エッチなデイリークエストをクリアしないと死んでしまうってどういうことですか?

浅葱さらみ

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一日目

第3話

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 お昼過ぎに杉並にある奏の実家に到着した。
 家の中や外には――親戚や部活の関係者だろうか?――多くの弔問客がごった返していた。
 見知らぬ人々の中で小さくなりながら、咲良を探して、都市近郊にしては比較的大きな戸建の中をウロウロしていると、ちょうど和室のふすまを開けて出てきた彼女と鉢合わせになった。
 僕は黒いドレスに身をつつんだ長い黒髪の美少女を見て息を呑んだ。
 充血した目の周りが僅かに朱く腫れ、まるで化粧をしているみたいにいつも以上に彼女の大きな目を強調していた。
 泣きつかれた所為で少しやつれた彼女は、いつもの清楚可憐な印象と違う何処か淫靡で蠱惑的な雰囲気を醸し出していた。
 そんな彼女が、あろうことか! 僕を認めるなり、顔をクシャクシャにして抱きついてきたのだ。

「ユウくん……! ひっく……」
「ちょちょっ! 咲良サン?!」

 手すら繋いだことのない、ましてや触れたことなど皆無。そんな憧れの彼女の肢体がピッタリと僕の前面に張り付いている!
 特にその胸の膨らみの豊かさに驚愕していた。
 だって、咲良はいつも体のラインがわからないようなゆったり目の服を着ていて、それでもモデルみたいに華奢だなとは常々思っていたのだけれど、まさかこんなに大きなオッパイを隠し持っていたなんて?!

 てか、そんなこと考えてたら、またも息子がオッキしてきたよ。
 なんか、今朝からラッキースケベが続くなぁ……。
 しかも、絶対勃起しちゃいけない状況でだよな、どっちの場面も。

 と、冷静さを少し取り戻してきた僕はある異変に気が付いた。

「な、なんで?! また?」

 思わず声を漏らしてしまった僕の視界の隅には、またしても意味不明なゲーム画面風表示が復活していたのだ!

「お医者様が言うには心臓発作だって。でも、特にこれといった持病も無いのに……どうして……うぅ」
「と……とりあえず、奏のところへ案内してくれないかな?」

 咲良は勝手に意味を誤解してくれたようで、色々と異変がバレずに済んだ。
 僕も調子を合わせて、その場を乗り越えることにした。

 咲良は今さっき、自身が出てきたばかりの和室に案内してくれた。中に入ると、殺風景な六畳間の蒲団にジャージ姿の奏が安置されていた。
 顔に被せられていた布切れを取り去ると、そこには穏やかな表情をしているが精気のない灰色がかったヤツの顔があった。

「マジかぁ……」

 金々にブリーチされたパーママッシュをセンター分けにした流行りの髪型、眉と目の間隔の狭い堀の深い整った顔、左耳には良くつけていたオキニのピアス。切れ長の目が閉じられていること以外、奏は最後に会ったときと全く同じ顔をしているのに、全く別の物体だった。

「奏くんだけだよね。こんなにヘアスタイル変えてたの」
「そうだな……」



 僕と咲良と奏。
 3人の出会いは、入学初期のある講義の初回まで遡る。
 その日、タイミングを間違えて早くに登校していた僕は、何となく手持ち無沙汰で早めに教室へと入った。
 そこに、最前列に一人だけで陣取る先客が居た。

「あっ……」
「ん? どうかなされましたか?」

 思わず声を漏らしてしまった僕に顔を向けてきたのはまだ彼女の名前すら知らない頃の咲良だった。
 名前すら知らないというより、入学式で僕の2列前方に居たとても綺麗な黒髪の彼女を初めて目にしたときから心を奪われていたと言って良いだろう。
 ありえない程小さな頭に平安美人のようなサラサラの黒髪、折れそうなほどスレンダーな身体に地味ながら仕立ての良さそうな上品さ漂う服装、少し幼さの残る大きな目と細く形の良い鼻、小さく上品な口元。
 僕の出身である芋臭い女子ばかりの公立高校では見かける事などありえない、ザお嬢様って感じ。
 入学後も彼女にまた会えないかなと、学内では気がつけば周囲をキョロキョロ眺めていたあの頃。

 彼女の穢れのない瞳に射抜かれて、一瞬、昇天しかかった僕は慌てて取り繕った。

「す、すみません! 一番乗りかと思ったら……」
「うふふ、勉強熱心なんですね。あら! いけない。始めまして、観音崎咲良です」
「ぼ、ぼくは猪狩雄介」
「あの……ご迷惑でなければ、席……御一緒しませんか?」

 遠慮がちにはにかむ彼女。もうそれだけで死んでも良いと思ってしまったのは内緒だ。

 その後、他愛も無い自己紹介のやり取りをした僕ら。
 意外なことに彼女も僕と同じボッチの新入生だった。
 これだけ可愛ければ、向こうから声をかけられそうだと思うけれど、高嶺の花すぎると畏れ多いということか?

「サークルの勧誘とかは結構あるんじゃないの?」
「なんて言ったら良いのかしら? ああいう方たちって、圧が凄くて……」

 どうやら、おとなしい性格の咲良はグイグイ来られるのが苦手で、ナンパから逃れるときと同じように「ごめんなさい~」と、サークル勧誘から小走りに逃げてたようだ。
 後々になって判明したことだけど、僕がナンパするようなチャラい野郎と真逆な人畜無害そうに見えたので、あのとき勇気を出して声をかけてきたという……。
 確かに僕自身のこれまでの人生、女子に「カッコいい!」と、言われること皆無だったけど、「かわいい!」と言われることは多々……って、女子に舐められてただけですね。

 ともかく! しばらく彼女との至福の時を過ごしているうちに、気がついてみれば席も半分くらい埋まりだしていた。
 そして、講義開始のチャイムが鳴ったときにアイツは現れた。

「おっ!」

 とチャイムと共に勢いよく教室に入ってきた男が何故か最前列に座る僕らのを指さしたかと思うとドタドタと近付いてきた。
 明るい茶髪にピアスという、如何にもチャラ男ぜんとした高身長イケメン。
 隣の咲良が縮こまって警戒しているのが分かる。
 奴はそのまま僕らと机を挟んで目の前に来たかと思いきや、机の上に投げ出したままの僕のバックパックを指さし早口でまくし立ててきた。

「おいおい! そのマグロちゃんキーホルダー! エロキン、セイショクキのインプランコウ、ランキング1位リアル報酬じゃんか! さてはお前、雁首珍好さんか?」
「その呼び名は誤解をまねくかと! それにか、誰がカリクビチンコウさんじゃ!」
「えっ?!」

 隣から聞こえてきた声にハッとなって視線を向けると、まるで汚物を見るような目で僕らを見る咲良の眼差し……。

「え、あ?! 違う違う! 誤解してるから!」
「……」
「エロクエってのは、エターナルロイヤルキングスってスマホゲーの事で……」

 セイショクキは青の衝撃という鬼退治イベントのことで、インプランコウはその中のインプ(悪魔)とのランダムバトル(ラン攻)でポイントを稼ぐという裏ワザが発見されて、いち早くその波に乗っだギルドマスター雁首珍好率いるギルド、エレクチオンズが……。

「でも雁首珍好なんだろ?」
「だから、ちがうってほらこれ見ろ!」

 僕はスマホを取り出しエロクエを立ち上げ、プロフ画面を見せた。
 チャラ男は僕の手からスマホを奪い取り画面を凝視した。

「なんだ? YouthK? 知らねぇなぁ。なんでランカーじゃないのにマグロちゃんのキーホルダー持ってんだよ?」
「それは、リア友のギルド支援したご褒美っていうか、そいつはリアルアイテム興味ないから……」

 まぁ、そのリア友ってのが雁首珍好と名乗ってるんだけど、そのことは色々誤解を招きそうなのでその時は黙っていた。
 
「何だ……雁首さんじゃ無いのかよ。せっかく同窓のよしみでフレンド申請すっかと思ったのによ。お? でもお前も結構いい線イッてんじゃん! これはフレンド登録だな……」
「ちょっ! おまっ! 断りもなくフレンド承認処理を……」

 チャラ男は断りもなしに自らのスマホも取り出し勝手に僕のも操作しだした。
 止めさせようと僕が手をのばす直前、講師が入ってきた。

「ほら、さっさと席につけ~」
「へへ、サーセン!」

 チャラ男はそう言うと、机を飛び越えて僕の隣に座った。

「俺は長宗我部奏、奏って呼んでくれ!」

 それが、僕と咲良、そして奏との出会いだった。
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