裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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オーク

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 朝食を食べている広間には、このホテルに泊まった100人以上が集まっていた。
 他のホテルも合わせて、全部で300人は参加する作戦だ。

「豪勢な朝飯だな」
「そうね。縁起でもないわ」

 蘭華が不機嫌そうに言った。
 出陣前に豪勢な食事を出されたら、嫌でも命の危険があることを思い出す。
 常に一緒に行動している自衛隊の装甲車や輸送車の物々しさも、どうしたって戦争を連想させた。

 戦闘ヘリや戦闘機すら、空港には何機も用意されていたのだ。
 ここに来て周りもやっと戦地に向かうのだという空気になってきたような気がする。
 これなら、わざわざコンビニで食べ物を買い足す必要などなかった。

 誰でも好きそうな料理が食べ放題だ。
 夕食は明らかにレトルト食品のような味がしたし量も少なかったが、たぶん準備する時間が足りなかったのだろう。

「ダンジョンで出た武器なんてナマクラだろ。やっぱり魔鋼で作られた刀だよ」
「だけど、すぐに刃こぼれするんだろ。その点、ダンジョンから出た奴は頑丈だぜ」
「切れなきゃ意味がねーよ」

 隣からそんな声が聞こえてきた。
 標準語のようにも聞こえるが、関西のなまりがあるように感じる。
 うるさいが、このくらい気負わないでいてくれる奴がいるというのは有難い。

 誰だって国からの要請というのは建前で、オークが落とすアイテム目当てで参加しているのだ。
 回復アイテムまで支給されながら敵が倒せるなら、誰だって黒字になる。
 それに霊力だって普通にやるよりかは、かなり上がりやすいだろう。

 オークとの戦闘経験があれば逃げられないという危険性があることを知っているはずだが、今のところ北海道以外でオークは確認されていない。
 朝食の時間が終われば、東京班、滋賀班、熊本班に分かれて、トラックに分乗した。

 トラックに揺られること3時間、着いた先では、まずテント張りからだ。
 オークの砦からはかなり離れた位置にあり、トラックと戦闘車両で、いつでも離脱できる位置にベースキャンプが作られる。

 ハイゴブリンの見回りがやって来ない位置にあり、万が一に来たとしても森の中に見張りを置いておけば、ハイゴブリンくらいは仲間を呼ばれる前に倒せるという寸法である。
 すでに森の中には先に来た自衛隊の精鋭が展開中だった。

 最後に、効果があるのかわからない迷彩柄のネットをかぶせてテントは完成である。

「こんなものかしらね」
「あのでかいテントはなんなんだ」
「説明してたじゃないの。食堂とお風呂よ。食事は食べられるときに食べていいそうよ」

 食堂のテントは小さいから、順番に食べなければあふれてしまう。
 食事の時間は長めにとってくれるという事だ。
 その後で各自テントの中で装備に着替えた。

 武器は休憩の間も外さず、常に持っているように言われている。
 やっとここまで来たかという感想である。

「そんじゃ、次はオーク狩りだな。しばらくは暇になりそうだ」
「どうしてよ」
「オークくらい、わざわざ俺が倒すほどのもんでもないだろ」
「あら、その程度なのね」

 それは俺ならであって、蘭華なら結構いい勝負になるはずだ。
 俺が戦った時も、命懸けの捨て身でやってなんとか勝てたくらいだった。
 しばらくして集合の合図が掛けられ、クリスタルが各自に配られる。

 赤、橙、黄、青、紫のクリスタルがパティ―ごとに配られて、歓声が上がった。
 ほとんど俺が出したものばかりだ。
 しかしこれきりで補充は出来ないから、クリスタルが無くなったパーティから作戦には参加させられないと告げられた。

 俺が村上さんに頼んで売ってもらった分くらいだから、これ以上の補充できないというのは事実だろう。
 それにクリスタルを簡単に使ってしまうような奴らを残しておいても、物資を減らすだけだ。

「最初は東京班から行きます。先導するのでついて来てください。魔法は班長の指示があるまで使用禁止です」

 東京班を率いるのは山口さんであるらしい。
 脇には山田さんと加藤さんの他に5人ほどを連れている。
 残りのメンバーは見張りでもやっているのだろうか。

「なんだよ。東京班は女だらけじゃねーか」
「こりゃ、貞操の危機だな」

 他の班の奴らがギャハハと下品に笑った。
 京野が青筋を浮かべるが、俺は構うなと言って前を向かせた。

「僕がいるのに危機なんてあるわけないだろうがぁ!」

 何故か、相原が一番激昂して暴れ出したので、あわてて押さえつけた。
 今にも殴り掛からんばかりの勢いだ。

「なにするんですか。あんな奴ら黙らせてくださいよ!」
「そんなに興奮しなくてもいいだろ。あいつらは味方だぞ」
「静かにお願いします!」

 山口さんのピリッとした声で、場の空気は静まり、三班が揃って前進を開始する。
 相原も大人しくなったので手を離した。
 かなり太い木が生えていて、いきなり視界がまったく効かなくなった。

 小枝を手で払いながら、黙って前を歩いている奴について行く。
 後ろを見ると、まるで昔の軍隊の行軍みたいで、かなり壮観な光景だった。

「どこまで行くんだろうな」
「丘の上に行くって言ったじゃないの。全然聞いてないのね」
「それって、あの丘の上ですか?」
「いや、それよりもずっと離れたところにある丘だよ。トロールがリンクしない距離にあるらしいよ」

 有坂さんとバイクで見に行った丘ではないようだ。
 リンクというのは何かと蘭華に聞いたら、モンスターには敵を認識できる距離があるのだという。

 そんな訳のわからない理屈に頼っていて大丈夫なのだろうか。
 哨戒してるゴブリンがいるなら、そんなの関係ないような気がする。

「ずっと離れているからトロールは大丈夫だよ。それよりもオークに集中しないとね」
「有坂さんはオークなんかにビビってるんですか。僕の後ろに居れば大丈夫ですよ」
「へえ、お前はそんなに使える奴なのかよ」

 美香に惚れているらしーなと、寄ってきた京野が相原の耳元で声を潜めて言った。
 確かに相原の守りは堅いから、オークぐらいなら耐えられないこともない。
 赤くなって話せなくなってしまった相原に代わり俺が答えた。

「危なくなったら、そいつの後ろに回れば助かるのは間違いないぞ」
「そーか、いざって時はよろしくな」
「よろしくね」

 相原は小さくええと呟いたが、小宮が現れたら何も言えなくなった。
 やはり意中のお相手は小宮であるらしい。
 訳がわからない。

「女の人が苦手だから、作戦中に話しかけると危ないわよ」
「そうです。意識が抜けたようになってしまうので気を付けてください」

 蘭華と桜が、相原の取り扱い方を解説している。
 確かにそういう説明も必要だろう。
 それにしてもいつまで歩かされるのだろうか。

 先頭にいる山口さんの槍の穂先が見えるだけで、視界が悪すぎる。
 何度か行軍が止まったものの、しばらくしてやっと視界の開けた丘の上に出た。
 岩のごつごつした山頂部分だけ木が生えていないのだ。

 なるほど、悪くない場所だった。
 頂上に着いたら、そこから中腹に生えている木を魔法で焼き払う。
 木はすぐに炭になって延焼することもない。

 山頂で三方向に班を展開させると、そこに現れたハイゴブリンにアイスダガーを放って敵を呼ばせる。
 ゴブリンの悲鳴はかなり遠くまで響いているだろう。

「伊藤さんは中心にいて、崩れそうなところを手伝ってください」

 山口さんの指示に従い、俺は真ん中に陣取った。
 ほどなくしてオークが丘を駆けあがってくる。
 丘の勾配が緩すぎて、オークの脚力がまったく殺せていない。

「我、神軍の元帥なり! いざ、尋常に勝負!!」

 前の方から相原の叫び声が聞こえた。
 小宮がいるからか、いつにもまして狂気に磨きがかかっているなと感心する。
 そんなに偉い奴だったのかよという、京野の訳のわからない突っ込みも聞こえてきた。

「なんだよ、あれ。頭おかしいんじゃねーのか」

 右の方に展開している滋賀班のやつが相原のことを笑って言った。
 最初は敵が近づく前に魔法で倒せていたが、そんなのは長く続かない。
 前の方から、ズゴンと相原が盾で敵の突進を受けた音が聞こえてきた。

 同時に悲鳴が聞こえて、有坂さんの魔法が光る。

「どいてッ!」

 蘭華の切羽詰まった声が聞こえて、オークの頭が宙を舞った。
 東京班は問題なく倒せているようだ。
 次第に両サイドにも敵が突っ込み始めた。

 滋賀班の方から、銀色の鎧が血をまき散らしながら人垣を超えるように飛んできて、地面に落ちると転がってきたので、俺が足でそれを受け止めた。

「大丈夫か」
「うっ……」

 どうやらまだこいつは生きている。
 しかし、滋賀班は阿鼻叫喚の様相で、まったく前線が維持できていない。
 オークの魔弾を食らって、盾やら武器屋らが宙を舞っている。

「どけ!!」

 こらえきれずに俺が叫ぶと、オークが人混みを蹴散らしながらこちらに突っ込んできた。
 前衛が逃げてしまっているから、後衛にまで被害が出始めている。
 気持ちで負けてしまっているから、このままじゃ立てなおせない。

 気合を入れなおす必要があるなと考える。
 普通に倒したんじゃ駄目だろう。
 俺は突っ込んできたオークに、全力の蹴りを放った。

 凄まじい衝撃を足に感じて、オークはその場ではじけ飛び、肉のようなものをドロップした。

「ビビるな! 回復もあるし恐れる必要はないぞ!」

 辺りが静まり返って、みんなこちらを見ている。
 次に突っ込んできたオークを、盾を持った奴が体当たりするように受け止めた。
 そのオークに俺がアイスランスを放つと、それに続けとばかりに剣や槍、斧を持った奴らがオークに突っ込む。

 それで何とか前線を維持できる体制になった。


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