出水探偵事務所の受難

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第三章・我校引線

20話 校長とガンナー

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「おい…なんかやばそうなのが出てきたぞ。特にあの仮面の奴」
「落ち着け、手練れの須郷よりは幾分かはマシだ。奴が来ないのを嬉しい誤算と捉えろ!」
 2人は、石動とアルトネと時墺から直線距離にして約300メートル程の木の上に陣取っていた。
 狩野に双眼鏡を放り投げると、出水はため息をついた。
「なぁ、お前の情報は本当に合っているのか?」
「まだ俺のことを信用してないのか?お前に嘘の情報を流してくたばるのはお前だけじゃないんだ。間違った情報を渡すわけがないだろうが」
「そうかよ。…よし、それじゃ作戦通り行こうか」
 まず、前提として狩野達がいる山には、先程仕込まれた大量のドアが隠されている。そのポイントを2人で共有し、行ったり来たりして相手を撹乱するのが作戦だった。
 出水は指を鳴らして居なくなった狩野を尻目に、横に置いてあるドアを開けて移動した。出水が移動した先は、時墺とアルトネの2人から5メートル右の草むらの中だった。草むらの中で出水は両手に麻酔弾を持って、それを2人に向けて撃った。
 弾丸は真っ直ぐ2人に飛んでいったが、時墺はコレを右手で真っ二つに切り、アルトネの方は防ぐことすらせずに弾き返していた。そして時墺は、弾丸が発射された方向へすぐさま急襲した。
「あれ…いない」
 だが、そこには誰もおらず、ドアが一つあるだけだった。
「狩野の能力か。アルトネ、追加の煙幕を出しなさい」
 時墺の指示に従い、アルトネは、身に纏っている厚ぼったい服の下から大量の煙幕を噴出した。

 その頃、鏡の間では、鏡の柱と痩身の黒い人の形をした者が話し合って居た。
「『ダーク』…貴方はどちらの陣営が勝つと思っているのですか?」
「もちろん俺側…『時墺』が勝つはずだ」
 黒い人影、ダークの顔は、黒いモヤの様なものがかかっていて、その表情を読み取ることはできない。
「100年に一度の逸材の須郷智昭ほどではないが、石動、アルトネも良い人材だ。そして、殺意に誰よりも早く反応し、その上『人数制限』すら突破したあの切り裂き魔にそちらの出水が勝てるとは全く思えないね」
 その意見に対して鏡の柱は自信たっぷりに返答した。
「彼女はね、『時間』の能力者の端くれですよ。どうにかできるはずです」
「『時間』?『時間』と言ったのか。あの4人しかいない筈だろう、時間の能力者は」
「彼女は幻の5人目。時間を戻す。そういう能力です」
 すると、ダークの口元のモヤが晴れ、歪みきった笑みを湛えているのが顕になった。
「そうか、あの女の娘か…!確かに姿形がそっくりだ…!これは楽しみになる…!」

 出水がドアを通って逃げた頃、狩野は石動と既に交戦していた。
「くっ…!」
「45のおっさんにしちゃ上出来な動きですね。狩野さん」
 石動はそう言いながら、銃の照準を合わせて何発か発泡した。それを手に持った盾で狩野は凌ぐ。狩野が持っている盾は畳一つ分程の大きさの物で、運ぶには少々きつそうな代物だった。
 だが、狩野はそれを持ちながらも軽快に起伏の激しい樹海を駆け回っている。
 やはり、強い。狩野は石動の銃の腕の良さに、戦慄していた。
 闇能力者達と専属して契約を交わす者たちを、教育する機関がある。以前、狩野は時墺にそう言われたことがある。時墺曰く、そこで英才教育を受けた者は、全員が全員何かしらの『プロ』になり、闇能力者達に尽くすようになるらしい。
 そして狩野は今、目の前にいる石動は何のプロだ?と誰かに問われた場合、すぐさま「移動射撃のプロ」と答えるだろう。それほどまでに石動の両手拳銃の精度は高かった。
「盾で防がれて当たらんねぇ狩野さん。当たるようにしてるんだけどねぇ…」
 石動はそう呟きながら、空になったマガジンを捨てて、新しくリロードした。
「よし、じゃ行きますよ。絶技をねぇ」
 石動はまず、周辺の大樹の上部を、地表から乱れ打ちし、次に追加の弾丸を何発か打った。
 弾丸に抉られた葉や木々の破片が舞い散り、そこに追加の弾丸が当たる。そして、ほんの僅かだが、無数の木々の破片達によって、弾丸の進む角度が歪められる。その繰り返しにより、弾丸はあり得ないとしか思えない軌道を描き、全方位から狩野を襲う。
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