裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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決行日

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 確かにダンジョンから生み出されるモンスターは、執拗に追いかけたりしないから下見はありだったのかなとも思う。
 上を見ている人がいなければいいな、という希望と共に下に降りた。
 移動してる間は、上にかかっていた雲と同化していたから大丈夫だろう。

 俺たちはまた空港まで戻ってきて、蘭華たちと合流した。
 京野が蘭華に付き合って待っていてくれたようだ。

「どこ行ってたのよ。皆とっくにホテルに行ったわよ」
「トイレで震えてたんじゃないのか」
「そんなところだ。さっさとホテルに荷物を置いて、飯でも食いに行こうぜ」
「ご飯も用意してくれてるわよ」
「なんだよ。急に腹が据わった顔になったな」

 ホテルに着いたら、すでに自衛隊によるブリーフィングが始まっていた。
 ひたすら長い説明を聞きながら、俺たちは飯を食った。
 班ごとに分けられ、詳しい役割を説明されたが、俺はろくに聞いていなかった。

 バイクの免許をとろうかななんて考えていた。
 あそこに捨てるように置いてきたバイクは修理して使えないだろうか。
 すでに自衛隊が考えた作戦は破綻したようなものだ。

 オークは倒せるが、トロールは倒せない。
 試練は、リスクを取って戦おうとする者にのみ、道が開けるようになっている。
 ノーリスクで倒そうとする考え方にこそ、危険が伴うようになっているのだ。

 作戦を立案している人たちは不安で仕方ないだろう。
 これまでやってきた戦略の延長でどうにかしようとしているのだろうが、通用するかどうかなんてわかっていない。

 わかっているのは、相手の弱点として移動速度が遅いという事だけなのだ。
 そう考えると、普段ダンジョンに入っている山口さんあたりが、今回の作戦を立てているのだろうか。

 蘭華が熱心に聞いているから、そっちの方は任せておけばいい。
 その後はホテルの部屋を割り振られて、使われなくなっていたのか、やたら埃臭い部屋で休むことになった。
 シャワーで汗を流してベッドで横になる。

 相部屋になったのは相原と有坂さんだ。
 ツインの部屋で、一人はソファーで寝なければならない。
 相原がソファーでいいだろうと、俺は早々に寝てしまった。



 寝て起きたら、作戦決行日当日である。
 俺だけ早くに目覚めてしまったので、なにか食べ物でも買おうかと外に出た。
 空港前だというのに、かろうじて営業しているコンビニが一軒あるだけだった。

 コンビニに入ると、京野が腰ぎんちゃくを連れて店内を練り歩いているのに出くわした。
 いつか見た背の高い女と、おっとりしていそうな女の二人だった。
 落ち着いて見れば、周りにいるのは作戦に参加する奴らばかりだ。

「アンタも糖分が欲しくなったんだろ」
「まあな。どうしてわかるんだよ」
「ダンジョンに入る奴は、かなりのカロリーを消費するからな。お前は作戦の要なんだろ。腹減って動けなくなるような真似はやめてくれよ」

 京野は後ろの二人を紹介してくれた。
 背の高い方が小宮で、おっとりした方が斎藤だそうだ。

「たくさん食べるから油っぽいものはつらくないですか」
「確かにね」

 ポテトチップスの棚を見ていた俺に、斎藤の方が話しかけてきた。
 たしかに最近は食欲があるが、それほど変わったという感じはしない。
 しかし蘭華となると、最初はコンビニのおにぎり一個とかで一食を済ませていたのだから、女の人にとってはかなり食べるようになるという事だろう。

「さっそく色仕掛けしてますよ」
 小宮がわざと聞こえるようにしていった。
「さっそくやってるな」
 そしたら、京野がこれ見よがしに同意する。

「なんの話だ」
「その女には気を付けろよ。無自覚に男を引き付けるからな」
「そ、そんなことありませんよ!」

 隙のあるような感じがするから、男が寄ってくるという事だろうか。
 小宮の方は、以前蘭華にその男について行けば死ぬとまで言っていた女である。
 今なら、その時のことは、ただの勘違いであったとわかっているだろう。

 少し気まずい感じでいたら、小宮は俺に小さく頭を下げた。

「その節は、どうも申し訳ありませんでした。まさか貴方が伊藤さんだとは知らなくて」
「いや、いいってそんなの」
「なんだよ。顔見知りか?」

「あれ、伊藤さん。いないと思ったらこんなとこにいたんすね。やっぱり出される食事だけじゃ足りないんですか」

 訝しがる京野の声をかき消すように、朝の店内には似つかわしくない声が聞こえてきた。
 店内に入ってきたのは相原だった。
 さっそくソファーの寝心地の悪さについて何事か言い始めるが、その相原の尻を京野が蹴って言った。

「よう。お前、伊藤の子分だな。評判良くないぞ。伊藤の名前で威張り散らしてるってさ」

 京野はニヤニヤと笑いながら言った。
 京野にそう言われて相原は固まった。
 そのまま顔を真っ赤にすると、相原はコンビニから逃げて行った。

「今のまずいんじゃないのか……」
「ん? どうしてだよ。挨拶しただけだろ。そんなに気難しい奴なのか」
「気難しいというか……、その……」

 なんとも口にしづらいが、アイツは肩をポンと触られたくらいで恋に落ちるような奴だ。
 今のは相当な危ない橋を渡っている可能性がある。
 というか、相原の反応を見る限り相当やばい。

「今の人、きっと美香の事好きになったのよ」

 美香というのは京野の名前だろうか。
 大した慧眼だと思いながら斎藤さんを見る。
 何か楽しいことでも見つけたみたいに、顔を輝かせていた。

「なんだよそれ。変なこと言いだすなよな」
「意外と渋い感じだし、美香となら悪くないと思うなあ」
「やめてよ」

 なぜか小宮が顔を赤くしている。
 のん気な感じで斎藤が渋いと言っているのは相原のことだろうか。
 確かに最近は世を拗ねたような、斜に構えたような顔でむくれていた。

 おぞましい不満を、ただため込んでいるだけなのに、それが渋いというのは違うだろう。
 ホテルに帰ったら朝食の用意が出来ていたので、チームごとに割り振られた丸いテーブルに座った。

 すでに俺のチームはみんな揃っている。
 相原が熱に浮かされたような顔でボケッとしていた。
 俺は買ってきたコーヒー牛乳やらなんやらを一緒に並べて食べ始めた。

「伊藤さん、あの方は何という名前なのですか」
「お前も知ってるじゃないか。京野だよ」
「なんか、凄く嫌な予感がするんですけど……」

 様子の変わった相原を見て、桜はなにか気付いた様子だった。

「違いますよ。僕にちょっかいを出してきた人がいたじゃないですか。あの後ろにいた背の高かった女人ですよ」
「お前の周りでは時空でも歪んでんのか。お前を蹴っ飛ばしたのは、間違いなく京野だぞ」
「お兄ちゃん、まさか……」

 ちょっかいを出したのは間違いなく京野である。

「あの背の高い人の名前を教えてください」
「たしか小宮と名乗っていたな」
「なるほど、小宮という名前なんですか。素敵な人だなあ」
「誰なんですか、その哀れな人は」

 桜はまたかという顔をした。
 哀れというのは、相原のアプローチが酷いということを言っているのだろう。

「小宮美香という人ね。私がレベル上げを手伝ったから知っているわ」
「美香ってのは、京野の名前じゃなかったのかよ。おかしいのは俺だけか!」

 じゃあ斎藤は、相原が小宮に惚れたところまで見抜いていたという事になる。
 しかし小宮は相原にちょっかいなど掛けていないのだ。
 ケツを蹴られて惚れてしまったという話はどこに行ってしまったのか。

「伊藤さん、お兄ちゃんは事実すら捻じ曲げますから気にしても無駄ですよ」
「その言葉を聞いて安心したよ」
「伊藤さん、僕には新しい使命が出来ました」

 俺は思わず箸を取り落としそうになった。

「こいつはスゲーや。もうそこまで思い込んでるのか」
「いつものことです」

 桜は既に平然とした顔で朝食に戻っていた。
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