裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

文字の大きさ
43 / 59

作戦本番

しおりを挟む



 丸一日の休日が与えられて、心なしかみんなの表情も明るいような気がする。
 レベルも霊力も十分に上がって、金も入ってくるから文句はないだろう。
 琵琶娘と書いてビワコと読むらしい山本のチームは、男に店番させた出店を開いている。

 現在6名の男メンバーと9名の女メンバーで、店と輸送と作戦を手分けしてやっている。
 チームに娘と入っているのは、メンバーが少数のうちに先走ってチーム名を付けたからだと七瀬は言っていた。

「いらっしゃい!」

 テントを改造した出店では、元気のいい男が店番をしている。
 装備に欲しいものはないが、ふざけた値段で売っている食べ物は少しだけ欲しい。
 しかし、あの山本に金が入るのかと思うと買う気にもならない。

 俺が品ぞろえを見ているうちに他の奴らがやってきたが、そいつらにはいらっしゃいの挨拶もない。
 どうやら身に着けている装備を見て、金を持ってそうな奴にだけ愛想がいいらしい。
 さすが山本のチームに属しているだけある見事な守銭奴ぶりだ。

 俺の格好は、金属の丸みを帯びた鎧に、厚手の生地のクローク、それに手甲とブーツだ。
 その下に薄手の革で作られた服を着ていた。
 さすがに剣はアイテムボックスの中に仕舞っている。

 あとは守護竜の首飾りというレアアイテムだ。
 確かに、装備品を見れば大体の所持金にもあたりを付けることができる。
 それでも山賊スタイルの格好をした奴はさすがに見なくなっていた。

 しかし、すべてをダンジョン産で揃えている奴はまだ少ないし、ぼろ切れのようなマントの奴らが多い。
 そこに俺と同じような恰好をした相原が出てきた。
 傍から見ると、プロテクションクロークはさながら中世の騎士のようで見た目はいい。

 昨日、俺に向かって散々悪態をついたくせに、すでにそのことは忘れているのか、相原はいつも通りの表情だった。
 一晩中、この世に対する怨嗟の声を上げ続け、泣き疲れて寝るという離れ業まで披露したのに顔色は悪くない。

 店番の男は相原にも元気よくいらっしゃいませと言っている。

「流石に、こんなところで一日過ごすのは暇ですよね」
「札幌まで往復でトラックを一台出してくれるってさ」
「いいですね。行きますか」

 結局はいつものメンバー5人で、札幌まで行って遊んでくることになった。
 たいして見るものもないが、有坂さんが相原を風俗に連れていこうとして桜に知られてひと悶着あったりもしながらの観光だった。

 有坂さんと相原はキャバクラに行こうとしただけだと主張していたが、もっとハードなところに行こうとしてたのは間違いない。
 それに桜にとっては、その辺の違いが分からないから不潔ですの一言で終わりだ。

 そんなこんなで、戻ってきたのは夜遅くだった。
 ほとんどの奴は魔力酔いでダウンしていたから、トラックの同乗者は少ない。
 薄暗いトラックの荷台で揺られるというのは、なんとも言えない不気味さを感じる経験だった。

 ベースキャンプに戻ると桜は寝込んでしまった。
 そこらじゅうからうめき声が聞こえてくるベースキャンプは、さながら野戦病院のような重苦しい雰囲気がある。
 俺以外で、比較的魔力酔いが軽そうなのは蘭華と有坂さんくらいだ。

 敵を倒さないと急激に魔光受量値が下がって、魔力酔いが酷くなるのだろう。
 もはや俺など、魔力酔いは意識しないとわからないくらい弱まっている。
 帰りにラーメンを食べてきたから、満腹なのも手伝って、俺は早々に寝てしまった。



 明けて翌日、蒼い顔をした山口さんは、顔色の良くない面々を前にして作戦内容を告げた。
 その内容は俺が予想していたよりも、かなり激しい戦いが予想される内容だった。

 全体のレベルが上がっているのは確かである。
 怪我はヒールかクリスタルで治し、普段のような格下狩りではない、上位モンスターを相手にした狩りだから、参加メンバーにしてみれば、今までとは比べ物にならないほどのレベル上昇幅だろう。

 それは金銭的にも十分な恩恵が得られていることでもあり、だからこそ脱走者ゼロでここまでやって来られた要因にもなっている。
 琵琶娘の買取価格でも、それは十分に感じられているはずだ。

 しかし万全の態勢でやっていた今までの作戦ではそうだったという話である。
 それも、砦から離れた場所で、比較的楽な作戦内容だったからだ。
 今回は、かなり砦に近い位置での作戦になる。

「なあ、今回の作戦はやばくねーか」

 京野ですら不安そうな声を漏らすほどだ。
 これでは全体の士気も上がらないだろう。

「どうだろうな。体調はどうなんだ」
「昨日は苦しかったけど、今日はそれほどでもねーかな」

 下手をしたら四方からオークが突っ込んでくるような場所である。
 それに、山口さんは気付いていないのかもしれないが、最初の作戦で倒したオークのリスポン時間はそろそろである。
 だから砦の近くは、新しいオークがダンジョンの中から出て来ている可能性すらある。

「今までは伊藤さんのチームがいてくれたからこそ可能だった作戦です。今回も、重要な役割を担ってもらうことになりますのでよろしくお願いします」

 みんなの前で、改めてそんなことを言われる。
 その後で、俺のチームだけ作戦本部のテントに呼び出された。
 そこで告げられた詳細な作戦の内容は、俺と蘭華と有坂さんに敵の数を減らすための工作をやってもらうという内容だった。

 詳しい内容は、単独で森の中に入り込み、複数の手負いのゴブリンを作り出すことだ。
 複数個所で、ゴブリンからの悲鳴が上がれば、作戦を展開する地点にやってくるオークの数を減らせるのではないかという読みである。

 これは確実な習性だという確信はないだろう。
 チームであれ単独であれ、オークの森に入って行ってゴブリンを半死にできるような探索者は自衛隊の中にいないと思われる。

 山口さんも言った通り、今までの作戦は俺のチームがいたから何とかなった部分が大きい。
 つまり作戦が上手く行かなければ、これまで以上の数を俺のチーム抜きで倒さなければならなくなるのだ。

 蘭華と有坂さんが単独で森に入るのは問題ない。
 蘭華はそもそもスキルと靴によってオーク程度には捕まらないし、有坂さんは木を蹴って地面に足を着くことなく移動ができる。

 オークに木をなぎ倒される心配はあるが、そもそも有坂さんはオークに近寄る必要もない。
 これまでの作戦で戦場となった丘は、一帯の木がなぎ倒されて、かなりひどい有様になっている。

「俺だけでも残った方がいいんじゃないですか」
「確かにそうかもしれません。今回は四方から来ますからね」

 今思えば、俺がこの作戦で最初に抱えていた不安は、誰かの死を目にすることになるかもしれないという不安だった。
 今になってそれがはっきりとわかる。

 だから、どうしても皆から離れて一人で森に入る気にはならなかった。
 作戦は朝の8時から開始となった。
 隊列を組んで、これまでよりもかなり長い距離を移動する。

 森の中では蘭華が音もなく、発見と共に敵を斬り伏せた。
 森の中を数時間歩いて着いたのは、いつもより急斜面を持った丘の上だった。
 これなら山口さんが無理な作戦をやろうとするのもわかるというほど、理想的な陣地だ。

 現場に着いたら、蘭華は左の森に消え、有坂さんは右の森に消えた。
 どちらにもイエロークリスタルを多めに持たせているから、事故はないと思いたい。

「ロビンフットっていうより忍者みてーだな」

 木の幹を飛び移りながら、森の中に消えていった有坂さんを見た京野の感想である。
 具足に生えた昆虫のような足には、鎌のようなものが生えていて、真っすぐに伸びた木でも、そこを足場にして上に飛べる。

 しばらくすると遠くの方で木がなぎ倒されるような音が聞こえてくる。
 それを作戦開始の合図にして、通りがかったハイゴブリンに魔法が放たれた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない

戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――! 現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、 中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。 怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として 荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。 だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、 貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。 『良領主様』――いや、『天才王子』と。 領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、 引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい! 「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく! ――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚! こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています 是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...