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悪魔族
しおりを挟む次の日はベルナークで新しく登録したギルドに向かった。
ナタリヤの所属するこのギルドは、脛に傷持つ冒険者が多く登録しているギルドだった。
活気に満ちているという感じもなく、閑散として空気も悪い。
「綺麗な奴隷を自慢げに連れて歩きやがって、ここはお前のような奴が来るところじゃねえぞ」
ギルドに入っただけで、いきなりわけのわからない難癖をつけられる。
いかつい顔をした男だが怖いとも思えなかった。血界魔法を得てから死というものが遠ざかりすぎて、恐怖という感情が縁遠くなっているからだろう。
綺麗な奴隷を連れてダンジョンに行くのは当たり前ではないかという感想しかない。少なくとも龍の城ではみんなそうしていた。
そこからどんな話が展開するのだろうと思って男を眺めていると、俺と男の間に槍が現れて、聞いたことのある女の声が響いた。
「やめときな」
制止の声を発したのはナタリヤだった。
どうせならこいつも連れて行ったほうがいいだろうか。今日はレベル上げよりも、俺の能力を得ることを優先しているから、こいつに協力させた方が楽になる。
転移門の魔術師も、あまり実力に見合わなそうなダンジョンに冒険者を送るのは嫌がられることが多いし、拒否することも珍しくない。
その点、こいつを連れて行けば話が早く済む。
「お前も一緒に来いよ。今日はお前が通ってるダンジョンに行く予定なんだ」
「おい、誰に口を聞いてるんだ。ナタリヤは誰とも組まねえんだよ」
「やめとけって言ってるだろ。黙ってな」
「どうなんだ。来るのか」
「断れないんだろうね。まあいいよ」
「おい!」
さっきからやたらと絡んでくるのが鬱陶しいなと思っていたら、ナタリヤがそいつに殺気を向けた。
「やめなって、下手に絡むと死ぬことになる」
「チッ、本当かよ。何者なんだ」
ナタリヤのことは信用しているのか、その男は素直にさっきまで座っていた壁際の椅子に戻った。
昨日はビビりあがって小便まで漏らしていたのに、強者みたいな雰囲気を出しているナタリヤが面白い。
俺に敬語を使うのはもうやめたようである。
「あいつはお前の子分か」
「そんなんじゃない。ここじゃ新入りが少ないから、ああやって腕試しをして組める奴か確かめるんだ。伝統みたいなものだから大目に見てやってよ。ボクは誰とも組まないから、よくは知らないんだけどね」
「悪魔族の多いダンジョンで一通りの敵を倒したいんだ。できれば転移門の爺さんを貸し切りにしてやりたい。協力してくれるか」
「それで昨日のことを忘れてくれるならいいよ」
昨日のことというのは、俺に槍を突き立てた件だろう。
俺たちは外に出て、朝からやってる酒場で朝飯を食べながら打ち合わせをした。
悪魔系に魔法が効かないというのは、魔物が持つ魔力が強すぎて魔法が効かないという事であった。
悪魔族は高度な魔法を使うが、魔物が使う魔法などワンパターンで、気配を感じたら回避動作をするだけでいけるとナタリヤは豪語している。そのかわり攻撃を食らえば、命を落とす危険も大きい。
それならばローレルたちには遠くから見学してもらって、俺とナタリヤだけで倒すのがいいだろうか。わざわざアリシアに剣まで買い与えたのは、イビルアイに俺の能力まで封じられた場合の保険だった。
そこまで危険が大きいならアリシアはいないほうがいいだろう。
俺たちはギルドに戻って、ナタリヤがいつも使っている転移門の魔術師と交渉を始めた。
一日拘束すると言ったら、金貨三枚も要求された。転移門の魔術師というのはそれだけ儲かるのだろう。
言われた通り金貨を払い、さっそくダンジョンの一階層に飛ばしてもらう。
そこにいたモンスターは黒いスライムと紫色のでかいムカデだった。ムカデの方は既に倒したことがあるし、黒いスライムも能力は得られなかった。
すぐにいったんギルドに戻り、二階層に飛ばしてもらう。
今度は羊のような角の生えたゴリラと、緑のゴブリン、毒々しい色をした蛙である。
ゴリラから体力倍増の能力を得た。
ステータスの能力値で体力が431まで上がって、1.5倍ほどになっている。蛙から毒耐性でも得られるかと期待したが、既に解毒魔法があるし、血液を捨てて血中濃度が下げられる俺には必要がない能力である。
戦闘力は2316まで上がった。
「次は新しい魔物がいないけど、どうする」
「飛ばしていい」
そして4階層と5階層でも能力は得られなかった。
さすがに疲れてきたので、休憩にし外に出てナタリヤお勧めの店で昼食をとる。
6階層で三つ又の槍を持ちコウモリのような羽をもった、これぞ悪魔という感じのモンスターを倒すと、悪魔の翼という能力を得た。
これは体のどこにでも翼を生やすことができる能力だった。
ただ体を浮かせることは出来ないが、コウモリ化すれば空を飛べるようになる。
ナタリヤがいるので試すのにも気を使ったが、空を飛ぶのは意外にも疲れるという事がわかったぐらいである。滑空ぐらいしかやる気にはならない。
翼はいくらでも生やせそうだったので、小さなコウモリに分かれた時の飛行力が格段に向上しそうだ。
「無口なんだな」
「驚いているんだよ。本当にそんな剣を振りまわしていることにね。それに、こんな程度のモンスターから攻撃を受けることにも驚いているし、その攻撃で怪我すらしない事にも驚いてるよ。キミは人間じゃないのかな」
俺を見る目に怯えの色が見える。
こいつも俺のことを魔族かなにかと思っているのだろうか。
俺は話に取り合わず、離れてみているローレルたちと合流するために歩き出した。
次の階層は、7を飛ばして8である。
このダンジョンは8階層に宗主が残っているので、それ以上先には進めない。
そして宗主が残っているために、8階層は魔物の量も桁違いに増える。
また前のように危険にさらしたくはないので、ローレルたちには待機していてもらうことにした。買い物にでも行って来てくれと言って、俺はナタリヤと8階層への転移門をくぐる。
最初に現れたのはハサミをいくつも持ったサソリである。
かなりの大きさで、外皮の硬さも半端ではない。
その一体をナタリヤが素早い動きで横に回り込み、外皮の隙間に槍を突き立てる。
まるで一回の動作に見えるような素早さで、三か所に切り込みを入れて胴体を二つに切り離してしまった。
もはや漁港で働く職人のように手慣れた作業的な倒し方である。
俺は足元から吹き上げられた炎をすんでの所でかわして、地面の上を転がっただけだった。
もう一匹同じのが現れたので、全速力で走り寄って袈裟斬りに太刀を振り下ろした。
ギャリギャリと金属を切るような音と共に、サソリの化け物は二つに裂けて灰になる。
すぐにステータスを確認すると、魔力倍増の能力が増えていた。
魔力の最大値が596まで伸びて、戦闘力はなんと2849にまで上がった。
「そろそろイビルアイも出てくると思うよ。視界に入っただけで魔法もポーションも特殊効果の付いた武器も、すべて効果を失うから気を付けてね」
「怖いな。最初の奴はお前が倒してくれないか」
「なにが怖いのかよくわからないな。結構レアなモンスターだから、最初のを僕が倒しちゃったら、今日のうちに次があるかわからなくなるけど、いいのかい」
「やっぱり俺が倒すか。無理ならお前が倒してくれ。裏切ったりするなよ」
「一緒にパーティを組んだ人間を裏切るようになったら終わりだよね。さすがにそんなことはしないけど、キミのことが怖くて逃げだしたいのは最初からだし、それで逃げ出しても怒らないで欲しいね」
ナタリヤは裾をまくってハーフパンツのようにしたズボンと、タンクトップのような上着しか身に着けていない。
外では上着を羽織っていたが、ダンジョン内ではそれを腰に巻いている。
ここまで一度たりとも攻撃を食らっていないが、こんな格好で攻撃を受ければ死なないまでも瀕死にはなる。
鞄すら持っておらず、ポケットに食べ物の包みの端っこが見えているだけでだった。
「確かにお前向きのダンジョンだな」
「ん」
それを誇るでもなく、ナタリヤは適当な返事を返してきた。
話下手なのか、なにを言っても会話が続かなくてつらい。
汗をかいているから、タンクトップに乳首が透けて見えているから、それが非常に気まずい。
そんなことを考えていたら、頭上に作り出していた灯火の魔法が消えて完全な暗闇が訪れた。その瞬間にあらゆる外部情報が遮断されたような息苦しさにも似た感覚に支配される。
ガシャンと大きな音がして、俺の手から太刀がすべり落ちた。
まさか本当に能力まで封じられるとは思わなかった。剛力の力が消えて太刀を持っていることすらできなくなった。
「来た。雑魚は僕に任せて」
遠くに金色に輝く一つ目が見えた。
俺はサーベルを抜いて全力で駆けた。足元の石ころにつまずいて、何度も転びそうになるが構っていられない。
こうしている間にも俺の体内から魔力がどんどん失われていってるのがわかる。
このままでは魔力を全部分解されてしまう。
足元が見えないので、スピードが出せない。
それでも転がりながら、死に物狂いでイビルアイを目指して走った。
近づくにつれて、視界に入っている部分であろう体の表面に刺すような痛みが走る。これが事前に聞かされていた、分解という攻撃だろう。
目を潰されてはたまらないので、自分の腕を顔の前に出してガードする。
何も見えない暗闇で、イビルアイの金色に輝く目すら確認できずに前に進む。そろそろたどり着くだろうと思ったところで、視界の中に小さな金色の目が入った。
丸い体から生えた触手の先にも目があったらしい。
たった一瞬目が合っただけで分解されてしまったらしく、俺の目は見えなくなった。
しかし、大体の位置は掴んでいる。
弱点は目であり、体のほとんどが目なのだからどこに当たっても同じだ。
俺が剣を振り下ろすと柔らかい手応えが伝わってくる。
しかし触手を一本切ったくらいの手応えだった。
その感触を頼りに敵の位置を脳内で修正して、もう一度剣を振り下ろす。
今度は確かな手ごたえがあって、グチャリと何かが地面に落ちるような音がした。
しかし視界が戻らずに焦る。
状態を確認すると、俺の頭の中に現れた表示の魔力は0になっていた。
「おい、ナタリヤ。どうなった。敵は倒せてるか!」
「そんなに叫ばなくても聞こえるよ。ちゃんと倒せたみたいだね。普通は曲がり角で待ち伏せして倒すものだと思うんだけど、あれだけ視線を浴びて大丈夫なのかな。今、灯火を使うからちょっと待ってて。見てあげるよ」
俺は焦ってナタリヤが灯火の魔法を使うのを妨害しようとした。
「ちょっと待て、灯火はまだ使わなくていい」
「ぎゃー、どこ触ってるのさ! まだいいってなんなのさ! 灯火がなかったら何も見えないでしょ」
「いや、もうちょっと待ってくれ」
俺は手探りでナタリヤの両手を掴んで、魔法を使わせまいとした。血界魔法による再生は見られたくない。
そのままナタリヤの両手を掴んで魔力の回復を待つが、イビルアイが周囲の魔素を消し去ているらしく、まったく藻草が仕事をしてくれない。
暗闇の中で自然回復による魔力回復を待つのは地獄だった。体中が燃え上がるように痛いし、汗のように出血している。
しかも剛力を使えないから、ナタリヤを押さえつけておくだけでも一苦労だ。
「ねえ、このぬるぬるしてるのは血じゃないの。鉄の匂いがするし血だよね。傷を見た方がいいよ。手を放して」
「まて、暗いままの方がいいんだ」
自分の流した血で滑って、はからずもナタリヤを押し倒したような形になってしまった。
そしたらナタリヤが猛烈に抵抗を始めたので、レベル差もあって押さえつけていられなくなり、仕方なく俺は逃げ出すように何も見えない闇の中を走る。
こんな状態でナタリヤに魔族ではないかという疑いを持たれるのはまずい。
色んなところに何度もぶつかりながら、そのたびに涙が出るほどの痛みを味わいつつ、必死の思いでその場所から離れ魔力が回復する場所を探す。
あまりの痛みの中で無理しすぎたため精も根も尽き果てて休んでいたら、灯火の魔法を掲げながら俺の装備を持ったナタリヤがやってきた。
「なにがしたかったのさ。こんなに血で汚して服は弁償してもらうよ!」
「ん、わかった、わかった。ちょっと静かにしてくれ」
得られた能力は"魔眼"とある。
自分の体に新たな眼を作り出す能力だが、その増えた視界で魔力が見えるようになるだけだ。物や魔力を分解するような力は全く得られなかった。
もうちょっと距離があったら確実に死んでいるところだった。
ナタリヤが言うように、引き返してでも角待ちした方がよかったかもしれない。しかし俺はナタリヤのように敵の気配なんてものは全くわからないのだ。
運良く倒せたこの結果に満足しておくべきだろう。
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