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第一話.とあるニートの終末

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「グラヴィティウェイブ!」

 地面はガタガタと揺れ動き地表はうねりを上げ敵に土壌の津波を喰らわす。
 魔法攻撃にクールタイムは無く連続して重力波を生み出す。
 魔術詠唱もMWマジックワードを唱えれば良いだけだ。

「おい武器職人!お前絶対ハイエナ狙ってんだろ!」

 サイケデリックアーマーに身を包み、双剣を構えるプレーヤー2番はイチャモンをつけ始める。
 無理もない、序盤に波動系魔法を大量に詠唱しチームを最短で討伐に導いた立役者は彼である。

「バレた?ごめんごめん、でもこのフロストドラゴン倒さないとアスカロン作れないんだ。ブラックホール・ツイスト!」

 瞬時に闇が辺りを包み込み視界をシャットアウトする。
 一瞬、空間が歪みフロストドラゴンの両前足が空間に出来た溝にえぐり取られる。

「ラストキルの特別報酬な、よく考えればアスカロン作れるのショウゴだけだもんな。詠唱、フィールドフォース」

 プレーヤー3番は冷静に状況を説明しながら仲間達にバフを付ける。

「なんでこの世界にはVRは無いのかなぁ、ARだから武器なんて才能なきゃ制作できないや」

 プレーヤー4番はこの世界に落胆している。そう、この世界MW3rd(マジックワールド3)はAR世界のゲームで外の世界とのリンクが切れない。
 マジックワールドはマジックウェポン、マジックワード、などの単語も含めた意味での総称である。
 操作は精密かつリアルで現実世界での能力が活用される。

「VRがあってもどーせお前はエロいカセットしか買わないだろ?」

 2番は回復したフロストドラゴンの前足による攻撃を回避しつつ双剣から龍封じ付きソニックブームを繰り出す。

「ばーか、エロは正義だ」

 4番はそう主張し敵に突貫する。重たいフルプレートアーマーから見た目に寄らず有り得ない速度の剣撃を繰り出し、フロストドラゴンの全身を切り刻みダウンを取る。

「ショウゴ、もう突っ込んでいいぞ。このバカは俺が止めとくから」
「おい!それでいいのかよ3p。あの特別報酬いくらすると思ってんだ?」
「3p言うなバカ、アスカロン作ったら百倍以上の値は付くんだぞ。それにショウゴは2割ずつ俺らにくれるらしい」
「先言っといてくれよ!めちゃくちゃ損するところだったじゃねえか!」

 そう、この世界において武器制作は本物の鍛治職人が生み出すかのように作られる。
 主に運営の作る武器を越える業物を作れるのはごく一部の人間のみである。そして、その公式武器を超える能力を持つMWマジックウェポンは破格の値段がつく。
 ゲーム内通貨で公式の課金最高クラス兵器約300本分に相当する。つまり、ショウゴはこの世界において最も重要な存在となるのだ。

「しかし、良いのかい?2割も貰ってしまって」

 4番はショウゴに質問する。確かに2割ずつでも破格である事に変わりはない。
 モンスターを攻略する事自体もそれなりに苦労はするが武器制作に比べればほんのひと握りの苦労である。

「別に良いんだよ、また作ればいいだけの話だし。エア・ブレイズ!」

 ショウゴが呪文を唱えるとフロストドラゴンを囲む空気が突如として燃え上がり業火となる。フロストドラゴンは火耐性が無に等しく弱点だ。
 呆気ないが勿論、これで討伐完了であった。
 これは空間系魔法の真の長所であった。本来なら一人一種類の属性魔法のみを持つことが出来るこのゲームはその属性が多彩でほぼ縛りは無いとされる。
 その中でも空間系魔法は異色で、空気からの摩擦で炎や、圧縮で水、高濃度の酸素による猛毒、etc.

 沢山の属性の特徴を持った攻撃が可能になる。
 しかし、空間系魔法の会得は困難を極め経験値がいくらあっても足りず、ゲーム内通貨に大金をつぎ込んで少しだけ会得できるくらいだ。
 では何故ここまで空間系魔法が難しいのか、理由はこのゲームのシステムに存在した。

 この世界のコンセプトは魔法×武器のRPGであり定番と言えば定番だ。

「ショウゴ、もう落ちるだろ?最後にあれやってくれよ」

 2番がヘラヘラと笑いながらショウゴに依頼した。

「仕方ないな、・そよ風・」

 しかし、運営が最初ネタとして作った初期キャラクター設定の基礎魔法空間系は初期で用意されている魔法が・そよ風・であり、もちろん誰も利用しなかった。
 基礎魔法は重要で10Lv程までよく使用する魔法である。

 その中でも空間系魔法がやっと攻撃出来るのが25Lvからだ。そもそも、100以上ある基礎魔法の中から涼しさを感じれる程度の・そよ風・を誰が選ぶだろうか?
 そして、いくら武器が強くても魔法が弱ければただの雑魚同然である。
 例を挙げるなら、武器が最強で魔力皆無のプレーヤー100Lvと魔法と武器のバランスの良いプレーヤー30Lvなら2対8で後者が圧勝である。

 ショウゴは空間系魔法を選んだのだ。理由は武器制作能力が異常に長けていた事から来る自信である。

「サンキュー、やっぱ涼しいなこれ」
「おう、お疲れ様。また今度手伝ってもらっても良いかい?」

「おっけー」「勿論いいとも」「了解した」

 3人はそれぞれそう答えてログアウトした。

「さて、俺はアスカロン作ってからログアウトしようかな」

 ショウゴはそのままこのゲームに留まり、制作完了するまで徹夜し、完成した後すぐに寝落ちした。


 やっべぇよ金ねえよ、誰か助けてくれねえかな。
 部屋は汚れてて、掃除なんて引越しいらいして無い。
 お世話してくれる女の子欲しいな。って、そんなもんアニメとかゲームとかラノベにしか居ない究極のお人好しキャラぐらいだろうな。

 短い人生観だがなぁ、神だったりヒロインなんていないんだよ!

 財布の中は16円、金無し、友無し、女無し。そんな3無し人生送ってきたんだけど、ついに人生の壁とか言う奴にぶち当たった。有名な大学を出てニートやってるとか本当にあり得ない。
 高校時代には努力と根性の塊でしかなかった。つまり、熱血系男子だ。なのに、今はあの頃の影も形もない。

 今日からあの頃に少し戻るだろう、痩せるからだ。食べ物を買う金が無いから。

「珍しく昼の12時に起きちゃったんだよな」

 先日ゲーム内でのイベントが終了し、ゲーム最強クラス武器のアスカロンの素材集めが終了した。そして、アスカロンを作成し終えて現在に至る。
 ゲーム内での俺はは空間魔法を操れる魔法戦士で最強クラスのステータスを持っていた。

 ゲーム内だけだがっ。

 本当は頑張ればできるんだろう、けどやらない。やり方を忘れたから。
 他に何か部屋に、栽培してたもやしの確認でもするか?
 もやしって凄く容姿が俺に似てる。
 暗闇でもニョキニョキ伸びるから成長って部分は別か。 でも親近感が湧く、まるで兄弟だよな。

「よっ、兄弟元気か?」

 空腹とは頭をおかしくするのだろうもやしに話かけてしまった。
 そんな話はどうでも良くて、もやしを調理したいんだがこれまたアクシデントだ。醤油が無い。
 スーパーに行けば寿司用の醤油を盗めるからスーパーに行こう。
 盗む? それって犯罪だろ? そんなもんセルフサービスの間違えだよ。
 この頭の会話で2人目の人格が覚醒しそうだ。
 まあ、二人目の人格なんて覚醒しそうもないし、ドア開けて外に出よう。

「ガチャッ、」

 雨だな、天気予報のネイサンが言ってた通りだ。そういえばネイサンが来るママが滑りやすくなっておりますとか言ってたな。
 車がスリップかよくトラックに轢かれてどっか他の世界に飛ばされるって話多いよな最近。

 俺もトラックに轢かれたら転生するのかな?

 あっ、トラック通り過ぎたわ。

「やっぱり転生なんて無理なんだろうなっ!っ!」

 転んだ、トラックに目をやっていた俺は鉄で出来た階段は滑りやい事を忘れ自らスリップしたのだ。
 激痛が頭に走る、そのままずり落ちて一段一段頭を打ち付けたみたいだ。

「いってぇ!死ぬぞこれ!」

 そうして、その場から助けを求め用とした瞬間だった。
 激しいブレーキ音とともにこちらに向かってくる1台の車がグラグラする視界から見えたのだ。

「俺の人生・・・・・・こんなもんで良いのかよ・・・・・・大した事が無さ過ぎて、クソがぁ」

 人生にトドメを刺されたのだ。
 小言を漏らしながら全身を強く打ちその後すぐに死亡した。
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