裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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魔剣

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 魔力酔いが軽くなっていることもあって、裏庭ダンジョンと東京を往復することにした。
 とりあえず大図書館までの道のりを一掃する。
 東京のダンジョンとは違って、ほぼ一本道だから時間はかからない。

 まる一晩かけて、4種類で計500個ほどのクリスタルをかき集めた。
 レベルが上がったお陰で、ほぼ走り回るような勢いで大図書館まで到達した。
 最近では魔光受量値の上がり方が蘭華たちとそれほど違わないから、あまり長居するわけにもいかない。

 それにしても東京にいる間に、ずいぶんとレベルが上がったものだ。
 かなり敵が弱くなっているのを実感できる。
 次の日には電車に飛び乗って東京まで帰ってきた。
 それで半日も休めば、ぴったりとパーティーでの探索に間に合った。

 探索するのには昼も夜もなく、本気で探索している奴らの間では、魔光受量値がゼロになったらダンジョンに入るのが普通である。
 何も言わなくても蘭華の方から、もう行けるわよと言ってきた。
 蘭華が探索に本気になってくれたおかげで、有坂さんにもいい刺激になっている。

 最近では民間がやっているパーティー連携のための講習会にも出ているそうだ。
 そんな料理教室みたいな感覚で、命がけの戦いの参考になるのかはわからない。
 しかし、動きがよくなって連携がとりやすくなっているのは事実だ。

「魔法を使うよ!」

 そう叫ぶのが、有坂さんが支援として魔法を撃ってくる合図だった。
 それで俺が射線を開けてやれば魔法はしっかりと敵に当たる。
 マジックアローの場合は、操作性の高い魔法だから避ける必要はない。

 むしろ、声掛けに合わせて、魔弾でも放って敵の足を止めてやれば、一発の魔法で三匹の頭を貫くこともある。
 しかし三本も出る魔法の矢すべてを操るのはなかなか成功しない。

 安全な位置にいて、タイミングを見計らって放ち、俺が敵の動きを止めていても難しい。
 魔力が上がれば魔法の性能も上がるので、高度な魔法を覚えるには有坂さんのレベルが低すぎたという事だろうか。

 最初は有坂さんもリンクストーンで石礫をぶつけていたが、すぐに砂になってしまった。
 今ではその砂を防御に使っている。
 石ではコボルトのレイピアを防げない事から生まれた苦肉の策だ。

 自分の身を守るだけじゃなく、蘭華に足場も提供している。
 その有坂さんが、休憩中にポツリと語った。

「妻に先立たれてね。それで恐れ知らずになった私はダンジョンに入ったんだ。ダンジョンから得られた力のおかげで、この歳になっても若い頃よりも体が動くよ。それに君たちのような若い人とも知り合うことができて、一緒に行動できるのが楽しいんだ。ここにいると子供の頃に野山を駆けていた時のことを思い出す。妻へのいい土産話もできた」

 そう言って有坂さんは笑っている。
 俺はどう答えたらいいのかわからない。
 なんとなく話しておきたくなってねと、有坂さんは言った。

「そんなの自殺と一緒じゃないですか。剣治と同じですよ」
「俺は危険を求めてダンジョンに入ったんだよ。死にたいなんて微塵も思ってなかったね」
「二人とも運よく魔法が手に入ってなかったら、どうなっていたか考えなさいよ」

 確かに、俺は運に恵まれたところが大きい。
 だけど所詮は試練の遺物だから、恐れずに立ち向かえば道は開けるのだ。
 しかし蘭華が怒るのも無理はない。

 俺から見ても有坂さんの行動は自殺に近い。
 初めて会った時から有坂さんには、生気のようなものが感じられなかった。
 生気の塊のような相原が近くに居たからそう感じたのかもと思っていたが、そうではなかったようである。

 コボルト地帯をローラーするように移動しながら倒し続ける。
 ドロップアイテムを集めることに関しては二人に任せているが、レイピアが出たらしくレアが出たと喜んでいる。
 強い敵から落ちたものだから喜ぶのもわからなくはないが、大した価値はない。

 なにせそれを買う奴らは、まだガーゴイルかレックスあたりを相手にしているような奴らだから、そんなに金はないのだ。
 たまに出るクリスタルの方がまだ高価なのだ。
 石塔の加護のおかげで、最近ではレッドクリスタルも値下がりしてしまった。

 もう少し奥に行ってみるかと考えていたら、後ろの二人から悲鳴が上がった。
 何事かと思って振り返ったら、目の前に宝箱が鎮座していた。
 俺が後ろに逃がしたコボルトから出たのだろう。

 パーティーでやるようになってから、やたらと敵を倒す数が増えているから出たとしてもおかしくはない。
 宝箱の前にしゃがみ込んだ蘭華は無造作に開閉装置に触れようとする。

「お、お、お、おい、ま、待てって―――」

 宝箱の中身は魔法による抽選で、どんなアイテムでも呼び出される可能性がある。
 開閉装置に触れた者の心理状態を読み取って、多少は抽選結果に影響するのだ。
 俺の制止も聞かずに、蘭華は宝箱を開けてしまった。

 出たのは、最もいいアイテムが出る可能性の高い宝箱だ。
 俺は緊張のあまり見ていられなくなって目を閉じた。

「おー」
「凄いわ!」

 二人の歓声が聞こえる。
 俺が恐る恐る目を開くと、大きな剣を抱える蘭華の姿が見えた。
 赤く光るぶ厚い刀身に、先の方が少し広くなっている形。

 大図書館の知識で検索するまでもない。
 俺が一番欲しかった剣、体力を吸収できる魔剣ダーインスレイブである。
 剣にはもう一段上の希少性があるが、フロッティと同じ希少性のレアアイテムである。

「よ、よくやった。蘭華!」

 喜ぶ俺の声を聴いて、蘭華が俺のことを睨んだ。

「なによ。まさか自分の物だとか言い出すつもりじゃないでしょうね。私が倒した敵から出たのよ」

 蘭華は面倒なことを言いだした。

「いやいや、それは俺に必要な奴なんだよ」
「私が使うわ」
「つ、使うって、そんなもの振り回せないだろ」

 蘭華は慣れない仕草で、バットを振るみたいにブンッと振ってみせた。
 得意気な様子である。
 どう考えても蘭華の体重で、そんなものが振れるのはおかしいが、霊力によって可能になっている。

「俺の魔法とも相性がいいんだ。お前にはナイフがあるだろ」
「どうしようかしらね」

 そう言って蘭華は笑った。
 どうやら冗談で言っていたようだとわかって、俺は安心する。

「俺が使うから寄こせ」
「じゃあ、交換ね。このナイフは私のものよ」

 フロッティは一人でダンジョンに入る時には、蘭華に返してもらって使っている。
 なければゴーレム地帯に行って帰ってくるだけで、何時間もかかってしまう。

「俺がそのナイフを使いたいときはどうするんだよ」
「そんなの簡単よ。蘭華様、どうかお貸しくださいって言えば貸してあげるわ」
「じゃあ交換でいいよ。有坂さんもそれでいいですか」
「もちろんだとも」

 一発でこんなものを引くとは、蘭華の豪運には恐れ入る。
 俺は受け取って改めて眺めてみた。
 蘭華の身長ぐらいある先細りしていない刀身に、先っちょだけ水牛の角みたいに広がって反り返った刃がついている。

 そして根元には片方だけ刃の付いてない部分があった。
 たぶん肩に乗せておくところだろうと思われる。
 これでさらに俺の回復量が上がり、剣が軽くなって攻撃も当たりやすくなる。

 これだけレアアイテムがあると、コボルトなんかを相手にするのはもったいなく感じる。
 レアが行き渡ったことで、かなり戦力が上がってしまった。
 有坂さんのマジックワンドは大した品じゃないが、それでもレアだ。

 二人のレベルも20を超えたから、俺ならソロでコボルトゾンビを倒してた頃である。
 そろそろ本格的に宝物庫を目指してもいい頃だろう。
 第三層への道を見つけるために、そっちへと移動する。

 第三層への入り口を守っていたのは、オーガだった。
 大図書館を守っていたのよりは一回り小さいが、手には棍棒を持っている。
 その棍棒を見た蘭華と有坂さんは表情を強張らせた。

 あれで殴られたら革の鎧なんてあってないようなものだ。


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