出水探偵事務所の受難

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第一章・蝶銃擬羽

7話 出水露沙の能力

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出水露沙の能力、それは、自身が致命傷と判断した攻撃を受けた時に発動し、少しだけ時間を戻すことができる能力である。わかりやすく言うならば、将棋で言う『待った』である。弱点は攻撃を視認しなければ発動しない点であり、死角からの攻撃にはめっぽう弱い。それをカバーするのが明日辺の『炎熱纏』である。自らの身長の3分の2ほどの長さ×肩幅の1.2倍×足の長さほどの体積に収まる無機物に熱を纏わせることができる。弱点は熱の調整が難しいことであり、熱を高いままに保つには高い集中力が必要なため、能力を使用できる時間が限られる点である。実際、飛んでくる銃弾を特殊合金でできた刀の熱で溶かすことができるのも、あと数十秒限りの話だ。
「打開策はあるんでしょーね⁈露沙!」
「当たり前だ。アンタが私の後ろさえ守ればなんとかできる!」
「じゃ早くなんとかしてよ!もう限界よ!」
「っさい!後は頼んだわよ?」
 そう言うと出水はイライジャに向かって走り始めた。  
 普通、体を抉ろうと突進してくる弾丸達を前に前進すると、常人は死ぬ。出水もその点は一緒である。しかし出水はやり直しが効くため何回も、何回も時間を戻しながら進むことができる。出水は憂鬱だった。この能力の弱点は、死界からの攻撃に対応できないことの他にもいくつかあり、攻撃を食らった時の痛みが『ある』こと、そして回避難易度が高い攻撃を最終的に回避した、という『結果』に辿り着くまで、自らの死亡回数が膨大になってしまうことである。避けるだけじゃなく、明日辺に銃弾が飛ばない様に叩き落とす必要性も出てくるため、今回の場合の難易度はウルトラハードだ。だが、やるしかない。
 出水の長い旅が始まった。手始めに腎臓と心臓と膵臓と肺に弾丸が叩き込まれ、それが打ち込まれる角度を正確に暗記できる様になるまで六十回、それを全てトンファーと隠し持っている鎖で叩き落とせる様になるまで5五千四十ニ回死んだ。
 このようにして、イライジャの能力の発生限界が訪れるまで、コレを繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し繰り返し行う。
 銃弾を避け、叩き落とし、相手に近づく、銃弾を避け、叩き落とし、相手に近づく、銃弾を避け、叩き落とし、相手に近づく。出水は口の中でこの文言を数え切れないほどに唱えることで自らの脳の感覚を麻痺させて余計なことを一切考えないようにした。
 こうして、出水の能力、『One more time』が巻き戻した時間がやがて200年余りにも及んだ時、出水はようやく『慣れた』。一つの銃弾につき、3回ほどで対応できる様になったのだ。死亡回数は飛躍的に少なくなった。
「ど、どうして当たらない⁈何故だ!」
 イライジャがたまらず叫ぶ。
「こうなれば、本気を出すしかあるまいっ‼︎『フェアリーズ・ランチャー』‼︎」
 イライジャの両腕からベリベリと音を立てながら幅が一メートルはある羽を持った蝶が生まれ、次の瞬間にはロケットランチャーに変貌した。その数は数十にも及び、それを見た出水の憂鬱は更に加速した。
「ファイア!」
 イライジャの合図により、ロケットランチャーのフェアリーズが一斉に出水に向かって爆撃を始めた。
 出水はそう心の中で「畜生!」と毒づきながら、何度も被弾から死亡の流れの中で考えを巡らせた。すると名案が思いついた。
「利昰!アンタのことだから予備の剣持ってんでしょ⁈ちょっとそれ、よこしてくれ‼︎」
「…良いのね⁈わかったわ!」
 明日辺が投げてよこした諸刃の剣は信じられないほどに熱く、柄に触れた瞬間に、手のひらが焼け焦げ、壮絶な痛みが手を襲った。その痛みを気合いでなんとか耐えながら全てのロケットランチャーを弾頭に触れないように斜め上方向に打ち返した。
 イライジャが真上で爆ぜた弾を、反射的に見た時間はコンマ1秒。だが、それがイライジャの命運を分けることとなった。イライジャが次に目を下ろした時には出水の手が自らの首に伸びていた。
「は…な、せ‼︎」
 イライジャはか細い声でそう言ったが、勿論出水はそれを完全に無視し、イライジャの頭を地面に叩きつけた。
 対象が完全に気を失ったのを確認すると、出水は大きく息を吐いた。
「よし、利昰、琵琶持を呼んでイライジャを拘束して…」
 そう言うと出水は、前のめりに倒れ、自らの身体が硬い床にぶつかる音を聞きながら気絶した。
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