすると俺の名前が呼ばれて、アンから金の入った袋と丸められた一枚の小さな紙を受け取った。
「よくやってくれた。報酬にはかなりの色を付けておいてやったからな。もし兵士にでもなりたくなった時には私のところに来い。口利きをしてやる」
アンもお別れのようなことを言う。本当にこれで終わりなのか。訪ねて来いと言っているが、どこを訪ねたらいいのだろうか。ロイヤルガードとあるから、やはり王都の王城あたりで聞けばわかるのだろうか。
もとの位置に戻って、アンから手渡された袋の中を覗いてみると、50000Gと表示される。
たぶん通貨の呼び方はゴールドだろう。金貨が五枚入っていた。三日間泊まり込みで働いて、さらに色がついてこの額なら、日本円くらいの価値なんだろうか。報酬の受け渡しが終わると、周りの奴らはリコールスクロールを破り始めた。破ってしばらくすると、そいつらはテレポートみたいに一瞬で消えていった。
「僕はもう一晩ここに泊っていくけど、ユウサクはどうする」
「俺も泊って行くかな」
この紙を破いたらどこに飛ばされるかもわからないので、俺ももう一晩泊っていくことにした。疲れているので、確実にベッドにありつける方を選ぶことにした。傭兵たちが帰っても、砦の中に兵士たちは残っている。砦の中で売店のようなものを見つけたので覗いてみると、五万ゴールドくらいでは、魔法書一つ買えるかどうかいう程度だった。
武器や防具なども売られていたが、まだどんな職にするかも決めきれていないので買うことはできない。
「メシの実まで売っているじゃないか。そうと知っていれば、あんなにまずいパンとスープなんか食べずに済んだのにな。これとこれを下さい」
そう言って、クリストファがヤシの実のようなものを二つ買った。そのうちの一つを俺に寄こした。果物か何かだろうか。その後、俺たちは空いている部屋を見つけて休むことにする。そこで腹が減っていることに気が付き、何かまともな食いものでも買ってくればよかったと考えた。しかし、すでに眠気が来ているので、このまま寝てしまってもいい。
そんなことを考えていたら、クリストファがヤシの実をひねり始めた。パカッと音がしてヤシの実が割れると湯気があふれ出した。興味をそそられた俺が湯気の中を覗き込むと、そこにはなんと天ぷらうどんがあるではないか。
「こっちの方がよかったかい? 交換してもいいよ」
あまりの出来事に、俺が呆けているとクリストファは天ぷらうどんをすすり始めた。かつおだしの匂いがして、それはまごうことなき天ぷらうどんだ。俺は持っていたヤシの実をひねって開けた。するとそこにはかつ丼があった。ご丁寧に箸までちゃんとついている。しかもアツアツの出来たてだ。どこぞの猫型ロボットの秘密道具を丸パクリしてるじゃねえか!
それを食べ終わるとクリストファは早々に寝てしまった。
俺も寝ようと月明りで解説書を読みながら眠りが訪れるのを待っている時だった。ドアもない入り口から声をかけられて、そちらを見る。
薄い月明りの中でエイミーが立っているのが見えた。手招きをされて、俺はそのまま部屋から連れ出された。そして空き部屋まで連れてこられる。
「まだ帰ってなかったんだな」
俺の言葉にええと言ったきり、エイミーは本題を話そうとしない。どうせ昼間のお礼を言われるのだろうと考えていたが、どうやら様子が違う。
エイミーはしばらくモジモジしていたのちに、ようやっと本題を話し始めた。
「その、私の姉の話なんですけど、重い呪いにかかっていて歩くこともままならないんです。それで、王都にいる高ランクの聖職者様に治療をしていただかなければなりません。そのためのお金を稼ぐために、この砦にもやってきたのです」
本題はまだ見えてこないが、俺は小さくうなずいて続きを促す。
「そ、それで、その、お金が足りないので、困っていてですね。貴方は報酬も沢山いただいたと思います。それで、その、私の体をですね、か、買っていただきたいなと」
俺は驚きのあまり飛び上がりそうになった。
まだ童貞である俺には刺激が強すぎる申し出だった。そばかすが似合う彼女は、それなりにかわいい方だと思う。昼間に見た金色の茂みが、まだ頭にこびりついている。
「買います!」
気が付いたら俺は、彼女の手を取りながらそう叫んでいた。
いまだ信じられないような夢心地のまま、俺は彼女を月明りの下のベッドに誘導した。そして、お互いに服を脱ぐ。彼女の胸を見たときには鼻血が出そうなほど興奮した。しかし、ベッドの上で裸で向き合いながら、俺はあることが気になった。
「そ、その、避妊とかはどうしたらいいんだ」
「ひにん、ですか?」
「子供ができないように、ほら、あるだろ」
「いえ、そのようなものは聞いたことがありません。経済的に苦しい今、子供ができてしまえばさらに苦しいですが、それでも私にはお金が必要なんです」
いやいやいや、それはまずい。マジでこの世界には避妊具がないのだろうか。知らないところに子供ができるなんて普通に考えて耐えられない。
でも話しぶりからすると、子供ができる可能性まで考えているようだし、本当に心当たりがないようにも見える。かと言って、彼女を妊娠させるような真似は俺にはできない。
はあ……。このゲームを作った奴はとんだ不手際だよ。
そんなことを思いながら、俺は断腸の思いで目の前の女をあきらめることにした。脱いだ服のポケットから報奨金の入った袋を取り出してベッドの上に置く。俺はかっこつけて、やるよと言ってから立ち上がると服を着た。しょうがない。これはしょうがないことなんだ。
彼女はオロオロしているが、このままでは自分に魅力がなかったとか誤解をしそうだったので、俺はちゃんと理由を述べてから、その場を辞した。
部屋に帰る途中の廊下で、おっぱいだけでも触っとけばよかったなとか、今から戻って頼んでみよう、でもそんな恥ずかしいことできるわけないとか、そもそもポリゴンみたいなNPCとの間に子供なんてできるのだろうかとか、色々と悶えながらクリストファのいる部屋まで戻った。
これじゃあ、このゲームを攻略するモチベーションもダダ下がりだよとか思いながら、俺はベッドの上に身を投げた。
「女のところにでも行ってきたのかな」
いつの間に起きていたのか、暗闇の中からクリストファの声がした。
俺はそんなところだと返して目を閉じた。
「あまり娼婦のようなものを買うのはやめておいた方がいい。とてつもなく重い病気や呪いを貰う場合がある」
「呪い?」
「そうさ。解くこともできずに、半永久的にステータスを下げる呪いなんか貰えば、それこそ取り返しがつかないよ」
なんと恐ろしい世界だろうか。
「この世界には避妊具のようなものはないのか。妊娠しないようにするさ」
「聞いたことがないね」
「じゃあ女の楽しみはお預けかよ」
「そんなことはないさ。異人種の娘なら妊娠することはないよ。処女の奴隷を買ってくれば、呪いや病気の心配もない。異人種は嫌なのかい?」
「エルフとか!?」
「いや、エルフなんて妖精の類じゃないか。人間の相手をするには小さすぎる。獣人族なんかが、見た目も人間と変わらなくて人気かな。耳や尻尾は生えてるけどね」
ありがとうございます、このゲームを作った人。本当にありがとう。どうにか明日への希望を失わずに済んだ。この世界、もといこのゲームは人物造形に優れているから美男美女が多い。きっと獣人族というのも俺の希望に沿えるものだ。
「あとは美少年なんかも人気だね。安く買えるんだ」
「いや、そっちは全く興味ねえよ」
クリストファが不穏なことを言い出したので、俺はさっさと寝てしまうことにした。それにしても、おっぱいだけでも揉ませてもらうべきだった。なにをテンパって逃げるように帰ってきてしまう必要があったのだ。自分のふがいなさが本当に腹立たしい。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
付きまとう聖女様は、貧乏貴族の僕にだけ甘すぎる〜人生相談がきっかけで日常がカオスに。でも、モテたい願望が強すぎて、つい……〜
咲月ねむと
ファンタジー
この乙女ゲーの世界に転生してからというもの毎日教会に通い詰めている。アランという貧乏貴族の三男に生まれた俺は、何を目指し、何を糧にして生きていけばいいのか分からない。
そんな人生のアドバイスをもらうため教会に通っているのだが……。
「アランくん。今日も来てくれたのね」
そう優しく語り掛けてくれるのは、頼れる聖女リリシア様だ。人々の悩みを静かに聞き入れ、的確なアドバイスをくれる美人聖女様だと人気だ。
そんな彼女だが、なぜか俺が相談するといつも様子が変になる。アドバイスはくれるのだがそのアドバイス自体が問題でどうも自己主張が強すぎるのだ。
「お母様のプレゼントは何を買えばいい?」
と相談すれば、
「ネックレスをプレゼントするのはどう? でもね私は結婚指輪が欲しいの」などという発言が飛び出すのだ。意味が分からない。
そして俺もようやく一人暮らしを始める歳になった。王都にある学園に通い始めたのだが、教会本部にそれはもう美人な聖女が赴任してきたとか。
興味本位で俺は教会本部に人生相談をお願いした。担当になった人物というのが、またもやリリシアさんで…………。
ようやく俺は気づいたんだ。
リリシアさんに付きまとわれていること、この頻繁に相談する関係が実は異常だったということに。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にいますが会社員してます
neru
ファンタジー
30を過ぎた松田 茂人(まつだ しげひと )は男女比が1対100だったり貞操概念が逆転した世界にひょんなことから転移してしまう。
松田は新しい世界で会社員となり働くこととなる。
ちなみに、新しい世界の女性は全員高身長、美形だ。
PS.2月27日から4月まで投稿頻度が減ることを許して下さい。
↓
PS.投稿を再開します。ゆっくりな投稿頻度になってしまうかもですがあたたかく見守ってください。
男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)
大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。
この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人)
そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ!
この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。
前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。
顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。
どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね!
そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる!
主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。
外はその限りではありません。
カクヨムでも投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる