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第11話 評価
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合同訓練が終わったあとの訓練場は、妙に静かだった。
剣を収める音、鎧を外す金属音、負傷者を支える声。どれもあるのに、ざわつきがない。皆、結果を受け止めることに意識を向けているようだった。
まず行ったのは、負傷者の確認だ。
幸い、重傷者はいない。打撲や擦過傷、筋を痛めた者が数名。訓練としては、上出来だ。
それでも、聖騎士団側の表情は硬かった。
負けたから、ではない。
理由は、はっきりしている。
自分たちが、思っていたよりも「通用しなかった」からだ。
反省会は、両団合同で行われた。
円になって腰を下ろし、簡潔に意見を出し合う。乙女騎士団の団員たちは、必要以上に誇ることもなく、淡々と動きを振り返っていく。
「隊列変更が三拍遅れました」
「正面突破を選んだ判断は、相手に読まれていました」
「盾の角度が固定されすぎています」
どれも、責める言い方じゃない。
ただの事実確認だ。
それが、余計に刺さったのだろう。聖騎士団の団員たちは、黙って頷き、必死に覚えようとしている。
僕は、その様子を見ながら思った。
この人たちは、強い。
少なくとも、負けを受け入れられるだけの強さがある。
休憩時間。
何人かの聖騎士団員が、乙女騎士団の団員に声をかけていた。
「さっきの切り返し、どうやって判断した?」
「隊列を崩す合図、あれは?」
最初は遠慮がちだったが、次第に質問が増えていく。
乙女騎士団の側も、気負わず答える。
「完璧じゃなくていいんだよ」
「迷ったら、下がるって決めてるだけ」
それを聞いて、聖騎士団員が目を見開く。
完璧であろうとする彼らにとって、その考え方自体が新鮮なのだろう。
戦い方の違い。
それは、技術よりも、思想に近い差だった。
しばらくして、聖騎士団長が僕を訪ねてきた。
相変わらず無口で、必要最低限の動きしかしない男だ。
「時間をもらってもいいか」
短い言葉。
「どうぞ」
彼は一礼してから、はっきりと言った。
「感謝する。今日の訓練は、有意義だった」
それだけで、取り繕いは一切ない。
僕は正直に返した。
「こちらこそ。学ぶ点は多かったです」
それも、本音だ。
彼は、少し視線を落とした。
「……我々は、型に頼りすぎている」
言葉を選んでいる様子だった。
「規律と信仰を重んじるあまり、変化に弱い。分かってはいたが、目を逸らしていた」
自覚がある。
それが、この人の強さなのだと、ようやく理解できた。
「乙女騎士団は、違う。状況に合わせて、最善を選ぶ。それが、今日の結果だ」
彼は、僕を見た。
「団長として、あなたは……強くない」
直球だった。
一瞬、言葉に詰まる。
でも、不思議と腹は立たなかった。
「ええ。強くないです」
はっきり答える。
彼は、わずかに目を見開いた。
「だが」
続く言葉があった。
「前線に立てなくても、人を動かせる。あれは才能だ」
褒め言葉というより、評価だ。
僕は、ゆっくり息を吐いた。
「正直に言えば、怖いんです」
自然と、口から出た。
「戦えない自分が、団長でいることが」
彼は、黙って聞いている。
「戦争は、これから本格化する。帝国と魔王軍の戦いが長引けば、こちらにも必ず波及します。前に立てない団長で、いいのかと……」
自分の弱さを、言葉にしてしまった。
彼は、少し考えてから言った。
「剣を振れない者が、剣を使う者を導く。それは、珍しくない」
静かな声だった。
「前線に出る者は、後ろを信じたい。その後ろに、あなたがいるなら、悪くない」
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
別れ際、彼はもう一度頭を下げた。
「北を、共に守ろう」
「はい」
短い返事で、十分だった。
その日の夕方、公王から追加の報告が入った。
北方で、魔物の動きが活発化している。
帝国と魔王軍とは、別系統。
統率が取れているわけでもなく、かといって自然発生とも言い切れない、不自然な動き。
「何かが、裏で動いている可能性がある」
公王の言葉は重かった。
その流れで、提案が出た。
乙女騎士団と聖騎士団による混成部隊の試験編成。
指揮官候補として、僕の名が挙がる。
当然だ。
両団を繋げる立場にいるのは、今のところ僕しかいない。
了承するしかなかった。
夜。
執務室で、一人資料を読み返していると、マルタが顔を出した。
「……無理してる顔です」
いつもの調子だ。
「してないと言ったら、嘘になりますね」
素直に答える。
「団長で、貴族で、混成部隊の指揮官候補。肩書きだけ増えていく」
マルタは、椅子に腰を下ろした。
「でも、逃げてません」
それだけ言う。
それが、副団長としての支えなのだろう。
「……ありがとう」
短く礼を言った。
その直後だった。
北方からの急報。
小規模な村が、跡形もなく消えた。
建物は壊されていない。
血痕も少ない。
ただ、人だけが、いない。
僕は、報告書を握りしめた。
戦争は、前線だけで起きるものじゃない。
見えない場所で、確実に、何かが始まっている。
それを止める役目が、自分に回ってきたのだと。
嫌でも、理解してしまった。
団長として。
騎士として。
そして、この国の一員として。
もう、目を逸らすことはできなかった。
剣を収める音、鎧を外す金属音、負傷者を支える声。どれもあるのに、ざわつきがない。皆、結果を受け止めることに意識を向けているようだった。
まず行ったのは、負傷者の確認だ。
幸い、重傷者はいない。打撲や擦過傷、筋を痛めた者が数名。訓練としては、上出来だ。
それでも、聖騎士団側の表情は硬かった。
負けたから、ではない。
理由は、はっきりしている。
自分たちが、思っていたよりも「通用しなかった」からだ。
反省会は、両団合同で行われた。
円になって腰を下ろし、簡潔に意見を出し合う。乙女騎士団の団員たちは、必要以上に誇ることもなく、淡々と動きを振り返っていく。
「隊列変更が三拍遅れました」
「正面突破を選んだ判断は、相手に読まれていました」
「盾の角度が固定されすぎています」
どれも、責める言い方じゃない。
ただの事実確認だ。
それが、余計に刺さったのだろう。聖騎士団の団員たちは、黙って頷き、必死に覚えようとしている。
僕は、その様子を見ながら思った。
この人たちは、強い。
少なくとも、負けを受け入れられるだけの強さがある。
休憩時間。
何人かの聖騎士団員が、乙女騎士団の団員に声をかけていた。
「さっきの切り返し、どうやって判断した?」
「隊列を崩す合図、あれは?」
最初は遠慮がちだったが、次第に質問が増えていく。
乙女騎士団の側も、気負わず答える。
「完璧じゃなくていいんだよ」
「迷ったら、下がるって決めてるだけ」
それを聞いて、聖騎士団員が目を見開く。
完璧であろうとする彼らにとって、その考え方自体が新鮮なのだろう。
戦い方の違い。
それは、技術よりも、思想に近い差だった。
しばらくして、聖騎士団長が僕を訪ねてきた。
相変わらず無口で、必要最低限の動きしかしない男だ。
「時間をもらってもいいか」
短い言葉。
「どうぞ」
彼は一礼してから、はっきりと言った。
「感謝する。今日の訓練は、有意義だった」
それだけで、取り繕いは一切ない。
僕は正直に返した。
「こちらこそ。学ぶ点は多かったです」
それも、本音だ。
彼は、少し視線を落とした。
「……我々は、型に頼りすぎている」
言葉を選んでいる様子だった。
「規律と信仰を重んじるあまり、変化に弱い。分かってはいたが、目を逸らしていた」
自覚がある。
それが、この人の強さなのだと、ようやく理解できた。
「乙女騎士団は、違う。状況に合わせて、最善を選ぶ。それが、今日の結果だ」
彼は、僕を見た。
「団長として、あなたは……強くない」
直球だった。
一瞬、言葉に詰まる。
でも、不思議と腹は立たなかった。
「ええ。強くないです」
はっきり答える。
彼は、わずかに目を見開いた。
「だが」
続く言葉があった。
「前線に立てなくても、人を動かせる。あれは才能だ」
褒め言葉というより、評価だ。
僕は、ゆっくり息を吐いた。
「正直に言えば、怖いんです」
自然と、口から出た。
「戦えない自分が、団長でいることが」
彼は、黙って聞いている。
「戦争は、これから本格化する。帝国と魔王軍の戦いが長引けば、こちらにも必ず波及します。前に立てない団長で、いいのかと……」
自分の弱さを、言葉にしてしまった。
彼は、少し考えてから言った。
「剣を振れない者が、剣を使う者を導く。それは、珍しくない」
静かな声だった。
「前線に出る者は、後ろを信じたい。その後ろに、あなたがいるなら、悪くない」
胸の奥が、少しだけ軽くなった。
別れ際、彼はもう一度頭を下げた。
「北を、共に守ろう」
「はい」
短い返事で、十分だった。
その日の夕方、公王から追加の報告が入った。
北方で、魔物の動きが活発化している。
帝国と魔王軍とは、別系統。
統率が取れているわけでもなく、かといって自然発生とも言い切れない、不自然な動き。
「何かが、裏で動いている可能性がある」
公王の言葉は重かった。
その流れで、提案が出た。
乙女騎士団と聖騎士団による混成部隊の試験編成。
指揮官候補として、僕の名が挙がる。
当然だ。
両団を繋げる立場にいるのは、今のところ僕しかいない。
了承するしかなかった。
夜。
執務室で、一人資料を読み返していると、マルタが顔を出した。
「……無理してる顔です」
いつもの調子だ。
「してないと言ったら、嘘になりますね」
素直に答える。
「団長で、貴族で、混成部隊の指揮官候補。肩書きだけ増えていく」
マルタは、椅子に腰を下ろした。
「でも、逃げてません」
それだけ言う。
それが、副団長としての支えなのだろう。
「……ありがとう」
短く礼を言った。
その直後だった。
北方からの急報。
小規模な村が、跡形もなく消えた。
建物は壊されていない。
血痕も少ない。
ただ、人だけが、いない。
僕は、報告書を握りしめた。
戦争は、前線だけで起きるものじゃない。
見えない場所で、確実に、何かが始まっている。
それを止める役目が、自分に回ってきたのだと。
嫌でも、理解してしまった。
団長として。
騎士として。
そして、この国の一員として。
もう、目を逸らすことはできなかった。
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