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一日目
第4話
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「私は大学に入るまでスマートフォンを持たせてもらえなかったので、そういったこと疎いんです」
講義終了後、咲良が感心してるような目つきで僕と奏の方に頬杖をついて顔を向けた。
午前最後の講義だったので、何処か弛緩した空気が教室に漂っていたけれど、僕だけはドキドキしていてそれどころではなかった。
そんな、せっかくの咲良と親交を深めるチャンスにあたふたしているだけの僕に代わって、奏が会話をリードし始めたのも無理はない。
「へぇ~今どき骨董品級の箱入り娘ってやつなんだな君は?」
「箱入りだとは思わないのですが、ずっと女子校通いで周りの友人たちもゲームなどしないものですから……」
その後も僕を間に挟んで、会話のキャッチボールの応酬が繰り広げられ、僕だけでは聞き出すのは難しいだろう彼女の色々を知ることが出来たのだ。
観音寺咲良、3月21日生まれの18歳。
実家は神戸だか芦屋とか言ってたかな、生まれは東京で中学入学時に引っ越したから関西弁は喋らないそうだ。
関西の大学じゃなくてわざわざこっちのに進学したのは、余りにも狭い世界で生きてきて、このままで良いのだろうかと高2の夏にドイツにホームステイしたときに思ったそうだ。
その後、過保護な父の反対と逆に母の後押しなど紆余曲折、結局、ご両親が出会った大学であるここ城東大学、かつ女子寮に入るなら良いということで許しを得ていた。
「それじゃあ、こっちに友達皆無って訳だ?」
「いえいえ、そういうわけではありません。女子寮の皆さんお優しくて、仲良くさせて頂いてます。ただ残念なことに、同じ城東大学の学生がいらっしゃらないんですけど……」
「てことは、ここの学生では俺らが初友ってわけだ! なぁ、雁首くん?」
「だから雄介だって!」
「うふふ……おふたりは出会ったばかりなのにもう仲良しさんなのですね」
まぁ、その後学食に初めて行って咲良の弁当を少し分けてもらったりとか……最初は何か図々しいチャラ男だと思ってた奏も、細かいことに気の回るナイスガイだと判ってきた訳だけど……。
そんなキッカケで始まった僕らの友人関係はその年の師走までは平穏無事そのものだった。
しかし……。
「なぁ、雄介……」
「何だよ奏? なに珍しく真面目っぽい顔してんの?」
忘れもしないクリスマスイブ。
忘年会という名のクリボッチパーティーへ向かう道すがら、奏が話しかけてきた。
「今夜、咲良に告白すっから」
「そっか……」
「ワリィ……」
何となくは気付いていた。
チャラ男のくせに彼女いる気配なかったし。
でも、いくら僕も咲良を好きだからって、僕なんかが彼女に告白なんて出来やしない。
そして、こいつが咲良に対してどんだけ気配りや心遣いをしてきたかも近くで見ていたから痛いほど解るんだ。
美女とイケメン。どう見たって二人はお似合いで、僕の出る幕なんて無い。
その夜の忘年会には彼氏の居ない女子寮の友人たちと連れ立って咲良も参加していた。
「ねぇ雄介くん。私、家族以外でのクリスマスって初めて!」
「そ、そなんだ……」
「何処か体調悪いの雄介くん?」
「そんなことないって! 元気ハツラツだって!」
「そう……」
「あっ、ちょっとトイレ行ってくるよ!」
彼女が僕のことを気にかけてくれるなんて、普段なら天にも昇るような気持ちにさせるはずなんだけど、その時の僕にとって、咲良と顔を合わせることは涙が出そうなほど辛い気分にさせるもに変わってしまった。
そして僕はそのまま、こっそりとパーティー会場を後にして徒歩で家までの帰途についた。
翌朝、スマホの通知をチェックすると、結局、その夜の告白は失敗に終わったと奏からの連絡が入っていた。
しかし、年が明けてから奏は心機一転、手を替え品を替えの告白攻勢に打って出たのだ。
そのせいで、前年までのなかよし三人組とは行かなくなったわけなんだけれど、それに替わって奏と僕、僕と咲良というようにそれぞれと別々に行動を共にする機会が激増したのだ。
奏とは、会えば咲良をどう攻略するか相談が話題の殆どをしめていたけれど、逆に咲良と一緒になるときは奴の話題は禁句。
ある意味この頃が一番、僕にとっては至福の時間だったといえるだろう。
結局、バレンタインの翌日。
二人は付き合うことになったのだ。
その後は逆に二人とは疎遠つうか、僕が遠慮して距離をとった。
だって、流石に幸せそうなカップル――しかも僕が好きだった子が彼氏とイチャイチャしてるのに同伴するなんてとんでもなく辛いからね。
けれども付き合いだして3ヶ月。
幸せの絶頂だった奏が死んでしまうなんて!
丁度一週間前、最後に会った時だって変な冗談口にするくらい調子に乗って……。
「あっ!」
横たわる奏を目の前にして咲良と奴の思い出話に花を咲かせていた僕は、とても重大なことを奏から直接聞かされていたことに思い当たったのだ。
「雄介くん?」
「最後に奏に会ったとき、言ってたこと思い出したんだ。その時は何いってんだコイツみたいに思ってたんだけど……」
「それはどういう……」
咲良は突然、何を言い出したのだろうと少し訝しげな目で僕の顔を覗き込んだ。
「ほんと小学生みたいなホラ話じゃないかと思ったんだけど、どうやら僕にも同じことが……」
「え?」
「いや、信じてもらえないと思うけど……なんかゲームの画面みたいなのが見えるようになって」
「奏くんもそんなこと言って……」
「そうなんだよ! 奏と最後に会ったときにアイツも言ってたなって。そうか、咲良も聞かされてたか」
「それから一週間後に……あぁ……」
「おい咲良どうした?! しっかりしろ!」
彼女は空気の抜けた風船人形みたいにパタンと畳に突っ伏した。
咲良がいきなり卒倒し、僕はパニックに陥った。
講義終了後、咲良が感心してるような目つきで僕と奏の方に頬杖をついて顔を向けた。
午前最後の講義だったので、何処か弛緩した空気が教室に漂っていたけれど、僕だけはドキドキしていてそれどころではなかった。
そんな、せっかくの咲良と親交を深めるチャンスにあたふたしているだけの僕に代わって、奏が会話をリードし始めたのも無理はない。
「へぇ~今どき骨董品級の箱入り娘ってやつなんだな君は?」
「箱入りだとは思わないのですが、ずっと女子校通いで周りの友人たちもゲームなどしないものですから……」
その後も僕を間に挟んで、会話のキャッチボールの応酬が繰り広げられ、僕だけでは聞き出すのは難しいだろう彼女の色々を知ることが出来たのだ。
観音寺咲良、3月21日生まれの18歳。
実家は神戸だか芦屋とか言ってたかな、生まれは東京で中学入学時に引っ越したから関西弁は喋らないそうだ。
関西の大学じゃなくてわざわざこっちのに進学したのは、余りにも狭い世界で生きてきて、このままで良いのだろうかと高2の夏にドイツにホームステイしたときに思ったそうだ。
その後、過保護な父の反対と逆に母の後押しなど紆余曲折、結局、ご両親が出会った大学であるここ城東大学、かつ女子寮に入るなら良いということで許しを得ていた。
「それじゃあ、こっちに友達皆無って訳だ?」
「いえいえ、そういうわけではありません。女子寮の皆さんお優しくて、仲良くさせて頂いてます。ただ残念なことに、同じ城東大学の学生がいらっしゃらないんですけど……」
「てことは、ここの学生では俺らが初友ってわけだ! なぁ、雁首くん?」
「だから雄介だって!」
「うふふ……おふたりは出会ったばかりなのにもう仲良しさんなのですね」
まぁ、その後学食に初めて行って咲良の弁当を少し分けてもらったりとか……最初は何か図々しいチャラ男だと思ってた奏も、細かいことに気の回るナイスガイだと判ってきた訳だけど……。
そんなキッカケで始まった僕らの友人関係はその年の師走までは平穏無事そのものだった。
しかし……。
「なぁ、雄介……」
「何だよ奏? なに珍しく真面目っぽい顔してんの?」
忘れもしないクリスマスイブ。
忘年会という名のクリボッチパーティーへ向かう道すがら、奏が話しかけてきた。
「今夜、咲良に告白すっから」
「そっか……」
「ワリィ……」
何となくは気付いていた。
チャラ男のくせに彼女いる気配なかったし。
でも、いくら僕も咲良を好きだからって、僕なんかが彼女に告白なんて出来やしない。
そして、こいつが咲良に対してどんだけ気配りや心遣いをしてきたかも近くで見ていたから痛いほど解るんだ。
美女とイケメン。どう見たって二人はお似合いで、僕の出る幕なんて無い。
その夜の忘年会には彼氏の居ない女子寮の友人たちと連れ立って咲良も参加していた。
「ねぇ雄介くん。私、家族以外でのクリスマスって初めて!」
「そ、そなんだ……」
「何処か体調悪いの雄介くん?」
「そんなことないって! 元気ハツラツだって!」
「そう……」
「あっ、ちょっとトイレ行ってくるよ!」
彼女が僕のことを気にかけてくれるなんて、普段なら天にも昇るような気持ちにさせるはずなんだけど、その時の僕にとって、咲良と顔を合わせることは涙が出そうなほど辛い気分にさせるもに変わってしまった。
そして僕はそのまま、こっそりとパーティー会場を後にして徒歩で家までの帰途についた。
翌朝、スマホの通知をチェックすると、結局、その夜の告白は失敗に終わったと奏からの連絡が入っていた。
しかし、年が明けてから奏は心機一転、手を替え品を替えの告白攻勢に打って出たのだ。
そのせいで、前年までのなかよし三人組とは行かなくなったわけなんだけれど、それに替わって奏と僕、僕と咲良というようにそれぞれと別々に行動を共にする機会が激増したのだ。
奏とは、会えば咲良をどう攻略するか相談が話題の殆どをしめていたけれど、逆に咲良と一緒になるときは奴の話題は禁句。
ある意味この頃が一番、僕にとっては至福の時間だったといえるだろう。
結局、バレンタインの翌日。
二人は付き合うことになったのだ。
その後は逆に二人とは疎遠つうか、僕が遠慮して距離をとった。
だって、流石に幸せそうなカップル――しかも僕が好きだった子が彼氏とイチャイチャしてるのに同伴するなんてとんでもなく辛いからね。
けれども付き合いだして3ヶ月。
幸せの絶頂だった奏が死んでしまうなんて!
丁度一週間前、最後に会った時だって変な冗談口にするくらい調子に乗って……。
「あっ!」
横たわる奏を目の前にして咲良と奴の思い出話に花を咲かせていた僕は、とても重大なことを奏から直接聞かされていたことに思い当たったのだ。
「雄介くん?」
「最後に奏に会ったとき、言ってたこと思い出したんだ。その時は何いってんだコイツみたいに思ってたんだけど……」
「それはどういう……」
咲良は突然、何を言い出したのだろうと少し訝しげな目で僕の顔を覗き込んだ。
「ほんと小学生みたいなホラ話じゃないかと思ったんだけど、どうやら僕にも同じことが……」
「え?」
「いや、信じてもらえないと思うけど……なんかゲームの画面みたいなのが見えるようになって」
「奏くんもそんなこと言って……」
「そうなんだよ! 奏と最後に会ったときにアイツも言ってたなって。そうか、咲良も聞かされてたか」
「それから一週間後に……あぁ……」
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