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第一章・蝶銃擬羽
6話 フェアリーMADファーザー
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「おい…」
「はい…」
「アイツだよな」
物陰から見た神父の顔は似顔絵と完全に一致していた。だが、教会のすぐそばにある公園で子供達の面倒を見ているその姿と、修行僧13人を殺害したであろう姿が全く重ならない。
「一応明智に確認取るわ」
出水は、先程スマホで盗撮した男の姿を明智に送信した。そして1秒もたたないうちに既読がつき、「間違いないです」との返信が返ってきた。
「明智さん、返信早いですね」
「まぁ、『教育』の賜物ってやつ?」
「教育、ですか…」
「そんなことはどうでも良いわ。奴が一人になった時が年貢の納め時よ」
それから十分経った頃、神父はようやく子供達から離れ、一人で教会に帰っていった。
「教会にはアイツしかいないのは把握済み…てん行くぞ」
その教会、朝水教会は二、三年前にできた教会で、当時、ステンドグラスによる装飾が話題になって、多くのインフルエンサー達が訪れた。今では人気は一段落したものの、それでも訪れる人は多い。だが今日は平日の真っ昼間だ。観光客は一人もいない。
出水は神父が教会に入って行くのを見計らうと、そっと自分も教会に入った。だが、そこには誰もいなかった。
「なんのようですかな」
出水が振り向いた先にいたのは、長椅子の影に隠れていたと思われる、本物の神父だった。
「それはあの世で告白してあげましょう」
神父は懐から拳銃を取り出し、発砲した。が、出水はそれを身を捻るという最小限の動きで避け切った。
「急に発砲かよ…このゴミ野郎」
「私の名はゴミ野郎ではありませんよ。イライジャ・スミスと言います。貴方達がコソコソと私の庭で話していたのをフェアリーズが聞いていてくれましたからね」
「じゃあイライジャさん、何であんなことをしたのか知らないが、さっさと投降しろ。神を信じる気持ちを持ってな」
「それは無理な話です」
イライジャはパチクリと瞬きをしながら、ゆっくりとその狂った動機を話し始めた。
「私はある日、主の掲示を受けたのです。主は『全ての異教徒を殲滅せよ』と仰せになりました。人を殺すのはいけないことです。しかし、異教という悪魔と契約してしまった彼らを救済する方法は、彼らの魂を踏みにじる以外に無いのですよ」
イライジャの言葉を聞いた出水は、心の底から侮蔑を込めた溜息を吐き出した。
「違う考え方さえも受け入れられないお前の神様は、随分と心が狭いんだな?」
そう出水が言い放った瞬間、協会内に銃声が響いた。
「グッ…」
「我が主への悪態は許しませんよ。探偵さん」
出水が撃たれた箇所は背中であった。
致命傷は何とか避けたものの、これは想定外すぎる…‼︎
そして、出水が背後を見たところ、一羽の蝶が羽ばたいていた。いや、一羽じゃない。何羽もの蝶の触覚が十字架の裏から見え隠れしている。
「探偵さん、今、私の『フェアリーズ』が貴方を四方八方から睨んでいます」
イライジャは出水に対してにこやかに敬礼した。
「『フェアリーズ』‼︎」
イライジャの合図を聞き、出水の周囲にいる全ての『フェアリーズ』達は一斉に出水に向かって銃口を向け始めた。
「クソッ!」
出水の頬に冷たい汗がつたう。出水はイライジャの能力を誤解していた。イライジャの能力は、『元からある銃を蝶に変化させる能力』ではなかった。おそらく『体から生成した銃を蝶に変化させる能力』だ。前者だと予想し昨日のうちに情報屋に大枚をはたいてこの地域に銃の密輸がなかったことを確認し、奴が使える銃は警察が押収したスコーピオンだけだとたかを括ってしまったのだ。
「貴方も、多分何かの能力者なのでしょう?その能力を使ってイタチの最後っ屁はやめて欲しいです。そして、早く頭に手をあげなさい。…聞いているのですか?」
「聞いてないね」
再度通告を制した出水の態度に対して、イライジャは溜息をつくと、目の前の探偵をあの世へと送ることを決めた。
「わかりました。死んでくださいね」
そして、出水は自分が覚悟を決めざるを得ない状況にあることを悟った。
「お願いだ!来てくれ‼︎利昰‼︎」
出水がそう叫ぶと、天井のステンドグラスが砕け散る音と、何十もの小さな銃声が同時に教会内に響いた。銃弾と砕けたステンドグラスにより、一時的に教会内の視界が悪くなり、イライジャは『フェアリーズ』達に発砲をやめさせた。
「…主よお許しください。罪の無い魂を天上に送ってしまいました」
イライジャは表情を崩すことなくそう呟いた。
「死んでねーよクソ神父!」
土煙の中から聞こえてきたその声にイライジャは、ほんの少しだけ驚いた。その驚きが冷めやらぬ内に土煙は、赤く熱を帯びた刀によって振り払われた。
「あんたねぇ、合図がギリギリすぎんのよ」
「金払うんだから許せって」
出水と明日辺は互いに背を合わせている。
「おやおや、助けが間に合ったようですかな?二人もの命を天に召さなければならないとは今日は災難な日ですね。『フェアリーズ』!」
フェアリーズの弾丸を二人は背中合わせで受け始めた。
「はい…」
「アイツだよな」
物陰から見た神父の顔は似顔絵と完全に一致していた。だが、教会のすぐそばにある公園で子供達の面倒を見ているその姿と、修行僧13人を殺害したであろう姿が全く重ならない。
「一応明智に確認取るわ」
出水は、先程スマホで盗撮した男の姿を明智に送信した。そして1秒もたたないうちに既読がつき、「間違いないです」との返信が返ってきた。
「明智さん、返信早いですね」
「まぁ、『教育』の賜物ってやつ?」
「教育、ですか…」
「そんなことはどうでも良いわ。奴が一人になった時が年貢の納め時よ」
それから十分経った頃、神父はようやく子供達から離れ、一人で教会に帰っていった。
「教会にはアイツしかいないのは把握済み…てん行くぞ」
その教会、朝水教会は二、三年前にできた教会で、当時、ステンドグラスによる装飾が話題になって、多くのインフルエンサー達が訪れた。今では人気は一段落したものの、それでも訪れる人は多い。だが今日は平日の真っ昼間だ。観光客は一人もいない。
出水は神父が教会に入って行くのを見計らうと、そっと自分も教会に入った。だが、そこには誰もいなかった。
「なんのようですかな」
出水が振り向いた先にいたのは、長椅子の影に隠れていたと思われる、本物の神父だった。
「それはあの世で告白してあげましょう」
神父は懐から拳銃を取り出し、発砲した。が、出水はそれを身を捻るという最小限の動きで避け切った。
「急に発砲かよ…このゴミ野郎」
「私の名はゴミ野郎ではありませんよ。イライジャ・スミスと言います。貴方達がコソコソと私の庭で話していたのをフェアリーズが聞いていてくれましたからね」
「じゃあイライジャさん、何であんなことをしたのか知らないが、さっさと投降しろ。神を信じる気持ちを持ってな」
「それは無理な話です」
イライジャはパチクリと瞬きをしながら、ゆっくりとその狂った動機を話し始めた。
「私はある日、主の掲示を受けたのです。主は『全ての異教徒を殲滅せよ』と仰せになりました。人を殺すのはいけないことです。しかし、異教という悪魔と契約してしまった彼らを救済する方法は、彼らの魂を踏みにじる以外に無いのですよ」
イライジャの言葉を聞いた出水は、心の底から侮蔑を込めた溜息を吐き出した。
「違う考え方さえも受け入れられないお前の神様は、随分と心が狭いんだな?」
そう出水が言い放った瞬間、協会内に銃声が響いた。
「グッ…」
「我が主への悪態は許しませんよ。探偵さん」
出水が撃たれた箇所は背中であった。
致命傷は何とか避けたものの、これは想定外すぎる…‼︎
そして、出水が背後を見たところ、一羽の蝶が羽ばたいていた。いや、一羽じゃない。何羽もの蝶の触覚が十字架の裏から見え隠れしている。
「探偵さん、今、私の『フェアリーズ』が貴方を四方八方から睨んでいます」
イライジャは出水に対してにこやかに敬礼した。
「『フェアリーズ』‼︎」
イライジャの合図を聞き、出水の周囲にいる全ての『フェアリーズ』達は一斉に出水に向かって銃口を向け始めた。
「クソッ!」
出水の頬に冷たい汗がつたう。出水はイライジャの能力を誤解していた。イライジャの能力は、『元からある銃を蝶に変化させる能力』ではなかった。おそらく『体から生成した銃を蝶に変化させる能力』だ。前者だと予想し昨日のうちに情報屋に大枚をはたいてこの地域に銃の密輸がなかったことを確認し、奴が使える銃は警察が押収したスコーピオンだけだとたかを括ってしまったのだ。
「貴方も、多分何かの能力者なのでしょう?その能力を使ってイタチの最後っ屁はやめて欲しいです。そして、早く頭に手をあげなさい。…聞いているのですか?」
「聞いてないね」
再度通告を制した出水の態度に対して、イライジャは溜息をつくと、目の前の探偵をあの世へと送ることを決めた。
「わかりました。死んでくださいね」
そして、出水は自分が覚悟を決めざるを得ない状況にあることを悟った。
「お願いだ!来てくれ‼︎利昰‼︎」
出水がそう叫ぶと、天井のステンドグラスが砕け散る音と、何十もの小さな銃声が同時に教会内に響いた。銃弾と砕けたステンドグラスにより、一時的に教会内の視界が悪くなり、イライジャは『フェアリーズ』達に発砲をやめさせた。
「…主よお許しください。罪の無い魂を天上に送ってしまいました」
イライジャは表情を崩すことなくそう呟いた。
「死んでねーよクソ神父!」
土煙の中から聞こえてきたその声にイライジャは、ほんの少しだけ驚いた。その驚きが冷めやらぬ内に土煙は、赤く熱を帯びた刀によって振り払われた。
「あんたねぇ、合図がギリギリすぎんのよ」
「金払うんだから許せって」
出水と明日辺は互いに背を合わせている。
「おやおや、助けが間に合ったようですかな?二人もの命を天に召さなければならないとは今日は災難な日ですね。『フェアリーズ』!」
フェアリーズの弾丸を二人は背中合わせで受け始めた。
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