出水探偵事務所の受難

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第三章・我校引線

19話 樹海と切り裂き魔

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「チッ…マーキングが弱い。両断できないな」
 時墺は出水の手を見ながらそう言った。
「お前、いつ記憶が直ったんだ?」
「きっかけは琵琶持の能力の詳細を聞いた時だよ。俺と琵琶持の能力はまぁまぁ似ててね。本格的に戻ってきたのはさっき、部屋に置かれててた家族から俺への罵詈雑言が書かれた手紙を見た時かな」
 手をゆらりと前に出しながら時墺はため息をついた。
「それから直ぐに、下僕供にここまで『飛ばして』もらったわけよ。話は終わり」
 そう言った瞬間、時墺の腕の横から赤黒い刃が飛び出した。
 それに倣い、出水も袖に仕込んでいるトンファーを両手に持ち、武器を構えた。
「さっき私は鏡の柱に問い合わせたんだ。そしたらお前は『討伐対象』だった」
「だからどうしたの?さっさとヤろうよ」
「そうか…」
 奇しくも2人の構えは共通して、蟷螂のように肘を曲げ、両腕を側頭部の高さまで上げた構えだった。
 2人の戦いは、超接近戦と相成った。幅の広い時墺の刃の腹をトンファーで弾き上げ、空いたガードに、すぐさま出水はもう片方のトンファーを突き込んだ。だが、時墺は改竄後の鈍臭かった女子高生と同一人物とは思えないほどの身のこなしでそれを避け切った。
「強いね。攻撃が当たる気がしないよ。露沙ちゃん」
「こっちのセリフだ。確かに筋肉はついているとは思ってたが…戦い慣れすぎだ」
「ふふ、ねぇ、露沙と俺の仲なんだから、ここは見逃してほしいな。どう?」
「絶対無理」

 『ダーク』から授けられた能力は共通して、相手との契約が主軸となる。時墺の能力、『報復する悪魔の鋏』は、対象に触れることで強制的に契約をする能力である。
 時墺はクラスメイト達に触れると『親密な人に出来るだけ長く長期的に触れ。さもなければお前の切り取り線が切れるぞ』と命令、脅迫し、切り取り線を拡大させていったのだ。
 時墺自身は、腕、脚、能力発動時に出せる刃で対象をなぞると、そこに見えない『線』が引かれ、後は任意のタイミングでそこを『切り取る』ことができる。他人がそれを防ぐ方法は『服従』しかない。兎に角、能力者に逆らいさえしなければ、切り取られることはないが、一度逆らえばその時点で自動的に対象は切り取り線に沿って、バラバラに切り裂かれてしまうのだ。
 だが、今、記憶が改竄されたことによって、元の人格が一時的に失われた為にその契約は途切れ、全ての人への契約は途切れた。それに気づいた狩野は、遂に時墺に反旗を翻し、出水に協力を申し出たのだった。
「出水、右のドアだ‼︎」
 狩野の指示に従い、出水が右側にあるドアに突っ込んで入っていく。それと同時に狩野は倒れるように後ろのドアに入った。

 舌打ちをしつつ、時墺も狩野が入ったドアに走りこむ。
「俺を『探ってきたやつを殺す』という指示を守るどころか、破って協力関係になるとはねぇ。校長先生…なぶり殺してやるよ」
 時墺が入った空間は森だった。木にドアが立てかけてあり、そこから出たらしい。
「フン…」
 時墺は腕から出た刃を肉の内にしまうと、腕に力を込め始めた。両腕は次第に赤色を帯びてゆき、強く、硬く、鋭く、薄い鎧で覆われ、そしてそれが手まで達すると、手の甲もそれで覆われ、5本の指は尖りに尖った刃と化した。
 先程の形態は、時墺にとって『遊び』もいいところの、杜撰の極みのようなものである。が、今の形態は言うなれば、時墺の残忍さと狡猾さと殺意の高さが現れた、生まれながらの殺人者、時墺鈴そのものである。

 形態変化が終わると同時に時墺は、右足をほんの少しだけ引き摺りながら森の中を走り始めた。それによって森に切り取り線が引かれる。
「『切断』」
 そう時墺が呟くと同時に、森の地面が切り取り線に沿って割れ、樹海に砂埃が立ち込めた。これはトラップと狙撃を警戒しての行動である。
「あちゃー、派手にやってますねぇ上司殿」
 時墺が後ろを振り向くと、2人の人影がいた。
「おぉ…久しぶりね、我が下僕共よ」
 1人目は、茶髪と目元の3本線のタトゥーが目立つチャラそうな男で、2人目は厚ぼったい服を着た、呪術に使われているような仮面が目を引く長身の人物だった。
「石動、あんたは狩野を。アルトネは私と同行して」
 2人はその指示にただ一言「了解」と呟いた。
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