そうだ、魔剣士になろう

塔ノ沢渓一

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武闘大会

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 そんなこんなで、武闘大会の日がやってきた。俺たちは闘技場の観客席に用意された備え付けの椅子に座る。控室などあるわけじゃなく、出場者用の見学席が用意されているだけなので、ここで試合を見ながら順番を待つことになる。
 参加はギルド単位なので、俺たちの見学席は広い。観客が思ったよりも多くて、王様や姫様まで見学に来ていた。なのでアンも警護のために付いて来ている。
 俺を見つけるとあっさり警護対象から離れてこちらにやって来きた。出場者用の見学席には入れないので、その手前まで来て頑張れよと言った。

「知り合いなの」
「古巣の上司だよ」
「意味が分からないわ」

 クレアとそんな会話をしていると、第一試合が始まった。両方のギルドから出場メンバーを申告してから顔合わせとなるようだ。相手を見てからのメンバー変更は出来ないようにする配慮だと思われた。そうなると固定メンバーになる俺たちは対策され放題だ。だけど俺は、俺の考えたチームにどんな対策が立てられるのかの方が興味ある。

 第一試合では両方のメンバーとも異世界召喚組である。片方はヒーラーを狙いに行って、もう片方はスローや移動阻害技でそれを止めに出た。
 試合は突っ込んだ方が無駄に攻撃を食らって数を減らされ、そこから数の差で潰されてしまった。一人でも先に失ったほうがかなり不利になるようだった。

 とどめが入ると体が場外に飛ばされているので、ロストの心配はない。
 試合の展開は早く、30分ほどで俺たちの出番がやってくる。対戦相手はクラスメイトの聖騎士ダイスケ率いるチームだった。侍のリョウタ、リョウタの彼女の魔導士ユウカなどがいる。
 ユウカがサキュバスクイーンのドレスを着ていて驚いた。俺たちが出した奴だろうか。

「ふざけたパーティーだな。お前にお似合いだよ」
 ダイスケが俺に向かって言った。俺はその言葉を無視した。
「手筈通りやれよ」

 俺の言葉にみんなが頷いた。かなり緊張しているようで、その様子に俺の方が不安になる。
 そんな中で試合開始の合図がなされた。
 いきなりダイスケが俺に向かって斬りかかってくる。その時点で、もう俺たちの勝ちは決まったようなものだ。馬鹿にしてもほどがある。

 斬りかかってきたダイスケに向かって俺はデストラクションと念じた。500近いHPと900近いMPが全てダメージに変換される。
 俺の一撃に一瞬だけひるんだのちに、ダイスケは俺に剣を振り下ろした。俺はその攻撃を受けて戦闘不能になる。しかしコンマ数秒の間にクレアのリバイバルによって、俺はHPとMPが9割回復した状態で復活する。そこで、もう一度デストラクションをダイスケに放った。

 その攻撃でダイスケは戦闘不能になって地面に倒れる。そこにクレアの攻撃が入ってダイスケは場外に飛ばされていった。
 クレアのリバイバルはLv2まであがっている。さらに祝福されたリバイバルストーンを使うことによって、Lv3のリバイバルとなっているから、HPとMPが9割回復した状態で復活するのだ。

 対人戦では当然ながら、攻撃力の高いやつから倒そうということになる。そこで騎士がタンクとして機能するための担保がリバイバルなのである。
 クレアから倒さない限り、俺に一度でも攻撃すればデストラクションが発動できる。俺のデストラクションは魔法なんて目じゃないようなダメージが出るので使わせるべきじゃない。これには範囲魔法をけん制できるメリットもあるのだ。
 もちろんリバイバルにクールダウンタイムはない。

 相手は何が起こっているのか理解できていない。俺の攻撃力がおかしいということで俺に狙いを定めてきた。間違いの上に間違いを重ねている、その判断力の欠如が最大の間違いだ。
 俺がデストラクションと念じるだけで次々と相手が倒れていった。聖騎士以外の前衛はデストラクションの一発で地面に転がっている。前衛を倒したら、その後ろに控える後衛をクレアと走って取りに向かった。

 攻撃魔法は全てフルレジストに成功しているが、それはあまり問題ではない。騎士と魔剣士の組み合わせに対して、魔剣士を攻撃したり範囲魔法を使ったりするのが論外なのだ。相手はまだ俺を攻撃し続けていて、最後の魔導士が戦闘不能になった時点で勝負ありの声が響いた。
 俺は場外で大会の運営者から回復を受けているダイスケに向かって言った。

「どっちが馬鹿なのかわかったか。俺のステータスにケチをつけやがってよ」
「そんなこと言うのはやめなさいよ。貴方のことを心配して言ってくれてたんじゃないの」
 死んだ犬を蹴りにいった俺にクレアが説教を始めた。
「だけど俺のやり方にケチをつけたんだぜ」
「なにも、このタイミングで言うことないじゃない。やめておきなさいよ」
「まあ、いいか」

 俺はそれ以上何も言わずに控え席へと戻った。さすがに戦い方を見られているので、次もこんな簡単にいくとは思えない。
 控え席でラーメンを食いながら試合を見ていたら、一時間ほどして第二試合となった。
 次の試合の相手は、聖騎士、格闘家、魔法戦士、暗殺者、聖職者、弓士の組み合わせだった。なかなか攻撃に偏った編成である。

 相手は試合が始まるなり、俺とクレアを無視してワカナに狙いを定めた。その際、格闘家がクレアのチェインリーシュに捕まった。
 聖騎士、魔法戦士、暗殺者の三人がワカナに向かうが、最初の攻撃が入る前に、ワカナはモーレットに変わりモーレットはリカに変わっている。なので攻撃されたのはリカだ。
 そして最初の攻撃は丸太に刺さって、リカは離れた場所に現れた。その間に格闘家は俺とクレアの攻撃によって既に場外に飛ばされて、魔法戦士はアイリの魔法によって地面に倒れている。

 地面に倒れた魔法戦士はリカが手裏剣を投げて場外に飛ばした。せっかく聖職者がいるのに、リザレクションや回復魔法の範囲外で戦うのは、何の意味があるのだろうか。
 相手は諦めずにワカナを狙いに行くが、その攻撃も丸太を攻撃しただけである。変わり身の術にもクールダウンタイムは設定されていない。
 暗殺者もアイリの魔法に倒れ、聖騎士はクレアに捕まった。

「後衛は弓の攻撃範囲に入るなよ」

 俺の言葉で三人は下がり、聖騎士は俺のデストラクションによってすぐに倒れる。残された弓士が苦し紛れに範囲攻撃をしたのでデストラクションが使えたのだ。
 それで弓士がクレアに攻撃を絞るが、そんな攻撃でこの鉄柱みたいな女にダメージなど入るわけがなかった。残りを倒して俺たちは二回戦目も勝利した。

 残ったチームも減って来て、すぐに次の試合になる。相手は大手のギルドだった。メンバーを決めるのに手間取っているらしく、言い合いをするような声がこちらまで聞こえてくる。
 相手は聖騎士、格闘家二人、魔法戦士三人で来るようだった。さすがにこれだけ攻撃によった編成だとクレアですら二秒と持たないだろう。

 俺がアイリに目配せすると、彼女は小さく頷いた。
 試合が始まってすぐ、突っ込んできた相手にアイリがブリザードを放った。誰もレジストに成功しておらず、移動阻害効果を受けて動きが遅くなる。
 そこに、ライトニングストーム、ファイアストーム、ファイアボールが入り、移動阻害が切れると同時に、先出で唱えておいたメテオストライクが降ってくる。

 メテオストライクが落ちると聖騎士以外は全て地面に転がっていた。知力に全て振ったアイリの魔法はふざけた威力が出る。魔法抵抗を上げてない攻撃職などこうなるしかない。前衛ばかりでどうにかしようというのが間違いだ。そして残った聖騎士にクレアのチェインリーシュが入ったところで試合の結果は決まった。

 次の相手は最大手のギルドである。ここまではランクの高いメンバーで勝ち残ってきたようだが、俺たちの試合を前にしてメンバーを決めるのに手間取っている。
 騎士、魔剣士、魔銃士、聖職者、盗賊二人に決まったようだった。
 盗賊の持つ詠唱阻害攻撃でアイリの魔法を止めたい意図が見える。そして騎士と魔剣士の組み合わせで俺たちの一回戦の戦い方を真似るようである。

 相手の盗賊二人が試合開始と同時にアイリに向かって走るが、当然モーレットが場所を入れ替え、リカの変わり身の術によって攻撃は無駄になる。
 最初に俺は騎士に向かってデストラクションを使い、そこにアイリの単体攻撃魔法が一そろい飛んで行って騎士は倒れた。

 聖職者のヒールはリカの詠唱阻害攻撃によって止められている。
 そして相手の盗賊は、詠唱阻害スキルのクールダウンタイムに入ったらしく距離を取った。
 その間に、俺たちは相手の魔剣士を倒し終えたところだ。

 そして聖職者と魔銃士を倒し終えたら、相手の盗賊が逃げに入った。
 往生際が悪いにもほどがある。
 逃げた相手はリカが追いかけ、追いついたところでモーレットに変わり、クレアに変わる。そしてクレアのチェインリーシュがその盗賊に入った。

 それとほとんど同時に、俺の後ろにいたはずのリカが瞬きするほどの間に相手の元まで走り終えていた。リカはモーレットに変わり、俺の目の前に盗賊の男が現れた。
 俺は魔剣をリーシュが入った盗賊に振り下ろす。この時、俺は今日初めて魔剣を抜いた。三度くらい攻撃したら相手は地面に倒れた。もう一人も同じようにして倒した。

 もう次は決勝である。ここまでゴミみたいな相手としか戦っていない。さっきの試合まで俺は魔剣すら抜く必要がなかった。
 最後の相手は何をしてくるかと思ったが、6人魔銃士にしようとか(忍者の煙玉で一発)全員暗殺者にしようとか(魔法で瞬殺)そんな言葉が聞こえてくる。

 それでも、最後には聖騎士、侍、魔剣士、魔銃士、聖職者、魔導士というオーソドックスな編成で来た。そして、やっとまともにクレアを狙ってくるらしかった。
 聖職者を除いた全員がクレアに攻撃を集める。一瞬でクレアのHPは半分を下回るが、ワカナのヒールによって一瞬で全回復する。

 その間に、侍と魔剣士にはアイリとワカナのデスペルが入り、バフがすべて消し飛んで攻撃力が桁違いに下がる。バフはクールダウンタイムに入っているので、掛けなおすことは出来ないだろう。
 魔法抵抗が低ければ侍と魔剣士は、魔導士と聖職者がハードカウンターになるのだ。

 バフが消えてしまっては半分も力を出せない。聖騎士のデバインプロテクションもバフ扱いなので消えるが、こちらはクールダウンタイムがないので意味はない。
 魔剣士は俺のデストラクションとアイリの魔法で地面に倒れた。リザレクションでは先に詠唱しておかなければ復活が間に合わない。

 魔導士と魔銃士しか火力を出せなくなった相手は、俺の攻撃でどんどん飛ばされていった。
 俺が魔法抵抗を上げたのは、この魔導士と聖職者が使うデスペルが強力すぎるからである。これがレジスト出来ない限り、バフによって攻撃力を強化できないのだ。
 最後に相手の魔導士が地面に転がると勝負ありとなった。

「優勝はチームハレルヤの皆さんに決まりました! 今回の賞品は、なんと盾でございます! この後は授賞式となります!」

「チッ、盾だってよ。これ以上お前が硬くなってどうしろってんだよな。おい、クレア?」
「か、勝てちゃった」
「なんで負けると思ってんだよ。最強だって言っただろ」
「すげーぜ、ユウサク!」
「お前はなんで攻撃しなかったんだよ。サボりか」
「リプレースポジションに集中しろって言うからよー、そっちに集中してたんだろ」

 結局、モーレットは一発も銃を撃ってなかった。こいつが攻撃していれば、もっと早く終わったのに、とんでもない奴だ。

「勝っちゃった。勝っちゃった。勝っちゃった!!」
「お前も俺の言うことなんて、何も信じてなか――」

 狂ったように興奮したアイリは、いきなり俺に飛びついてきて、頬にキスしやがった。なんでこいつが一番興奮しているのか、訳がわからない。

「な、なななな、なにすんだよ」
 俺はいきなりの出来事に冷静さを失った。
「勝っちゃったわ!」
「そ、そうだな。なんでそんな喜んでるんだ。賞金はやらないぞ」

 クレアはまだ茫然としている。モーレットは勝って当然という感じだ。アイリはまだ興奮して今度はクレアに抱きついている。リカとワカナは純粋に驚いているようだった。
 俺は自分が考えたこのチームに弱点でも見つかりはしないかと考えていたが、何も見つからなかった。そしてこのパーティーの組み合わせは、これを機に広まってコシロシステムと呼ばれるようになる。

 俺たちは周りの注目が集まるので、昼飯のためにギルドハウスに戻った。
 そして午後の試合まで昼飯にする。

「これでクレアとモーレットも、前のパーティーの奴らを見返すことができたんじゃないのか」
「そんなんじゃないわ」
「そーだぞ。そーゆーのとはちがうんだ」
「どう違うんだよ」
「私はね。庇われるのに耐えられなかったのよ。一人分の働きが出来ないんだから、怒ったりして欲しかったの。それなのに、仕方ないよね、気にしないでって言われてね。一人分の働きができないことを当たり前みたいに言われちゃったから辛くなったの」
「そういうもんか」
「そーゆーもんだぜ」
「ユウサクはアイリに大器晩成って言ってたわよね。その言葉は嬉しかったわ」
「晩成って言うほど遅くなかったけどな。あの魔法の威力を見たかよ。本当は俺が魔導士をやりたかったんだ。こんな奴に譲るんじゃなかった」
「こんな奴って、どんな奴よ」

 俺の言葉にアイリが怒った。頬にキスされてから、少しぎこちない空気になっている。もう俺が怒られるような心当たりはないのに、相変わらず不機嫌そうな顔をこちらに向けていた。

「今回はかなり戦い方を見られたから、来年は厳しい戦いになるぞ」
「あと一年もこのゲームをやるつもりなのね」と沈んだ声でアイリが言った。
「どーやって来年は勝つんだよ」
「レアアイテムを集めるしかないな。地力を上げて勝つんだよ」

 午後の部が始まると、個人戦の対戦表が発表された。
 団体で優勝したおかげか、俺たちはみなシードが割り当てられていた。これならば三回勝てば優勝である。
 一対一の戦は運に頼るところが大きいので、このシードというのはかなり有利である。

 しかし個人戦に関しては最初から捨てているので特に興味はない。ただ、運が良ければ優勝もあり得るので、みんなで出るつもりである。
 そもそも一対一の状況では決闘士が強すぎるので過度な期待はできないのだ。これはもう一対一をするための職業なので、勝てたらおかしいというレベルである。ほぼすべての職業に対して有利が付くのだ。

 その分だけ複数を相手にしたら弱くなるという弱点ももっているからしょうがないとも言える。それと障害物などがある場所で不意を衝いたら暗殺者の一強である。しかしパーティーでは役に立たないので、どちらも選ぶ奴は少ない。今回の大会で決闘士は一人しか参加していなかった。
 対戦表を確認すると、その一人の相手は俺だった。クレアたちの対戦相手を追っていくと決勝まで勝ち進める組み合わせである。

 もし俺が決闘士を倒せば、うちのギルドが優勝できる。いや、俺が優勝できる組み合わせだ。
 幸いにも、決闘士に対して最も可能性がある職業は魔剣士である。ここさえなんとかすれば、優勝は決まったようなものに思える。
 ただし決闘士との勝負はかなり運に左右されるので努力でどうにかなるようなものじゃない。

 午後は見学となるワカナとリカは、つきものが落ちたような晴れやかな顔で応援するねと言っている。俺は勝てる見込みが見えてしまったがために緊張するしかない。
 個人戦は団体よりも早く勝敗が決するので、俺の番もすぐにやってきた。

 試合開始と同時に、俺の右手と相手の右手を繋ぐ鎖が現れる。それが縮んで二メートルくらいの距離に固定された。これが決闘士のスキルである。
 この距離で強制的に戦うことを強いられるのだ。
 鎖を伝って黒い球が飛んできて俺に当たる。

 俺のHPは半分になった。次はフルレジストしましたの表示が出て、HPは減らなかった。
 これが当たっていればHPは四分の一にまで減らされるのだ。その状態からこの距離で戦うことになるのが決闘士という職業を相手にするということなのだ。

 だけど一度でもフルレジスト出来たのは大きい。俺は魔剣を抜いて斬りかかった。鎖を引っ張られてバランスを崩したりするのは嫌なので、最初から距離を詰めて戦う。
 相手は剣とラウンドシールドを持っていた。
 かなりの泥仕合を経て、なんとか俺の攻撃が相手に一撃当たる。その頃には俺のHPは次の一撃を耐えられるかどうかというところまで減らされていた。

 そこで運頼みのデストラクションで勝負を決めに行く。決闘士の攻撃は詠唱阻害効果が常についているので、その攻撃だけはもらわないように、攻撃の合間を縫って放った。
 それで奇跡的に相手は戦闘不能に陥って、なんとか勝利を得る。俺はこれで優勝はもらったと飛び上がって喜んだ。

 俺に続いて、クレアも勝利をおさめ、モーレットやアイリも勝ちを収めた。これでもう優勝は決まったと言っていい。
 残っているのが、俺たちのギルドの四人だけなので優勝の賞品を貰えることは確定した。
 対戦相手に恵まれた運の勝利だ。

 俺の次の対戦相手は、モーレットである。これも正直に言って運の要素が大きい。だが俺に有利な点が一つあるのだ。
 試合開始直後に、俺は魔剣の力を開放してピンクミストを発生させた。本来は攻撃用の魔法だが、これを煙幕代わりにして近づく。

 狙い通り、モーレットは俺を見失っている。俺はピンク色の煙の中を駆けてモーレットの目の前に飛び出した。煙から出たところで最初の攻撃を受けてしまった。しかしクリティカルは発生していない。
 俺の剣は難なくモーレットをとらえた。その次の攻撃は銃で受け止められてしまう。そしてモーレットは走りながら次弾を込める。
 いつの間にかそんなことまで出来るようになっていたらしい。

 次にクリティカルでも出れば確実に終わりだ。モーレットが俺に向かって引き金を引いた。
 俺はエンフォースドッジによって、強制的な回避が引き起こされた加速感を気持ちよく感じながら魔剣を振るった。その攻撃が当たって、デストラクションによってモーレットは地面に倒れた。

「あーあ、やっぱりユウサクには勝てねーのかー」
「まあ頑張った方だぜ。それに運もあるしな」

 俺は動けなくなったモーレットをお姫様抱っこでワカナのところまで連れて行く。個人戦では戦闘不能になった時点で勝負ありと見なされるから、とどめは必要ない。
 ワカナに回復させていたら、後ろでクレアとアイリの試合が始まる。
 俺にはどちらが勝つかわかっていたので、試合を見ていなかった。

 そしたら仲間とは戦わないと言って、棄権しようとするクレアの声が聞こえて愕然とした。冗談ではない。アイリに勝てるのはクレアしかいないのだ。
 俺は棄権なんて認めるなと猛抗議したが無駄に終わった。
 これで俺は、魔剣士の一番苦手とする魔導士と優勝をかけて戦わなければならなくなった。

 すぐに壇上に呼ばれ、連続での試合となるのでMP回復ポーションを貰い、HPも運営によって回復させられる。これでは対策を考える時間もない。
 闘技場に立たされて、目の前には俺の考えた最強の魔法使いが立っている。
 俺はインベントリから詠唱阻害付きのナイフを取り出した。取り出してみたが、これだけで勝てる算段など立つわけがない。

 試合開始と同時に、俺はまたピンクミストを発生させた。
 しかしそれと同時に、アイリのデスペルが俺に入った。確率は4分の一もないのに、それが入ったというだけでやる気がなくなってくる。これだとナイフの攻撃が最低保証ダメージになるので削り切れない。だけど流れば俺に来ている。連続での試合だったから俺はバフを掛けなおしていない。アーマーブレイクもエンフォースドッジもクールダウンタイムを開けている。

 俺はピンクの煙に潜り込んで、アイリが範囲攻撃魔法を使ってくるのを待ちながらバフを掛けなおした。範囲攻撃魔法くらいなら俺の魔法抵抗値でフルレジストしてみせる自信があった。
 しかし何故かアイリは魔法を使ってこようとはしない。

 その手ごわさに辟易しながら、仕方なく俺は煙の中から飛び出した。
 俺を見て杖を前に出してきたので、俺はその手を詠唱阻害付きのナイフで切り付けた。これで魔法を一つでもクールダウンタイムにできたのなら勝機も見えてくるなと考えた。

「キャッ。い、痛いっ……」
 突然、アイリが俺に攻撃された手を抑えてうずくまった。
「お、おい。大丈夫かよ。見せてみろ」

 そう言いながら近寄った俺に、アイリはえいっと言って体当たりをしてきた。見た目からは想像できないほど力強い体当たりに、俺はバランスを崩して尻もちをついた。
 こんな状態で魔法を使われたのだから、俺に勝ち目など万に一つも残されてはいなかった。
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