裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

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陣形

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 石柱の陰になったところから、漆黒の鎌が伸びて有坂さんの胸に刺さった。
 有坂さんはカマキリの攻撃をもろに食らったが、それでも一撃で命を落とすということはなかった。

 重たい装備を身に着けていなかったから、吹き飛ばされて追い打ちを受けなかったのもよかったのだろう。
 ゴム毬のように吹き飛ばされて地面の上を転がった。

 腕くらい簡単に飛ぶような攻撃だが、やはりステータスの数値に守られているらしく、急所に食らっても体力が900くらい減っただけだったそうである。
 桜のヒールによって一瞬のうちに半分は回復した。

「なぜ私はまだ生きているのかな。今のは心臓まで達していてもおかしくなかった」
「そりゃあレベルのお陰じゃないですか。今のは会心の一撃でしたよ。死にぞこなったのは幸運でしたね」

 相原の言う通り、命に関わるような攻撃には不可思議な力に守られる。
 体力がゼロに近づかない限り、それは発動するようだった。
 瓦礫の上でも自由に動けた有坂さんは、ライトの魔法から離れすぎて不意の一撃を食らってしまった。

「だんだんと、ちょっとした甘えが命に関わるようになってきましたね」
「もう少し、まとまって移動しましょうか」
「それがいい。私も懲りたよ。しばらくは相原君のそばを離れたくないね」

 まとまって移動してみるが、すぐに敵の襲撃を受けて散開する羽目になる。
 そうなれば射角をとるために、有坂さんは桜からも離れなくてはならない。

 ここの敵はあまり自分から寄ってこずに待ちの態勢でいることも多いから、そうなると罠にはまる可能性が高くなってしまう。
 その結果、さっきのような事態になってしまうのだ。

 しかし、そんな事故がそうそう起こるわけもなく、蟻の群れを難なく倒すことに成功した。
 地面を這っていてくれれば、粘着液も怖くはない。
 ドロップはカイトシールドだった。

 それにしてもダンジョン内にいることを忘れるくらいの広い空間に心細くなってくる。
 壁も見えないし天井も高く、荒野の真ん中に立っているような感じだ。
 時々、なんの意味があるのかもわからない石柱が天井まで伸びている。

 経験値を求めてここまで来たのに敵の数が少なくて、まさかなあ、ないよなあ、と思っていた悪い予感が的中した。
 崩れていない神殿のような建物まで来た時、その陰に折り重なるようにして戦車ほどもある蟹が固まっていたのである。

 建物の上には、ブラシのように細長い影が立ち並ぶ悪夢のような光景があった。
 あれがすべて暗黒カマキリなら、少なく見積もって30匹だ。
 逃げられないかと考えて、すでにライトの魔法で照らした後だったと後悔する。

「いざ、参る!」

 最初に駆けたのは相原だった。
 この数を相手にそれをやったら本気で死ぬんじゃないかと思うが止める間もない。
 仕方なく俺もその後を追った。

 そもそも、このパーティーで蟹に致命傷を与えられるのは俺だけだ。
 そしてカマキリはタイマンだと誰にも倒せない。

「蘭華、さっきの盾だ! 受けに回れ!」

 俺の言葉に蘭華が頷いたのが見えた。
 こういう時に蘭華の理解の速さは有難い。
 先頭を走る相原をめがけて、蟹がお互いの上を乗り越えるようにして殺到する。

 あっという間に相原は蟹の群れに呑まれた。
 だが焦る必要はない。
 相原は隙間すらないガチガチの装備だから、簡単に死ぬようなことはない。

「桜、相原から目を離すなよ!」
「はい!」

 俺は襲い来る蟹と対峙する。
 集中力が高まって敵の動きが緩やかに見え、周囲の音がかき消えた。
 同時に桜の加速魔法がやって来て、周りの動きが止まっているように感じられた。

 最初の一振りで、二体の頭をかち割った。
 そしてアイスランスを一発放つが、片方の大きなハサミで防がれる。
 もう一匹の頭をかち割ってから、二発目のアイスランスを放つが、それもハサミによって防がれた。

 そして三発目が、蟹の頭から突き出た目をすり潰す。
 だんだんとコツがわかってきた。
 避けられないタイミングというものが感覚的に理解できた気がした。

 上に飛び上がりながら蟹の頭を叩き切り、俺に向かってハサミを突き出した蟹の頭にアイスランスを叩き込む。
 俺の着地を狙ってハサミを突き出してきた蟹の頭を、落下しながら俺に向けられたハサミごと叩き割った。

 視界の端で、蘭華がカマキリを相手に逃げ回っているのが見える。
 有坂さんは蘭華の周りにいる蟻退治に必死だ。
 俺は相原を囲んでいる蟹を塵にしながら、なんとか血まみれの相原を掘り出して桜の方に蹴っ飛ばした。

 加速が解けて、俺は少し引いては全力で踏み込みながら斬るという動作に変更する。
 5匹も倒したら、怪我を治した相原がまた突っ込んでいき、同時に加速魔法がやってきた。
 そしたらまた相原に群がる蟹の頭を潰しにかかった。

 無駄な動きをしないように、効率だけを考えて蟹の頭を潰す。
 振り下ろした時にできる隙にアイスランスを放って、極力動作に無駄を出さない。
 夢中になっているうちに加速魔法が解けだので、桜に向かってマナクリスタルを投げた。

 剣を振りまわしているうちに、さらなる効率を求めて蟹の群れの中に足を踏み入れる。
 群れの中に入ってしまえば、一振りでいくつもの蟹を塵にできた。
 動きも遅くて、的も大きいから、加速がかかっていればなんてことはない。

 三百六十度を蟹に囲まれながら剣を振りまわしていたら、相原が地面に転がっていたのでイエロークリスタルを投げつける。
 地面に転がっていた相原はむくりと起き上がった。

「こんなの無理ですよ!」
「よく動きを見ろ。たいしたことないぞ」

 たいしたことないわけないでしょとかぶつぶつ言いながらも、相原は起き上がって槍を振るい始めた。
 ハサミに阻まれて、惜しいところで相原の槍は蟹の急所に届かない。

「もっと踏み込むんだよ」

 そうアドバイスしたら、やっと相原も蟹の急所に攻撃が届くようになった。
 剣で砕けるのだから、槍で突き刺せないはずがないのだ。
 一振りでごっそりと減る蟹の群れに味を占めて前に進んでいったら、いつの間にかあと数匹と言うところまで蟹が減った。

 その最後の数匹と対峙していた相原は、ハサミに刺さった槍が抜けなくなって武器を取られ、そのハサミに殴られて吹っ飛んだ。
 そして俺に群がってきたので、そいつらも倒す。

 すぐさま蘭華に合流して、蘭華が引き回していたカマキリを斬り飛ばしにかかった。
 攻撃が俺に向かっていなければ、このカマキリも防御力の低い敵でしかない。
 倒し終わったら、ふらついている蘭華に肩を貸して有坂さんと合流し、相原を治していた桜を拾って建物から離れるように逃げた。

 天幕を開いて中に入り、態勢を整えるために休憩を取る。
 相原はどこから拾ってきたのか、石で槍の穂先を研いでいた。
 その顔は少し消沈しているようにも見えた。

「どうして、あんなところに溜まっていたのかな」
「なにかあるのかもしれませんね。蘭華は大丈夫だったか」
「あんまり大丈夫じゃないわね」

 そうは言っているが、移動速度で言えばカマキリなど蘭華の足元にも及ばない。
 引き回すだけなら余裕があったはずだ。
 ただ、転んだら終わりというプレッシャーは感じていたに違いない。

 そのあとで建物の中を見に行ったら、高エネルギー結晶体の塊があった。
 地面に埋められたそれを引き抜いてアイテムボックスに移した。

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