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光の守護者
しおりを挟む次の日も午前中は森で過ごした。
最初よりも効率が良くなってるので、経験値も悪くない。オークが二組同時に出てくることもなかった。それほど視界が悪くないので、遠くからでも発見できるのが大きい。
オークの通常ドロップは鉄の原石と伝心の石に安いヒーリングポーション、それにボロ布、あとはゴールドだけだ。レアはオークメイジがルビーを一つ落とした。
広い森の中で、一組のパーティとすれ違った。かなり装備がそろっていて、ランクも高そうだった。先行組の中にはさらに高ランクもいるだろう。
今日は市場にいるとやたらとパーティーの誘いが多かった。特にクレアは引く手数多だ。
そろそろ職業の組み合わせを考えて動き始めたということだろう。仲のいい者同士で集まっても狩りにはならない。せめてタンクとヒーラーくらいは揃ってないと何もできない。
俺たちも、そろそろ新しい仲間を見つけるために動いたほうがいいだろうか。オーク相手では戦った後に休まないと、クレアのHPは満タンを維持できない。今は敵の出現率が高くないからいいようなものの、ダンジョンの中でオークが出てきたら一瞬でつぶされてしまう。
それに火力の高い俺やモーレットがいても、敵を倒すのに時間がかかるようになっている。ターゲットが移った時の対策も今後は必要になってくる。
ヒーラーの甦生もないために、後衛であるモーレットがクレアのそばから離れると戦闘不能状態を回復できないのも問題だ。それでクレアの近くにいれば、魔法の範囲ダメージも食らうし、メイヘムのクールダウンタイム中にターゲットされやすくもなる。
そんなことを考えているうちに、クレアのランクが上がってロストの前まで戻った。俺とモーレットも22になって、言うことなしである。
メシの実とノミの竹は相変わらず安っぽいものしか見つからないが、紅茶の竹を一つだけ見つけることができた。クレアはミルクティーがよかったとこぼしたが、それは狩場のレベルが上がらなければ無理だろう。
午後はダンジョンで狩り続け、あと少しでクレアがランクアップというところまで漕ぎつけた。
もう夜になっている時間だが、オルトロスとスパイダーの湧く場所から人がいなくなって、やっと効率が出てきたところである。昼間は森に行っているから、それほど奥には行けていないのだ。
俺たちはランクアップまでやろうと決めて、ダンジョン内で晩飯をとった。
体が慣れてきたのか、疲れは出ているが続けられないというほどじゃない。
あとちょっとというところで、ダンジョン内に「オガーーーーッ!」の声が響き渡った。
トロールキングだ。
俺たちの間に緊張が走る。そしたら、視界内に嫌なものを見てしまった。
一人の男がトロールキングを引き連れながら、こちらに向かって走ってきたのだ。
助けてくれと叫んでいるが、こちらも敵の相手をしているところである。見ないふりをしたかったが、クレアがいてそれはできない。
クレアがスキルを使おうとするのを手で制して、俺が犠牲になろうとファイアーアローを放った。だが逃げていた男は、すでにトロールキングを攻撃しているらしく、ターゲットは俺に移らなかった。
それを見て、クレアは迷いもなくメイヘムを使った。その助けもむなしく、逃げていた男は新しく湧いてきたスパイダーに突かれて動かなくなった。すぐにとどめも入ったらしく光の粒子に変わる。
「倒せそうになかったら二人は逃げて」
せっかくランクを戻したところだというのに、どうしてこんな目に合うのだ。さすがに、ここでやられたら立ち直れる自信がない。失った装備分があるから、金銭的にはまだマイナスなのだ。
しかし、容赦なく振り下ろされたトロールキングの攻撃で、クレアのHPは2割ほど持っていかれた。クレアはポーションを使ったが、彼女が持ってる安いポーションでは回復が間に合わない。
俺とモーレットが必死で攻撃するが、斬りつけても大した出血をさせられない。これは相手のHPに対して俺たちの攻撃が弱すぎることを意味している。
「どうすんだよー。こんなん、ぜってーまにあわねーぞ」
「モーレット、周りの雑魚を攻撃しろ! クレアは下がりながら、なるべく敵の攻撃をよけろ!」
俺はクレアの足元に押し寄せている蜘蛛を斬って回った。そして動けるようにしてから、オルトルスを始末にかかる。オルトルスは炎を吐いているので、クレアの足元に溜まっていたわけではない。それを攻撃したことでモーレットが非難の声を上げる。
「なにやってんだよ。そんなのほっとけよ」
「いーから、モーレットも雑魚を倒せ」
一通り倒してしまい、雑魚敵はいなくなった。
それから逃げ回るクレアを出口の方に向かわせた。クレアはポーションを使いまくっているが、HPはすでに半分を切って危険な状態にある。俺は先回りして、オルトルスを探してうろつきまわった。
何体かのオルトルスを倒したころには、クレアのHPは一割を切るほどになっていた。
「もう逃げて! 私は逃げられないわ!」
クレアが叫んでいるが、今の俺はそれどころじゃない。
そこで俺はトロールを見つけた。
「モーレットそいつだ!」
俺に言われて訳も分からずモーレットが、そのトロールを攻撃する。
後ろではクレアの悲鳴が上がる。見れば転んでしまったようだった。
俺はトロールに剣を一撃叩き込んでから、デストラクションと念じた。俺のHPもMPも真っ白になって、渾身の一撃がトロールに入る。
それでどうやら倒しきれたらしかった。俺のMPは500を超えているし、それが手つかずで残っていたのだからダメージは出る。HPよりはMPの方がダメージ変換効率もいい。
「早く逃げなさいよ! どうして逃げないのよ! 逃げないと、許さないわよ!」
いまだ俺たちが逃げ道を確保していると勘違いしたクレアが叫んでいる。しかし、その様子を見るに俺の思惑は成功したようだった。
「もういいって言ってるでしょ。どうして逃げてくれないのよ、馬鹿! お願いだから言うことを聞きなさい。ユウサク、逃げないと絶対に許さないわよ!」
まだ何も気が付いていない彼女は、俺に向かって罵詈雑言を並べ立てている。
ランクアップによって彼女のHPは満タンになったのだ。しかし、俺の狙いはそれだけではない。ランク30は初心者を卒業する時である。
いまだトロールキングは彼女を殴り続けているが、クレアのHPは減りもしなくなっていた。
ランク30で覚えられるスキルだけでは、ああは硬くならない。その秘密は名前の横に表示されている『光の守護者』の称号にあると思われた。彼女は覚えられる全てのスキルを覚えて、騎士として完成したのである。
彼女は試練に打ち克ったのだ。
俺はトロールキングを倒すために、彼女のもとに向かって歩き始めた。
そのころにはクレアも何か様子がおかしいことに気が付いたようだった。
「ユウサクはスゲーなあ。あの状況をなんとかしちまうなんてイカレてるよ」
「ねえ、みんな私のこと見てくるんだけど……」
それはそうだろう。頭の横にこれだけ恥ずかしい文字を表示させているのだ。見るなという方が無理な話である。本人も顔が真っ赤だ。
豪勢なドロップを得た俺たちは奮発して食堂で飯を食うことにした。そしたら、珍しい事もあってクレアが注目を集めている。
トロールキングが落としたのは、祝福されたリバイバルストーン六個、鉄の原石十二個、リコールスクロール七枚、レザーアーマー一個、それに4000ゴールドだ。
「俺の機転は大したもんだったよな。その俺に向かって馬鹿だもんなあ。お偉い騎士様は言うことが違うぜ」
「ホントだよ。クレアは最後まで気づいてなかったもんなー」
「ご飯なら部屋で食べればいいじゃない。もう行きましょうよ」
「お披露目だからいいんだよ。もっと胸を張れ」
「そうだぜ、かっこいいじゃねーか」
「もういい。私は先に帰ってるわ」
クレアがそんなことを言い出したので、仕方なく俺たちも席を立った。
食堂を出て、宿に向かう途中でも彼女は注目を集める。
「それにしても、光の守護者とか表示ししてて、よく表を歩けるよな。恥ずかしくないのかよ」
「あーそう。やっぱり面白がって食堂なんかに私を連れて行ったのね」
そう言って、クレアがこぶしを握り締める。
「おっ、なんだ、ゴリラの腕力にものを言わせて俺を黙らせようってのか。だけど、それはこの先もずっと消えないんだから、慣れるしかないだろ」
「だからって、か、からかう必要はないでしょ!」
「必要なんかあるかよ。俺は趣味でやってるだけだしな」
ランク30になって、クレアはHP上昇30%とダメージリダレクション30%のパッシブスキルを得た。これでクレアのHPは1000を超えている。俺やモーレットなど300ちょっとしかないのにだ。
光の守護者の効果は、防御力上昇30%だった。バフ扱いではなく、常に効果が発揮されるとある。これで一番金のかかりそうなクレアの装備は、多少後回しにしても問題ない。俺たちの火力だけを上げて、効率を求められる。
あとの問題は残りの仲間だが、これは心当たりがないわけではなかった。でも、それをためらう理由があって、俺は後回しにしていたのだ。
しかし、その夜にクラスメイトのリカから連絡が入って、明日会う約束になった。どうやら問題と向き合うときが来たようである。
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