裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

文字の大きさ
49 / 59

帰還

しおりを挟む



 ひと眠りしてキャンプに戻ると、まだ宴会は続いていた。
 俺は山本たちのテントに引っ張り込まれていた。

「彼女ヅラすんのはええけど、少し貸すくらい別に渋らんでもええやんな」

 彼女がいるという事になっても、別に山本はマイペースを崩さなかった。
 許可さえもらえばいいんだとばかりに、俺を自分のテントに連れて来た。
 金の成る木という単語をどこかで聞きつけたらしく、目を血走らせている。

「なんやの。男なんか連れ込んで、山本は素行が悪いわ」

 寝ていたところを起こされて、七瀬はすこぶる機嫌が悪かった。
 今日は鎧はつけていない。

「これでな、七瀬も悪くはないねんで」

 そう言って山本は七瀬の後ろに回り込む。

「なんや?」

 といってる七瀬の真っ白な胸元が、山本によってガバリと開かれた。
 テントに引き込まれて何を見せられているのだろうという気分になる。
 というか、見えてはいけない物まで見えてしまった。

 七瀬は悲鳴を上げながら、胸元を押さえつけた。

「どや、わるくないやろ」

「悪くないって言うか、なんかおかしかったぞ。どうなってんだよ」

「おかしなことあらへん。陥没してるだけや」

「おどれはなにさらしてくれとんのじゃ!! 頭でもおかしいんか! そん中、腐っとんのか! ぶちまけて見せてみいや!!」

「ちょ、やめてえや」

 七瀬は鬼の形相になって、山本の頭をひっつかむと地面に打ち付け始めた。
 石でもあったのか、額が割れて血が噴き出したが、七瀬は手を止める気がない。
 しばらく黙って見ていたが、さすがに山本の抵抗が弱まってきたところで止めに入る。

「おい、そのくらいにしとかないと、ムショの中でアイドルごっこやる羽目になるぞ」

「だぁまっとれやボケ! こんあほ殺さな気いすまんわ」

「堪忍や。堪忍やで。アンタを売り込むしか、私にはもう勝機がないんや」

 山本は滝のように血を流していて気持ち悪い。

「お前らのお笑いにはついていけないわ」

「お笑いちゃうわボケ!」

 これでアイドルを自称できるのだから恐れ入る。
 俺は余っていたクリスタルを一つ山本に渡すと宴会に戻った。
 真っ白な肌に緩やかな膨らみをもった光景が頭から離れなくて苦労した。




 最後にダンジョン内に入って、調査する任務を与えられた。
 ダンジョンの中はいきなり天井が高く、二層くらいから始まっているような感じだった。
 トロールを倒したせいか、ハイゴブリンとオークが綺麗に配置されて、東京のダンジョンと変わらない様相になっている。

 それだけ確認して外に出ると、ダンジョンの周りに自衛隊の待機所が作られていた。
 俺たちは魔法でオーク砦の残骸を燃やすように頼まれる。
 それが終われば東京まで飛行機で送ってくれるそうだ。

「チッ、まともに戦えたのは一日だけかよ。ダンジョンなら東京にもあるからよ」

 そう言ってクラウンの奴らは勝手に帰って行った。
 滋賀から来た奴らも、何人かが勝手に帰ってしまっている。
 俺は別にやることもないから、手伝うのはやぶさかではない。

「うちは後片付けなんて地味な仕事、嫌やわ」

 七瀬が愚痴っている。
 本性を知っている俺は、かまととぶりやがってと思ったが、近くに居た山本も舌打ちしていたので、俺と同じことを思ったに違いない。
 今の俺にはその気持ちがわかる。

 俺としては、北海道のダンジョンから厩舎を目指すか、というのが差し当たって決断を迫られている。
 ダンジョン内の施設には宝箱が配置されているが、麒麟を手に入れた奴がいるであろう中国のダンジョンからの方が近いのだ。

 苦労して行ったものの、宝箱は空でしたという可能性がある。
 一層目からオークが出るし、中ボスとしてトロールが出るダンジョンだから攻略するのも簡単ではないし、どちらにしてもしばらくはレベル上げをすることになる。

 往復自体は空飛ぶ雲を使えば、特に気にすることもない。
 オーク砦の跡地に散らばった木材には、変な液体が絡みついていてなかなか燃えなかった。

 なにかの体液だろうが、こんなものが絡みついていたのでは、焼夷弾を使ったとしても燃えなかっただろう。
 魔法で焼くのも苦労するくらいだ。
 そんな地味な作業に邁進していたら、また山本が絡んでくる。

「なあ、金の成る木いうんは、すぐに実が成るんか」
「いや、植えてから数百年はまともに成らないらしいぞ」
「まともに成らんいうことは、少しは成るんやろな」
「だろうな」

 この阿呆は、金のことしか頭にない。
 いまだに金の成る木に未練たらたらで、頭から離れないらしい。
 こんな奴に付き合うのも今日でおしまいだから清々する。

 午後には別々の飛行機に乗って、こいつらは滋賀だか大阪だかに帰るんだろう。
 琵琶娘の土屋という男は、さっきまでドロップの買取をやって、一足先に帰って行った。
 買取なんて一人しかやってないから、相当の在庫を抱えたはずだ。

 そこで七瀬がやって来て、俺は予想外に狼狽してしまった。
 昨日の光景がまだ頭に残っている。
 七瀬の方は怒りに満ちた表情だった。

「昨日見たもんは、はよ忘れ。ええな」
「ああ」
「忘れる必要なんてあるかいな。こいつの体が欲しなったら、いつでも私に言いや」
「おどれはまだ、そんな世迷いごとを言うとるんか。しまいにゃ殺さなならんことになるで」
「これでアイドルやて、笑えるやろ」

 笑えねーよと思いながら作業に戻る。
 途中で一度抜け出して乗り捨てたバイクを探しに行き、見つけたそれは有坂さんにバイク屋まで届けてもらった。

 事故って雨ざらしになっていたのに、バイクはまだ動いた。
 結局、作業は午後の一時過ぎまでかかって、その後で飛行機に乗って東京に帰ってきた。

 帰りの飛行機は宴会騒ぎの延長線のようになっていて、赤ツメトロのメンバーがはしゃいでいる。
 飛行機の中で金の成る木について相談したが、俺の家の庭にでも植えようという話になった。

 企業に売るのも悪くないが、何かしら成長を促進させるような宝物が出た時のことも考えて、すぐには売りたくないという事だった。
 しかし、俺は田舎ではもう知らない人がいないほどの有名人になっている。

 庭なんかに植えておいて大丈夫だろうか。
 それでも植えなきゃ何も始まらないから、そのくらいしか選択肢がない。
 有坂さんの家には庭がないそうだし、相原はアパート暮らしだ。

 蘭華も自分名義の土地など持っていない。
 東京に着いたら、とりあえず予定は立てずに魔光受量値を下げるための休日だけ設定して解散となった。
 俺はすぐに村上さんのところに行って、溜まっていたアイテムを売り払う。

 村上さんは顔を輝かせて、テレビで伝えられた活躍について語ってくれた。
 思った以上に詳しいので、かなり詳細なことまで世間に知られてしまったようである。
 売っている中に目ぼしいものはなかったので、そのままホテルに帰った。

 ホテルに着いたら、いつものように蘭華と晩飯を食べる。
 これまで大人数でずっとやっていたから、蘭華と二人きりで食事していたら、言いようのない寂しさを覚えた。

「やっぱりホテルの食べ物って美味しいわよね」
「まあな。もう缶詰なんか見たくもないよ」

 イマイチ会話も盛り上がらずに、その日はホテルで休んだ。
 一番進んでいる東京の攻略組ですら、まだレベル20といったところで、急がなきゃならないような事情もなく、なんとなく目標を失てしまったような気がする。

 そんな気の抜けた頭でいたら、翌朝のニュースに驚かされた。
 滋賀の最大手チームが空飛ぶ城を出して、独立国を宣言したのである。
 続いて海外でも同じような事件が発生した。

 アメリカで出現したものは、大型の帆船だった。
 その帆船はアメリカ軍の巡洋艦を一隻沈めると、空を飛んで逃走したとのことだ。
 停泊所にあった乗り物が、宝箱から出現したのだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

おっさん冒険者のおいしいダンジョン攻略

神崎あら
ファンタジー
冒険者歴20年以上のおっさんは、若い冒険者達のように地位や権威を得るためにダンジョンには行かない。 そう、おっさんは生活のためにダンジョンに行く。 これはそんなおっさんの冒険者ライフを描いた生活記である。

処理中です...