裏庭ダンジョン

塔ノ沢渓一

文字の大きさ
57 / 59

薬レシピ

しおりを挟む



 巨大な水たまりはどこまでも続き、ちゃぷちゃぷ歩いてるだけで容赦なく体力を奪われた。
 島のようになった場所を見つけたので、休憩することになった。
 とにかく体を乾かしたくて仕方がない。

 天幕を出して中に入ると、なんでもいいから体の暖まるものを作ろうと思った。
 鍋で酒を煮て、その中に肉や葉や実などモンスターからドロップしたものを入れる。
 大図書館にあった活力剤のレシピ通りに作ると、訳のわからないグロテスクな料理ができあがった。

 効果は、痛覚の遮断、集中力の増加、瞳孔の拡大、空腹感と疲労感の無効化だった。
 身体を強制的に戦闘状態にするためのレシピである。

「食べてみろよ」
「もしかして、それは私に言ってるのかしら」
「あたりまえだろ」

 俺は魔鋼で作られたシェラカップに盛り付けて蘭華に渡した。
 食べられないものは入れてないし、おかしな匂いもしていないのだから、何をためらう必要があるのだという話である。

 無言で睨んでいた蘭華は、仕方ないというように渡されたものを口に運んだ。
 一口食べて目を見開いたかと思うと、汗をダラダラと流し始めた。
 実験台にしたようで申し訳ないが、ちょうどレシピの材料がそろっていたのだ。

「ん~~ッ!!!」
「ど、どうだよ」
「へ、変な感じだわ。でも美味しいわよ」

 俺も食べてみると、脳内麻薬でも出ているのか変な快感が体を駆け巡った。
 あきらかにヤバいものを摂取したような感じである。
 体が熱くなって、レシピの効能にあった通りの変化が起こった。

 一瞬で食欲が消し飛んだので味などまったくわからないし、周りの景色がギラギラしたものに変わった。
 有坂さんたちにも食べさせてみると、顔から疲労の色が消えて脂ぎった笑顔に変わる。

 いくらなんでも強烈すぎる効果だし、ちょっとヤバいかなとも思うが、心がポジティブになっているから気にならない。

「おかしいわ。もう休憩はいらないような気がするのよね」

 そう言って、蘭華は首をひねった。
 俺も同感であるし、同じものを食べた皆もそう思っているだろう。

「いやあ、おかしいな。外に出て暴れたくなってくるね」

 有坂さんも、肩を回しならがそんなことを言っている。
 俺も休憩などしているような気分じゃなくなって、体を動かしたくて仕方ない。
 皆がふらふらと外に出て行くので、まだ服を乾かしてもいないのに座っている気にもなれなかった俺もその後について天幕を出た。

 天幕を畳んだら、敵を見つけた相原が魔弾を放って戦闘を始める。
 カマキリとトンボの群れがこちらに向かってきた。
 休憩をしようと考えていたのに、その行動をありがたく感じるのだから明らかにおかしい。

 一度戦闘をしてしまったら、今度は目についた敵と次の戦闘が始まるので終わりがない。
 いつの間にか陸地に入り、それでも進んでいたら恐竜のような敵が現れる。
 これまでにないほど手ごわい敵だった気もするが、この時は敵を細切れにすることしか頭の中になかった。

 どんなに体力を消耗しても、まるで体の奥底から力が湧いてくるようだ。
 ずいぶんと狩りをして20分ぐらいは経っただろうかとステータスを確認したら、6時間は狩りをしたような魔光受量値になっていた。

「なあ、魔光受量値がやばくないか」
「あれ、いつの間にか滅茶苦茶に溜まってますよ。これ帰らないとまずい数字じゃないですか」

 集中しすぎていたために、時間の経過が短く感じられたようだ。
 あまりにも強烈なレシピの効果に少しだけ怖くなる。
 体の中に湧いてくる力の矛先を、どこに向けたらいいのかわからなくなるような感覚だ。

 レシピの効果が残っているうちに地上を目指して走ったが、いくら走っても疲れるという事はなく、走ることだけに集中して最大限の成果が得られる。
 気が付いた時にはダンジョンから脱出していた。

 その場で解散して、俺は自分のペンションに戻った。
 ストーブを付けて着替えが終わったら、天幕の中にある鍋に料理がまだ残っていたことを思い出した。

 寝る前に処分しようと外に出て天幕を出したら、鍋の中に赤黒い液体が大量に残っていた。
 山本にでも売ってやるかという気になって、探しだして鍋の中身を売ってやった。
 そしたら次の日には、血相を変えた山本が朝から俺の部屋にやってきた。

「昨日の精力剤な、もっと売ってくれんか!」

 疲れきって寝ていた俺は、起き上がることもできない程に体が衰弱している。
 昨日のレシピは失敗だろう。
 いくらなんでも次の日に疲労が吹き出るようでは使い物にならないし、体の方も寿命を削っているような実感があるレベルのダメージだ。

「めっちゃ評判がええわ。作り方を教えてくれるなら、利益は折半でもええよ」

 まあ、そんな使い方なら危険はないかと、レシピを教えてやったら山本は扉を壊すような勢いで帰って行った。
 半日ほどベッドの上で寝返りをうっていたら、やっと体が動くようになった。

 弁当でも買って来ようと外に出たら、商店の前で七瀬と鉢合わせる。

「山本に変なもん売りつけたやろ。大騒ぎしてかわなんわ。ホンマやめてな、そういうん」
「ああ、ずいぶん雰囲気が違うな」

 スーパーに来ていた七瀬は、スエットのパーカーにジーンズという出で立ちで、ショートカットが似合う地味な女になっていた。
 まったくイメージが合わずに混乱してしまう。

「なかなか私服のセンスは悪くないんやな」

 俺が着ている服など全て蘭華が選んだものだから、俺のセンスなど関係ない。
 ダンジョンが出来る以前は自分で買った服も持っていたが、それらは全て穴だらけにして捨ててしまった。

「山本は何してんだ」
「製薬会社の人に会いに行くとか言うてたわ。アンタが変なこと吹き込むからやで」
「あいつはいないのか。じゃあ、お前が昨日出たアイテムを買い取ってくれないか」
「うちは商売人ちゃうわ。売り買いなら土屋にでも頼みや」

 役に立たない奴だ。
 俺はスーパーの帰りに、買い取ってくれそうなところを探してドロップを売った。
 大した金にもならないし、大型のリサイクスショップのわりに大した売り物もないから困りものである。

 売っている魔法も、目を引いたのはファイアブレスくらいしかない。
 これは射程が短く爆発を起こすから前衛を巻き込みやすい。
 悪くないものだが、俺のチームでは誰に覚えさせても微妙だった。

 どんなアイテムがあればチームとして強くなるか考えているが、あまり具体的なことは浮かんでいない。
 ダンジョンの探索域が深くなるにつれ、かなり大型のモンスターが増えてきている。

 役に立たないこともないかと思い、俺はファイアブレスのスペルスクロールを買ってリサイクルショップを後にした。
 それを有坂さんに届けたら、プレハブ小屋に戻ってだらだらと過ごしていた。

「すごいで! ごっつい額で売れそうやわ!」
「なんでこのブスは、いつも私たちの周りをうろちょろしてるのかしら」
「チッ、またこいつもおるんかいな。まあええわ。それよりな、伊藤の作った薬の権利が売れるかもしれん」
「そうかよ。よくやったな」

 とてつもなく大きな高エネルギー結晶体を競売にかけている最中なので、そのくらいの事では驚きもしない。

「あれを売るのね。それなら私に取り分があってもおかしくないわ」
「なんやねん。こいつがどんな手伝いをしたいうんや」
「被験者第一号ってところかな」
「ははん、実験台か。まあ小遣いくらいならくれてやってもええやろな」

 蘭華が青筋を浮かべて俺を睨んだ。
 実験台にされたことを怒っているのか、山本と絡んでいることが気に入らないのかはわからない。

「そんな怖い顔するなよ。金なら、そのうち競売から入ってくるだろ」
「でも、あんなものを売ったら死ぬ人が出るんじゃないかしら。賠償金なんてことになるかもしれないわよ」
「製薬会社が間に入っとるから心配いらんわ。素人は黙っとき」
「二人きりになりたいわ。ブスは帰らせてくれないかしら」
「なんや、またそれかいな。付き合ってる言うんなら胸の一つでも触らせてみいや。そしたら信じたるわ」

 蘭華は悔しそうな顔で山本を睨んでいるが、何も言い返せないようだった。
 何を張り合っているのか知らないが、この二人は本格的に馬が合わないようだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

天才王子、引き篭もる……いや、引き篭もれない

戯言の遊び
ファンタジー
平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 辺境に飛ばされた“元サラリーマン王子”、引き篭もるつもりが領地再生の英雄に――! 現代日本で社畜生活を送っていた青年・レオンは、ある日突然、 中世ヨーロッパ風の王国「リステリア」の第五王子として転生する。 怠惰で引き篭もり体質なレオンは、父王により“国の厄介払い”として 荒れ果てた辺境〈グレイア領〉の領主を任される。 だが、現代知識と合理的な発想で領内を改革していくうちに、 貧困の村は活気を取り戻し――気づけば人々からこう呼ばれていた。 『良領主様』――いや、『天才王子』と。 領民想いのメイド・ミリア、少女リィナ、そして個性派冒険者たちと共に、 引き篭もり王子のスローライフ(予定)は、今日もなぜか忙しい! 「平穏に暮らしたいだけなのに、なぜ問題が山積みなんだ……!?」 社畜転生王子、引き篭もりたいのに領地がどんどん発展していく! ――働きたくないけど、働かざるを得ない異世界領主譚! こちらは、以前使っていたプロットを再構成して投稿しています 是非、通学や通勤のお供に、夜眠る前のお供に、ゆるりとお楽しみ下さい

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

この子、貴方の子供です。私とは寝てない? いいえ、貴方と妹の子です。

サイコちゃん
恋愛
貧乏暮らしをしていたエルティアナは赤ん坊を連れて、オーガスト伯爵の屋敷を訪ねた。その赤ん坊をオーガストの子供だと言い張るが、彼は身に覚えがない。するとエルティアナはこの赤ん坊は妹メルティアナとオーガストの子供だと告げる。当時、妹は第一王子の婚約者であり、現在はこの国の王妃である。ようやく事態を理解したオーガストは動揺し、彼女を追い返そうとするが――

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

「クビにされた俺、幸運スキルでスローライフ満喫中」

チャチャ
ファンタジー
突然、蒼牙の刃から追放された冒険者・ハルト。 だが、彼にはS級スキル【幸運】があった――。 魔物がレアアイテムを落とすのも、偶然宝箱が見つかるのも、すべて彼のスキルのおかげ。 だが、仲間は誰一人そのことに気づかず、無能呼ばわりしていた。 追放されたハルトは、肩の荷が下りたとばかりに、自分のためだけの旅を始める。 訪れる村で出会う人々。偶然拾う伝説級の装備。 そして助けた少女は、実は王国の姫!? 「もう面倒ごとはごめんだ」 そう思っていたハルトだったが、幸運のスキルが運命を引き寄せていく――。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

処理中です...