もしも、工作が好きな普通の男の子が伝説のスキルを手に入れたら

小林一咲

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第二章 美談

第十九話 死と決別

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 僕や姐さんが所属していた補給部隊全滅の確認後、バモナウツ国王宮殿内、非常時緊急軍事会議が行われた。
 
 聖騎士団長、参謀、各兵団長、王国の存亡に関わる人物として何人かの有識者が集められる。
 冒険者ギルドの長『タッキ・リード』を始め、リシスやアズボンドも同席した。

 もちろん僕も。

「奴らは人道的配慮として、24時間は城内には侵攻してこない」

「その間に対策を考えねば……」

「24時間で何ができると言うのだ!?」


 1時間超にも及ぶ会議の中で、崖っ淵の現状を打破できる案など出るわけもなく、その場は散会となった。
 百戦錬磨の者たちが難しい顔で王宮を去った後、僕たちは別室にて、束の間の再会を喜んだ。

「久方ぶりです、主人殿」
「大変だったなシント」

「2人ともありがとう。みんな無事で安心したよ……」
「主人殿、無理に笑わなくても良いのですよ。余計に疲れるだけです」
「そうだね……エル」

 アズボンドは後ろめたいのか、ひと言も発さず、僕と目を合わせようともしなかった。
 今更、彼にどうこう言うつもりも無いし、彼が参戦していたところで勝てたとも限らない。
 
 僕はリシスから王国内の状況について、話を聞くことにした。

「物資は届かないし、国民は荒れるし散々だよ」

 戦争が始まってからというもの、国内の治安は悪化し続けており、食料を巡っての窃盗や女性を狙った性被害などが増えているらしい。
 ある程度予想はしていたが、ここまで追い詰められるとは思っていなかった。
 
 聖国家アストリスとサンドル帝国が裏で繋がっていたというのは明白だが、なぜ参謀本部はそれを察知できなかったのだろうか。

 もしかして――。
 
「何か閃いた、といった顔ですな主人殿」
「ああ、エル。ひとつ頼まれてくれ」
「何なりと」

◇◇◇◇◇



「降伏するしかあるまい……」

「本気なのですか?!」
「我が王国は1000年の歴史があるのですぞ!」

 貴族連中から国王へ、上部だけの反対意見がこだまする。「どうせ終わるなら、最期まで戦って散れば良いじゃないか」と。
 だが、彼らは全て分かっている。

 この国はもう無いも等しいのだと――。


『コンコンコン……』

 国王とその従臣たちは、小さく叩かれた扉に目をやる。重たい扉はゆっくりと開かれ、一筋の光が差し込んだ。

「会議はもう、終わったのですか?」

 それはシーランス公国、公爵『アルバート・シーランス』であった。

「とうに終わっていますぞシーランス公」
「そうですか」

 彼はそう言うと、国王の前にドンと腰を下ろした。貴族らしからぬその姿に、動揺が走ったものの、皆それどころではなかった。

「元気がありませんな、オモジン王よ」
「その呼び方は好かぬ」
「懐かしくてよいではないか」

 彼らの昔話はそのうち話すとして、今は彼の奇計を聞くとしよう。

「我が海軍の戦艦の話はお聞きになったかな?」
「ああ、空を飛べるとかなんとか……」

 国王は訝しげに首を捻った。
 いくら魔法や魔術が存在していても、あれだけ大きな船を飛ばすなんて信じられるはずも無かった。

「疑っておられるのか」
「うむ、まぁ……。それが真だとして、そもそもこの状況ではここまで来れぬではないか」

 シーランス公が満面の笑みで応えようとした時、再度扉が開き、シーランス公国『特別司令官』が現れた。

「陛下の仰った通り、大軍の直上を通過するのは困難であります。ですが、もっと上ならいかがでしょう?」
「もっと上……?」

 彼女によれば、シーランス公国自慢の『空飛ぶ戦艦』はアーティファクトが内蔵されており、操縦者の意識が保たれる高度であれば、どこまででも上を飛行できるらしい。
 
 こんな話、常時であれば受け入れられるはずもない。しかし、今は戦乱の最中。

 バモナウツ王国はコレに賭けることにした。


◇◇◇◇◇

「シントおかえりなさい」
「怪我は無い?」

 工房に立ち寄ると、双子に半べそをかきながら抱きつかれた。彼女たちの髪はボサボサで、目の下にはクマができていた。
 リシスが言うには、町の騒ぎ声や戦争の恐怖で眠れない日が続いているらしく、起きても食事を摂るのが精一杯のようだ。

「じゃあ、今日は一緒に何か作ろうか!」
「え、良いの……?」
「でも、シントは疲れてる」

 2人の姿を見た僕は、この戦争を恨み、憎み、そして絶対に勝って終わろうと決意した。

 戦争が激化すると予期していた国王は、大陸の東にある島国『ジュルテーム国』に兼ねてより避難民の受け入れをお願いていた。この国は領土の大半を海に囲まれていたこともあり、世界で最も平和とされていた。
 国民は兵士や騎士を除き、ジュルテーム国の使者と速やかな避難、疎開を行った。

 その数時間後、サンドル帝国及び聖国家アストリスが王都に侵攻を始めた。
 

「別れは済んだか」
「別れ? なに可笑しなことを言ってるんだ。俺たちは死なねぇよ」

 シーランス公国からの援軍は、前線の兵士にも伝わっていたが、いつどのように助太刀してくれるのかは国王と参謀本部しか知らない。
 不安の中でも、祖先から続いてきた己が王国を護るべく、兵士たちの士気は上がっていた。

「正門と北門にはそれぞれ聖騎士を派遣しろ」

「東門は多少手薄でも構わん。西門には残った冒険者を動員しろ」

 本来、ギルドは国家間の争いには関与しない。しかし「襲われたら戦わないわけにはいかない」という戦闘系の各ギルドマスターの計らいもあり、戦力は大幅に増えた。

 そして、シントは――。

「アズボンドが何処にいるか知りませんか?」
「ああ、奴なら尻尾巻いて逃げていったぜ」
 
「そう、ですか」
「ん? なんで笑ってるんだ?」
だなって」

 確信があった。
 きっとアズボンドは、を連れ戻しに行ったのだと。


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