出水探偵事務所の受難

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第三章・我校引線

23話 出水露沙VS時墺鈴 【青春の行く末】

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「よし、届きましたね。で、いいんですか、私を倒さなくて」
 琵琶持は煙の結界の内側に刀を投げ込むと、隣にいる重武装の時墺の下僕、アルトネにそう聞いた。
「良いですよ。上司様は私に『正々堂々やる』みたいなことを言っておいて武器使ってましたからね。これくらいはアリでしょう。それに上司様には早々に死んでもらいたいですしね」
「さいですか。…お」
 煙でよく見えないが、側の草むらから2つの人影が出てきた。
「あ、琵琶持さんここにいたんですか」
「お前は!アルトネ!」
 幸田に肩を担がれている狩野が血相を変える。
「安心してください。私はもうあなた方に危害を加えるつもりはありません。あなた方が加えると言うなら別ですが?」
 アルトネが顔を向けると、幸田は慌てて狩野に説得を試みる。
「ほら、狩野。そう言ってることだし信用してやれよ。どちらにせよ琵琶持さんと俺がいるから、戦いになったら有利になれるはずだ」
 幸田のこの説得により、狩野は渋々ながらも頷いた。

「オォッラァッ‼︎」
「ウラァァァ‼︎」
 出水と時墺は同時に自らの武器を振りかぶり、同時に振り下ろした。その瞬間、煙の結界内の空気が激しく揺さぶられ、短く鋭い衝撃が走った。
「やはり、琵琶持とお前の能力は『矛盾しあってる』‼︎つまり、『相殺』が可能だったということだ‼︎」
 一般にはあまり知られていないが、矛盾し合う能力がぶつかった場合、両者の能力は相殺される。今の場合、『当たったら必ず切れ、破損することはない刃を作り出す』琵琶持の能力と、『当たったら必ず切れるマーキングがされ、破損することはない刃を作り出す』時墺の能力がそれに当たる。 
 現実にはあり得ない矛盾が能力によって起こった瞬間、鏡の柱とダークによる現実干渉によって世界の均衡は保たれる。
 そして今、時墺は『切れろ』と呟いても切れない相手の獲物に動揺していた。何せ時墺はそんな経験は皆無だったのだから無理もないことである。その動揺の隙を感じ取った出水は、先ほどの衝撃で後退した時墺の右足に向かって刀を横に切り払った。
「あーッ‼︎クソっ‼︎」
 時墺はその叫びと共に、今泣き別れした右足の断面に残る痛みを噛み殺し、冷静さを一瞬にして取り戻した。
「『穿抜け』ぇぇえっ‼︎」
 その声と同時に先程鋏が突き刺された地面が盛り上がり、断裂した。
 まるで地震が起きたかのように地面が揺れたが、時墺は片足でその揺れに対応した動きをしながら鋏を開き、出水を挟み切ろうと襲いかかった。しかし出水は体制を崩しながらもなんとか刀を鋏に振っていた。そして、また能力の矛盾による衝撃が起こる。
「ァァァア‼︎」
「ウラァァァ‼︎」
 ここで押し切った方が勝つ。時墺と出水は同時にそう感じ取り、足に力を込めた。
「死ねぇぇえぇえぇええ‼︎」
「ぁああああ‼︎」
 瞬間、出水の刀にヒビが入った。琵琶持の能力の持続時間が切れかかっている…!なんとかしないとまずい!そう焦った出水は口に伝う血を呼吸で跳ね散らしながら、吠えに吠えた。
 すると、次第に出水の方が時墺を押し始めた。
「クッ…」
「ァァァアァアア‼︎」
 遂に、出水の刀が時墺の刃を押し切った。それにより、時墺が後ろに向かって倒れる。
 時墺は体制を立て直そうと片足で立ち上がり出水の方に向き直るが、その時には出水が伸ばした刀が自分の喉元まで伸びていた。
 出水が冷たさと哀れみが詰まった目で見下ろしながら、時墺に問いかける。
「言い残すことは?」
「…死ねよ」
「そうか」
 そして出水はそのまま時墺の首に向かって刀を振り下ろした。

「あのまま鋏を押し通せば私を殺せたのに、最後お前は手加減した…。『友達の方』の時墺の意識があったのか、足の怪我のせいなのか。どちらにせよ…」
 地面に転がる時墺の顔を見下ろしながら出水は苦々しく呟いた。
「お前からの依頼は、こんな形になったが、終了した。…さよなら。時墺鈴」
 出水は、ひび割れた刀を地面に突き立て、死体に向けて背を向けた。
 以後、誰も此処へは立ち寄ることはなかった。
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