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第一章 万華鏡
第四話 勇者登場
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国王の計らいで人払いがされ、改めて鉱石の説明がなされた。
「さて、アズボンドよ。先の発言は世界を揺るがすものであった。その認識はあるか?」
「もちろんでございます。しかし、発言は事実であり、訂正することはできません」
リシスは固まって動かないし、国王は眉間にシワを寄せて考え込んでいる。僕の存在は国王すら頭を抱えてしまうほどの問題らしい。
「陛下、我々には時間が必要だと考えます」
「そう……だな。シント・レーブルを起源術師と認めるか否かは保留とし、今回の謁見は以上とする」
公式な謁見を終えた僕たちは、そのまま別室へ案内された。
「君は一体何者なんだ」
「え、えっと……」
僕は普通男の子、なんて言ってもそれこそ信じてもらえないだろう。
「まぁ良い。だが、シント・レーブルの存在が争いを招きかねないのは確かだ」
「す、すみません」
存在が争いの元なんて言われたら、悪いことをしていなくても何故か後ろめたくなる。しかし、こうなると自分ではもうどうすることもできない。
「シント殿はこれまで通りリシス殿のもとで弟子として過ごすのが賢明でしょう」
「うむ、アズボンドの言う通りだな」
ひとまず僕のことは保留となったわけだが、放心状態のリシスをさてどうやって連れ帰るか。
「国王の前であんなモン作るなんて……」
「いやぁ、本で読んだくらいじゃ物足りないかと思って」
「物足りないどころじゃない!」
確かに『賢者の石』なんて伝説上の鉱石を作ってしまったんだ。いくら国王だって頭を抱えるよな。
「どこに行くんだ?」
「工房でさっきの鉱石を作ろうと……」
「バッカもん!!」
リシスはそう言うと、分厚い本を引っ張り出して、僕の前に置いた。
「君のような逸材には勉強が必要だ!」
錬金術なら独学でなんとなく分かった。資源が無くとも作れるのだから勉強なんて……。
「良いかい? 君には大きく欠けているものがある」
「欠けているものって?」
「それは、基本だ!」
そこから数週間、僕は眠たい錬金術の基本知識を叩き込まれ、駆け出しの錬金術師としての第一歩を踏み出した。
「これにて修了とする!」
「や、やっと終わったぁ……」
「第一部が終わっただけだ。5日後、第二部を開始する!」
リシスは柄にも無く熱血教師ぶりを発揮していたが、5日間という束の間の休息を満喫するべく、僕は町に出ていた。
「シント疲れてる」
「うん、疲れてる」
ベリスとマリクスも同行する。修行から逃げ出さないための監視役らしいが、この状況は――。
「だ、大丈夫だから離してくれない?」
「1人で歩いたら危険」
「うん、私が捕まえておく。ベリスは離れてて」
「私が捕まえておく。マリクスこそ離れて」
彼女たちにすっかり懐かれてしまったようで、僕は2人に引っ張られて両手に花というより、綱引き状態だ。
ここで喧嘩でもされれば、僕の身体は真っ二つに千切れてしまう。お腹も減ったし食事をすることにした。
「いらっしゃい」
入ったのはオシャレめなファミリーレストラン。安価で美味いというので、店内は親子連れで賑わっていた。
「メニューが多くて悩むな。何か食べたいものはある?」
「私はシントに任せる」
「鹿のハンバーグ……」
マリクスは言うまでもないが、ベリスも強がっているのが見え見えだ。
いつも食事を作ってくれるのは2人だし、ここ最近は一緒に食べる機会も減っていた。
僕は彼女たちの要望に応え、鹿肉のハンバーグを注文した。
「はい、お待たせ」
「「うわぁ……!」」
普段は寡黙で冷静な彼女たちも歳相応の反応をするんだなと安心した。ヨダレを垂らす2人は、なんとも小動物を見ているようで可愛らしい。
「シント食べて良い?」
「ああ、もちろん。食べよう」
「「「いただきます!」」」
鹿肉は臭みも無く、柔らかい。僕は牛や豚より好きな味だ。そしてこのさっぱりとしたソースがまた良い。
「あ、シント」
「ん?」
「食べさせてあげる」
お前は何を言っているんだ。
「私も。はい」
「「あーん」」
いやいやいやいや――。
『ガタンッ』
「邪魔するぜぇ」
これからという時に店の扉が乱暴に開いた。入ってきたのは汚い身なりの少年が3人。歳は僕のひとつかふたつ上だろうか。
「この店は相変わらずガキくせぇなぁ」
それにしても何故、大人たちは彼らを止めないのだろう。それどころか、怯えてるではないか。
「勇者シリエル様。今日はなんのご用で?」
「決まってるじゃねぇか。オレ様たちのパーティを発展させるための資金集めだよ」
勇者? アレが勇者だと? 言動といい、服装といい、一見するとただの不良少年だ。
「勘弁して下さい。ついこの前献上したばかりではありませんか」
「はぁん?! 舐めてると痛い目に合うぞ!」
憲兵を呼ぶべきだろうが、入口は勇者一行がいて通れない。窓から出ても逃げ切れるかどうか。
「ちょっとうるさい」
「うん、邪魔しないで」
「あぁっ!」
先程まで隣に座っていたはずのベリスとマリクスは、いつの間にか彼らの前に立ち塞がっていた。
「憲兵さんに言いつけられたくなかったら、早く出て行きなさい」
「ほぉ。憲兵ごときでオレ様を止められるとでも?」
まさか、憲兵すら敵わないのか。『勇者』のスキルがそれほどまでに強大だとは。
「お嬢ちゃんたちは引っ込んでな!」
「「キャァッ!」」
「なんだ、お前」
しまった――。2人が殴られそうになって、つい前に出てしまった。
「ぼ、僕の友達に手を出すな!」
「勇敢と無謀は違うぜ、ぼっちゃん」
およそ勇者のセリフとは思えない発言だが、この展開はマズい。手を押さえられて逃げることもできない。
「そこまでにしなさいシリエル」
「ちっ、クソ兄貴」
「その勇者のスキルは、このような外道なマネをするため授かったものではないだろう」
あれは、国王に謁見した時に見た。
「うちの弟がすまなかった。怪我は無いかい?」
「アズボンド……さん!」
「久しぶりだね、シント・レーブル」
「さて、アズボンドよ。先の発言は世界を揺るがすものであった。その認識はあるか?」
「もちろんでございます。しかし、発言は事実であり、訂正することはできません」
リシスは固まって動かないし、国王は眉間にシワを寄せて考え込んでいる。僕の存在は国王すら頭を抱えてしまうほどの問題らしい。
「陛下、我々には時間が必要だと考えます」
「そう……だな。シント・レーブルを起源術師と認めるか否かは保留とし、今回の謁見は以上とする」
公式な謁見を終えた僕たちは、そのまま別室へ案内された。
「君は一体何者なんだ」
「え、えっと……」
僕は普通男の子、なんて言ってもそれこそ信じてもらえないだろう。
「まぁ良い。だが、シント・レーブルの存在が争いを招きかねないのは確かだ」
「す、すみません」
存在が争いの元なんて言われたら、悪いことをしていなくても何故か後ろめたくなる。しかし、こうなると自分ではもうどうすることもできない。
「シント殿はこれまで通りリシス殿のもとで弟子として過ごすのが賢明でしょう」
「うむ、アズボンドの言う通りだな」
ひとまず僕のことは保留となったわけだが、放心状態のリシスをさてどうやって連れ帰るか。
「国王の前であんなモン作るなんて……」
「いやぁ、本で読んだくらいじゃ物足りないかと思って」
「物足りないどころじゃない!」
確かに『賢者の石』なんて伝説上の鉱石を作ってしまったんだ。いくら国王だって頭を抱えるよな。
「どこに行くんだ?」
「工房でさっきの鉱石を作ろうと……」
「バッカもん!!」
リシスはそう言うと、分厚い本を引っ張り出して、僕の前に置いた。
「君のような逸材には勉強が必要だ!」
錬金術なら独学でなんとなく分かった。資源が無くとも作れるのだから勉強なんて……。
「良いかい? 君には大きく欠けているものがある」
「欠けているものって?」
「それは、基本だ!」
そこから数週間、僕は眠たい錬金術の基本知識を叩き込まれ、駆け出しの錬金術師としての第一歩を踏み出した。
「これにて修了とする!」
「や、やっと終わったぁ……」
「第一部が終わっただけだ。5日後、第二部を開始する!」
リシスは柄にも無く熱血教師ぶりを発揮していたが、5日間という束の間の休息を満喫するべく、僕は町に出ていた。
「シント疲れてる」
「うん、疲れてる」
ベリスとマリクスも同行する。修行から逃げ出さないための監視役らしいが、この状況は――。
「だ、大丈夫だから離してくれない?」
「1人で歩いたら危険」
「うん、私が捕まえておく。ベリスは離れてて」
「私が捕まえておく。マリクスこそ離れて」
彼女たちにすっかり懐かれてしまったようで、僕は2人に引っ張られて両手に花というより、綱引き状態だ。
ここで喧嘩でもされれば、僕の身体は真っ二つに千切れてしまう。お腹も減ったし食事をすることにした。
「いらっしゃい」
入ったのはオシャレめなファミリーレストラン。安価で美味いというので、店内は親子連れで賑わっていた。
「メニューが多くて悩むな。何か食べたいものはある?」
「私はシントに任せる」
「鹿のハンバーグ……」
マリクスは言うまでもないが、ベリスも強がっているのが見え見えだ。
いつも食事を作ってくれるのは2人だし、ここ最近は一緒に食べる機会も減っていた。
僕は彼女たちの要望に応え、鹿肉のハンバーグを注文した。
「はい、お待たせ」
「「うわぁ……!」」
普段は寡黙で冷静な彼女たちも歳相応の反応をするんだなと安心した。ヨダレを垂らす2人は、なんとも小動物を見ているようで可愛らしい。
「シント食べて良い?」
「ああ、もちろん。食べよう」
「「「いただきます!」」」
鹿肉は臭みも無く、柔らかい。僕は牛や豚より好きな味だ。そしてこのさっぱりとしたソースがまた良い。
「あ、シント」
「ん?」
「食べさせてあげる」
お前は何を言っているんだ。
「私も。はい」
「「あーん」」
いやいやいやいや――。
『ガタンッ』
「邪魔するぜぇ」
これからという時に店の扉が乱暴に開いた。入ってきたのは汚い身なりの少年が3人。歳は僕のひとつかふたつ上だろうか。
「この店は相変わらずガキくせぇなぁ」
それにしても何故、大人たちは彼らを止めないのだろう。それどころか、怯えてるではないか。
「勇者シリエル様。今日はなんのご用で?」
「決まってるじゃねぇか。オレ様たちのパーティを発展させるための資金集めだよ」
勇者? アレが勇者だと? 言動といい、服装といい、一見するとただの不良少年だ。
「勘弁して下さい。ついこの前献上したばかりではありませんか」
「はぁん?! 舐めてると痛い目に合うぞ!」
憲兵を呼ぶべきだろうが、入口は勇者一行がいて通れない。窓から出ても逃げ切れるかどうか。
「ちょっとうるさい」
「うん、邪魔しないで」
「あぁっ!」
先程まで隣に座っていたはずのベリスとマリクスは、いつの間にか彼らの前に立ち塞がっていた。
「憲兵さんに言いつけられたくなかったら、早く出て行きなさい」
「ほぉ。憲兵ごときでオレ様を止められるとでも?」
まさか、憲兵すら敵わないのか。『勇者』のスキルがそれほどまでに強大だとは。
「お嬢ちゃんたちは引っ込んでな!」
「「キャァッ!」」
「なんだ、お前」
しまった――。2人が殴られそうになって、つい前に出てしまった。
「ぼ、僕の友達に手を出すな!」
「勇敢と無謀は違うぜ、ぼっちゃん」
およそ勇者のセリフとは思えない発言だが、この展開はマズい。手を押さえられて逃げることもできない。
「そこまでにしなさいシリエル」
「ちっ、クソ兄貴」
「その勇者のスキルは、このような外道なマネをするため授かったものではないだろう」
あれは、国王に謁見した時に見た。
「うちの弟がすまなかった。怪我は無いかい?」
「アズボンド……さん!」
「久しぶりだね、シント・レーブル」
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