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第四章・失律聖剣
13話 屋敷襲撃 その2
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ギレムの居場所…と言っても、いるかも、な場所であるが、その情報は入手した…‼︎後するのはここからの脱出だけだ‼︎
屋敷の中で数人とすれ違ったが、皆血相を変えて水を運んでいる。私を気にする余裕などないようだ。
そして出水は、易々と屋敷の外にでることが出来た。その時、出水の近くに一匹の猫が近寄ってきた。
「リブラ…しっかりやってくれたようだな…‼︎」
そう言いながら、猫の首輪の内側に折りたたまれている地図を取り出した。この猫は、リブラがこの世界とは違う『猫が普通に言葉を喋れる世界』の絵本から取り出したモブ猫であり、そのため現実世界の猫とは比べ物にならないほど知能が高い。
リブラはこのモブ猫の何十体かをこの世界に降ろし、『出水露沙と明日辺利昰の脱出の手助けをしてくれ』と頼み込んでいる。そして今、出水の目の前にいる猫は、二人がここから脱出可能な道を見つけた猫、となっている。
「…いい子だ。よし、サッサと行くぞ‼︎」
モブ猫に連れられた先にはもう既に明日辺がいた。モブ猫にここで待っていてと言われたのだろう。
「…情報は⁈」
「もちろんゲットだ」
それから、出水は明日辺に情報を全て口頭で伝えながら燃え盛る木々の中を走り抜けて行った。
ギレム教団のアジトとなっている屋敷がある場所は小高い山の上の密林の中である。今、出水達は、広大な屋敷の庭の中の隠れたルートを進んでいる。
「…おい、火の沈下もだいぶ終わったみたいだぞ。火の付け方が甘かったんじゃないんか?」
「文句言わないでよ。…奴ら、ギレム教団のとんでもない統率力の高さがなせる技よ…あ、ちょっと、猫が止まったわ」
猫が止まった…ということは、進行方向上に『障害がいる』ということだ。そして、猫の鋭敏な感覚の通り、出水達の死角からギレム教団の修道女三人が歩いてきた。出水達は枯れ木に隠れているため、その視界には映っていない。そして、その修道女達が歩き去っていくと、猫はまた歩み始めた。
「…ほんと便利ね。確かに欲しいわ」
「だな」
それから出水達は燃え残る草むらや焦げた枯れ木の合間を縫って、歩いて行った。途中何度か修道女と出会しそうになったが、猫のお陰でそれは全て回避できた。そして、ついに出水達は庭の外に通じる場所へ着いた。そこは、木々と外とこちらを分ける十メートルはある壁があった。
猫は出水達をチラッと見ると、ササっと壁の近くに生えた木に登って行った。
「うへー…登れってさ」
そう言うと、明日辺は木に手をかけ、なんとか、といった感じで木を登り始めた。
「早くしてくれ…後がつかえてる」
「わかってるわよ…」
そして、二人は木の太い幹に登り終わった。今猫と二人がいる木は、ちょうど壁の高さと同じくらいである。
つまり、ここから壁に飛び移れば簡単に脱出できるというわけだ。
猫と出水と明日辺は次々と壁に跳び移り、難なく壁の上に立つことができた。
「…猫がいなけりゃこんな奥の奥まで進めなかったな」
「そうね。よし、さっさと下に降りて帰りましょ…ちょっと待って…熱反応が…これは、あの部屋にいた…‼︎」
瞬間、出水達がいる城塞の壁の上に、燃えている巨大な鳥が舞い降りた。その鳥の足に掴まれているのは司祭である。
「…不死鳥か」
「あら、知っているのね。…まぁ現実世界じゃ不死鳥はポピュラーか…起きなさい、ほら」
「う…うぐっ…がはっ…」
そして、司祭は鳥の足の下でサッと目を開けた。
「…足を…退けなさい‼︎」
「あら、怖い怖い…」
そう言うと、不死鳥はやれやれといった風に跳び、そばに移った。キュバリエは立ち上がって自分の背中にある槍を構えると、こちらを向いた。
「出水露沙…そしてその一派ね。貴方達は確実に殺させてもらいます」
「…面倒だな。明日辺、戦えそうか?」
「なんとか…ってところよ。そういうアンタはどうなの?」
「100パーで倒せるわ」
「そう。じゃ、私も行くしかないじゃない」
動き出しは、出水が早かった。出水の手の鉄パイプがキュバリエに飛ぶ。が、キュバリエはそれをスウェーバックで避け、返しに鋭い突きを見舞った。出水はそれに難なく対応した…が、避けた時、思わず足を滑らせ、そこに置かれるように放たれていた不死鳥の火球が出水にヒット、そしてその隙を突かれ、出水は自らの脳をキュバリエの槍で貫かれた。
が、出水はこの一連の流れを見ていたため、出水の『One more time』が発動し、時間が巻き戻った。そしてその結果、出水は前に出るようなことはせず、相手の出方を伺うように一歩下がった。
この勝負において、厄介なのは不死鳥だ。キュバリエ一人なら問題なく倒せるが、キュバリエと合わせるように放たれるコンビネーションが厄介にも程がある。
出水はどう出るか、次の手をどうするか考えながら相手の様子を伺った。
一方の不死鳥、ルインは、出水と明日辺を難なく倒せるだけの実力はある。では何故キュバリエを前衛に立たせているのか?それは、自身の力の加減が難しいからである。前に捕まえたサーヴァロの実力はルインと拮抗しており、全力を出してようやく捕獲ができた。だが、今ここで本気を出してしまえば、物語を進める重要なピースの一つである『キュバリエ』と、生け捕りしか許されない『出水』と『明日辺』を黒焦げの燃えカスにしてしまう。
…キュバリエを連れてきたのは失敗だったかしら。いや、あの修道女の中で一番強いのはキュバリエ。ここはピースを失うリスクを背負ってでもキュバリエに任せるべきだわ。
ルインはそのように結論づけた。
屋敷の中で数人とすれ違ったが、皆血相を変えて水を運んでいる。私を気にする余裕などないようだ。
そして出水は、易々と屋敷の外にでることが出来た。その時、出水の近くに一匹の猫が近寄ってきた。
「リブラ…しっかりやってくれたようだな…‼︎」
そう言いながら、猫の首輪の内側に折りたたまれている地図を取り出した。この猫は、リブラがこの世界とは違う『猫が普通に言葉を喋れる世界』の絵本から取り出したモブ猫であり、そのため現実世界の猫とは比べ物にならないほど知能が高い。
リブラはこのモブ猫の何十体かをこの世界に降ろし、『出水露沙と明日辺利昰の脱出の手助けをしてくれ』と頼み込んでいる。そして今、出水の目の前にいる猫は、二人がここから脱出可能な道を見つけた猫、となっている。
「…いい子だ。よし、サッサと行くぞ‼︎」
モブ猫に連れられた先にはもう既に明日辺がいた。モブ猫にここで待っていてと言われたのだろう。
「…情報は⁈」
「もちろんゲットだ」
それから、出水は明日辺に情報を全て口頭で伝えながら燃え盛る木々の中を走り抜けて行った。
ギレム教団のアジトとなっている屋敷がある場所は小高い山の上の密林の中である。今、出水達は、広大な屋敷の庭の中の隠れたルートを進んでいる。
「…おい、火の沈下もだいぶ終わったみたいだぞ。火の付け方が甘かったんじゃないんか?」
「文句言わないでよ。…奴ら、ギレム教団のとんでもない統率力の高さがなせる技よ…あ、ちょっと、猫が止まったわ」
猫が止まった…ということは、進行方向上に『障害がいる』ということだ。そして、猫の鋭敏な感覚の通り、出水達の死角からギレム教団の修道女三人が歩いてきた。出水達は枯れ木に隠れているため、その視界には映っていない。そして、その修道女達が歩き去っていくと、猫はまた歩み始めた。
「…ほんと便利ね。確かに欲しいわ」
「だな」
それから出水達は燃え残る草むらや焦げた枯れ木の合間を縫って、歩いて行った。途中何度か修道女と出会しそうになったが、猫のお陰でそれは全て回避できた。そして、ついに出水達は庭の外に通じる場所へ着いた。そこは、木々と外とこちらを分ける十メートルはある壁があった。
猫は出水達をチラッと見ると、ササっと壁の近くに生えた木に登って行った。
「うへー…登れってさ」
そう言うと、明日辺は木に手をかけ、なんとか、といった感じで木を登り始めた。
「早くしてくれ…後がつかえてる」
「わかってるわよ…」
そして、二人は木の太い幹に登り終わった。今猫と二人がいる木は、ちょうど壁の高さと同じくらいである。
つまり、ここから壁に飛び移れば簡単に脱出できるというわけだ。
猫と出水と明日辺は次々と壁に跳び移り、難なく壁の上に立つことができた。
「…猫がいなけりゃこんな奥の奥まで進めなかったな」
「そうね。よし、さっさと下に降りて帰りましょ…ちょっと待って…熱反応が…これは、あの部屋にいた…‼︎」
瞬間、出水達がいる城塞の壁の上に、燃えている巨大な鳥が舞い降りた。その鳥の足に掴まれているのは司祭である。
「…不死鳥か」
「あら、知っているのね。…まぁ現実世界じゃ不死鳥はポピュラーか…起きなさい、ほら」
「う…うぐっ…がはっ…」
そして、司祭は鳥の足の下でサッと目を開けた。
「…足を…退けなさい‼︎」
「あら、怖い怖い…」
そう言うと、不死鳥はやれやれといった風に跳び、そばに移った。キュバリエは立ち上がって自分の背中にある槍を構えると、こちらを向いた。
「出水露沙…そしてその一派ね。貴方達は確実に殺させてもらいます」
「…面倒だな。明日辺、戦えそうか?」
「なんとか…ってところよ。そういうアンタはどうなの?」
「100パーで倒せるわ」
「そう。じゃ、私も行くしかないじゃない」
動き出しは、出水が早かった。出水の手の鉄パイプがキュバリエに飛ぶ。が、キュバリエはそれをスウェーバックで避け、返しに鋭い突きを見舞った。出水はそれに難なく対応した…が、避けた時、思わず足を滑らせ、そこに置かれるように放たれていた不死鳥の火球が出水にヒット、そしてその隙を突かれ、出水は自らの脳をキュバリエの槍で貫かれた。
が、出水はこの一連の流れを見ていたため、出水の『One more time』が発動し、時間が巻き戻った。そしてその結果、出水は前に出るようなことはせず、相手の出方を伺うように一歩下がった。
この勝負において、厄介なのは不死鳥だ。キュバリエ一人なら問題なく倒せるが、キュバリエと合わせるように放たれるコンビネーションが厄介にも程がある。
出水はどう出るか、次の手をどうするか考えながら相手の様子を伺った。
一方の不死鳥、ルインは、出水と明日辺を難なく倒せるだけの実力はある。では何故キュバリエを前衛に立たせているのか?それは、自身の力の加減が難しいからである。前に捕まえたサーヴァロの実力はルインと拮抗しており、全力を出してようやく捕獲ができた。だが、今ここで本気を出してしまえば、物語を進める重要なピースの一つである『キュバリエ』と、生け捕りしか許されない『出水』と『明日辺』を黒焦げの燃えカスにしてしまう。
…キュバリエを連れてきたのは失敗だったかしら。いや、あの修道女の中で一番強いのはキュバリエ。ここはピースを失うリスクを背負ってでもキュバリエに任せるべきだわ。
ルインはそのように結論づけた。
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