裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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愚連隊

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 空飛ぶ島を持つ愚連隊と名乗る馬鹿どもは、日本の法律には縛られないと明言しているにもかかわらず、誰にも手出しができないという状態が続いていた。
 すでにロシアや中国が接触して、引き入れ工作をしているという話もある。

 政府はもとより、威勢の良かった敵対組織すら、解散して地下に潜ると宣言した。
 表立って対抗すれば、チームが入っているビルごと砲撃を受けかねない。
 本当に解散したとは思えないので、時期をうかがっているのだろう。

 俺が目をつけられるんじゃないかと色々な人が心配してくれるが、あんな飛行船もどきより、俺の持っているクリスタルの方が、よっぽど力を持っていると思う。
 戦いを挑まれたところで負ける気はしない。

 何日でも戦い続けられるし、レベル50になってからは一日や二日では魔光受量値は四桁にもならない。
 そのぶん下がるのに時間がかかるようになって、放っておけばゼロにするのに一か月はかかるようになる。

 体力3500を一瞬で削られることがなければ、何時間でも戦い続けることが可能なのだ。
 そんなことを考えながら更衣室を出たら、空飛ぶ島が上空に出現していた。
 やけに薄暗いなと思ったら、奴らが新宿にやってきたらしい。

「凄い迫力ですね。それにしてもなぜ東京なんかに来たんでしょう」
「さあな。それよりも、そろそろゴーレムは卒業しようぜ。レベルの上りが悪くなってきた」
「でも、今のままでも不都合はないんじゃないかな。仕事としてみれば、これ以上の安定はないように思えるよ」

 有坂さんの言う通り、仕事としてみれば安定して稼げる今の状況は悪くない。
 冒険するという事は、それだけ命を危険にさらすという事になる。
 しかし、命を危険にさらさないのなら、わざわざこんなメンバーを集めたりはしない。

「おやおやぁ、こんなところに、かの有名な伊藤がいるぜ」
「ははっ、マジじゃん。今日は俺らの貸し切りだから他に行けよ」
「うせろ」

 空飛ぶ島から降りて来た愚連隊のメンバーを俺は有無を言わさず突き飛ばした。
 周りの空気が凍ったが、俺はお構いなしにダンジョンの中に入った。
 相原はびびって顔面蒼白になっていた。

「だ、大丈夫なんですか、あんなことして。伊藤さんが本気で突き飛ばすから、岩にぶつかって頭から噴水みたいに血を流してましたよ」
「仲間だと思われる方がマズイだろ。お前も甘い言葉に乗るんじゃないぞ」
「でも、敵対するのはまずいんじゃないですかね」
「レベルが違いすぎるんだから、俺たちに手出しなんてできないよ。力の差をわからせておいた方がいいんだ」

 あの空飛ぶ島はいずれ墜落するのだ。
 下手に協力すれば、連帯責任でどんな罪を被せられるかわかったものではない。
 国家反逆罪なんて法律が本当にあるのか知らないが、アイツらは相当やばい橋を渡っている。

「やっぱり、ゴーレムは卒業したほうがいいかもしれないわね。レベルを上げておかないと、あんな人たちにだって、いつかは追いつかれてしまうもの」
「確かに一理あるね」
「常に経験値の美味しい敵を倒し続けて、先頭にいることが安定だと思いますよ。追いつかれたら、アイツらの言いなりになるしかなくなりますからね」
「うむ、それじゃあ今日はゴーレムの奥まで行ってみようか」

 そもそも金を稼ぐだけなら図書館の知識だけでもなんとでもなるのだ。
 その最たるものはレシピで、ダンジョンから産出されたアイテムや食材で、ポーション、料理、新しい魔鋼、どんなものでも作りだせる。

 ダンジョンから出た食材は、それを食べるだけで人体に様々な恩恵をもたらす。
 その効率には、配合するレシピが大きく関わってくる。
 敵が弱くなって面白くなることはないから、今はまだその裏技は使っていない。

 最初は岩にしがみついて登っていたような段差でさえ、今ではひとっ飛びに乗り越えられる。
 それでも宝物庫のあった階層までは、一時間ほど走らなければならない。

 宝物庫のある階層は、世界中のダンジョンと繋がっている階層で、この階層には大図書館や厩舎、武器庫などがある。
 地形も整備されていて、区画ごとに特色があった。

 石のゴーレム地帯を抜けた先は、一度だけ下見をしたことがある。
 それまでのようにモンスターが同じ種類で固まっていない混生区画で、組み合わせによっては危険すぎると感じて引き返した場所だった。

 ゴーレムゾーンを抜けると。街路樹のように定期的に配置された石柱にも注意を払う。
 前回は、この石柱をよじ登る蟻のようなモンスターに上から液体を吹きかけられた。
 蟻酸のような強酸性の液体ではなく、空気に触れると固まる瞬間接着剤のような奴だ。

 これは液体を吐かれる前に有坂さんか蘭華に倒してもらう必要がある。
 それ以外にも、落とし穴を掘って待ち構えている蜘蛛や、急に地面から這い出てくる巨大なカニなどだ。

 蜘蛛は魔法で作られたネットを飛ばしてくるから、本気でやばい奴だった。
 滋賀のダンジョンに出ると言われているモンスターと似ているが、そっちはネットを飛ばしてくるなんて話を聞いたことがないから、強化版だろう。

 さっそくカニが現れ、相原と俺が落とし穴に足を取られてしまい、危うく首を撥ね飛ばされそうになり、とっさに相原を盾ごとハサミに挟ませて難を逃れる。
 さらには蟻が接着液を飛ばしてきて、穴から飛び出したところでそれを踏みつけてしまった。

 靴を脱ぎ捨てようとしたが、強く縛っていたから抜けない。
 それでも無理に靴を脱ごうとしたら、関節から変な音がして、鈍い痛みが足首を襲った。
 霊力が高すぎる弊害に舌打ちしていたら、ライオンぐらいの大きさがある蟻が俺めがけて突っ込んでくる。

 マジで死ぬかと思ったところで、有坂さんが蟻に魔法を叩き込んでくれて、巨大蟻は接着液と共に消えてなくなった。
 蘭華が三体の分身を操作しながら、果敢にも一人でカニと戦っているところへ合流して、カニの頭に魔剣の一撃を加える。

「足元くらい注意しなさいよ」

 靴を新しいものに換えていたら、蘭華がやってきて言った。
 三人の蘭華から見下した態度でそんなことを言われて、心のダメージも三倍だった。
 屈みこんだ胸元も三人分あって、俺は視線をそらした。

 尻も胸元もみっつあるから、もの凄く艶めかしく映る。
 最近では分身スキルも完全に使いこなしていた。
 俺は動揺を隠すために別のことを口にする。

「有坂さんにも索敵スキルが必要ですね」
「そうだね。暗闇でこの蟻は、肉眼じゃ見つけられないよ」
「しっかりしてくださいよ。蟻は有坂さんの担当でしょ。まさか老眼鏡がないと駄目だとか言い出しませんよね」

 ハサミから落ちて血だらけになった相原が言った。

「お兄ちゃんは落とし穴に落ちてただけじゃない。偉そうなこと言わないの」
「いや、老眼鏡は必要ないよ。最近じゃ遠くのものさえよく見える。だけど暗闇だからさ」
「俺の索敵スキルでも、土の中までは探れないんですよね」
「明かりの魔法があるそうよ。それを買えばいいじゃないの」

 その魔法はみんなが欲しがるから、安い割に売りがない。
 そういう便利そうなものは高く売って欲しいものだ。
 山本あたりに相談してみれば、次の探索までには買えるだろうか。

 あいつなら安くて便利なものを買い集めていてもおかしくない。
 仕方なくゴーレムに戻り、相原の魔光受量値が許す限り狩ってから地上に戻った。
 地上に戻ると、愚連隊の面々がダンジョンへの入り口を塞いでいた。

 兵隊と呼ばれる末端の奴らまで勢ぞろいして、30人ほどが横一列に並んでいる。
 迷惑極まりないが、レベルの高い探索者に危機感でも感じて東京の邪魔をしに来たようだった。
 東京は全国で最も平均レベルが高い。

「こいつが伊藤か。お前はもうダンジョンにに入るな。これは命令だ。逆らえばここに居る全員と敵対したものとみなす」

 愚連隊の後ろには警察も来ているし、自衛隊の面々の顔も見えている。
 本当に新宿組の邪魔をしに来たようだ。
 リーダーらしき男は探索者カードからみて、レベル20代中盤といったところだ。

 カモがネギを背負ってやって来てくれたようなものだ。
 口実まで与えてくれたのだから、空飛ぶ島を自分の物にするいいチャンスだ。
 さすがに殺しはまずいが、たとえ殺してしまっても正当防衛が主張できる。

「ためらうなよ。確実に息の根を止めろ!」

 俺は魔法を使いそうな装備の奴を見つけてアイスランスを放つ。
 そいつは避けもせずに、胸から氷柱を生やした。
 大量の血があふれて、氷柱から血が滴った。

 俺はリーダーを目指して突っ込んで、後ろに回り込んだところで魔剣を振りかぶった。

「待て! 待て! 待て! 待て! わかった。わかったよ」

 剣を振り下ろす直前で、リーダーらしき男が命乞いを始める。
 さすがに弱すぎて気の毒になっていたが、敵対を宣言しておいて意味が分からない。

「おい、誰かクリスタルを持ってこい!」

 勝手にアイスランスに貫かれた奴を手当てしてる奴がいる。

「忘れてたよ。そういえばこんなところにいるランカーなんて、全員イカレた命知らずだったな。まさか、そう来るとは思わなかった。仕方ない。お前たちだけはダンジョンに入ることを認めてやる」

 急に早口になって、リーダーの男はおかしなことを言い始める。

「降参するのか。だったらこの空飛ぶ島を置いていけ。そうすれば命だけは助けてやる」

「ふざけるな。もし俺を殺せば上にいる奴が、東京を火の海にするぞ」

「上に残した奴に、それだけの根性があればな。試してみるか」

「やめろ。わかった。もう東京には手を出さない。お前も俺たちに手を出すな。手を出せばお前の生れた町は、この世から消えてなくなるぞ。お前の身元は割れてるんだ」

 都合のいい言い分だが、嘘だとも限らないのが困りものだ。
 なんとかして空飛ぶ島が欲しかったが、上にいる奴が本当にそれをしないという保証もない。
 仕方なく、俺は剣を収めた。

「お前は本当にイカレた命知らずだよ。本気でここに居る全員と戦って勝てると思ってるのか」

「あたりまえだろ。雑魚しかいないじゃないか。ゴブリンが並んでるのと一緒だよ」

「その男は命知らずなだけじゃないわよ。勝算もなく戦いを始めたりしないわ。ただの命知らずが、こんなに長く生きていられるわけないじゃない」

 いつの間にか俺の隣に来ていた蘭華が言った。
 俺のことをフォローしているつもりだろうか。
 二度と手を出すなと言いたいのだろうが、俺としては島を奪い取る口実が欲しいのでありがたくもない。

 破壊覚悟でダンジョンに乗り込めば、かなりの経験値が稼げるのだ。
 もちろんレベルの低い奴なら、一瞬で魔光に焼かれて死ぬことになる。
 愚連隊の奴らはすごすごと逃げ去って行った。

 レベルと霊力の差というものを痛いほど思い知っただろう。
 こうなってしまうと、二度と俺の前には表れないだろうなと思って少し残念だった。

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