42 / 59
支給品
しおりを挟む「ちょっと、あの女は何よ」
「なんだよそれ。ヤキモチ焼いてるみたいに見えるぞ」
「なッ」
その一言だけを残して、蘭華は消えるようにどこかへと行ってしまった。
忍者スタイルも様になってきたなと感慨深い。
二刀流は攻撃力が出ないから、やめさせようかとも考えていたのだが、レアな刀の切れ味が尋常ではないから、あれでもいいかと思い始めている。
気が付くと有坂さんと相原がニヤニヤしながらこちらを見ていた。
俺はそんなんじゃないと手を振って否定する。
「今日は口上が聞こえなかったぞ。調子でも悪かったのか」
「違う目立ち方をしようとしたのですが、失敗しました。伊藤さんは後ろの方で、美少女とイチャイチャしてましたよね。どういうことか説明して欲しいのですが」
「そんなんじゃないって」
「相原君は敵を蹴っ飛ばして倒そうとして、前線を崩しかけたんだよ。伊藤君からも何とか言ってやってくれないかな。私が言ったんじゃ、聞こうともしないからさ」
「いえ、その必要はありません。自分にはまだ早かったと深く反省しています」
あれは目立とうとしたんじゃなくて、士気を高めようと思ってやったのだ。
そんなことをするよりも、相原がボスオークを受け止めた動きは誰もが凄いと思ったはずだ。
出来ることだけやっていればいいのに、真似などするからおかしなことになるのである。
ベースキャンプに戻ってくると、だいぶ遅れた晩飯の時間になった。
皆は空腹だから気が立っていて、揉めている声も聞こえる。
空腹なのに缶詰しかないという、どん詰まりの状況だ。
この頃から、班の中でどこのチームが使えないといった諍いをよく聞くようになった。
踏ん張りが利かないと吹き飛ばされて、戦線が崩れる。
そこに命がかかっているとわかっているから、甘いことは言っていられないのだ。
東京班は大体が赤ツメトロだから温和な雰囲気があるし、熊本班は前線がしっかりしているので揉めることも少ない。
言い争いが起こっているのは、主に滋賀班だった。
魔鋼から作られた装備を使っているから、ダンジョン産のものよりも動きが制限される。
魔物は裏に回ったり、鎧の隙間を狙ったりという知能がないから、中世の鎧を復元した装備では無駄になる部分が多い。
それに両手武器が多いのも問題である。
盾でなければオークの魔弾は防げないのだ。
気質なのか滋賀のダンジョンで出る敵の種類のせいなのか、なぜか前衛も武器を持つのが普通になっている。
盾を持たせるにしても、武器を変えなければならない。
このままだと滋賀班だけクリスタルが尽きてしまうこともありえる。
俺は山口さんを見つけ出して、滋賀班にヒーラーを回すように進言してみた。
「これだけ強固にまとまったチームを崩すのはどうなんでしょうか。受け入れてもらえるとは思えません。それに班としてのまとまりも、東京班と熊本班は理想的なんですよね。ですから、私から東京班と熊本班のヒーラーに、滋賀班の回復も頼んでみましょう」
魔法なら届くから、それでもいいだろう。
作戦を開始してしまったからには、新しいオークが出てくる前に砦を制圧したいのか、山口さんには焦りの色が見えた。
しかし、もう作戦参加者の魔光受量値は限界に来ている。
事前の予定でも、明日は休日という事になっていた。
俺でさえ、ボスなんか倒す羽目になったから、魔光受量値に余裕はない。
全体的な雰囲気が悪くなっていたせいもあってか、この日は酒が配られることになった。
わざわざトラックを一台走らせて、札幌から届けてくれたそうだ。
酒だけじゃなくタバコやチョコレート、お菓子などの嗜好品も届いた。
まるで戦時中の支給物資だ。
しかし食べ物だけは、また米と缶詰だけである。
ここで缶詰を届けると決めた自衛隊のお偉いさんに対しては殺意しかない。
食料は運搬したり動かしたりすることはないのだから、缶詰である必要はないはずだ。
戦いに出れば、配られた栄養補助食品をかじるくらいしか余裕はない。
火だって使ってる奴はいくらでもいるのだから、調理ができないという話も今更である。
ダンジョンの外にいても、敵を倒せば魔光受量値は溜まっていた。
しかも常に下がり続けてもいるから、魔光受量値が下がるにしたがって魔力酔いが引き起こされる。
だからここに居ると、常に魔力酔いしているような状態なのだ。
なので俺は酒を飲む気にもなれなかった。
静かに横になっていたら、蘭華が呼んでいると桜に言われて、テントを移動する。
「こっちのテントは広くていいな」
蘭華も桜も細いから、もの凄く広く感じられる。
テントの中にはチューハイの空き缶が転がっていた。
「言っておきたいことがあるのよ。剣治には最近になって女の人に愛想よくされている自覚はあるのかしら」
「言われて見れば、確かにな」
どうも周りの女が俺に対して愛想がいいと、最近になって感じていた。
これまではそんなことなかったから、明らかに何かが変わっている。
「強ければお金も稼げるし、身を守ってもらうこともできるわ。だから強い男に対して色目を使う女が多いのよ。ちょっと、聞いてるの。変な女に騙されないようにアドバイスしてあげてるのよ」
そんな話、俺に限っては必要ない。
あきらかに酔っぱらっているのだろう。
蘭華には、いつもの凛々しさが感じられなかった。
「お前も強い奴に興味あるのか」
「ないわよ」
「それで何が言いたいんだ」
「だから、鼻の下伸ばしてるんじゃないわよ。だらしないわね」
「伸ばしてないだろ」
「アンタみたいな唐変木にはわからないでしょうけど、みんなくっついたり離れたり、周りは凄いのよ。しかも、今一番狙われてるのが剣治だわ」
本当だろうか。
そんなに周りが乱れているとは知らなかった。
「わかった。気を付けるよ」
「よろしい」
そう言って蘭華は俺に寄りかかってきた。
そんなに飲んでいたのかと思ったら、桜まで蘭華に寄りかかって、俺に重しが乗ってくる。
その時、テントの入り口が風に吹かれてバタバタと舞い上がった。
俺と目が合った相原は、やっぱりクズなんすよーと叫びながら走り去ってしまった。
それに気づいた桜が蘭華から離れる。
蘭華の方は離れる気がないので、無理やりテントの中に横たえて、俺は自分のテントに戻った。
「伊藤さんはやっぱりクズなんすよ! だってそうじゃないっすか!」
ビールを抱えて戻ってきた相原は、俺を見るなりそんなことを言いだす。
有坂さんは何も言わずに、相原の抱えるビールを一本引っこ抜いてフタを開けた。
「それは羨ましいってことでいいのか。それが、どうしてクズってことになるんだ。たまたま酔っぱらいに絡まれてただけだろ」
「普通、飢えて死にそうな人が近くにいたら、豪勢な食べ物を食べたりしないでしょう!? でも、百歩譲って、食べるだけならまだ許せますよ。まだね。だけど伊藤さんは、見せびらかしながら食べるんですよ! 人の皮をかぶった悪魔の所業ですよ!! どうして餓死寸前の、飢え死にしそうな奴の前で、よりによって3Pなんか見せつけるんすかぁ。わあぁぁぁぁあああ!!」
あまりのくだらなさに話を聞く気も失せてくる。
「お前、言葉には気を付けろよ。蘭華に聞かれてたら殺されるぞ。それに妹の名誉も傷つけすぎだからな。あと、たまたまお前が通りがかっただけで、見せつけるつもりなんて微塵もなかったよ。しかも、お前がゲスの勘繰りをこじらせてるだけで、俺は無実だぞ」
「僕を責めるんすか! こっちは飢え死にしてんすよ!」
「本気で号泣するような話じゃないって言ってるんだよ!」
「まあまあ、そんなに興奮しなくてもいいじゃないか。相原君のいいところをわかってくれる女性もきっと見つかるさ」
「そういう心にもない慰めが一番いらないんすよ! 可愛いツンデレの幼馴染を超える属性なんて、この世に存在もしないんすよ!」
強い男がモテるというなら、相原にもチャンスの一つくらいあってもいいはずだが、女と話せないというのでは救いようがない。
禅問答じゃあるまいし、そんな難題をどうしろというのだ。
テントの中にいると相原がウザ絡みしてくるので、俺は眠くなるまで外を歩くことにした。
相原は酔っぱらうといつもこうだ。
外を歩いていたら、なんともいいにおいが漂ってきた。
ふらふらと匂いに吸い寄せられていったら、山本と七瀬が鉄板を囲んでなにやら作っていた。
覗き込んだら、なんとそこにはお好み焼きがあるではないか。
ソースの上にマヨネーズまで乗っている。
「いくらでも払うぞ」
「なんや、食べたいんか。お金なんか取るかいな。座りいや」
一瞬だけ、山本も悪い奴ではないのかもしれないと思ってしまった。
まず七瀬が食べ、そして山本が食べたら、七瀬が俺の分を焼いてくれた。
ひっくり返されただけで、いいにおいが漂ってくる。
「こんなものどうしたんだよ」
「荷物を運ばせとるのに持ってきてもらったんや。役得やな」
山本のウインクはなぜか様になっていた。
「もう食えるんじゃないか。そろそろいいだろ」
「いいわけないやろ。ここからが腕の見せ所や。素人は黙っとき」
七瀬は顔はいいくせに口はすこぶる悪い。
「勘弁したってや。これで、こいつも満更でもあらへんのやで。アンタのパーティーメンバーが、えげつない装備を使わせてもろてんのは、周知の事実やしな」
「そんなわけないやろ。うちは嫌や」
そう言いながら、七瀬はもう一度ひっくり返した。
「いいから早く仕上げてくれよ。もういいだろ」
「アホ、素人はうちの手際を黙って見てればええねん」
こいつはと思うが、お好み焼きの作り方なんて知らないから口出しは出来ない。
しかし、出来上がってると思うのにひっくり返しているのが納得できない。
「もういいから。ちょっとどいててくれ。形になってりゃいいんだよこんなもん」
「これだから素人は――って、ちょっ、何してんねん。お好み焼き作ってんのやぞ。邪魔すんなや」
邪魔くさいと思ってどかそうとしたら、本気で抵抗された。
抵抗するどころか殴りかかってくる勢いだ。
「わしぁ、アイドルやぞ。なに気安く触ってんのや! おどれは変態か!」
小さいくせに、興奮したらやたら高圧的な喋り方でギャーギャーと騒がしい女だ。
俺はただ、殴りかかってきたから突き放しただけである。
やっとお好み焼きにありつくころには深夜になっていた。
明日は魔光値をさげるための休みらしいから、このくらいの時間なら平気だろう。
10
あなたにおすすめの小説
ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします
ランド犬
ファンタジー
異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは
――〈ホームセンター〉
壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。
気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。
拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。
サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――
最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~
ある中管理職
ファンタジー
勤続10年目10度目のレベルアップ。
人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。
すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。
なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。
チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。
探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。
万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。
「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」
チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。
だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。
魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。
だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。
追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。
訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。
そして助けた少女は、実は王国の姫!?
「もう面倒ごとはごめんだ」
そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~
ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。
コイツは何かがおかしい。
本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。
目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる