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第三章・我校引線
12話 嫁と子供が1番大事! 夫と子供が1番大事! その2
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「…来ましたか」
ドアから入って来た夫妻を、琵琶持はにこやかに歓迎した。
「貴方を殺させてもらう。私たちの子供のために…!」
男が静かに言う。
「成る程。子供が動機ですか。貴方達の幸せを願い、自らこの首を掻き切ってあげたいところですが…残念。私たちにも目的があるのです」
琵琶持は一本のナイフをゆっくり取り出すと、それを夫妻に向かって構えた。
出水探偵事務所の地下一階はトレッドミル、ベンチプレス、シットアップベンチ、懸垂マシン、果ては一周200メートルの競技用トラックまである広大な部屋であり、出水と琵琶持は、日々ここで自らの体を鍛え抜いている。
現在、夫妻と琵琶持が睨み合っているのは競技用トラックの中であり、遮蔽物も何もない場所である。それはつまり、これから起こる戦いが小細工なしの命の取り合いになることを示唆していた。
「うりゃ!うりゃあぁあ‼︎」
女は陸上選手顔負けのスピードで琵琶持に近づき、すぐさま拳を放ってきた。放たれたその拳を琵琶持は『避けず』に、もろにくらったが、女は自分の攻撃に手応えが全くないことに気がついた。
「この感じ…『身体強化4』くらいですかね?ですが全く…!全くといって良いほど『なっていない』‼︎」
琵琶持がナイフを振り上げる予備動作に入ったことに気づいた女は、物をたやすく切り裂く琵琶持の攻撃特化の能力を警戒し、すぐさま飛びのいた。代わりに男の方が琵琶持に駆け寄った。
「うちの嫁より『なってる女』はいねぇんだよジジイ‼︎」
男が放った蹴りは、人体の急所が集まる正中線を見事に捉えていたため、琵琶持は激痛を感じずにはいられなかった。
琵琶持は歴戦の古兵であり、避けきれない攻撃を浴びた時に、どう攻撃を流すかを心得ている。身体強化レベル5の災害クラスの犯罪者と斬り結んだ経験さえある琵琶持にとって、この、いかにも素人くさい女の攻撃など受け流すことは雑作もないことであった。
しかし、男の方の攻撃を琵琶持は受け流すことが『何故か』出来なかった。まるで急所に吸い込まれるかのように当たる男の攻撃は、常に琵琶持にダメージを与え続ける。
琵琶持は夫の攻撃に対応をしていたため、不意に放たれた妻の攻撃を受け流すことなく食らってしまった。
「ぬぬっ…ぐ…‼︎」
その攻撃は、琵琶持の内臓に多大なる衝撃を与え、口から血が溢れ出た。
「チャンスだ!行くぞ京香‼︎」
夫の声に妻は無言で頷き、夫が左を攻めれば妻は右を攻め、妻が上を攻めれば夫が下を攻める、といった具合に、息ぴったりのラッシュを琵琶持に叩き込み始めた。
しかし、夫妻はある不安を感じていた。それは、『本当に攻撃が効いているのか』という不安である。何故なら、口から血反吐を吐かせるほどの猛攻をくらっている目の前の老人の目には、まだ殺気が宿っており、口元に至っては口角が上がったまま、気味の悪い笑顔を貼り付けてたままだからだ。
「いい加減早く死んでください‼︎」
妻がそう叫び、目にも留まらぬ速度で右拳を琵琶持の側頭部に向けて突き出した。
「グブッ…‼︎」
琵琶持の身体がぐらつく。だが、琵琶持は笑っていた。そして妻と入れ替りに自分に止めを刺そうとしている男に向け、琵琶持はこう言った。
「君…『左腕』、見たほうがいいんじゃないですかね?」
「あ…」
男がそれに気づいた時にはもう遅く、琵琶持の神速の刃は、男の左腕を斬りつけていた。
「貴方、戦闘中に左腕をチラチラ見過ぎですよ」
男の能力、それは左腕に現れる、自分にしか見えないコンパスである。能力名は『Justice road』。そのコンパスの指し示す場所に向かいさえすれば、何もかもが上手く行き、コンパスの指し示す方角に攻撃を続ければ、一撃も喰らわずに完封することさえできる、というとんでもなく強い能力である。
だが勿論弱点はあり、一度でもコンパスの指し示す『正義』に背く行動をすると、強制的に『Justice road』は解除されてしまう。
だが、今、男は焦りから『真後ろ』に指しているコンパスを確認せずに『真正面』の琵琶持に攻撃を仕掛けてしまったのだ。
「甘い…!」
琵琶持は、腕を切り裂かれて絶叫している男の顔面を蹴り飛ばした。女の方は血を吐いて倒れてしまった。
「フー。コンビネーションは最高ですが、いかんせん経験が足りない…私の誘いのままに進んでくれて助かりました」
琵琶持は、懐から鉄板を取り出してそれを研ぎ、男が着ていたジャケットの一部を切り取った。
「やれやれ…わざと口内を噛んで血を出すなんて何年ぶりですかね」
琵琶持はその切れ端で口元の血を拭いつつ、側の椅子に座り、スマホを取り出した。
ドアから入って来た夫妻を、琵琶持はにこやかに歓迎した。
「貴方を殺させてもらう。私たちの子供のために…!」
男が静かに言う。
「成る程。子供が動機ですか。貴方達の幸せを願い、自らこの首を掻き切ってあげたいところですが…残念。私たちにも目的があるのです」
琵琶持は一本のナイフをゆっくり取り出すと、それを夫妻に向かって構えた。
出水探偵事務所の地下一階はトレッドミル、ベンチプレス、シットアップベンチ、懸垂マシン、果ては一周200メートルの競技用トラックまである広大な部屋であり、出水と琵琶持は、日々ここで自らの体を鍛え抜いている。
現在、夫妻と琵琶持が睨み合っているのは競技用トラックの中であり、遮蔽物も何もない場所である。それはつまり、これから起こる戦いが小細工なしの命の取り合いになることを示唆していた。
「うりゃ!うりゃあぁあ‼︎」
女は陸上選手顔負けのスピードで琵琶持に近づき、すぐさま拳を放ってきた。放たれたその拳を琵琶持は『避けず』に、もろにくらったが、女は自分の攻撃に手応えが全くないことに気がついた。
「この感じ…『身体強化4』くらいですかね?ですが全く…!全くといって良いほど『なっていない』‼︎」
琵琶持がナイフを振り上げる予備動作に入ったことに気づいた女は、物をたやすく切り裂く琵琶持の攻撃特化の能力を警戒し、すぐさま飛びのいた。代わりに男の方が琵琶持に駆け寄った。
「うちの嫁より『なってる女』はいねぇんだよジジイ‼︎」
男が放った蹴りは、人体の急所が集まる正中線を見事に捉えていたため、琵琶持は激痛を感じずにはいられなかった。
琵琶持は歴戦の古兵であり、避けきれない攻撃を浴びた時に、どう攻撃を流すかを心得ている。身体強化レベル5の災害クラスの犯罪者と斬り結んだ経験さえある琵琶持にとって、この、いかにも素人くさい女の攻撃など受け流すことは雑作もないことであった。
しかし、男の方の攻撃を琵琶持は受け流すことが『何故か』出来なかった。まるで急所に吸い込まれるかのように当たる男の攻撃は、常に琵琶持にダメージを与え続ける。
琵琶持は夫の攻撃に対応をしていたため、不意に放たれた妻の攻撃を受け流すことなく食らってしまった。
「ぬぬっ…ぐ…‼︎」
その攻撃は、琵琶持の内臓に多大なる衝撃を与え、口から血が溢れ出た。
「チャンスだ!行くぞ京香‼︎」
夫の声に妻は無言で頷き、夫が左を攻めれば妻は右を攻め、妻が上を攻めれば夫が下を攻める、といった具合に、息ぴったりのラッシュを琵琶持に叩き込み始めた。
しかし、夫妻はある不安を感じていた。それは、『本当に攻撃が効いているのか』という不安である。何故なら、口から血反吐を吐かせるほどの猛攻をくらっている目の前の老人の目には、まだ殺気が宿っており、口元に至っては口角が上がったまま、気味の悪い笑顔を貼り付けてたままだからだ。
「いい加減早く死んでください‼︎」
妻がそう叫び、目にも留まらぬ速度で右拳を琵琶持の側頭部に向けて突き出した。
「グブッ…‼︎」
琵琶持の身体がぐらつく。だが、琵琶持は笑っていた。そして妻と入れ替りに自分に止めを刺そうとしている男に向け、琵琶持はこう言った。
「君…『左腕』、見たほうがいいんじゃないですかね?」
「あ…」
男がそれに気づいた時にはもう遅く、琵琶持の神速の刃は、男の左腕を斬りつけていた。
「貴方、戦闘中に左腕をチラチラ見過ぎですよ」
男の能力、それは左腕に現れる、自分にしか見えないコンパスである。能力名は『Justice road』。そのコンパスの指し示す場所に向かいさえすれば、何もかもが上手く行き、コンパスの指し示す方角に攻撃を続ければ、一撃も喰らわずに完封することさえできる、というとんでもなく強い能力である。
だが勿論弱点はあり、一度でもコンパスの指し示す『正義』に背く行動をすると、強制的に『Justice road』は解除されてしまう。
だが、今、男は焦りから『真後ろ』に指しているコンパスを確認せずに『真正面』の琵琶持に攻撃を仕掛けてしまったのだ。
「甘い…!」
琵琶持は、腕を切り裂かれて絶叫している男の顔面を蹴り飛ばした。女の方は血を吐いて倒れてしまった。
「フー。コンビネーションは最高ですが、いかんせん経験が足りない…私の誘いのままに進んでくれて助かりました」
琵琶持は、懐から鉄板を取り出してそれを研ぎ、男が着ていたジャケットの一部を切り取った。
「やれやれ…わざと口内を噛んで血を出すなんて何年ぶりですかね」
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