裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

文字の大きさ
35 / 59

しおりを挟む




 雲に乗って遊びたいという相原兄妹のために、二人のアパートがある千代田区までやってきた。
 外から声をかけると、二人は揃って隣り合った扉から出てきた。

「ちょっと機嫌が悪そうに見えるな」
「伊藤さんなら理由がわかるんじゃないですか」
「いや、想像もつかないよ」

 そんなこともわからないのかと相原は鼻息を荒くした。

「僕と伊藤さんだけ、大したアイテムを手に入れていないじゃないですか」
 つまらない理由に俺は呆れるしかない。
「それを言うなら俺の方が少なかったぞ。お前はいくつも貰ったじゃないか。かっこいいのがなくて怒ってるんだろ」
「いえ、僕はチームに対しては献身的な精神を持ち合わせているので納得しています」
「嘘つきで、強欲で、いいところが一つも見つからないな、お前は」
「誉め言葉と受け取っておきましょう」

「それよりも、あの建物は何だったんでしょうね。あんなものが地底にあるなんて気味悪いですよ」
「確かにな。モンスターの発生源と何か関わりがあるんですかね」
「俺にわかるかよ。それよりもどこに行きたいんだ」
「憂さ晴らしが出来るならどこでもいいっすよ」

 好き放題に生きていて、どこに憂さの貯まる余地があるんだよという話である。
 大図書館の知識では、この雲では騎乗魔獣である麒麟には対抗できない。
 魔法による攻撃を受けてしまえば、騎乗魔獣のように魔法やアイテムで治すということは出来ないし、すぐに機能が落ちて墜落の危険性がある。

 もし対抗できるのなら、また現れた時のために隠しておくメリットもあるが、対抗できないなら、噂にして相手に危機感を持たせた方が、日本のダンジョンにちょっかいを出しにくくなっていいのではないかと思う。

 現に魔法の絨毯が日本にあるうちには、あいつはやって来なかったのだ。
 日本にやってきたのは、魔法の絨毯が海外の金持ちの手に渡ってからである。
 売らないと言っていたくせに、とんでもない額を積まれて持ち主は売ってしまったのだ。

「これを売ったら、みんな一生遊んで暮らせますよね」
「似たようなものが出てくるだろうし、どうだろうな」
「でも、法律で海外の人には売れなくなるみたいですよ」

 ダンジョンの攻略が終わったらどうでもいいのだが、それまでは売らずにとっておきたい。
 それを相原に納得させておく必要がある。

「しばらくは俺たちで足がわりに使えばいいだろ」
 同意を求めた俺に、相原は青い顔を向けた。
「楽しむどころか、金玉が縮みあがって手がべたべたですよ」

 最初の十分くらいは俺も死ぬほど怖かった。
 しかし、すぐ慣れて恐怖は感じなくなる。
 下にいる人たちに見つかったので、今日の夕方頃にはニュースに取り上げられるだろう。

 これであの麒麟に乗った奴への牽制になればいいが、持ち主として俺たちが取り上げられるのはあまり感心しない。
 地上からなるべく顔がわからない距離を保って飛行した。

 鎌倉の山中に降りて、海で少しだけ泳いだ。
 少しだけと言っても、力も体力も肺活量も探索者のそれだから、ひと泳ぎのつもりで、あっという間に沖に出てしまった。

「伊藤さん、高そうなエビがいますよ。捕まえましょう!」
「……それ密漁なんじゃないのか」

 少し泳ぐだけだと言ったのに、相原はシュノーケルまで買っている。
 そして同じものを桜にまで買って、密漁を強要していた。
 相原は捕まえられなかったが、桜が一匹捕まえて相原に取られる前に逃がした。

 まだ魔力酔いの強い桜の顔色がよくないので、早々に切り上げて帰ることにした。
 二人を帰してホテルに戻ると、蘭華が部屋にやって来て、俺に買い物袋を投げてよこした。

「自分だけ遊んできたのね。こっちはアンタが、ずだ袋みたいな服をいつまでも着ているから、哀れだと思って買い物に行ってきてあげてたのよ」
「相原が雲に乗せろって、一日中メールを寄こすんだから仕方ないだろ」
「私も連れていけばいいじゃない」
「お前があんなもので喜ぶとは思わなかったんだよ」
「馬鹿じゃないの。喜ぶわけないでしょ。それで鎌倉で遊んできたわけね」
「なんで場所まで知ってるんだ」
「ニュースでやってたわ」

 これで蘭華をどこかに連れていったら、有坂さんもという事になりはしないだろうか。
 有坂さんはダンジョン教室に行っているので、休みの日は忙しい。

「鎌倉じゃ寒かったから沖縄でも行ってみるか」

 行きたくないようなことを言っていたくせに、水を向けたら蘭華は顔を輝かせている。
 本当に行くことになってしまって、4時間もかけて沖縄の無人島まで行った。

 そこでも俺はコンビニで買った500円の海パンで泳ぐことになる。
 蘭華はとても高そうな水着を着ていた。

 どうにもこいつは、ダンジョンで拾ったものを勝手に売る癖がある。
 相原ですら拾ったものは最後には俺に集めるという意識があるのにだ。
 しかし、普通のドロップ品の処理など、もはやどうでもいい。

「何考えてるのよ」
「……泳がないのか」
「子供じゃないのよ」

 さすがに水着で近くをうろうろされると恥ずかしい。
 シートやらなんやらの準備が済むと、俺の隣に座ってくれたので、視界から見えなくなって安心する。

「これで、どこのダンジョンでも行けるようになったな」
「そうね。でも、心地よく移動できるのは、今の季節だけじゃないの。私は冬にあんなもので移動するなんて御免だわ」
「お前は歳を重ねるごとに性格が刺々しくなっていくよな」
「はあ? ふざけたこと言ってると、容赦しないわよ」

 大人っぽくなったのは見た目だけで、中身は昔から何も変わっていない。
 闘争心にあふれた目で睨まれては、さすがの俺だって何も言えなくなる。
 綺麗な景色を前にして、よくこんなにも神経を尖らせられるものだ。

 昔は俺が子分のように連れまわしていたのに、最近は俺の方ばかりが振り回されているように思える。
 その関係が逆転したのはいつ頃からだろうか。



 休みが終わったら、5人で三層を回ることにした。
 更衣室から出ただけで、皆の装備が尋常じゃないから注目を集めた。
 蘭華なんて足が光っているし、有坂さんはローブの裾から足が4本出ている。

 相原は重そうな盾を背中に担いで、どしどしと歩いていた。
 構えたら全身が隠れるような、とてつもなく大きな盾だ。

「見てください。テレビの取材カメラまで来ていますよ。もはや僕らに文句を言える奴は誰も居ませんね」
「そんなの、もともといなかったろ」
「早く新しい装備を試してみたいですよ。さっさと下まで行きましょう」

 三層に降りても、先行した蘭華がすべて倒してしまって、俺たちに出番はなかった。
 やたらと足の速い奴である。
 新しく出た刀は、オーガの胴体を一刀の元に真っ二つにした。
 有坂さんの魔法も次から次へと放たれ、オーガくらいなら軽々と倒していた。

 宝物庫に入る前は、俺一人しか戦えなくて、全部俺が倒していたのにだ。
 やっと戦力になってくれたかと、うれしい誤算だ。
 大した武器も出なくて落ち込んでいたのに、こんなにも戦えるようにってくれるとは思っていなかった。

 相原もオーガの棍棒に殴られたくらいじゃびくともせずに、魔槍によって伸びた槍が相手に届くようになった。
 魔槍はいきなりグンッと勢いよく伸びるから、相原のリズム感のなさも手伝って敵も避けにくいだろう。
 重量のある盾が衝撃を殺してくれるから、持ち手にも負担がない。

 相手が強化コボルトに変わると、三人はまだスピードについていけてなくなったが、レベルを上げれば何とでもなりそうだった。
 有坂さんは手数頼りだし、相原は無謀さに磨きがかかったが、決して悪くない。

 これならオーク討伐に参加するメンバーを鍛えた方がいいように思える。
 どっちを優先したほうがいいのだろうか。

「相原、もっと周りを見ろ」
「えっ、周りに敵なんかいないじゃないですか」
「有坂さんの射線を遮ってたぞ。それに槍を振り回したら蘭華が近寄れない」
「なるほど。勉強になります」

 素直だが、まだこんな調子なのだ。
 蘭華と有坂さんは今日で、霊力二万は超えるだろう。
 桜と相原はそれよりも六千くらい遅れている。

 数だけは多い強化コボルトを相手して、その日の探索を終えたら、俺は自衛隊の宿舎に顔を出した。
 そこで赤ツメトロに蘭華と有坂さんを貸し出したいと伝え、自衛隊の方は俺が手伝うと申し出た。

 すでに二回くらいしかダンジョンに潜れる余地はないが、それでも霊力の底上げにはなる。
 山口さんは日程表を眺めながらいいでしょうと言ってくれた。
 そして、もう一つ参加する船橋のチームには、相原と桜を派遣することになった。

「ですが、東京班だけだけが参加する作戦ではありません。伊藤さんとダンジョンに行くメンバーはこちらで選ばせてください。他の参加チームに関しても、こちらでメンバーを指定します」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

【運命鑑定】で拾った訳あり美少女たち、SSS級に覚醒させたら俺への好感度がカンスト!? ~追放軍師、最強パーティ(全員嫁候補)と甘々ライフ~

月城 友麻
ファンタジー
『お前みたいな無能、最初から要らなかった』 恋人に裏切られ、仲間に陥れられ、家族に見捨てられた。 戦闘力ゼロの鑑定士レオンは、ある日全てを失った――――。 だが、絶望の底で覚醒したのは――未来が視える神スキル【運命鑑定】 導かれるまま向かった路地裏で出会ったのは、世界に見捨てられた四人の少女たち。 「……あんたも、どうせ私を利用するんでしょ」 「誰も本当の私なんて見てくれない」 「私の力は……人を傷つけるだけ」 「ボクは、誰かの『商品』なんかじゃない」 傷だらけで、誰にも才能を認められず、絶望していた彼女たち。 しかしレオンの【運命鑑定】は見抜いていた。 ――彼女たちの潜在能力は、全員SSS級。 「君たちを、大陸最強にプロデュースする」 「「「「……はぁ!?」」」」 落ちこぼれ軍師と、訳あり美少女たちの逆転劇が始まる。 俺を捨てた奴らが土下座してきても――もう遅い。 ◆爽快ざまぁ×美少女育成×成り上がりファンタジー、ここに開幕!

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

処理中です...