裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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デート

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 アメリカで巡洋艦を沈めた帆船は、ロシアの方に逃げようとしたところで、アメリカ軍による説得を受けている。
 世界の力関係さえ変えてしまうような力に、アメリカ政府の方が折れたようなものだ。

 地球上の兵器に比べ、次元の違う力を持っているから、他国に行かれることだけは阻止したいのだろう。
 砲台が付いただけの、まるで冗談のような帆船だが、地球上にある兵器では傷一つ付けられない魔法テクノロジーが使われている。

 日本で独立を宣言した城付きの空飛ぶ島も、実害が出ない限りは日本政府も手出ししないだろう。
 その力を欲しがるような国はいくらでもあるし、その損害は国家を潰しかねない。

 俺たちの持っている雲とは違って、停泊所にあった宝物は軍用に作られた戦闘兵器だ。
 研究所と大神殿、動力炉、それに主郭を押さえなければならないのも、このダンジョンの持つ兵器の力が大きすぎるからだったという事を、俺に思い出させる出来ごとだった。

「ねえ、とても大きな水たまりがあるわ」

 不意にそんなことを言われて、周囲の騒がしい音が耳に入ってきた。
 自分の考えに集中しすぎて、蘭華と買い物に来ていたことを忘れてしまっていた。
 目の前には、夜の間に降った雨によるものだと思われる、通り道を塞ぐような大きな水たまりがあった。

 ダンジョンができてから、東京中でこのような地殻変動によるへこみやひび割れが出来上がってしまっている。

「飛び越えればいいだろ」
「ヒールなのよ。抱っこしてくれないかしら」
「それは、あれか。俺がお前をお姫様抱っこして、水たまりの中を歩けってことか。俺の靴を犠牲にしてさ」
「そうよ。早くしなさい」

 そう言って蘭華は、俺の肩に左手を乗せる。
 仕方なく俺は蘭華を抱え上げて、水たまりの中を歩いた。
 柔らかい感触がして、損な役回りを押し付けられているのに、あまり損したという気持ちにならないのが困りものだ。

「ごくろう様。次はこのお店に入るわ。下着のお店だから、剣治は外で待ってなさいね。荷物を下に置いて汚したりしないでよ。いいわね」
「ああ、なるべく早くしろよ」

 貯金をするという考えもないのか、容赦のない金の使い方をする。
 命を懸けて自分で稼いだ金だから野暮なことも言えないが、もう少し建設的な使い方があるように思う。

 それにしても、あれほど大きな宝物を動かせば、どれだけのエネルギーを必要とするのだろうか。
 最初は内部に残ったエネルギーで動かしているから気が付かないだけで、エネルギー切れになるのは早いんじゃないかと思う。

 そうなればアメリカで巡洋艦を沈めた奴らは、良くて刑務所行きだろう。
 交渉が成功すれば、あの帆船は遠からずアメリカ軍の管轄に置かれるという事だ。
 日本に出た方は、まだあまり派手に機能を使ってないが、調子に乗ればすぐにエネルギー切れで空を飛べなくなる。

 エネルギーがあるうちは、防犯装置のようなものがあるから奪うことは難しい。
 しかし、エネルギーが切れたら滋賀にいた奴らなんて大したレベルじゃないだろうから、自衛隊が数人も乗りこんだら奪えてしまうだろう。

 高エネルギー結晶体は色々な研究機関で研究されているから、そう簡単に買えるような値段ではない。
 となれば、帆船や空飛ぶ城の脅威自体は一過性のものなのだ。

 動力炉さえ取られなければ、いずれ墜落する。
 宝物の中には、巨大な金属で出来たゴーレムのような兵器などもあり、エネルギーが切れるまでに、国の一つか二つは滅ぼしかねないものもあって、そっちの方が何倍も怖い。

 まるで世紀末が団体でやってきたような話である。
 こんな風にのん気に買い物なんてしていられるのも、今のうちかもしれない。
 やはり厩舎は行ってみた方がいいだろう。

 宝箱を開ける機会は、出来るだけ多く確保すべきだ。

「お待たせ。ちゃんと大人しく待っていたのね。ご褒美に、ご飯を食べさせてあげるわ。何が食べたいの」

 俺が無言で顎をしゃくると、蘭華が頷いた。

「イタリア料理ね。悪くないセンスだわ。行きましょ」

 俺は一階にある牛丼のチェーン店を指名したつもりだったが、二階に入っていた個人店舗のレストランの方だと理解したらしい。
 しかし、せっかくいいセンスだと褒められたので訂正はしない。

 とりあえず、北海道のダンジョンは雲を使っていつでも行けるから、今は必死でレベルを上げておくべき時だ。



 皆をダンジョンに連れていきつつ、休日になったら裏庭ダンジョンに行ってクリスタルを集めるという生活をつづけた。
 アイテムボックスのスキルは同じ物ならかなり多めに入れられるから、クリスタルの保存に困ることはない。

 一回の探索で数百個集まるから、一週間で千個近く出すことができる。
 装備とスキルのお陰もあり、桜のヒールだけで探索できるようになったのも大きい。
 レベルが上がったことで回復量も増えるから、周りでも探索が楽になったいう話を耳にするようになった。

 ダンジョンでは宝物庫の先で、俺たちがストーンゴーレムと呼んでいるゴーレムの強化版が出てきたので、ひたすらそれを倒していた。
 ドロップも自分たちで使うようなものは出ないが、売りに出せばいい値が付く武器が大量にドロップしてくれる。

 そして北海道の方にも探索者がかなりの数で移動していった。
 オークの落とす肉と皮は、村上さんが一度も値下がりしたのを見たことがないと言うほど安定した値段で売れるそうだ。

 しかし、オークに挑めるのは北海道の作戦に参加した奴らだけだったので、あの作戦に参加した奴らは、かなりレベルが先行する結果になった。
 俺もそうだったが、レベル20になってしまえば、かなり狩りは安定する。

 そしてレベルアップで、ダンジョンでの狩りが安定することもあって、周りもメキメキと力を付けてきている。
 そのことに一番危機感を抱いたのは、抗争に明け暮れている奴らだった。

 独立を宣言したくせに、いまだに日本国内のダンジョンに入っているそいつらは、探索者狩りまでやっているという噂が立つようになった。
 ダンジョン内では証拠が残らないから、果たして噂が本当なのかもわからない。

 それに対抗して、探索協会では全員にカードを配った。
 魔法くらいでは炭にならない、ダンジョン産の宝物によって作られたものだ。
 大きな取引にも使える電子マネーの機能が付けられ、それがなければリサイクルショップで素材を売ることもできない。

 これは脱税の取り締まり強化の一環でもあり、取引の許可証も兼ねている。
 しかもレベルに応じてカードの色が変わるという、いらない機能まで付いていた。
 この機能があるために、レベルに見合わないアイテムを買い取りに持ち込んだ場合、それなりに疑いを持たれることになる。

 このカードを使って自分の装備を登録しておけば、殺されて装備を奪われても、それらを市場に流した奴らは足がつくことになる。
 しかし、最上級レア品ならば自分で使う場合において売る必要はないから、殺してでも奪い取るはいまだに成り立っているという事でもあった。

 今日、4度目のストーンゴーレム狩りから帰ってくると、体が心地よい疲れに支配されていた。
 命の危険もないし、ただ作業的に同じことを繰り返すばかりで面白くはない。
 本当に仕事と変わらないなという感想である。

 この日、レベル50に到達した俺のカードは、緑から青へと変わっていた。
 ドロップを村上さんに売って、分配金をそれぞれのメンバーに送金してもらう。
 そんなことまで簡略化されて、ダンジョン探索は俺にとって味気のないものになっていた。

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