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第四章・失律聖剣
3話 その下僕、須郷智昭
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本の世界には幾つかのルールがある。一つ目は、主要登場人物とは関わりを持ってはいけないこと。二つ目は三日以上本の世界に留まらないこと、三つ目は世界観にあった格好でなければ本の中に入ってはいけないこと。このいずれかを犯せば、本の世界によって異端と見なされ、強制的に本から出られずに登場人物の一人となってしまう。
ちなみにこのルールは能力の持ち主であるリブラには適用されないため、リブラはあのカラフルな姿のままである。と、リブラは二人に説明した。
「俺が…恐らく無くしたと思われる日は…ここら辺を散策していた…と思う」
「随分曖昧だな」
「しょうがないだろ。最後にここを訪れたのは何年も前の話だ」
「はぁ…しょうがないわね…私がこの観察眼で見つけてあげるわよ‼︎」
明日辺の意気込みに対し、リブラは鼻で笑った。
「あー‼︎鼻で笑った!このーっ‼︎」
「まーた喧嘩し始めやがった…」
出水はやれやれと思いながら、「そこら一体をざっと見てくる」と二人に声をかけ、そこから離れていった。
今出水は、落ち葉が降り積もっている緑鮮やかな森林を徘徊している。
「黄色い本ねぇ…本当にあるのか、な、と」
独り言を呟きながら出水は、あたりを見回した。鮮やかな紅葉と、茶色い木の幹だけが広がっているこの森は、イルデーニャ島の大森林とは対照的ながらも同じような雄大さを出水に感じさせた。
そうやって森を見て回ること十五分、出水は目の端に光るものを捉えた。出水はそれを調べるべくそこへ近づいていく。
「…これは」
それは、小さな文字がびっしりと書いてある羊皮紙だった。出水がそれを拾い上げようと屈んだその時、ガサッと背後の茂みが揺れた音が森に響いた。
「おいおい…お前」
その声を聞いた出水は走った。
住民に見つかった…‼︎このままじゃこの本の世界に取り残される‼︎
出水は無我夢中で声の発生源からフルスピードで逃げた。だがその瞬間、出水の腕を何者かが掴んだ。
「おいおい…話しかけてるのに逃げるとは…さてはお前、失礼ガールか?」
男はそう言いながら出水の手首を捻りあげた。
「ぐぅっ…‼︎」
「安心しろよ『出水露沙』…おれはこの世界の住民じゃない」
「…‼︎私の名前を⁈誰だお前…」
出水は背後を振り返った。そこには、剣を持った飄々とした感じの男が立っていた。
「俺の名前は『須郷智昭』。しがない闇能力者専門の『下僕』だ」
「『下僕』…専属の契約者か」
「ああ。今回は俺の新たなご主人様と一緒に来たんだ」
「何の目的で?」
「そりゃ秘密さね。まぁ、心配しないように言っておくが、お前のその黄色い本とは関わりのない任務でな」
「そうかよ」
そう言うと、出水は須郷の右腕を払い除けた。
「初対面なのに馴れ馴れしいぞお前」
「…馴れ馴れしくもなるさ、お前は俺の恩人だからな」
「は?」
「聞いてないのか?幸田とかいう奴から」
「何の話だ」
出水のつれない返答を聞いて、須郷はガックリと肩を落とした。
「聞いてない…か。…まぁとにかく‼︎お前には恩があるから敵対することはない。だから…」
「『取引』はするな」
突然そのような声が森に響いた。そこには、仮面をつけた男が立っていた。
「戦闘だけだな…全くお前は」
フード付きのコートを着用した、大柄の仮面の男がそのように言うと、須郷は面倒臭そうにその男の元に戻った。
「出水露沙…私も貴様とは敵対するつもりはない。…ほら行くぞ須郷」
「へいへーい。じゃあな出水」
そう言うと、須郷は面倒臭そうに仮面の男について行った。
そんな二人をポカーンと見送っていた出水は不意に服の中に違和感を覚え、右袖の中をまさぐった。すると、中から一枚の紙切れが出てきた。そこにはこう記されていた。
『俺たちの雇い主もこの本の世界にいるかもしれない。そいつとは会わないようにした方が良い』
ちなみにこのルールは能力の持ち主であるリブラには適用されないため、リブラはあのカラフルな姿のままである。と、リブラは二人に説明した。
「俺が…恐らく無くしたと思われる日は…ここら辺を散策していた…と思う」
「随分曖昧だな」
「しょうがないだろ。最後にここを訪れたのは何年も前の話だ」
「はぁ…しょうがないわね…私がこの観察眼で見つけてあげるわよ‼︎」
明日辺の意気込みに対し、リブラは鼻で笑った。
「あー‼︎鼻で笑った!このーっ‼︎」
「まーた喧嘩し始めやがった…」
出水はやれやれと思いながら、「そこら一体をざっと見てくる」と二人に声をかけ、そこから離れていった。
今出水は、落ち葉が降り積もっている緑鮮やかな森林を徘徊している。
「黄色い本ねぇ…本当にあるのか、な、と」
独り言を呟きながら出水は、あたりを見回した。鮮やかな紅葉と、茶色い木の幹だけが広がっているこの森は、イルデーニャ島の大森林とは対照的ながらも同じような雄大さを出水に感じさせた。
そうやって森を見て回ること十五分、出水は目の端に光るものを捉えた。出水はそれを調べるべくそこへ近づいていく。
「…これは」
それは、小さな文字がびっしりと書いてある羊皮紙だった。出水がそれを拾い上げようと屈んだその時、ガサッと背後の茂みが揺れた音が森に響いた。
「おいおい…お前」
その声を聞いた出水は走った。
住民に見つかった…‼︎このままじゃこの本の世界に取り残される‼︎
出水は無我夢中で声の発生源からフルスピードで逃げた。だがその瞬間、出水の腕を何者かが掴んだ。
「おいおい…話しかけてるのに逃げるとは…さてはお前、失礼ガールか?」
男はそう言いながら出水の手首を捻りあげた。
「ぐぅっ…‼︎」
「安心しろよ『出水露沙』…おれはこの世界の住民じゃない」
「…‼︎私の名前を⁈誰だお前…」
出水は背後を振り返った。そこには、剣を持った飄々とした感じの男が立っていた。
「俺の名前は『須郷智昭』。しがない闇能力者専門の『下僕』だ」
「『下僕』…専属の契約者か」
「ああ。今回は俺の新たなご主人様と一緒に来たんだ」
「何の目的で?」
「そりゃ秘密さね。まぁ、心配しないように言っておくが、お前のその黄色い本とは関わりのない任務でな」
「そうかよ」
そう言うと、出水は須郷の右腕を払い除けた。
「初対面なのに馴れ馴れしいぞお前」
「…馴れ馴れしくもなるさ、お前は俺の恩人だからな」
「は?」
「聞いてないのか?幸田とかいう奴から」
「何の話だ」
出水のつれない返答を聞いて、須郷はガックリと肩を落とした。
「聞いてない…か。…まぁとにかく‼︎お前には恩があるから敵対することはない。だから…」
「『取引』はするな」
突然そのような声が森に響いた。そこには、仮面をつけた男が立っていた。
「戦闘だけだな…全くお前は」
フード付きのコートを着用した、大柄の仮面の男がそのように言うと、須郷は面倒臭そうにその男の元に戻った。
「出水露沙…私も貴様とは敵対するつもりはない。…ほら行くぞ須郷」
「へいへーい。じゃあな出水」
そう言うと、須郷は面倒臭そうに仮面の男について行った。
そんな二人をポカーンと見送っていた出水は不意に服の中に違和感を覚え、右袖の中をまさぐった。すると、中から一枚の紙切れが出てきた。そこにはこう記されていた。
『俺たちの雇い主もこの本の世界にいるかもしれない。そいつとは会わないようにした方が良い』
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