裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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帰還

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 ひと眠りしてキャンプに戻ると、まだ宴会は続いていた。
 俺は山本たちのテントに引っ張り込まれていた。

「彼女ヅラすんのはええけど、少し貸すくらい別に渋らんでもええやんな」

 彼女がいるという事になっても、別に山本はマイペースを崩さなかった。
 許可さえもらえばいいんだとばかりに、俺を自分のテントに連れて来た。
 金の成る木という単語をどこかで聞きつけたらしく、目を血走らせている。

「なんやの。男なんか連れ込んで、山本は素行が悪いわ」

 寝ていたところを起こされて、七瀬はすこぶる機嫌が悪かった。
 今日は鎧はつけていない。

「これでな、七瀬も悪くはないねんで」

 そう言って山本は七瀬の後ろに回り込む。

「なんや?」

 といってる七瀬の真っ白な胸元が、山本によってガバリと開かれた。
 テントに引き込まれて何を見せられているのだろうという気分になる。
 というか、見えてはいけない物まで見えてしまった。

 七瀬は悲鳴を上げながら、胸元を押さえつけた。

「どや、わるくないやろ」

「悪くないって言うか、なんかおかしかったぞ。どうなってんだよ」

「おかしなことあらへん。陥没してるだけや」

「おどれはなにさらしてくれとんのじゃ!! 頭でもおかしいんか! そん中、腐っとんのか! ぶちまけて見せてみいや!!」

「ちょ、やめてえや」

 七瀬は鬼の形相になって、山本の頭をひっつかむと地面に打ち付け始めた。
 石でもあったのか、額が割れて血が噴き出したが、七瀬は手を止める気がない。
 しばらく黙って見ていたが、さすがに山本の抵抗が弱まってきたところで止めに入る。

「おい、そのくらいにしとかないと、ムショの中でアイドルごっこやる羽目になるぞ」

「だぁまっとれやボケ! こんあほ殺さな気いすまんわ」

「堪忍や。堪忍やで。アンタを売り込むしか、私にはもう勝機がないんや」

 山本は滝のように血を流していて気持ち悪い。

「お前らのお笑いにはついていけないわ」

「お笑いちゃうわボケ!」

 これでアイドルを自称できるのだから恐れ入る。
 俺は余っていたクリスタルを一つ山本に渡すと宴会に戻った。
 真っ白な肌に緩やかな膨らみをもった光景が頭から離れなくて苦労した。




 最後にダンジョン内に入って、調査する任務を与えられた。
 ダンジョンの中はいきなり天井が高く、二層くらいから始まっているような感じだった。
 トロールを倒したせいか、ハイゴブリンとオークが綺麗に配置されて、東京のダンジョンと変わらない様相になっている。

 それだけ確認して外に出ると、ダンジョンの周りに自衛隊の待機所が作られていた。
 俺たちは魔法でオーク砦の残骸を燃やすように頼まれる。
 それが終われば東京まで飛行機で送ってくれるそうだ。

「チッ、まともに戦えたのは一日だけかよ。ダンジョンなら東京にもあるからよ」

 そう言ってクラウンの奴らは勝手に帰って行った。
 滋賀から来た奴らも、何人かが勝手に帰ってしまっている。
 俺は別にやることもないから、手伝うのはやぶさかではない。

「うちは後片付けなんて地味な仕事、嫌やわ」

 七瀬が愚痴っている。
 本性を知っている俺は、かまととぶりやがってと思ったが、近くに居た山本も舌打ちしていたので、俺と同じことを思ったに違いない。
 今の俺にはその気持ちがわかる。

 俺としては、北海道のダンジョンから厩舎を目指すか、というのが差し当たって決断を迫られている。
 ダンジョン内の施設には宝箱が配置されているが、麒麟を手に入れた奴がいるであろう中国のダンジョンからの方が近いのだ。

 苦労して行ったものの、宝箱は空でしたという可能性がある。
 一層目からオークが出るし、中ボスとしてトロールが出るダンジョンだから攻略するのも簡単ではないし、どちらにしてもしばらくはレベル上げをすることになる。

 往復自体は空飛ぶ雲を使えば、特に気にすることもない。
 オーク砦の跡地に散らばった木材には、変な液体が絡みついていてなかなか燃えなかった。

 なにかの体液だろうが、こんなものが絡みついていたのでは、焼夷弾を使ったとしても燃えなかっただろう。
 魔法で焼くのも苦労するくらいだ。
 そんな地味な作業に邁進していたら、また山本が絡んでくる。

「なあ、金の成る木いうんは、すぐに実が成るんか」
「いや、植えてから数百年はまともに成らないらしいぞ」
「まともに成らんいうことは、少しは成るんやろな」
「だろうな」

 この阿呆は、金のことしか頭にない。
 いまだに金の成る木に未練たらたらで、頭から離れないらしい。
 こんな奴に付き合うのも今日でおしまいだから清々する。

 午後には別々の飛行機に乗って、こいつらは滋賀だか大阪だかに帰るんだろう。
 琵琶娘の土屋という男は、さっきまでドロップの買取をやって、一足先に帰って行った。
 買取なんて一人しかやってないから、相当の在庫を抱えたはずだ。

 そこで七瀬がやって来て、俺は予想外に狼狽してしまった。
 昨日の光景がまだ頭に残っている。
 七瀬の方は怒りに満ちた表情だった。

「昨日見たもんは、はよ忘れ。ええな」
「ああ」
「忘れる必要なんてあるかいな。こいつの体が欲しなったら、いつでも私に言いや」
「おどれはまだ、そんな世迷いごとを言うとるんか。しまいにゃ殺さなならんことになるで」
「これでアイドルやて、笑えるやろ」

 笑えねーよと思いながら作業に戻る。
 途中で一度抜け出して乗り捨てたバイクを探しに行き、見つけたそれは有坂さんにバイク屋まで届けてもらった。

 事故って雨ざらしになっていたのに、バイクはまだ動いた。
 結局、作業は午後の一時過ぎまでかかって、その後で飛行機に乗って東京に帰ってきた。

 帰りの飛行機は宴会騒ぎの延長線のようになっていて、赤ツメトロのメンバーがはしゃいでいる。
 飛行機の中で金の成る木について相談したが、俺の家の庭にでも植えようという話になった。

 企業に売るのも悪くないが、何かしら成長を促進させるような宝物が出た時のことも考えて、すぐには売りたくないという事だった。
 しかし、俺は田舎ではもう知らない人がいないほどの有名人になっている。

 庭なんかに植えておいて大丈夫だろうか。
 それでも植えなきゃ何も始まらないから、そのくらいしか選択肢がない。
 有坂さんの家には庭がないそうだし、相原はアパート暮らしだ。

 蘭華も自分名義の土地など持っていない。
 東京に着いたら、とりあえず予定は立てずに魔光受量値を下げるための休日だけ設定して解散となった。
 俺はすぐに村上さんのところに行って、溜まっていたアイテムを売り払う。

 村上さんは顔を輝かせて、テレビで伝えられた活躍について語ってくれた。
 思った以上に詳しいので、かなり詳細なことまで世間に知られてしまったようである。
 売っている中に目ぼしいものはなかったので、そのままホテルに帰った。

 ホテルに着いたら、いつものように蘭華と晩飯を食べる。
 これまで大人数でずっとやっていたから、蘭華と二人きりで食事していたら、言いようのない寂しさを覚えた。

「やっぱりホテルの食べ物って美味しいわよね」
「まあな。もう缶詰なんか見たくもないよ」

 イマイチ会話も盛り上がらずに、その日はホテルで休んだ。
 一番進んでいる東京の攻略組ですら、まだレベル20といったところで、急がなきゃならないような事情もなく、なんとなく目標を失てしまったような気がする。

 そんな気の抜けた頭でいたら、翌朝のニュースに驚かされた。
 滋賀の最大手チームが空飛ぶ城を出して、独立国を宣言したのである。
 続いて海外でも同じような事件が発生した。

 アメリカで出現したものは、大型の帆船だった。
 その帆船はアメリカ軍の巡洋艦を一隻沈めると、空を飛んで逃走したとのことだ。
 停泊所にあった乗り物が、宝箱から出現したのだろう。

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