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第四章・失律聖剣
11話 ギレム教団 その2
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出水と明日辺は案内された屋敷の中を見て「やはり絵本の世界だなぁ」と思わずにはいられなかった。壁という壁には彫刻がなされており、柱にはガーゴイルの彫刻がある。そして、もはやディ◯ニー映画でしか見かけないような装飾品のせいで、二人は敵地にいるにも関わらずテーマパークにいるような気分なっていた。
「それじゃ奥にお進みください」
修道女の一人にそう急かされながら二人は進んだ。現在、出水と明日辺の側には二人の修道女がいる。この二人は明らかに獲物が逃げ出さないようにと出水達を見張っている。
頃合いを見計らい、出水は明日辺と刹那、視線を合わせると、修道女の内一人の側頭部にハイキックを喰らわせた。
「な、賊が…‼︎」
「はい、ちょっと静かに」
そう言いながら、明日辺はもう一人の修道女の首を抱き抱えるようにしてキュッと締めあげた。
「よし…私らをカモろうとしたのが運の尽きだな。…早く着替えるぞ」
「はいはい」
気絶した修道女二人を小部屋に連れ込み、そして素早く着ているものを剥ぎ取っていく。
「うーわ、やっぱりもってた」
そう言いながら明日辺が木の棍棒を手に取る。
「いいから早くしろっての」
「そうだわね」
一分後、小部屋には下着姿で寝ころぶ女性二人とギレム印のシスター二人がいた。
「さて…と、捜査開始だ」
「…了解」
それから二人は一緒に屋敷を探索し始めた。出水達がこの屋敷でしなければならないことは二つある。それは『セカンドシーズン』の鍵となる男『ギレム』の居場所の情報を得ること、それを持ったまま脱出することである。
が、二人はこの屋敷までの道のりを歩いてみて二つ目の脱出が難しいと知っていた。
屋敷の周りは十メートル程の分厚い壁で囲まれその壁の上には道が通されており、そこは随時修道女が周回している。
…まるで王城並みの警護だ。ここに何かあると見て間違いない。出水はそう確信していた。
そしてまず最初に出水達が向かったのは屋敷の食堂だった。そこでは多くの修道女達でごった返しており、その周囲にはギレムと思われる顔の似顔絵が所狭しと並んでいる。
「確かにかっこいい顔してるわ…」
明日辺が絵を見ながら呟いた。
「そうか?」
「現実にいたら大スター級じゃない?」
「そういうもんかねぇ」
確かに、絵を見てみるとイルデーニャで共に戦ったカストロより数段上の顔であるように思える。
出水達はそこで適当なパンと飲み物を頼むと、噂話をしている集団の近くにある席に着いた。そして、出水達はその噂話に耳を澄ませ始めた。
「それでそれで?なんでこの屋敷にギレム様がいないと決めつけるのさ」
「だって前まで一週間に一回開かれてたお披露目会が今じゃ半月に一回…次まであと二週間もある。明らかに何かおかしいでしょ?」
「うーん…」
「それにさ、さっき聞いたんだけど、司祭様が最近一人でどこかに行ってるらしくて…」
「つまり…司祭様が直々にギレム様を探しに行っている…ということかしら」
「そうよ」
「ほんとかなぁ…ただギレム様の都合が悪くなったとかじゃないの?それかただ単に信者を勧誘しに行ったとか…」
「それにしては外出の時間が多すぎるのよ」
出水は恐らくこの噂好き修道女の話していることは本当だと思った。…その根拠は探偵の勘である。それから、出水と明日辺は食堂内にて多くの噂話を聞き、個々の内情を捉えることに成功した。
この『ギレム教団』というカルト団体は、ギレムを崇拝し『推し』ていく団体でその構成員全てが女性で構成されている。中には小学生並みの年齢の女児や、夫や恋人を捨ててまでこの教団に入った者もいるらしい。そしてその活動目的はギレムを推し勧めることだけにある。皆朗らかに話していたが、恐ろしいことにギレムをバカにした者に対する血みどろの粛清も多く行っているらしい。
出水と明日辺は乾いた血がべっとりと付着した槍をにこやかに布で拭う修道女を尻目に、食堂を出て行った。
「ここの他に人が多く集まっている場所はないんだな?」
「…ないわね。私の『熱感知』に引っかかってないわ」
明日辺が自信ありげにそう言った。何を隠そう、明日辺は最近、自身の能力の進化に成功し、熱感知を習得したのだった。
「でも…入るべき部屋は見つけたわ」
明日辺が上を向く。
「恐らく三階のこの視線の先の部屋…そこだけたまに数人が出入りして、何かをしまっていたり何かを書き込んでいるような動作を確認できた…」
「根拠がぬるすぎないか?」
「そうね、でも、一つだけ気になるのが、とんでもなく高い『熱』の出入りよ」
「なんじゃそら」
「わからないわよ。とにかく熱を持った塊が、外から入ってきてる…今ね」
行くべき場所が決まった。気になるものは調べ尽くしてこその探偵だ!
「キュバリエ…渡した似顔絵の女二人を見つけたそうじゃない」
「ええ。リーメとラルが今ここに連れてくる筈よ」
ルインは人間態のまま、キュバリエと呼んだ女の前にある椅子にどかっと座った。
すると部屋をノックする音が二人がいる部屋に響いた。
「…入りなさい」
キュバリエがそう言う。
「失礼します。司祭様、リーメとラルが…その、小部屋で裸で倒れていました」
「…っ⁈…そうですか。二人を介抱しなさい。それと、二人が連れていた入信者はどうしましたか?」
「行方はわかりません」
「…よろしい。引き続き捜索を頼みます。それでは下がりなさい」
「はい」
修道女が部屋から出ると、キュバリエはやれやれと片手を頭に当てた。その様子を見てルインがため息をついた。
「どうするつもり?明日辺と出水が逃げたらしいけど?」
「大丈夫。この屋敷は脱出不可能…そして、私の信者もいる…逃げることは不可能よ」
「それじゃ奥にお進みください」
修道女の一人にそう急かされながら二人は進んだ。現在、出水と明日辺の側には二人の修道女がいる。この二人は明らかに獲物が逃げ出さないようにと出水達を見張っている。
頃合いを見計らい、出水は明日辺と刹那、視線を合わせると、修道女の内一人の側頭部にハイキックを喰らわせた。
「な、賊が…‼︎」
「はい、ちょっと静かに」
そう言いながら、明日辺はもう一人の修道女の首を抱き抱えるようにしてキュッと締めあげた。
「よし…私らをカモろうとしたのが運の尽きだな。…早く着替えるぞ」
「はいはい」
気絶した修道女二人を小部屋に連れ込み、そして素早く着ているものを剥ぎ取っていく。
「うーわ、やっぱりもってた」
そう言いながら明日辺が木の棍棒を手に取る。
「いいから早くしろっての」
「そうだわね」
一分後、小部屋には下着姿で寝ころぶ女性二人とギレム印のシスター二人がいた。
「さて…と、捜査開始だ」
「…了解」
それから二人は一緒に屋敷を探索し始めた。出水達がこの屋敷でしなければならないことは二つある。それは『セカンドシーズン』の鍵となる男『ギレム』の居場所の情報を得ること、それを持ったまま脱出することである。
が、二人はこの屋敷までの道のりを歩いてみて二つ目の脱出が難しいと知っていた。
屋敷の周りは十メートル程の分厚い壁で囲まれその壁の上には道が通されており、そこは随時修道女が周回している。
…まるで王城並みの警護だ。ここに何かあると見て間違いない。出水はそう確信していた。
そしてまず最初に出水達が向かったのは屋敷の食堂だった。そこでは多くの修道女達でごった返しており、その周囲にはギレムと思われる顔の似顔絵が所狭しと並んでいる。
「確かにかっこいい顔してるわ…」
明日辺が絵を見ながら呟いた。
「そうか?」
「現実にいたら大スター級じゃない?」
「そういうもんかねぇ」
確かに、絵を見てみるとイルデーニャで共に戦ったカストロより数段上の顔であるように思える。
出水達はそこで適当なパンと飲み物を頼むと、噂話をしている集団の近くにある席に着いた。そして、出水達はその噂話に耳を澄ませ始めた。
「それでそれで?なんでこの屋敷にギレム様がいないと決めつけるのさ」
「だって前まで一週間に一回開かれてたお披露目会が今じゃ半月に一回…次まであと二週間もある。明らかに何かおかしいでしょ?」
「うーん…」
「それにさ、さっき聞いたんだけど、司祭様が最近一人でどこかに行ってるらしくて…」
「つまり…司祭様が直々にギレム様を探しに行っている…ということかしら」
「そうよ」
「ほんとかなぁ…ただギレム様の都合が悪くなったとかじゃないの?それかただ単に信者を勧誘しに行ったとか…」
「それにしては外出の時間が多すぎるのよ」
出水は恐らくこの噂好き修道女の話していることは本当だと思った。…その根拠は探偵の勘である。それから、出水と明日辺は食堂内にて多くの噂話を聞き、個々の内情を捉えることに成功した。
この『ギレム教団』というカルト団体は、ギレムを崇拝し『推し』ていく団体でその構成員全てが女性で構成されている。中には小学生並みの年齢の女児や、夫や恋人を捨ててまでこの教団に入った者もいるらしい。そしてその活動目的はギレムを推し勧めることだけにある。皆朗らかに話していたが、恐ろしいことにギレムをバカにした者に対する血みどろの粛清も多く行っているらしい。
出水と明日辺は乾いた血がべっとりと付着した槍をにこやかに布で拭う修道女を尻目に、食堂を出て行った。
「ここの他に人が多く集まっている場所はないんだな?」
「…ないわね。私の『熱感知』に引っかかってないわ」
明日辺が自信ありげにそう言った。何を隠そう、明日辺は最近、自身の能力の進化に成功し、熱感知を習得したのだった。
「でも…入るべき部屋は見つけたわ」
明日辺が上を向く。
「恐らく三階のこの視線の先の部屋…そこだけたまに数人が出入りして、何かをしまっていたり何かを書き込んでいるような動作を確認できた…」
「根拠がぬるすぎないか?」
「そうね、でも、一つだけ気になるのが、とんでもなく高い『熱』の出入りよ」
「なんじゃそら」
「わからないわよ。とにかく熱を持った塊が、外から入ってきてる…今ね」
行くべき場所が決まった。気になるものは調べ尽くしてこその探偵だ!
「キュバリエ…渡した似顔絵の女二人を見つけたそうじゃない」
「ええ。リーメとラルが今ここに連れてくる筈よ」
ルインは人間態のまま、キュバリエと呼んだ女の前にある椅子にどかっと座った。
すると部屋をノックする音が二人がいる部屋に響いた。
「…入りなさい」
キュバリエがそう言う。
「失礼します。司祭様、リーメとラルが…その、小部屋で裸で倒れていました」
「…っ⁈…そうですか。二人を介抱しなさい。それと、二人が連れていた入信者はどうしましたか?」
「行方はわかりません」
「…よろしい。引き続き捜索を頼みます。それでは下がりなさい」
「はい」
修道女が部屋から出ると、キュバリエはやれやれと片手を頭に当てた。その様子を見てルインがため息をついた。
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